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第一章
19 Ωはデートする
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「ユリウス様は可愛らしい容姿をしていらっしゃいますので、やはりこういう、レースだとかフリルのついたシャツが似合うと思います。それと色は淡い色の方が良いかと。最近の流行は水色や若草色ですが、どちらもとてもお似合いになります」
「なるほど。よし、両方もらおう」
「えっ?」
大きく立派な店構えの仕立屋で、店主の説明を受けるレジナルドと、そのやり取りに入れずオロオロするばかりのユリウス。
「あとこちらのデザインも最近流行で」
「それももらおう」
「はっ?」
「伝統的デザインも押さえておいた方が」
「そうしよう」
「ちょっ……」
「正式な場で着用するものはどう致しましょう」
「もちろんフルオーダーだ。ユリウス、採寸してこい」
「えっ? はっ? いや、正式な場ってどんな場」
「さっさと行け!」
「~~~っ、はいっっ!」
自分の意見は全く聞いてもらえないユリウスは、半ばやけになりながら採寸のために店の奥に入り、戻った時には、店員たちがせっせと大量の箱を馬車に運んでいるところだった。
「よし、それじゃあ次に行くぞ」
「えっ? 次っ?」
「靴屋、帽子屋、装飾品を扱う店にも行かないと」
「なんでっ?」
「なんでって、必要だからだ」
「だって、そんな……」
「行くぞ」
「ううううっ、はいぃぃっ」
(なんなんだよ! 番にはならないんじゃなかったのかよ! こんなたくさん買ってもらっても、いつ着るんだって話だよ!)
「なんだ? なにか不満か?」
眉間にしわを寄せて思い切り不機嫌そうに問われ、ユリウスは言葉に詰まったが、それでも反論を試みる。
「えっと、靴はあるし、帽子は必要ないと思います。それに装飾品って一体……」
「靴はあるって、それ一足だろう? 服に合わせたものが必要だ。それに外出時に帽子は必要だ。それとカフリンクスやタイピン、ラペルピン、ホールピン、イヤーカフ、ブレスレット、リングもあった方がいいか。それからステッキも」
「なんですかそれ」
(半分くらいわからないんだけどっ、でもっ!)
「必要ないと思いますっ!」
「必要だと言っている」
「じゃあ聞きますけど! いつ必要なんですか? フルオーダーの服とかなんかいろんなピン? とかブレスレットとかリングとか。そんなきちんとした格好してどこか行くことあるんですか?」
「社交会や夜会には、それなりの格好をして行くものだ」
「一介の平民が、そんなの行かないです。それとも、私のこと番にしてくれるとでも?」
「…………」
「そういうわけじゃないんですよね? じゃあ必要ない」
「何度も言っているが、番にならないとは言っていない」
「じゃあ、番になってからでいいじゃないですか」
「フルオーダーは時間がかかる。それに俺と番にならなくても、持っていた方がいい物だ。屋敷を出る時には持たせてやる。ここに入るぞ。好きな物を選べ」
「ええぇぇぇ……」
一生縁がないと思っていた宝飾店、しかも物凄く高級な品ばかりを扱う一流店だ。一応見てみるが、
「……欲しい物、ないです」
そう言って首を横に振るユリウスをじっと見下ろし、
「店主、これに似合う品をいくつか見繕ってくれ」
「はい、畏まりました。どういったものがよろしいでしょうか。ブローチやブレスレットや指輪、それからチョーカー等も……」
チラリとユリウスに目をやってから店主はレジナルドに尋ねる。
「ああ、なるほど……」
レジナルドもユリウスを見て、頷く。
「チョーカーは必須だ。普段使いの物と夜会用の物と、いくつかあった方がいいな」
「畏まりました、ではこちらへ」
店員に案内されて入った先には、ずらりとチョーカーが並べられていた。
「普段は柔らかく軽い物が楽でいいでしょう。薄くて柔らかい革か、 天鵞絨や刺繍を施したものもいいかもしれません。こちらのレース製の物も通気性が良く人気ですが、防御力は劣りますね。夜会用にはこちら、パールや宝石を幅広に繋いだ物や金の鎖を重ねた物が良いかと」
「なるほど、では全て」
「待って?」
見慣れない輝きに呆然としているうちにとんでもないことが決まりかけていて、ユリウスは慌てて口を挟んだ。
「ちょっと待ってください、こんなのもらえません。アクセサリーとか付けないし」
「これは装飾品というよりも、オメガのうなじを守るものだ」
「でも、ナサニエル様は使っていないですよ?」
「ナサニエルは番がいるから普段はつけていない。しかし夜会に出るときはつけるぞ、宝石をたくさん付けた物を」
「はい。うちでも何点か作らせていただきました。お気に召したものがなければ、宝石選び、デザインから全てオーダーメイドでお作り致します」
「そうだな、それも頼むがまずは」
「ちょっと待ってよ! そんなポンポンと決めるなよ!」
慌てるあまり、言葉遣いがよそ行きではなくなってしまう。
「要らないよ! そんなに買ってもらうのおかしいでしょ!」
「お前、俺に恥をかかせる気か?」
「そんなつもりはないよ! こんなに高そうなのをポンポン買い与えちゃうほうがおかしいじゃん!」
「俺を侮っているのか? このくらいなんでもない。主人、あとブローチとピンとイヤーカフも」
「わーっ! 何言ってんの? 今何話してたか、わかってる!?」
「馬鹿にするな、わかっている!」
「いやわかってないね! おれの意見、完全無視じゃん! さっきも高い服大量に買っちゃってなんなのっ? レジナルド様の考えてること、全くわかんないんだけど!」
「わからなくて構わない。俺もお前のことがわからないからな。そうだ、ここでステッキは扱っているか?」
「ううっっっ」
「あ、ええ、もちろんステッキもございますが……」
半泣きのユリウスをチラリと見ながら、店主は穏やかな口調で言った。
「まずは、普段使いのチョーカーを合わせてみてはいかがでしょうか。大きさの調整が必要な場合もございますし」「そうなのか……わかった、そうしてくれ」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
「……はい」
店主に促され、ユリウスは渋々席を立った。
「なるほど。よし、両方もらおう」
「えっ?」
大きく立派な店構えの仕立屋で、店主の説明を受けるレジナルドと、そのやり取りに入れずオロオロするばかりのユリウス。
「あとこちらのデザインも最近流行で」
「それももらおう」
「はっ?」
「伝統的デザインも押さえておいた方が」
「そうしよう」
「ちょっ……」
「正式な場で着用するものはどう致しましょう」
「もちろんフルオーダーだ。ユリウス、採寸してこい」
「えっ? はっ? いや、正式な場ってどんな場」
「さっさと行け!」
「~~~っ、はいっっ!」
自分の意見は全く聞いてもらえないユリウスは、半ばやけになりながら採寸のために店の奥に入り、戻った時には、店員たちがせっせと大量の箱を馬車に運んでいるところだった。
「よし、それじゃあ次に行くぞ」
「えっ? 次っ?」
「靴屋、帽子屋、装飾品を扱う店にも行かないと」
「なんでっ?」
「なんでって、必要だからだ」
「だって、そんな……」
「行くぞ」
「ううううっ、はいぃぃっ」
(なんなんだよ! 番にはならないんじゃなかったのかよ! こんなたくさん買ってもらっても、いつ着るんだって話だよ!)
「なんだ? なにか不満か?」
眉間にしわを寄せて思い切り不機嫌そうに問われ、ユリウスは言葉に詰まったが、それでも反論を試みる。
「えっと、靴はあるし、帽子は必要ないと思います。それに装飾品って一体……」
「靴はあるって、それ一足だろう? 服に合わせたものが必要だ。それに外出時に帽子は必要だ。それとカフリンクスやタイピン、ラペルピン、ホールピン、イヤーカフ、ブレスレット、リングもあった方がいいか。それからステッキも」
「なんですかそれ」
(半分くらいわからないんだけどっ、でもっ!)
「必要ないと思いますっ!」
「必要だと言っている」
「じゃあ聞きますけど! いつ必要なんですか? フルオーダーの服とかなんかいろんなピン? とかブレスレットとかリングとか。そんなきちんとした格好してどこか行くことあるんですか?」
「社交会や夜会には、それなりの格好をして行くものだ」
「一介の平民が、そんなの行かないです。それとも、私のこと番にしてくれるとでも?」
「…………」
「そういうわけじゃないんですよね? じゃあ必要ない」
「何度も言っているが、番にならないとは言っていない」
「じゃあ、番になってからでいいじゃないですか」
「フルオーダーは時間がかかる。それに俺と番にならなくても、持っていた方がいい物だ。屋敷を出る時には持たせてやる。ここに入るぞ。好きな物を選べ」
「ええぇぇぇ……」
一生縁がないと思っていた宝飾店、しかも物凄く高級な品ばかりを扱う一流店だ。一応見てみるが、
「……欲しい物、ないです」
そう言って首を横に振るユリウスをじっと見下ろし、
「店主、これに似合う品をいくつか見繕ってくれ」
「はい、畏まりました。どういったものがよろしいでしょうか。ブローチやブレスレットや指輪、それからチョーカー等も……」
チラリとユリウスに目をやってから店主はレジナルドに尋ねる。
「ああ、なるほど……」
レジナルドもユリウスを見て、頷く。
「チョーカーは必須だ。普段使いの物と夜会用の物と、いくつかあった方がいいな」
「畏まりました、ではこちらへ」
店員に案内されて入った先には、ずらりとチョーカーが並べられていた。
「普段は柔らかく軽い物が楽でいいでしょう。薄くて柔らかい革か、 天鵞絨や刺繍を施したものもいいかもしれません。こちらのレース製の物も通気性が良く人気ですが、防御力は劣りますね。夜会用にはこちら、パールや宝石を幅広に繋いだ物や金の鎖を重ねた物が良いかと」
「なるほど、では全て」
「待って?」
見慣れない輝きに呆然としているうちにとんでもないことが決まりかけていて、ユリウスは慌てて口を挟んだ。
「ちょっと待ってください、こんなのもらえません。アクセサリーとか付けないし」
「これは装飾品というよりも、オメガのうなじを守るものだ」
「でも、ナサニエル様は使っていないですよ?」
「ナサニエルは番がいるから普段はつけていない。しかし夜会に出るときはつけるぞ、宝石をたくさん付けた物を」
「はい。うちでも何点か作らせていただきました。お気に召したものがなければ、宝石選び、デザインから全てオーダーメイドでお作り致します」
「そうだな、それも頼むがまずは」
「ちょっと待ってよ! そんなポンポンと決めるなよ!」
慌てるあまり、言葉遣いがよそ行きではなくなってしまう。
「要らないよ! そんなに買ってもらうのおかしいでしょ!」
「お前、俺に恥をかかせる気か?」
「そんなつもりはないよ! こんなに高そうなのをポンポン買い与えちゃうほうがおかしいじゃん!」
「俺を侮っているのか? このくらいなんでもない。主人、あとブローチとピンとイヤーカフも」
「わーっ! 何言ってんの? 今何話してたか、わかってる!?」
「馬鹿にするな、わかっている!」
「いやわかってないね! おれの意見、完全無視じゃん! さっきも高い服大量に買っちゃってなんなのっ? レジナルド様の考えてること、全くわかんないんだけど!」
「わからなくて構わない。俺もお前のことがわからないからな。そうだ、ここでステッキは扱っているか?」
「ううっっっ」
「あ、ええ、もちろんステッキもございますが……」
半泣きのユリウスをチラリと見ながら、店主は穏やかな口調で言った。
「まずは、普段使いのチョーカーを合わせてみてはいかがでしょうか。大きさの調整が必要な場合もございますし」「そうなのか……わかった、そうしてくれ」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
「……はい」
店主に促され、ユリウスは渋々席を立った。
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