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Ⅰ 旅立ち
2 神託式
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時告げの神殿は、村の中央広場から少し離れた丘の上に建っている。
その名の通り、鐘を鳴らして村人達に時を知らせる役割を担っている神殿で、高齢の神官が亡くなる前は、日に四回、明の刻の始まり(午前四時)、陽の刻の始まり(午前十時)、暮の刻の始まり(午後四時)そして闇の刻の始まり(午後十時)を知らせていたのだが、今は日に二回、陽の刻と暮の刻のみにカーナが鐘を鳴らして村人達に時を知らせている。
三日続いた春祭りも昨日終わり、大勢の子供達が、神殿へ向かう坂道を歩いていた。
これから行われる天職の神託式に臨む今年十二歳になった子供達である。
カイは神官代理であるカーナを手伝い、村の婦人会の人達と一緒に早朝から式典の準備をしていた。
「カイちゃん、あんたも神託受けなきゃいけないんだから、もう礼拝堂へ行っていいよ」
「ありがとうございます。それじゃすいませんが、俺行ってきます」
「ええ、ご苦労様。良い天職が貰えるといいね」
カイが礼拝堂に入ると、時の女神像の前には長蛇の列が出来上がっていた。
一人づつ順番に並び、渡された紐付きの小さな銅のプレートを女神像が差し出している右手の平の上に置いて、跪いて祈りを捧げる。
するとプレートが輝き、その子供の名前と出生地、その子の天職を表す紋章が不思議な力で描かれる。
このプレートが一生涯、この国のみならず、北大陸での子供達の身分を証明する証となる。
「よう、カイ。先生の手伝いか」
「ああ、姉ちゃんに明の刻前に叩き起こされた」
「おお、それは災難だったな。なあカイ、牛飼いって肉を一杯食えるのか」
「食える訳ないだろ。死なないように毎日世話してるんだぞ。それに毛の取れなくなった老牛は荷車用に売り払うんだぞ、ガイラ」
ガイラはカイよりも頭一つ分背が高い農夫の三男で、同年代では一番力が強い少年だ。
「そーかー、なんか肉が腹一杯食える天職って無いかな」
「ケーナの家なら賄で肉が毎日食えるぞ」
「俺は不器用だから調理師は無理だな。力仕事なら自信があるんだがな。・・・それにケーナはお前に惚れてるしな」
「えっ?ケーナと俺はそんな仲じゃないぞ」
「おい、おい、おい。まあ、毎日先生見てりゃ仕方が無いか。ミロもミラも可愛いしな」
「普通だろ」
「まあいいか。村に残ったらちゃんと考えろよ。ニーナとケーナの間で血の雨が降るぞ」
「訳の判らん事言う奴だな」
婦人会の人達のプレートの枚数の確認が終わって神託式が始まる。
先頭の女の子の手が震えているのが、最後尾のカイからでも見て取れた。
何事かを呟きながら、その子は一心不乱に祈っている。
プレートが輝き、担当の女性が丁寧に布で包んでその子に渡す。
プレートを受け取ると、その子は小走りに神官長室へ走って行った。
神官長室では神官代理であるカーナと村長が待っており、プレートを確認して天職を判定する。
カーナがプレートに描かれている天職の紋章と分厚い紋章表とを照合して村長に示し、村長はその天職とその天職の紋章に付随する属性印を確認して、子供達の天職の修行場所を告げる。
例年であれば、村長が住民台帳にその子供の天職と修行場所を記入すればその子の将来が確定し、その子の神託式は終わるのだが、今年は村長の脇に軍服を着た年若い男性が座っていた。
「クーニャ、神託は終わりだが、この板に手を乗せて魔力を計ってくれ」
「はい」
クーニャと呼ばれた女の子は恐々と金属板に手を触れる。
「魔力の反応はありません」
「はい。クーニャ、天職は機織り、この村で修行してくれ」
「はい」
クーニャは飛ぶように神官長室を飛び出すと、廊下で心配そうな顔をして待っていた青年に飛付く。
「ターちゃん、私機織りだった。一緒に暮らせるよ」
運命は残酷なもので、神官長室から出て来る子供達は、当然喜ぶ子もいれば、落胆して肩を落とす子もいる。
ヒーローになる事を夢見ていた夢想家の子供達も、この日を境に少年少女時代の衣を脱ぎ捨て、大人への階段に一歩足を踏み入れる。
そして村を離れる事を告げられた子供達は、その日から親元を離れて村の外へと旅立つ準備を始めるのだ。
「あっくん、町で浮気しちゃだめよ」
「ああ、判ってるよリーちゃん、一人前になったら迎えに来るから待ってて」
「フーちゃんごめん、私細工師になったからこの村に戻れない」
「仕方がないよ、アーちゃん。女神様のお告げだもの。俺はこの村で農夫として頑張るから、アーちゃんも町で頑張って」
「ごめん、フーちゃん」
「どうだ、勇者になれたか」
「ううん、農夫だった」
「うん、俺も剣士じゃなくて牛飼いだった。それじゃ、どっちが先に彼女を作れるか競争するか」
「ああ、受けて立ってやる」
「どうしたケント、顔が青いぞ」
「ああ、天職は鍛冶屋だったんだが、兵士にされるらしい」
「戦争へ行くのか」
「良く判らん。良く判らんが死ぬ前にちゃんと先生に告白する」
周囲から聞こえて来る会話を聞きながら、毎年の事なのだが、カイの頭の中にカーナのげんなりした顔が浮かんだ。
最後尾のカイの順番が回って来た、特に女神様へお願いする事も無いので、カイはポーっと跪いていた。
「はい、カイちゃん天職札。ご苦労様、後片付けは私らがやっとくから、天職を聞いたら皆と遊びに行ってきな」
「はい」
プレートを手に取ると、村の名前と自分の名、そして天職を表す紋章が薄紫色に光っていた。
ゆっくりと歩いて神官長室へと向かう、待っているのが姉のカーナと思うと何か緊張感が無い。
「はい、姉ちゃん」
カーナにプレートを手渡して、椅子に座ってじっと待つ。
「カイは、えーと」
珍しくカーナが照合に手間取り、何ページもの紋章表を捲って見比べている。
「おー、あった、あった、これね。カイはね、マナ人?」
「姉ちゃん、なんで疑問形なんだよ。マナ人って何だよ。間違ってんじゃないのか」
「失礼ね、ほら、ここ。マナ人って書いてあるでしょ。あんたも見比べて見なさいよ」
確かにカイのプレートと、マナ人と書かれた紋章表の紋章は同じ物だった。
「村長さん、マナ人って何なんですか」
「うーん、マナ人か。・・・そうじゃ、夏になるとお前の家にも飛んで来る渡り鳥が居るじゃろ。あれが確かマナ鳥じゃ」
「骨ばっかりで旨く無いですよあれ。狩っても売り物になりませんよ」
「村長さん、吟遊詩人や芸人のように、鳥に芸を仕込んで歌ったり、踊ったりして人々を喜ばせる職業でしょうか」
「まあ、似た様な物じゃろ。修行先も一覧表に無い属性印じゃから、取り敢えず領主様の御屋敷にお伺いする事になっておる。そこで担当者が仕事の内容を説明してくれるじゃろう。まあ、鳥飼と芸人を併せた職業と考えておけば確かかの、生き物の世話は牛で慣れておるから大丈夫じゃろ」
「・・・・はい」
「良し、ふー、これで今年の天職の神託式は終いじゃ。領都へ向かう馬車は五日後の昼頃にこの村へ来る予定じゃから準備しておけ」
「はい」
「あっ、しまった。魔力測定がまだじゃった。ほれ、この板の上に手を」
「今、マナ人と仰りましたか」
「ええ、弟の天職です」
「失礼しました。魔力測定は結構です。私は至急領主様へお知らせします」
軍服を着た若い男は神殿から飛び出して行った。
「兵隊さん如何したんでしょうか」
「兵士になる子が十人程居ったから、急いで報告するんじゃろ」
重い緊張感が漂う神殿の中から外へ一歩出ると、前庭へ降りる階段に今日神託を受けた子供達が座って情報交換をしていた。
「おーいカイ、こっちだ」
神殿の手習いで何時も一緒に居るカイの仲間、ジョイ、ガイラ、ケーナ、ニーナの四人が下の方で手を振っていた。
「長かったな」
「うん、変な天職なんで確認に手間取ってた」
ジョイは村一番の勉強家で、天職は書記だった。
学者になりたいと思っていたのだが、神託のあった天職をそれなりに受け入れている。
ガイラの天職は剣士で、村に残る積りだったガイラは物凄く戸惑っている。
子供達には人気のある天職なのだが、農家の三男という厳しい立場だったガイラは、あまり夢を見ない現実主義者だった。
ケーナの天職は調理師だった、ケーナも自分の特技と一致する天職だったので納得している。
ニーナの天職はメイドだった、礼儀作法のレの字も知らないニーナは、物凄く戸惑っていた。
「メイドって何なのよ~」
「俺はマナ人って変な職業なんで行き先が良く判らないんだ。取り敢えず領主様の御屋敷で説明が有るらしいんだ。皆は」
「私は村を出るの、修行先は領主様の御屋敷。調理師だけどパンや菓子造りも出来るらしいわ。カイ、マナ人って職人さんなの」
「うーん、どうなんだろう。物は作らないと思う」
「それじゃ、どうやってお金を稼ぐのよ」
「うーん、鳥飼と芸人を併せたような職業らしくて、鳥に芸を仕込んでお金を貰うのかな」
「大道芸人みたいな職業なの」
「うん、たぶんそうらしいよ。領内を転々と旅するんじゃないかな」
「稼げなかったら、私の所へ来て。私が養ってあげるから大丈夫よ」
「こらこら、どさくさに紛れてカイに唾付けないでよケーナ。私の修行先も領主様の御屋敷よ」
黙って不機嫌そうに二人の話を聞いていたニーナが口を挟んで来た。
「邪魔しないでよ、ニーナ。私はカイと話してるの」
「はいはい、カイの面倒は私が見るから大丈夫よ」
「領主様のお屋敷って領都だよね。凄いじゃないか二人とも」
「そうよ、凄いでしょ。私に務まるかどうか判らないけど、あーん」
「それなら当分また俺と一緒だな、ニーナ」
ガイラが話に加わって来た。
「ガイラは剣士だったよね」
「ふっ、ふっ、ふっ。俺の修行先も領主様のお屋敷だ。同じ屋敷内だし、ニーナの面倒は俺が見るから、おまえは安心して鳥と修行に励め、カイ」
「勝手に決めないでよ。カイの修行場所だって決まってないし」
「同じ御屋敷に勤めて、夫婦で暮らすなんて理想的よニーナ。私応援するわ、ガイラ」
「カイの修行場所は、呪いの谷とか、魔女の森とか、ペトローネ大森林だったりしてな」
「おいおいガイラ、不吉な事を言わないでくれよ。それでなくても不安なんだからさ。ジョイの修行先は何処」
「僕も領主様の御屋敷なんだ。コクリ領の公文はすべて領主様から出されるから、結構忙しいらしい」
「それじゃカイも含めて領主様の御屋敷までは皆一緒ね。春祭りが終わって私の家少し空いてるから、皆で天職のお祝いしましょ」
「賛成、私ミミミ焼き食べたい」
「おう、俺達の天職のお祝いだ」
最後になるかも知れない村での春の一時を過ごすため、四人は胸に不安を抱えながらも、足早に中央広場の喧噪に向かって歩いて行った。
広場へ向かう坂道を歩く四人の背中を春の風が祝福する様に後押しした。
坂の正面に聳え立つペトローネ山脈は、彼等を優しく見守っている。
その名の通り、鐘を鳴らして村人達に時を知らせる役割を担っている神殿で、高齢の神官が亡くなる前は、日に四回、明の刻の始まり(午前四時)、陽の刻の始まり(午前十時)、暮の刻の始まり(午後四時)そして闇の刻の始まり(午後十時)を知らせていたのだが、今は日に二回、陽の刻と暮の刻のみにカーナが鐘を鳴らして村人達に時を知らせている。
三日続いた春祭りも昨日終わり、大勢の子供達が、神殿へ向かう坂道を歩いていた。
これから行われる天職の神託式に臨む今年十二歳になった子供達である。
カイは神官代理であるカーナを手伝い、村の婦人会の人達と一緒に早朝から式典の準備をしていた。
「カイちゃん、あんたも神託受けなきゃいけないんだから、もう礼拝堂へ行っていいよ」
「ありがとうございます。それじゃすいませんが、俺行ってきます」
「ええ、ご苦労様。良い天職が貰えるといいね」
カイが礼拝堂に入ると、時の女神像の前には長蛇の列が出来上がっていた。
一人づつ順番に並び、渡された紐付きの小さな銅のプレートを女神像が差し出している右手の平の上に置いて、跪いて祈りを捧げる。
するとプレートが輝き、その子供の名前と出生地、その子の天職を表す紋章が不思議な力で描かれる。
このプレートが一生涯、この国のみならず、北大陸での子供達の身分を証明する証となる。
「よう、カイ。先生の手伝いか」
「ああ、姉ちゃんに明の刻前に叩き起こされた」
「おお、それは災難だったな。なあカイ、牛飼いって肉を一杯食えるのか」
「食える訳ないだろ。死なないように毎日世話してるんだぞ。それに毛の取れなくなった老牛は荷車用に売り払うんだぞ、ガイラ」
ガイラはカイよりも頭一つ分背が高い農夫の三男で、同年代では一番力が強い少年だ。
「そーかー、なんか肉が腹一杯食える天職って無いかな」
「ケーナの家なら賄で肉が毎日食えるぞ」
「俺は不器用だから調理師は無理だな。力仕事なら自信があるんだがな。・・・それにケーナはお前に惚れてるしな」
「えっ?ケーナと俺はそんな仲じゃないぞ」
「おい、おい、おい。まあ、毎日先生見てりゃ仕方が無いか。ミロもミラも可愛いしな」
「普通だろ」
「まあいいか。村に残ったらちゃんと考えろよ。ニーナとケーナの間で血の雨が降るぞ」
「訳の判らん事言う奴だな」
婦人会の人達のプレートの枚数の確認が終わって神託式が始まる。
先頭の女の子の手が震えているのが、最後尾のカイからでも見て取れた。
何事かを呟きながら、その子は一心不乱に祈っている。
プレートが輝き、担当の女性が丁寧に布で包んでその子に渡す。
プレートを受け取ると、その子は小走りに神官長室へ走って行った。
神官長室では神官代理であるカーナと村長が待っており、プレートを確認して天職を判定する。
カーナがプレートに描かれている天職の紋章と分厚い紋章表とを照合して村長に示し、村長はその天職とその天職の紋章に付随する属性印を確認して、子供達の天職の修行場所を告げる。
例年であれば、村長が住民台帳にその子供の天職と修行場所を記入すればその子の将来が確定し、その子の神託式は終わるのだが、今年は村長の脇に軍服を着た年若い男性が座っていた。
「クーニャ、神託は終わりだが、この板に手を乗せて魔力を計ってくれ」
「はい」
クーニャと呼ばれた女の子は恐々と金属板に手を触れる。
「魔力の反応はありません」
「はい。クーニャ、天職は機織り、この村で修行してくれ」
「はい」
クーニャは飛ぶように神官長室を飛び出すと、廊下で心配そうな顔をして待っていた青年に飛付く。
「ターちゃん、私機織りだった。一緒に暮らせるよ」
運命は残酷なもので、神官長室から出て来る子供達は、当然喜ぶ子もいれば、落胆して肩を落とす子もいる。
ヒーローになる事を夢見ていた夢想家の子供達も、この日を境に少年少女時代の衣を脱ぎ捨て、大人への階段に一歩足を踏み入れる。
そして村を離れる事を告げられた子供達は、その日から親元を離れて村の外へと旅立つ準備を始めるのだ。
「あっくん、町で浮気しちゃだめよ」
「ああ、判ってるよリーちゃん、一人前になったら迎えに来るから待ってて」
「フーちゃんごめん、私細工師になったからこの村に戻れない」
「仕方がないよ、アーちゃん。女神様のお告げだもの。俺はこの村で農夫として頑張るから、アーちゃんも町で頑張って」
「ごめん、フーちゃん」
「どうだ、勇者になれたか」
「ううん、農夫だった」
「うん、俺も剣士じゃなくて牛飼いだった。それじゃ、どっちが先に彼女を作れるか競争するか」
「ああ、受けて立ってやる」
「どうしたケント、顔が青いぞ」
「ああ、天職は鍛冶屋だったんだが、兵士にされるらしい」
「戦争へ行くのか」
「良く判らん。良く判らんが死ぬ前にちゃんと先生に告白する」
周囲から聞こえて来る会話を聞きながら、毎年の事なのだが、カイの頭の中にカーナのげんなりした顔が浮かんだ。
最後尾のカイの順番が回って来た、特に女神様へお願いする事も無いので、カイはポーっと跪いていた。
「はい、カイちゃん天職札。ご苦労様、後片付けは私らがやっとくから、天職を聞いたら皆と遊びに行ってきな」
「はい」
プレートを手に取ると、村の名前と自分の名、そして天職を表す紋章が薄紫色に光っていた。
ゆっくりと歩いて神官長室へと向かう、待っているのが姉のカーナと思うと何か緊張感が無い。
「はい、姉ちゃん」
カーナにプレートを手渡して、椅子に座ってじっと待つ。
「カイは、えーと」
珍しくカーナが照合に手間取り、何ページもの紋章表を捲って見比べている。
「おー、あった、あった、これね。カイはね、マナ人?」
「姉ちゃん、なんで疑問形なんだよ。マナ人って何だよ。間違ってんじゃないのか」
「失礼ね、ほら、ここ。マナ人って書いてあるでしょ。あんたも見比べて見なさいよ」
確かにカイのプレートと、マナ人と書かれた紋章表の紋章は同じ物だった。
「村長さん、マナ人って何なんですか」
「うーん、マナ人か。・・・そうじゃ、夏になるとお前の家にも飛んで来る渡り鳥が居るじゃろ。あれが確かマナ鳥じゃ」
「骨ばっかりで旨く無いですよあれ。狩っても売り物になりませんよ」
「村長さん、吟遊詩人や芸人のように、鳥に芸を仕込んで歌ったり、踊ったりして人々を喜ばせる職業でしょうか」
「まあ、似た様な物じゃろ。修行先も一覧表に無い属性印じゃから、取り敢えず領主様の御屋敷にお伺いする事になっておる。そこで担当者が仕事の内容を説明してくれるじゃろう。まあ、鳥飼と芸人を併せた職業と考えておけば確かかの、生き物の世話は牛で慣れておるから大丈夫じゃろ」
「・・・・はい」
「良し、ふー、これで今年の天職の神託式は終いじゃ。領都へ向かう馬車は五日後の昼頃にこの村へ来る予定じゃから準備しておけ」
「はい」
「あっ、しまった。魔力測定がまだじゃった。ほれ、この板の上に手を」
「今、マナ人と仰りましたか」
「ええ、弟の天職です」
「失礼しました。魔力測定は結構です。私は至急領主様へお知らせします」
軍服を着た若い男は神殿から飛び出して行った。
「兵隊さん如何したんでしょうか」
「兵士になる子が十人程居ったから、急いで報告するんじゃろ」
重い緊張感が漂う神殿の中から外へ一歩出ると、前庭へ降りる階段に今日神託を受けた子供達が座って情報交換をしていた。
「おーいカイ、こっちだ」
神殿の手習いで何時も一緒に居るカイの仲間、ジョイ、ガイラ、ケーナ、ニーナの四人が下の方で手を振っていた。
「長かったな」
「うん、変な天職なんで確認に手間取ってた」
ジョイは村一番の勉強家で、天職は書記だった。
学者になりたいと思っていたのだが、神託のあった天職をそれなりに受け入れている。
ガイラの天職は剣士で、村に残る積りだったガイラは物凄く戸惑っている。
子供達には人気のある天職なのだが、農家の三男という厳しい立場だったガイラは、あまり夢を見ない現実主義者だった。
ケーナの天職は調理師だった、ケーナも自分の特技と一致する天職だったので納得している。
ニーナの天職はメイドだった、礼儀作法のレの字も知らないニーナは、物凄く戸惑っていた。
「メイドって何なのよ~」
「俺はマナ人って変な職業なんで行き先が良く判らないんだ。取り敢えず領主様の御屋敷で説明が有るらしいんだ。皆は」
「私は村を出るの、修行先は領主様の御屋敷。調理師だけどパンや菓子造りも出来るらしいわ。カイ、マナ人って職人さんなの」
「うーん、どうなんだろう。物は作らないと思う」
「それじゃ、どうやってお金を稼ぐのよ」
「うーん、鳥飼と芸人を併せたような職業らしくて、鳥に芸を仕込んでお金を貰うのかな」
「大道芸人みたいな職業なの」
「うん、たぶんそうらしいよ。領内を転々と旅するんじゃないかな」
「稼げなかったら、私の所へ来て。私が養ってあげるから大丈夫よ」
「こらこら、どさくさに紛れてカイに唾付けないでよケーナ。私の修行先も領主様の御屋敷よ」
黙って不機嫌そうに二人の話を聞いていたニーナが口を挟んで来た。
「邪魔しないでよ、ニーナ。私はカイと話してるの」
「はいはい、カイの面倒は私が見るから大丈夫よ」
「領主様のお屋敷って領都だよね。凄いじゃないか二人とも」
「そうよ、凄いでしょ。私に務まるかどうか判らないけど、あーん」
「それなら当分また俺と一緒だな、ニーナ」
ガイラが話に加わって来た。
「ガイラは剣士だったよね」
「ふっ、ふっ、ふっ。俺の修行先も領主様のお屋敷だ。同じ屋敷内だし、ニーナの面倒は俺が見るから、おまえは安心して鳥と修行に励め、カイ」
「勝手に決めないでよ。カイの修行場所だって決まってないし」
「同じ御屋敷に勤めて、夫婦で暮らすなんて理想的よニーナ。私応援するわ、ガイラ」
「カイの修行場所は、呪いの谷とか、魔女の森とか、ペトローネ大森林だったりしてな」
「おいおいガイラ、不吉な事を言わないでくれよ。それでなくても不安なんだからさ。ジョイの修行先は何処」
「僕も領主様の御屋敷なんだ。コクリ領の公文はすべて領主様から出されるから、結構忙しいらしい」
「それじゃカイも含めて領主様の御屋敷までは皆一緒ね。春祭りが終わって私の家少し空いてるから、皆で天職のお祝いしましょ」
「賛成、私ミミミ焼き食べたい」
「おう、俺達の天職のお祝いだ」
最後になるかも知れない村での春の一時を過ごすため、四人は胸に不安を抱えながらも、足早に中央広場の喧噪に向かって歩いて行った。
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