夢見るオメガは番いたい

ミモザ

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第一章

18 Ωはデートするらしい

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「お前が使っている部屋を見ておきたい」

 そう言われ、ユリウスはレジナルドを部屋へ案内した。

「ここ、使わせてもらっています」
「…………」

 無言で部屋の中を見てまわるレジナルドに、とりあえずくっついていく。

「……物が無いな」
「えっ? えっと、ベッドもソファーにも机もチェストも、なんでもありますけど?」
「お前の物がだ。しばらく滞在しているのに」
「ああ!」

 そう言われ、言葉の意味を理解する。

「家から持ってきた荷物はほとんどなくしちゃったんです。と言っても、元々あまりなかったんですけど。それで、服とかは用意していただいて」
「…………」

 なにやら険しい表情のレジナルドに、ビクビクしてしまう。

「え、っと……あの、もし部屋を移った方がいいならそうします。こんな広い部屋、ちょっと落ち着かなかったんで、もっとこう……働いている人たちが使ってる部屋にでも」
「何言ってる、お前は客人だ。使用人の部屋を使わせるわけないだろう。それより不便はないのか、必要な物とか」
「大丈夫です、不自由なく過ごしています」
「…………」

 どうやら、怒っているわけではなく心配してくれているらしい。

(そうは見えなかったけど……うん、やっぱり優しい人だな、レジナルド様は。見た目は怖そうだけど)

「おい」
「はいっ!?」

 声をかけられ、びくりとしながら返事をすると、レジナルドが「明日出かけるぞ」と言う。

「街に行って、必要な物を買う」
「えっ? それって私の物ですか? それなら、別に足りない物はなくて」
「お前が今着ている服は、ナサニエルのものだろう。仕立て屋を呼んでもいいが時間がかかるから、とりあえず何着か既製品を買う」
「えっ? いえっ! けっこうです! 確かにこれはナサニエル様がくださった物ですが、普段着用にはレジナルド様のおさがりをたくさんもらってて……だから服は充分すぎるくらいあるんです!」
「新しい服を着せられないような稼ぎではない。お前が着るものくらい、十着でも二十着でも買ってやる。他にも何が必要か考えておけ。朝食後出かけるからな」
「えっ? えっ? ちょっとそんなっ」

 ユリウスの言葉が終わらないうちに、レジナルドは部屋を出ていってしまった。



 翌日。
 昨晩の宣言どおり、ふたりは街に出かけた。
「どうしよう! レジナルド様とふたりきりで出かけるなんて無理なんですけど!」と泣きついたユリウスをしっかりと着飾らせ、笑顔で手を振るナサニエル。

「デート、楽しんで!」
「デートじゃない、必要な物を買いに行くだけだ」
「ふたりで出かけるんだからデートだよ。ユーリ、欲しいものがあったら遠慮なく買ってもらうんだよ」
「いやっ、本当に欲しい物なんてなくて」
「昨日考えておけと言っただろう。まあいい、服を買うのは決まっているからな。さっさと乗れ」
「は、はいっ、じゃあ行ってきますナサニエル様」

 急かされて馬車に乗り込むと、レジナルドも向かいに座り、馬車が動き出す。

「最初、仕立て屋に行く。その後お前の行きたい所にと思っていたが、何も考えていないのか?」
「考えましたが思いつかなくて」
「ずっと屋敷にいて暇だろう、本や遊戯盤は?」
「お屋敷の図書室にある本を読ませてもらってます。一生かかっても読めないですよ、あれ。それに遊戯盤も、ナサニエル様がいっぱい持ってるから……そうだ、レジナルド様とナサニエル様は、遊戯盤クラブだったそうですね。ナサニエル様から教えてもらいましたが、どれも難しくて……子供の頃やったゲームとは全然違います」
「模擬戦のようなものが多いからな。無害な顔して、ナサニエルがクラブで一番鬼畜な戦法の使い手だった」
「そうなんですか。フフッ、意外なような、納得のような。……えーと……ちょっと気になって……聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「あの……もしかしてレジナルド様は、ナサニエル様の事が……」
「ナサニエルの事が?」
「えーと、その……す、好きなのかなって」
「はあっ?」

 怒鳴るような声で聞き返され、ユリウスは思わず腕で顔を隠すようにしながら言った。

「だ、だってすごく気楽に話してるし、言い合いするのも仲がいいからだって思うし、オメガとアルファだし」
「は―――っ」

 大きなため息をつき、レジナルドが頭を振る。

「そんなわけないだろう。兄上の番だぞ?」
「え、でも……好きでも、諦めるしかなかったとか」
「……ナサニエルからは、何も聞いていないのか?」
「ナサニエル様はランドール様のことがとても好きみたいだから……」
「チッ」
「ああっ、すみませんっ!」

 舌打ちをするレジナルドに怯え、ユリウスは「もう聞きません!」と言ったが、

「誤解されたままなのは気分が悪い。俺は、ナサニエルのことなんてどうとも思っちゃいない。まあ、遠慮するような相手じゃないから楽だがな」
「楽……」
「そう。俺はアルファだと判明したのが結構遅かったんだ。兄弟でアルファというのはほとんど例がなく、兄上がアルファだから俺は違うと思っていたし、十歳から二年ごとに受ける検査でもずっと違っていた。それが、十六の時にアルファと診断され、露骨に態度を変える奴らが出てきてな。それまで兄上を紹介して欲しいと言ってきていた女達、いや男もか、が急に俺と付き合いたいだとか、婚約したいだとか。本当に煩わしくてな。そんな中、ナサニエルは態度を変えなかった。そしてあいつは俺よりも遅く、学園を卒業してからオメガだと分かったんだ。そして、兄上と番になった」
「へぇ、そうだったんですね」
「お互い遅くにアルファ、オメガと判明したから、その苦労や悩みもわかるし仲間意識もあるが、俺がナサニエルを好きだということは決してない。わかったらそんな馬鹿げたこと、二度と口にするな、考えもするな。いいな」
「は、はい、すみませんでした」

 気まずい雰囲気が漂う馬車の中、店に着くまでふたりは黙ったままだった。




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