夢見るオメガは番いたい

ミモザ

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第一章

40 Ωはαに再会する

「レジナルド・シュミット様が、ユリウスに会いたいと尋ねて来ているよ」

 アルバートにそう言われたが、言葉の意味を理解できず、ユリウスは少しのあいだ固まった。

「えーと……え? ええっ? レジナルド様が? ここに?」
「そう。話がしたいそうだ」

「レジナルド・シュミット……シュミット侯爵家の次男だよね? もしかして、ユリウスのお相手? 好きだった人? それとも無理に番わされそうになった人の方?」

 一緒にお茶を飲んでいたルイスが、厳しい表情で尋ねる。

「あ~、好きだった人の方……」
「えーっ!? なんでここにユリウスがいるって知ったんだろう? ちょっとアル! 帰ってもらえないの!?」
「最初は俺もそう思ったんだが……どうしても話がしたいそうだ。そして俺も、話した方がいいと思った。どうだ? ユリウス。会ったからといって、嫌なことを受け入れる必要はない。俺たちが絶対に守ってやるから安心していい」
「あ……どう、しよう……」

 正直、ずっと会いたかった。
 その声を、姿を思い出し、恋しく思っていた。

(でも、なんだっけ、なんとか公爵と番わされるのはイヤだ。でもでも、アルバートさんが話した方がいいって思ったって言うし、守ってくれるって言ってるから……)

「あのっ、会います! レジナルド様と!」
「うん、じゃあ案内するからついておいで」
「はい」
「ユリウス! 無理しないで、嫌になったらすぐに退室するんだよ!」
「ありがとう、ルイスさん」

 覚悟を決め、ユリウスは立ち上がった。



「お待たせしました」

 先に応接室に入っていくアルバートの後ろに続いて中に入ったユリウスは、久しぶりに見るレジナルドの姿に胸がキュッと痛くなった。

(嬉しい。辛い。悲しい。……うん、辛い気持ちの方が大きいけれど、でも、会えて嬉しい)

「レジナルド様、我々は貴方様を信頼し、ユリウスを案内しました」
「信じてもらえたことに感謝し、その信頼を決して裏切らないと約束する」
「それは良かった。ユリウス、どうする? 君が望むなら、私も同席するが」
「ありがとうございます、アルバートさん。あの、ふたりで、話したいです」
「わかった。では私は隣の部屋に控えているから、何か用があったら声をかけて」
「はい、ありがとうございます」

 アルバートが出て行ってから、ソファから立ち上がって自分を見つめているレジナルドの前に行き、深く頭を下げた。

「レジナルド様、お久しぶりです。せっかくのご厚意を無駄にして勝手に逃げ出して、すみませんでした」
「いや、謝るのは俺の方だ。本当にすまなかった」
「いえ、おれの方が……良くしてもらったのに……レジナルド様がおれのことを心配して持ってきてくれた話なのに、オメガでなんもできない平民のくせにえり好みして、挨拶もしないで逃げて……迷惑をかけてしまったって気になってたんですけど、連絡もしないで」
「ユリウス」
「え? あ、はい」
「頼む、そんな、他人行儀な話し方をしないでくれ……前のように……」

 言葉を遮ってそう言ったレジナルドの表情が辛そうで、少し迷ったが、そうして欲しいのなら、と言葉を崩す。

「ホントにごめん。心配かけちゃうとは思ったんだけど、おれ、どうしても嫌で……。施設行くつもりだったんだけど、ここの人と出会って。ここのご主人の番の人が、偶然同じ村出身の人で、おれの両親と幼馴染だったんだ。それで良くしてくれて、お世話になってる」
「そうか、良かった……ヒート期間なのに施設にも行っていないし、どこにいるかわからなくて心配で、本当に……怖かった……」
「え? レジナルド様?」
「怖かったんだ、ものすごく……」

 レジナルドは声を震わせて言った。

「あんなことを言ってしまって後悔した。俺はあの日、番になろうって、そう言いたかったんだ」
「……は?」

 思わず、聞き返すユリウス。

「番に? え? なに?」
「番になろうと……数日後に来るヒートの時に、俺と番になろうって言うつもりだった」
「……え? なに、それ……だって、え? あの人は? 公爵家の人はなんだったの?」
「あいつは、俺が番になろうとしているのを知って、好奇心でどんな相手か見に来ただけの同僚だ。でもあの時、あいつがユリウスのフェロモンを、俺より先に感じ取ったことが悔しくて……俺よりあいつの方が優秀で、お前とも相性が良くて『運命の番』かもしれないと思った。結局それは勘違いだったと後からわかったけれど、あの時はもう、悔しさでいっぱいで、何も悪くないお前に後たった」
「あ、う……えぇ……本当におれ、悪くないじゃん」
「すまない」
「……あぁもぅ……いいよ」

 短く息を吐き、ユリウスはレジナルドに近づくと、腰に腕をまわして抱きついた。

「しかたないから許してあげる。だっておれ、レジナルド様のこと好きだから……」
「ユリウス……」

 体を少し離し、ユリウスはレジナルドを見上げた。

「ヒートが大変だから、安定するように番いたいっていうのはずっと思っていた。誰でもいいって思っていた。でも今は違うんだ。誰でもいいってわけじゃなくて、レジナルド様がいい。逃げ出したのも、レジナルド様の同僚の人と番になっちゃったら、今後も、レジナルド様と会うのかなって想像したら、もう、耐えられないって思ったんだ」
「俺と会うのが、耐えられない?」
「うん。だって、好きなのに、もう、好きでいちゃ駄目になるんだよ? それにレジナルド様にも番ができたらって想像したら、もう、本当に、おれ……」

 ユリウスが鼻をすすり、目からは涙が溢れ出した。

「なっ、そんなことにはならないから泣くな!」
「わ、わかってるけどっ、想像しただけで泣いちゃうんだよっ! それくらい、おれ、レジナルド様のこと好きになっちゃったんだ」

 また抱きつき、ユリウスは「ありがとう」と言った。

「レジナルド様が番になろうって言ってくれるなんて夢みたいだ。めちゃくちゃ嬉しい」
「ユリウス」

 自分よりずっと小さく華奢な体に覆いかぶさるようにし、レジナルドは力を込めた。

「見つからなくて、心配だったし怖かった。怖い思いをしているんじゃないか、嫌な目に遭っているんじゃないか、そう思って心配だった。そして、もう誰かのものになってしまったんじゃないかと思うと心臓を焼かれているような痛みを感じて、それがお前の望んだことでなければもちろん、望んだことだったとしても俺はそんなの嫌で、耐えられないと思った。誰にも噛まれていなくて良かった……」

 確かめるように、うなじをチョーカーの上から撫でる。

「良かった……まだこのチョーカーをしてくれていて……」
「ん……もう少ししたら変えようと思ってた」
「はっ?」
「昨日ここの息子さんにお土産でもらったんだ。だからレジナルド様のことを吹っ切れたら、そのもらったやつに変えようと思って」
「……危なかった」
「そーだよ? ホント……もう、思いこみとか勘違いとか、やめてよ?」
「ああ。こんな思いをするのは、もう二度とご免だ」

 互いの体温を感じ、心が満たされ、二人は手を繋いで応接室を出た。







 
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