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5 囮役
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翌朝、朝の救済粥は喉に引っ掛かって物凄く手強かったが、なんとか器一杯平らげた。
「兄ちゃん、パン食いたいよー」
「贅沢言うな」
タオルとお金はメアリーさんに預かって貰い、僕達は今日の生活費を稼ぐために下水道の降り口へと向かう。
昨日と違い、今日は少し作戦が立ててある。
まず、僕とハルさんが昨日買い求めて来た木簡を脛に巻く。
多少頼りないが、脛当て替わりだ。
木簡に巻いてあった銅線の長さがぎりぎり足りたので、木簡の上と下に巻いて、木簡を足に固定する。
多少足首が動かし難いが、贅沢は言ってられない。
明美やユウの子供達は、蝋燭を灯して踊場で待機。
僕とハルさんが足に鼠を食い付かせてから戻るので、待ち構えて鼠を叩き殺して貰う段取りだ。
木簡を買う時二束にしようか四束にしようか悩んだ。
ハルさんに危険な真似はさせたくなかったが、僕が一人で囮役を引き受けて、万が一鼠の群に襲われて死んだら、今度はハルさんが僕の代わりに囮役を引き受けることになる。
それだった最初からハルさんと僕が一緒に行動したほうが、互いに生き残れる確率が上がるんじゃないかと考えたのだ。
二人で支えながら歩けば、転んで首や腹に食い付かれ、致命傷を負うリスクも減る。
それに、やっぱり一人で真っ暗な下水道の中を歩くのが嫌だった。
今日は逃げ帰り易い様に流れの上流に向かう。
追い駆けて来る鼠の動きも早くなるが、気分の問題だ。
足元に穴が開いていないかどうか、慎重に確認しながら二人で手を繋いで進む。
思っていた以上にハルさんの手の感触が、足元が良く見えない僕には心強かった。
三十分くらい歩いただろうか、突然足を衝撃が襲った。
”ガツッ”
鼠が足を食い千切ろうと暴れている感触が伝わってくる。
「きゃっ」
「わっ、逃げろ」
ハルさんにも食い付いたようで、慌てて手を繋いで二人一緒に逃げ帰る。
後ろから鼠の大群が迫っているような気がして、気が焦って途中何度か足を滑らせて転びそうになった。
その度ハルさんが支えてくれて、なんとか踏ん張ることが出来た。
情けないが、ハルさんに一緒に来て貰って助かった。
幸いな事に、大した距離は歩いていなかったようで、灯りの点った木の格子扉は直ぐに見えて来た。
「行くぞ!」
声を掛けると、孝太が扉を開けてくれた。
階段を駆け上がり、踊場に倒れ込む。
ハルさんの足に一匹、僕の足に二匹食い付いていた。
一匹は直ぐに逃げ出したが、一匹は足に噛み付いてまま離れなかったので僕が叩き殺した。
ハルさんの一匹も直ぐに逃げ出したようで、二匹の鼠を子供達がキャーキャー言いながら階段と踊場を追い駆け廻して叩き殺した。
足を確認すると、鼠の歯が木簡を食い破って小さな傷が一つ出来ていたが、大した傷ではない。
食い破られた木簡を裏側に回し、もう一度鼠を食い付かせに下水道へ降りた。
七回往復し、蝋燭の灯が心細くなって来たので、教会へと戻った。
狩った鼠は二十五匹、魔石を持った鼠はいなかったが、三シルバーの稼ぎになった。
今日も二人の足の傷を治して貰ったので四カッパの支出、結局二シルバー九十六カッパの手取りとなった。
多少まだ外は明るかったが、取敢えず公衆浴場へと向かう。
まだ人が少なく、子供達は川の中を泳ぎ回って遊んでいる。
ダラーっと湯の中で脱力していたら、嬉しい事にハルさんが近寄って来た。
「タケさん、子供達の腕に結構傷が出来てるの。大きな怪我しなければ良いんだけど、ちょっと心配」
僕は気が付かなかった、リーダー失格だ。
鼻の下を伸ばしてる場合じゃない。
「指を齧られたら大変だから、指を護るグローブの様な物が必要だな」
「レザーグローブは中古でも八シルバーだったわ」
「帰りにまた道具屋へ寄って、替りの物を捜そうか」
「ええ、良い品物が有ると良いんだけど」
ーーーーー
「アキ、タケと姉ちゃんがくっ付いてるぞ」
「あっ不味い。邪魔しないと」
「アキ、何でタケには彼女がいなかったんだよ。変な趣味でも持ってるのか、ホモとかさ」
「兄ちゃん眼鏡掛けると物凄く陰険な奴に見えるんだよ。あんなに優しいのにさ。ハル姉は?」
「姉ちゃんは少し度の弱い眼鏡掛けてたから、普段から眉間に皺を寄せて怒ってる様に見えるんだよ。だから睨まれたと思って男が近寄って来ない。美人なのにさ」
ーーーーー
「なんとか今日で目途が立ったかな、三シルバー稼げたし」
「ええ、当面はね。飢え死の心配は無くなったかしら」
「そうだね、教会を追い出されるまでの限定付きだけどね。普通の冒険者ってどのくらい稼いでいるんだろうか」
「最低でも宿代が二シルバーで食費が一日一シルバーでしょ、装備のこと考えれば一日六シルバーくらいかしら」
「九人だと一日五十四シルバーか、全然駄目だね俺達。まだまだ先は長いや」
「みんなで生き残れるように頑張りましょ。頼りにしてるから」
「うん、ありがと」
ハルさんがちょっと身体を寄せて来た。
「こらー、タケミチ。姉ちゃんに近寄るな」
「ハル姉、兄ちゃんはちんちんに毛が生えた獣だから近寄らない方がいいよ」
明美とユウが間に割り込んで来た。
「ユウ、呼び捨てにしない。タケさんでしょ。ごめんなさいね」
「明美、俺は獣じゃないぞ。こら、重たいから乗って来るな」
「姉ちゃん、俺も」
「駄目に決まってるでしょ」
今日も裏通りの商店街を覗いてみる。
古着屋の店頭で、一抱えはありそうな大きな袋に詰まった端切れが一シルバーで売っていた。
ハルさんと相談して買うことに決めた。
それと蝋燭を今度は二本買い求めた。
今日の収入は三シルバー。
支出は治療費四カッパ、朝夕の救済粥が十八カッパ、礼拝堂の泊まり賃が九カッパ、風呂代が十八カッパ、蝋燭が二十カッパ、端切れが一シルバー。
昨日の残金 二シルバーと八十二カッパ
今日の残金 一シルバーと三十一カッパ
合計の残金 四シルバーと十三カッパ
「兄ちゃん、パン食いたいよー」
「贅沢言うな」
タオルとお金はメアリーさんに預かって貰い、僕達は今日の生活費を稼ぐために下水道の降り口へと向かう。
昨日と違い、今日は少し作戦が立ててある。
まず、僕とハルさんが昨日買い求めて来た木簡を脛に巻く。
多少頼りないが、脛当て替わりだ。
木簡に巻いてあった銅線の長さがぎりぎり足りたので、木簡の上と下に巻いて、木簡を足に固定する。
多少足首が動かし難いが、贅沢は言ってられない。
明美やユウの子供達は、蝋燭を灯して踊場で待機。
僕とハルさんが足に鼠を食い付かせてから戻るので、待ち構えて鼠を叩き殺して貰う段取りだ。
木簡を買う時二束にしようか四束にしようか悩んだ。
ハルさんに危険な真似はさせたくなかったが、僕が一人で囮役を引き受けて、万が一鼠の群に襲われて死んだら、今度はハルさんが僕の代わりに囮役を引き受けることになる。
それだった最初からハルさんと僕が一緒に行動したほうが、互いに生き残れる確率が上がるんじゃないかと考えたのだ。
二人で支えながら歩けば、転んで首や腹に食い付かれ、致命傷を負うリスクも減る。
それに、やっぱり一人で真っ暗な下水道の中を歩くのが嫌だった。
今日は逃げ帰り易い様に流れの上流に向かう。
追い駆けて来る鼠の動きも早くなるが、気分の問題だ。
足元に穴が開いていないかどうか、慎重に確認しながら二人で手を繋いで進む。
思っていた以上にハルさんの手の感触が、足元が良く見えない僕には心強かった。
三十分くらい歩いただろうか、突然足を衝撃が襲った。
”ガツッ”
鼠が足を食い千切ろうと暴れている感触が伝わってくる。
「きゃっ」
「わっ、逃げろ」
ハルさんにも食い付いたようで、慌てて手を繋いで二人一緒に逃げ帰る。
後ろから鼠の大群が迫っているような気がして、気が焦って途中何度か足を滑らせて転びそうになった。
その度ハルさんが支えてくれて、なんとか踏ん張ることが出来た。
情けないが、ハルさんに一緒に来て貰って助かった。
幸いな事に、大した距離は歩いていなかったようで、灯りの点った木の格子扉は直ぐに見えて来た。
「行くぞ!」
声を掛けると、孝太が扉を開けてくれた。
階段を駆け上がり、踊場に倒れ込む。
ハルさんの足に一匹、僕の足に二匹食い付いていた。
一匹は直ぐに逃げ出したが、一匹は足に噛み付いてまま離れなかったので僕が叩き殺した。
ハルさんの一匹も直ぐに逃げ出したようで、二匹の鼠を子供達がキャーキャー言いながら階段と踊場を追い駆け廻して叩き殺した。
足を確認すると、鼠の歯が木簡を食い破って小さな傷が一つ出来ていたが、大した傷ではない。
食い破られた木簡を裏側に回し、もう一度鼠を食い付かせに下水道へ降りた。
七回往復し、蝋燭の灯が心細くなって来たので、教会へと戻った。
狩った鼠は二十五匹、魔石を持った鼠はいなかったが、三シルバーの稼ぎになった。
今日も二人の足の傷を治して貰ったので四カッパの支出、結局二シルバー九十六カッパの手取りとなった。
多少まだ外は明るかったが、取敢えず公衆浴場へと向かう。
まだ人が少なく、子供達は川の中を泳ぎ回って遊んでいる。
ダラーっと湯の中で脱力していたら、嬉しい事にハルさんが近寄って来た。
「タケさん、子供達の腕に結構傷が出来てるの。大きな怪我しなければ良いんだけど、ちょっと心配」
僕は気が付かなかった、リーダー失格だ。
鼻の下を伸ばしてる場合じゃない。
「指を齧られたら大変だから、指を護るグローブの様な物が必要だな」
「レザーグローブは中古でも八シルバーだったわ」
「帰りにまた道具屋へ寄って、替りの物を捜そうか」
「ええ、良い品物が有ると良いんだけど」
ーーーーー
「アキ、タケと姉ちゃんがくっ付いてるぞ」
「あっ不味い。邪魔しないと」
「アキ、何でタケには彼女がいなかったんだよ。変な趣味でも持ってるのか、ホモとかさ」
「兄ちゃん眼鏡掛けると物凄く陰険な奴に見えるんだよ。あんなに優しいのにさ。ハル姉は?」
「姉ちゃんは少し度の弱い眼鏡掛けてたから、普段から眉間に皺を寄せて怒ってる様に見えるんだよ。だから睨まれたと思って男が近寄って来ない。美人なのにさ」
ーーーーー
「なんとか今日で目途が立ったかな、三シルバー稼げたし」
「ええ、当面はね。飢え死の心配は無くなったかしら」
「そうだね、教会を追い出されるまでの限定付きだけどね。普通の冒険者ってどのくらい稼いでいるんだろうか」
「最低でも宿代が二シルバーで食費が一日一シルバーでしょ、装備のこと考えれば一日六シルバーくらいかしら」
「九人だと一日五十四シルバーか、全然駄目だね俺達。まだまだ先は長いや」
「みんなで生き残れるように頑張りましょ。頼りにしてるから」
「うん、ありがと」
ハルさんがちょっと身体を寄せて来た。
「こらー、タケミチ。姉ちゃんに近寄るな」
「ハル姉、兄ちゃんはちんちんに毛が生えた獣だから近寄らない方がいいよ」
明美とユウが間に割り込んで来た。
「ユウ、呼び捨てにしない。タケさんでしょ。ごめんなさいね」
「明美、俺は獣じゃないぞ。こら、重たいから乗って来るな」
「姉ちゃん、俺も」
「駄目に決まってるでしょ」
今日も裏通りの商店街を覗いてみる。
古着屋の店頭で、一抱えはありそうな大きな袋に詰まった端切れが一シルバーで売っていた。
ハルさんと相談して買うことに決めた。
それと蝋燭を今度は二本買い求めた。
今日の収入は三シルバー。
支出は治療費四カッパ、朝夕の救済粥が十八カッパ、礼拝堂の泊まり賃が九カッパ、風呂代が十八カッパ、蝋燭が二十カッパ、端切れが一シルバー。
昨日の残金 二シルバーと八十二カッパ
今日の残金 一シルバーと三十一カッパ
合計の残金 四シルバーと十三カッパ
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