48 / 75
48 魔法の大陸
しおりを挟む
「東大陸出身だな」
「いいえ、北大陸です。これが認識票です」
「嘘を吐くんじゃない。余計な手間を掛けさせるな」
「・・・・・はい、東大陸でいいです」
「乗船札を見せろ」
「はい」
ここは港の入国管理事務所だ。
適当だった東大陸と違い、中央大陸では厳密な入国管理システムが運用されている。
だが東大陸には、そもそも身分証とか認識票とかの個人を証明する物は存在しない。
だから北大陸の認識票を示したのだが、見た目百二十パーセント東大陸土着民の僕等は、全然相手にされなかった。
唯一僕等の存在を証明する証拠品は、帆客船の乗船札というお寒い状態で、あとはひたすら自己申告を登録するという大雑把な方法だった。
「名前は」
「タケミチと明美です」
「トムとかメリーじゃなくて良いのか」
「ええ、本名なんで」
「素直で宜しい。お前らの関係は」
「夫婦です」
「いいえ、兄妹です」
「はっきりしろ」
「はい、兄、ぎゃっ、痛い」
「はい、夫婦です」
「職業は」
「勇者と勇女でーす」
「いいえ、按摩と配達人です」
「・・・・・・手数料は、中央銀貨なら一人一枚、東銀貨なら二人で三枚だ」
「なら東銀貨で」
銀貨三枚を支払う。
銀貨を受け取った窓口の役人が、紙の書類を差し出した。
「この書類に拇印を押せ、ここだ、この枠内に並んで押せ」
窓口に置いてある朱肉に親指を押し当て、渡された書類に拇印を押す。
朱色だった拇印が煌めき、青色に変わって行く。
「うむ、魔力は十分有るようだな。犯罪歴も無いな。魔道具は使えるか」
「はい」
キーボードの様なもので、係員が機械に何かを打ち込んでいる。
「東大陸民、タケミチ・アケミの夫婦。年齢は十五と十一。職業は軽治癒士と荷運び。魔道具講習は不要。間違い無いな」
「・・・・・はい」
「ほれ、認識票だ」
入国管理事務所のゲートを潜って町の中へと出る。
港は山に囲まれており、勾配のきつい山肌に、家がへばり付く様に建っていた。
夕日に輝く石造りの家々は皆古く、町全体が遺跡の様な感じだった。
山の上へと延々と続く階段の脇を、荷物と人を乗せたケーブルカーがのんびりと往復している。
ケーブルカーに乗ってみたら、山の中腹に光石で彩られた繁華街があったので、そこで宿を捜した。
蔦で覆われた、落ち着いた感じの宿があったので、そこへ入る。
「中央銀貨なら六枚、東銀貨なら九枚だ。飯は別だぞ」
「はい、それでお願いします」
外から見たら、間口の狭い小さな宿だったのだが、奥が洞窟になっており、奥行が物凄く長い。
むしろ、洞窟が本体で、洞窟の前面に飾り用の店を作ってあるような感じだった。
部屋は洞窟の中なのだが、風の魔道具で風も流れており、壁一面に光の魔道具で港の光景が映し出されているので、圧迫感は無い。
「兄ちゃん、お酒飲みに行こうよ」
宿の入り口が、酒場兼食堂になっていた。
「少し情報収集するか」
酒場は色々な人種で賑わっていた。
日本人そっくりで小柄な東大陸人、赤銅色の肌で大柄な南大陸人、白い肌で燃えるような赤髪の西大陸人、白い肌で銀髪、耳が少し尖っているエルフの様な人達が中央大陸人だ。
「おお、お前等、見掛けない面だな」
「ええ、今日の船で町に入ったんです」
「へー、そうか、新入りなのか。俺はサスケ、こいつはモミジ。同じ東大陸民同士宜しくな」
「よろしくね」
「よろしく、俺はタケミチ、こいつは明美です」
「よろしく、サスケさん、モミジさん。なんかここって、向うと違って皆静かですね」
「ここの店だけじゃないぞ。こっちの大陸じゃ飲んで騒ぐと店から追い出されるんだ。東大陸民は飲み屋じゃ嫌われてるから、おまえら自制してくれよ」
「へー、随分違うんですね」
「それとな、この大陸じゃ普通の魔法を使うと怒られるぞ」
「えっ、何でですか」
「びっくりするでしょ。普通の魔法を使うと、魔花が魔法世界から魔法の力を汲み上げて来るから、こっちの世界に魔法力がどんどん溜まっちゃうですって」
「溜まるとどうなるんです」
「世界が耐え切れなくなって、ポンって弾けちゃうらしいわ」
「・・・・・・・」
「ここの魔法って物凄く特殊だからよ、冒険者ギルドの講習会で使い方覚えた方が良いぜ。普通の魔法使うと、最初は怒られるだけなんだけどよ、ずっと無視して使い続けると、神殿へ連行されて鞭で百叩きされてから、魔花を引っこ抜かれるらしいぜ。物凄く痛いってよ」
「兄ちゃん、僕痛いの嫌だよ」
「ああ、明日朝一番で、冒険者ギルドへ行こう」
旅をしながら北大陸を目指す積もりでいたが、そうもいかなくなった。
神殿で大暴れする蔓の姿が、目に浮かんで来る。
「いいえ、北大陸です。これが認識票です」
「嘘を吐くんじゃない。余計な手間を掛けさせるな」
「・・・・・はい、東大陸でいいです」
「乗船札を見せろ」
「はい」
ここは港の入国管理事務所だ。
適当だった東大陸と違い、中央大陸では厳密な入国管理システムが運用されている。
だが東大陸には、そもそも身分証とか認識票とかの個人を証明する物は存在しない。
だから北大陸の認識票を示したのだが、見た目百二十パーセント東大陸土着民の僕等は、全然相手にされなかった。
唯一僕等の存在を証明する証拠品は、帆客船の乗船札というお寒い状態で、あとはひたすら自己申告を登録するという大雑把な方法だった。
「名前は」
「タケミチと明美です」
「トムとかメリーじゃなくて良いのか」
「ええ、本名なんで」
「素直で宜しい。お前らの関係は」
「夫婦です」
「いいえ、兄妹です」
「はっきりしろ」
「はい、兄、ぎゃっ、痛い」
「はい、夫婦です」
「職業は」
「勇者と勇女でーす」
「いいえ、按摩と配達人です」
「・・・・・・手数料は、中央銀貨なら一人一枚、東銀貨なら二人で三枚だ」
「なら東銀貨で」
銀貨三枚を支払う。
銀貨を受け取った窓口の役人が、紙の書類を差し出した。
「この書類に拇印を押せ、ここだ、この枠内に並んで押せ」
窓口に置いてある朱肉に親指を押し当て、渡された書類に拇印を押す。
朱色だった拇印が煌めき、青色に変わって行く。
「うむ、魔力は十分有るようだな。犯罪歴も無いな。魔道具は使えるか」
「はい」
キーボードの様なもので、係員が機械に何かを打ち込んでいる。
「東大陸民、タケミチ・アケミの夫婦。年齢は十五と十一。職業は軽治癒士と荷運び。魔道具講習は不要。間違い無いな」
「・・・・・はい」
「ほれ、認識票だ」
入国管理事務所のゲートを潜って町の中へと出る。
港は山に囲まれており、勾配のきつい山肌に、家がへばり付く様に建っていた。
夕日に輝く石造りの家々は皆古く、町全体が遺跡の様な感じだった。
山の上へと延々と続く階段の脇を、荷物と人を乗せたケーブルカーがのんびりと往復している。
ケーブルカーに乗ってみたら、山の中腹に光石で彩られた繁華街があったので、そこで宿を捜した。
蔦で覆われた、落ち着いた感じの宿があったので、そこへ入る。
「中央銀貨なら六枚、東銀貨なら九枚だ。飯は別だぞ」
「はい、それでお願いします」
外から見たら、間口の狭い小さな宿だったのだが、奥が洞窟になっており、奥行が物凄く長い。
むしろ、洞窟が本体で、洞窟の前面に飾り用の店を作ってあるような感じだった。
部屋は洞窟の中なのだが、風の魔道具で風も流れており、壁一面に光の魔道具で港の光景が映し出されているので、圧迫感は無い。
「兄ちゃん、お酒飲みに行こうよ」
宿の入り口が、酒場兼食堂になっていた。
「少し情報収集するか」
酒場は色々な人種で賑わっていた。
日本人そっくりで小柄な東大陸人、赤銅色の肌で大柄な南大陸人、白い肌で燃えるような赤髪の西大陸人、白い肌で銀髪、耳が少し尖っているエルフの様な人達が中央大陸人だ。
「おお、お前等、見掛けない面だな」
「ええ、今日の船で町に入ったんです」
「へー、そうか、新入りなのか。俺はサスケ、こいつはモミジ。同じ東大陸民同士宜しくな」
「よろしくね」
「よろしく、俺はタケミチ、こいつは明美です」
「よろしく、サスケさん、モミジさん。なんかここって、向うと違って皆静かですね」
「ここの店だけじゃないぞ。こっちの大陸じゃ飲んで騒ぐと店から追い出されるんだ。東大陸民は飲み屋じゃ嫌われてるから、おまえら自制してくれよ」
「へー、随分違うんですね」
「それとな、この大陸じゃ普通の魔法を使うと怒られるぞ」
「えっ、何でですか」
「びっくりするでしょ。普通の魔法を使うと、魔花が魔法世界から魔法の力を汲み上げて来るから、こっちの世界に魔法力がどんどん溜まっちゃうですって」
「溜まるとどうなるんです」
「世界が耐え切れなくなって、ポンって弾けちゃうらしいわ」
「・・・・・・・」
「ここの魔法って物凄く特殊だからよ、冒険者ギルドの講習会で使い方覚えた方が良いぜ。普通の魔法使うと、最初は怒られるだけなんだけどよ、ずっと無視して使い続けると、神殿へ連行されて鞭で百叩きされてから、魔花を引っこ抜かれるらしいぜ。物凄く痛いってよ」
「兄ちゃん、僕痛いの嫌だよ」
「ああ、明日朝一番で、冒険者ギルドへ行こう」
旅をしながら北大陸を目指す積もりでいたが、そうもいかなくなった。
神殿で大暴れする蔓の姿が、目に浮かんで来る。
7
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる