欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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37 クリスタル殿

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 強烈な電撃で気を失い、気が付いたら馬車に拉致されていた。

「勇者様、なんで何度も招待状をお出ししたのに、いらっしゃらなかったんですか。国家連合に聞いたら勇者証明書はとっくにお渡ししてあるって言われたし。何で何ですか!」

 怒っている、マルカートは凄く怒っている。
 僕の右腕を握り締め、犬歯をスパークさせている。
 なんかまだ焦げ臭いので、もう一発喰らったら発火しそうだ。
 頭をフル回転させて言い訳を考える。
 ぎくっ、マルカートは僕の目をじっと見つめている、思わず目を逸らしてしまった。
 あっ、口を大きく開けた、不味い。
 僕はマルカートを抱き締めた。

「ごめんよ、マルカート。俺は今初等部の子供達の世話をしている。第四群の子供達は恵まれていなくてね、俺が手を引くと、死んでしまうんだ。だから俺はあそこを離れられない」

 取敢えず、僕が初等部の子供達を引率して迷宮に潜っている事情を、詳しく説明した。
 夜の楽しいお話は、もちろん勿論消し炭にされそうなので、気配すら悟られない様に、善人を装う。
 
「わー、やっぱり私の勇者様です。私の思っていた通り、心がお優しい正義の味方なのですね。疑った私が愚かでした、許して下さい」

 条件反射的に”お仕置き”というフレーズが頭に浮かんだが、墓穴を掘りそうなので自重した。
 何とか誤魔化せた、マルカートは両手を合わせて、キラキラした瞳で僕を見詰めている。

「気にしないでいいよ、マルカート。当たり前のことをしていただけなんだから。それに連絡しなかった俺がわるいんだ」

 第一群域の境界門は、残念ながらすんなり通過してしまい、馬車は広い通りに面した大きな城へと向かった。

「勇者様、あそこがメトロノの聖都城ですわ。折角、私達二人の愛の巣を整えましたのに、残念ですわ」

 うー、危なかった、ここに牢獄が用意されていたようだ。

「馬車が一杯門の中へ入って行くけど、何か有るのかい」
「ええ、今日は勇者様をご紹介する舞踏会ですの」
「・・・、ダンスなんて知らないぞ」
「大丈夫ですわ。難しくありませんから」

 馬車は城の玄関では無く、水晶で作られた六角形の大きな神殿の様な建物へと向かった。
 夕日に照らされ、オレンジ色に輝いて神々しく見える。

「ここはクリスタル殿、我が王家が誇る式典場ですの。お父様が、今、国家連合と交渉なさってますから、早ければ、来年の半ばくらいにはここで私達の結婚式を開催できますわ」

 前言撤回、なんだかこの建物が、地獄の炎に炙られる棺桶の様に見えて来た。
 建物の裏手に馬車を回すと、大勢の執事やメイドが控えており、大急ぎで身包み剥がされて着替えさせられた。

 少し裾の長い白い軍服の様な服で、色とりどりのモールが鏤められ、宝石が嵌めこれた剣帯には、宝石で彩られた柄の剣が下がっている。
 だが、服の背中を見て少し退いてしまった。
 ヤクザ屋さんの背中に有りそうな、下り竜の大きな刺繍が施されていたのだ。
 なんか、長鉢巻とサングラスが似合いそうだ。

「まあ、勇者様らしくてお似合いですわ」
「・・・」

 招待客が全員到着したようなので、会場へと向かう。
 
「王女マルカート様及びその婿殿、竜殺の勇者様御出座」

 ???婿殿?何か段々追い込まれている様な気がする。
 開き直って会場への階段を、マルカートの手を取って下る。
 無数の六角形の水晶が、ドーム状に嵌め込まれた高い天井は、ダイヤモンドのように美しい。
 その屋根を支える六方の巨大な水晶柱は、天然の形を生かして、建物に重厚感を与えている。
 会場は三層構造になっていた。
 一番下が六角形のダンスフロアで上が吹き抜けになっている。
 二層目は、そのダンスフロアを取り囲んで見下ろす様に造られたフロアで、料理が乗せられたテーブルと椅子が並んでいる。
 三層は、その二層とダンスフロアを半分囲むんで見下ろす様に造られたフロアで、ティアラを頭に被った少女が多い。
 マルカートも僕が倒したあの地竜の牙から削り出されたティアラを被っている。
 魔素を見る目で眺めると魔力を帯びており、宝石や金よりも、よっぽど価値があるらしい。

 招待客に手を振りながら、三層にある王座風の自分の椅子に座ろうとしたら、何とか歌劇団風の男装をした背の高い女性がつかつかと歩み寄って来た。

「おい勇者、随分と待たせてくれたな。勝負だ」

 初対面の筈で、待たせた覚えは勿論無い。
 でも何故かなんだか怒っている。
 このフロアに居るという事は、どこかの大国の王女さまの筈なのだが困った。
 周囲を見回しても、誰も止める気配が無い。
 マルカートも、驚いて見詰めているだけだ。

「臆したか」

 剣を抜いて身構えている。
 僕は剣なんて全然使えない、いっそここから逃げ出して、寮に帰ろうかと思った。

「えい!」

 問答無用で切り掛って来た、危ない人だ。
 なので、蔓に任せることにした。

「きゃはははは、貴様、きゃはははは、ひー、卑怯、きゃははははは、ひっく、ひっく」

 くすぐる対象として蔓のストライクだった様で、何か気合いが入って楽しんでいる。
 床に両腕を抑え付けてくすぐり倒している。
 会場全体が唖然とし、女性の笑い声だけが響いている。

「きゃははは、勘弁、きゃはははは、ひー、ひー、もう許し、ひー、ひー、ひー、ひっく、ひっく」

 蔓は段々と気合いが入って来たようだ、床に転がっていた剣は、怪我されても困るので回収した。
 なんとなく、抜き身の剣を持って立っているのも剣呑なんで、鞘に仕舞おうと思い、彼女の剣帯を外した。
 でもこれは大失敗だった、蔓が服を脱がせて良い対象と勘違いしたのだ。
 服のボタンをプチプチと外し始め、ズボンをするすると引き降ろす。

 大国の王女様の筈だ、こんな衆人環視下でマッパに剥いたら、本当に戦争が勃発する。
 急いで抱き抱えて、奥の女性用化粧直し室に放り込む。
 僕が必死に運搬している間も、蔓はせっせと作業にいそしんでいたらしく、化粧直し室の前に可愛い小さなパンティーが落ちていた。
 僕は急いで拾い上げ、化粧直し室の中に放り込んだ。

 席に戻ったら、全員が僕を見詰めている。
 世界平和のためにも、ここは開き直って何も無かったことにするしかない。
 僕を見詰めて固まっている楽団に合図を送る。

 楽団員達が復帰し、音楽を奏で始める。
 何となく人々が落ち着き、何となく舞踏会が始まった。

ーーーーー
ローズ王国 第二王女カリオペ

 ランディーニは剣を振り回すしか能の無い馬鹿と思っていましたが、やっぱり大馬鹿でした。
 剣の才能に恵まれた彼女は、”勇者と一度でも良いから剣を交えたい”と良く言っていました。
 でも、ここまで思い込んでいたなんて。
 ストロベリの勇者が子供と知った時、物凄く悔しがっていたので、その時から思い込んでいたのかも知れません。

 確かに私もランディーニも、四回もマルカートの勇者が来るとの偽情報に踊らされて無駄足を踏んでいます。
 気持ちは解ります、私ですらマルカートを何度も殴り倒そうと思いました。
 ランディーニからは、だんだんとなにかに取り付かれたような焦りのような物すら感じました。
 でも、他国の王族に向かって、このような場で剣を抜くなんて、戦争に成りかねない暴挙です。
 私は驚いて身動きできませんでした。

 会場中が凍り付いています、リリー国はローズ国の兄弟国です、だからランディーニの行動は、我が国と一蓮托生の暴挙なのです。
 リリー国とローズ国の連合軍とメトロノ国の戦力差を、無意識に頭の中で計算していました。

 同じ事を今日招かれた王族や貴族達も考えたに違いありません。

 キャー、ランディーニが切り掛かってしまいました。
 これで戦争決定と思ったのですが、何故かランディーニが笑い転げ始めました。
 何が起こっているか解らず、頭の中にランディーニの笑い声だけが、空しく響きます。

 勇者がランディーニを抱き上げて走り出すまでは、不覚な事に完全に思考が停止していました。
 勇者がランディーニを物凄く深く大事そうに抱き上げて走り出しました。
 その背中には、怒りも、憤慨の感情もありません、しいて言えば、何かを急いでいる、そんな感じでした。

 平然とした顔で勇者が戻って来ました。
 何事も無かった様に楽団に演奏を指示しました。
 その場にいた全員が、何事も無かった、今有った事は忘れる事にしたようです。

 そっと席を立ち、ランディーニが連れ去られた部屋へ行ってみました。
 部屋には、ランディーニのファンの女の子達が先に来ていましたが、全員部屋の入口で目を見開いて立ち尽くしていました。
 部屋の奥を覗きこむと、殆ど裸のランディーニが喘ぎながら横たわっていました。

 あの男は、勇者で間違い無いでしょう。
 強いか弱いかは別にして、なんか普通じゃないところが勇者の証拠です。
 メトロノ国に独占させては危険な存在です。

「ほら、ランディーニ、寝てる場合じゃないわよ」
「はあ、はあ、はあ、カリオペ。息が出来なくて、殺されるかと思ったよ」
「あなた裸に剥かれたの解ってる」
「えっ、ギャー」
「チャンスよ、ランディーニ。ドレスに着替えて勇者を奪いに行くわよ」
「へっ?」
 
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