欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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31 婚姻

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 宿に戻って一寝入りした。
 遅い朝飯食べてから外へ出たら、地下道から戻った住民達が大騒ぎをしていた。
 逃げ遅れて家の中から覗いていた住民が、口から泡を飛ばして解説している。
 何故か首に貼り付いていた僕が、竜と正面から剣で戦っていたことになおり、剣から聖なる力が放たれたとか、剣が天を貫く落雷を呼んだとかのファンタジーな話になっている。

 僕を見付けて拝み始める人が続出して、非常にくすぐったかった。
 改めて中央広場を確認したら、周囲の建物はほぼ半壊しており、悲惨な状況だった。
 日の光りの下で見る竜は巨大で恐ろしげで、僕が生き残れたのが不思議だった。
 運良く竜が槍を自分の首に打ち込んでくれたから良かったものの、これが無かったら、百パーセント僕は三途の川を渡っていただろう。
 もう二度とこんな危ない橋は渡りたくない、蔓には良く言い聞かせよう。

 僕が倒したのは地竜、竜としては一番弱くて小さい奴だ。
 青竜、赤竜、黒竜、金竜などの上位種は、こいつの四~五倍は有るそうだ。
 今見上げている地竜すら巨大な化け物なのに、なんだか想像ができない。

 材木運搬用の荷車を六台調達し、住民総出で竜を乗せるのを手伝って貰う。
 馬の調達に手間取り、出発は夕刻遅くになってしまったが、五十頭の馬に曳かれた荷車が、無事ビオラの街を出発した。
 
 王都オクターブに辿り着いたのは、民刻の半ば、真夜中過ぎだった。
 それでも勝利門と呼ばれる正門には、多くの市民が噂を聞いて押し掛けて来ていた。
 大門が開かれ、五十頭の馬に曳かれた地竜が街の中へ運び込まれれると、一瞬息を呑むような静寂の後、大歓声が巻き起こった。
 僕を見て拝み始める人が出始め、”ロフィネ”という呟きが人々の口から漏れ始め、やがて大声での大合唱に変り、その声を聞いて、家々から人が飛び出してきた。
 
「マルカート、”ロフィネ”って何の事だ」
「メトロノ国にとって、特別な勇者様の御名前ですわ」

 大歓声の中、地竜を王城前広場に残し、僕等は王城の門を潜った。
 大広間に通され、そこで王と謁見した。
 深夜も深夜、もう明け方に近い時間も関わらず、大広間には多くの貴族達が集まっていた。

「伝説の勇者殿、フルティアの民、メトロノの民に代って礼を申す。これで多くの民の命が救われた」

 地竜はフルティア王国、メトロノ王国の広い範囲を縄張りにしていたらしく、被害が相当数に及んでいたらしい。

 でもこの国の王族は思い込みが激しいようだ。
 王、第一王妃、マルカートの母親である第二王妃、マルカートの姉、弟、全員が目をキラキラさせて僕を見詰めている。
 昨朝仮眠を取っただけなので、僕は相当眠かった。
 でも蔓が第一王妃と第二王妃を抱き寄せようとするので、根性と意思の力で蔓を必死に抑えつけた。
 マルカートも僕と同様の状態なので、立ったまま半分寝ている。

 謁見が終わった後、僕は無意識に眠っているマルカートを脇に抱えていた。
 眠くて意識が混濁しており、明美を抱えている心算になっていた。
 部屋に通された後、半分寝ながら明美を風呂で洗ってやり、身体を拭いてやってタオルを巻いた後、そのまま抱えてベットで熟睡した。

 翌朝、部屋の前の廊下がなんだか騒がしい。
 少し寝過ごしたようなので、明美も起そうと思い、手を伸ばしてから固まった。
 そこには、タオルを肌蹴た、裸のマルカートが小さな寝息を立てていた。

 僕は、慌てて風呂場から服を回収して、マルカートに着せた。
 最初ポーっとして、僕の指示に従って、手を上げたり足をひらいたりしていたマルカートだったが、途中から事態に気が付いた様で、突然顔を真っ赤に染めた。
 廊下では、ビスさんやフィーネさんが疲れた顔で待っており、目を合わせられなかった。

 遅い朝食の場で、王から宣言された。

「ちょいとフライングじゃが仕方なかろう。婚姻の儀は一月後くらいがちょうど良かろう」

ーーーーー
聖都国家連合 能力者保護観察局 主任警吏官 キャリア

 幹部会議で、情報局で行われていたメトロノ王国に現れた勇者に関する分析が終わったとの報告があった。
 地竜討伐とか伝説の勇者などという馬鹿げた噂話だったので、良く有る、冒険者による蜥蜴退治が化けた無責任な流言飛語と私は判断していた。
 ところが会議終了後、私は連合会議院に呼び出され、この件で叱責されてしまった。
 報告書を手渡されたので読んでみると、驚くべき事実が記載されていた。
 翼渡し百トールの地竜討伐が事実であったことも驚きだったが、地道な聞き込みによる足取り調査により辿り着いた推論にはもっと驚かされた。
 地竜を倒した勇者の名はスノウ、そう、フーガで発見されたタケミチの偽名と一緒だった。
 そのスノウという勇者は、オルガレス山脈内で突然現れて第二王女を救っている。
 まさに湧いて出たという表現がぴったりで、それ以前の周囲の村々での痕跡は一切無いのだ。
 情報局は、フーガに現れたスノウという名の吟遊詩人についても、唯一の手掛かりとして情報を収集していた。
 その結果、フーガを出た筈のスノウなる人物の足取りがそこで消えていたのだ。
 そこで不審に思った情報局がスノウの痕跡を遡ってみると、オルガレスと同様に、サラワの街で突然湧いて出ているのだ。
 フーガの忍者から得た情報は情報局へ流してある。
 ストロベリからサラワへ、フーガからオルガレスへ。
 勇者タケミチが、森を越える能力、又は魔法を所有していたとすると、切れている情報が見事に繋がるのだ。
 勇者であるならば、フーガの忍者が二度も一蹴されていることに納得する。

 議長と副議長から、蔦の勇者を見落とした能力者保護観察局検査体制が、お粗末だと激しく叱責された。
 私は報告書を読んで、言い訳も出来なかった。
 蔦の勇者の存在も、蔦の勇者が木の勇者を越える存在である可能性も知らなかった。

 急いで手配書の撤去を指示し、フーガの里へタケミチの殺害依頼の解約を通知した。
 フーガの里からは、里の意思として、タケミチを殺害は諦めないとの返信があった。
 これは、急いでタケミチを保護する必要がある。
 
 フーガの里には、解除理由として、タケミチは既に三十七人捕縛し、全て処分が終了したことを伝えた。
  
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