欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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39 決闘

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ローズ王国 第一王子 タンタシオ

 僕の最愛の妹のカリオペと、妹同然の可愛いランディーニが辱めを受けた。
 メトロノ国の舞踏会で、勇者を自称する卑劣な男から、衆人環視の中、破廉恥なダンスを強要されたのだ。
 よほど精神的な深い傷を負ったのだろう、二人共、昨日、今日と寝込んでいる。

 二人から聞きだした話ではない、二人共羞恥に顔を赤く染めて話してくれなかったのだ。
 配下の情報隊にその夜の様子を調べさせた。
 可愛そうに、ランディーニは、手籠めにされ掛ったらしい。
 心優しいカリオペが、卑劣な自称勇者を諌めたところ、ランディーニと一緒に無理矢理ダンスホールへと連れ出ていかれ、辱められたのだ。

 鬼畜だ、こんな根性の腐った奴が、断じて勇者の筈がない、勇者を勇者たらしめるのは、その高潔な精神性なのだから。
 たぶん、大蜥蜴でも倒した下劣で下賤な冒険者が、言葉巧みにメトロノ国の幼い王女を騙して取り入ったのだろう。
 害虫は早めに駆除せねばならない、放置して芯まで食い荒らされてしまうと、千年の大樹すら枯らしてしまう。
 僕が化けの皮を剥いで思い知らせてやろう。
 本物の頂きに達した剣士の気高さとはどの様な物なのか、どれ程自分が卑小で下らない存在でしかないかを、教えてやろう。
 足腰立たなくなるほど叩きのめした後、カリオペとランディーニの前で土下座させて贖罪させたうえ、慈悲として一刀で首を切り落としてやろう。

「デボラ、第二群域の入場許可と練武場の使用許可の手配を頼めるか」
「ああ、構わんよ。ここと違って煩い事言わんから、今日中に許可出るんじゃないか」
「それじゃすまんが頼む」

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ローズ王国モンクリフ公爵家 長男デボラ

 俺の家は代々ローズ家の宰相を務めている。
 親父から貰った情報では、奴は本物の竜殺しらしい。
 それにしても、ローズとリリーと言う大国の王女にパンツの見えそうなダンスを踊らせるなんて、無茶苦茶度胸が良いと言おうか、馬鹿と言おうか、面の皮が厚い無頼漢だ。
 勇者と言う肩書が無かったら、市中引き回しのうえ、磔獄門だ。

 国と国との関係を考えたら、ローズ・リリー連合軍とメトロノ国との大戦も引き起こしかねない。
 経済力を考えたらメトロノ国の方が上だが、短期決戦のガチンコ勝負なら、ローズ・リリー連合軍の方が上だ。
 じりじりと経済力が引き離されている現状を考えれば、叩いて置く良い機会かもしれない。

 そこで問題となって来るのが、馬鹿だろうが、無頼漢であろうが、竜殺しの実力だろう。
 初期の攻撃が凌がれれば、じりじりと首を締め上げられて行くのは、俺達連合軍の方だ。
 最悪、国庫破綻なんていう、笑えない状況になる。

 ランディーニ嬢も、それなりの剣の使い手なのに、軽くあしらわれたらしい。
 裸に剥いたなんて情報もあったが、いくら馬鹿でもそこまではやらんだろう。

 タンタシオも北大陸ではそれなりに名の通った剣士だ。
 悪いが、竜殺しの実力を測る良い実験台になって貰おう。
 万が一殺されても、優秀な弟は何人もいる。

ーーーーー

 今日は、ローズ王家の王子を名乗る男と軍隊が寮の前で待っていた。
 第二群域の練武場へ来いと言っている。
 
 たしか、カリオペがローズ国の王女だった筈だ。
 あの場では取敢えず大急ぎで口封じしたのだが、後から考えたら、初心な女の子相手に少々やり過ぎだったと反省している。
 負い目があるので、取敢えず付いていくことにした。

 第二群域の練武場には、第二群の制服を着た生徒達が大勢押し掛けて来ていた。
 カリオペとランディーニも来て、観覧席の様な場所で見ている。
 なんか見世物の様な感じになっている。

 練武場の中程まで来ると、ローズ家の王子が振り向いた。
 誰かが渡したのだろうか、手に木刀を握っている。
 その木刀で僕を指し、大声で叫んだ。

「この品性の下劣な偽勇者め、剣士の頂きを拝ませてやるから喜べ」

 要するに、僕に喧嘩を売っているらしい。
 取り敢えず手早く買い取って、夜のバイトへさっさと行こう。

ーーーーー 
ローズ王国モンクリフ公爵家 長男デボラ

「我が王家に伝わる秘剣を、うわっ」

 タンタシオが喋り終わったら、僕が立会人として二人を練武場の中央に立たせて、決闘の作法に則り、武の女神に祈りを捧げてから戦わせる積もりだった。

 だが、タンタシオが喋り終わる前に、見えない巨人に足を掴まれた様にタンタシオが宙に持ち上げられ、練武場に叩き付けられた。
 練武場に並んでいた木刀や棒が一斉に宙へ持ち上がり、タンタシオを袋叩きにした。
 まったく一瞬の出来事で、驚きに暫く思考が追い付けなかった。
 一瞬で木刀と棒が生き物の様に元の場所に帰る。
 後には、ぼろ雑巾の様なタンタシオが、ピクリともせずに横たわっていた。

「お兄ちゃん!」
「タンちゃん!」

 カリオペとランディーニが飛び降りて来て、タンタシオに走り寄った。

「大丈夫だよ、手加減したから」

 竜殺しの勇者が、タンタシオを覗き込むカリオペとランディーニの肩に手を置いた。
 二人がくるりと振り向いたので、竜殺しに殴り掛るかと思ったのだが、驚いたことに竜殺しに抱き付いて、抗議するかのように、甘えた声で泣き始めた。
 こんな女の子らしい二人の態度は初めて見た。

 竜殺しの勇者を舐めていた、実力の差と言うのもおこがましいくらい、タンタシオが全然相手に成らなかった。
 野次馬根性で見ていた第二群の連中が静まり返っている。

 メトロノにこいつを独占させるのは危険すぎる。
 カリオペとランディーニを使って、こいつをメトロノから引き剥がすことがローズ王国としての最優先課題だろう。
 メトロノ家の王女はまだ餓鬼だ、カリオペとランディーニなら十二分に勝機がある。
 親父に報告して、国家連合に根回しして貰おう。
 国家連合も、メトロノに権力が集中することは望んでいない筈だ。
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