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52 大迷宮1
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「いいか、タケ。ハンゾーさんとユリエさんはA級の冒険者なんだぞ。お前らみたいな新米と一緒のパーティー組むような人じゃないんだから、ありがたく思えよ」
サスケさんが三十代前半の男性と女性を連れて来た。
ボリュームのあるユリエさんに蔓は何となく喜んでいるが、僕は冒険者を目指している訳じゃないんで、特にありがたいともなんとも思わない。
でも空気を読んで、大人の対応をしておくことにした。
「ハンゾーさん、ユリエさん。俺達みたいな半人前にお付き合い頂き、ありがとうございます。自分はタケミチで、こいつは明美です。宜しくお願いします」
二人に手を差し出して、頭を下げる。
二人共にこやかに、握手に応じてくれた。
「僕アキです。おじさん、おばさん、宜しく」
僕に習って、明美も握手を交わす。
でも、ユリエさんが明美の手を握ったまま離さない。
「・・・・・あのねアキちゃん、お姉さん、お姉さんだからね。おばさんじゃないのよ。これとっても大事よ」
ユリエさんは、一応にこやかに微笑みを浮かべているのだが、目が怒っている。
サスケさんとモミジさんが顔を引き吊らせて、ザザッと後退っている。
ユリエさんの年齢じゃ、たぶん僕等より父さんや母さんに近いと思う。
お姉さんと呼ぶには相当無理があると思う。
お姉さんとしての賞味期限は、十年以上前に終わっていると思う。
ユリエさんが僕の方をくるりと振り向いた。
「あんた何か失礼な事考えてるでしょ」
迷宮に入っても、ユリエさんはまだ怒っているようだった。
何故か怒りの矛先は僕に向いているようで、遭遇した魔獣を僕に嗾けてくる。
明美と僕の丁度良い魔法の練習台だったので、抑え付けてから競争で倒して行った。
最初は僕の方が全然早かったのだが、明美がスタンプを押すように一瞬で魔法陣を作れる様になり、良い勝負になってしまった。
「ふーん、ハンゾー、身体暖まったから、二十階層へ下りようか」
「えー、ユリエ姐さん、二十階層じゃ俺達でもきついっすよ」
「タケちゃん、私も護ってね」
モミジさんが抱き付いて来た。
「あはははは、こら、明美痛い」
「兄ちゃんの馬鹿」
ハンゾーさんが近くの隠し部屋の魔法陣を操作して下へ降りた。
魔素の目で上を見上げてみたら、どう見ても二十階層より深い。
こちらに気が付いたミノタウロスが四匹程、こちらに向かって走って来る。
僕達を置き去りにして、ハンゾーさんとユリエさんがミノタウロスへ向かって走って行った。
それぞれ両端の一匹ずつと戦闘を始めたので、中の二匹はそのままこちらへ走って来る。
身の丈十メートル、刃渡り二メートルは有りそうな戦斧を担いで、レザーアーマーを纏っている。
「きゃー、武装してる魔獣なんて、ここ二十階層じゃないわよ」
「うわー、モミジ逃げるぞ。えっ、魔法陣が消えてるぞ」
「えーん、もうダメよ」
本当にモミジさん達を護ることになった。
三人を蔓で抱えながら、ミノタウロスの戦斧を避ける。
「明美、あいつの鼻先に電撃」
「うん」
明美の電撃で目を瞑った瞬間に、蔓が僕を首の後ろへ運んでくれる。
頚椎を急いで断ち切って飛び退くと、もう一匹の戦斧が物凄い風切り音を立てながら僕の身体の脇を通り過ぎる。
無力化したミノタウロスの首に深く食い込み、そこで戦斧が止まる。
戦斧を引き抜こう踏ん張っているミノタウロスの首の後ろに僕を蔓が運び、僕が槍で頚椎を断ち切る。
やれやれと思っていたら、今度は棍棒を持ったオーガが五匹こちらに向かって走って来た。
ーーーーー
「ハンゾーさん酷いっすよ」
「そうよ、あそこ二十階層じゃないでしょ」
「二人には済まなかったな。でも俺は二十階層へ行くなんて一言も言ってないぞ。あそこは三十五階層だ」
『えー!』
「タケミチくんの本物の力量が知りたくてな、敢て三人のハンデ付きで戦って貰った」
「でも何でですか」
「俺達は今、大迷宮への挑戦を計画している。やっとメンバーが百人集まったところだ。どうだ、参加しないか、一生使い切れない金と名誉が得られるぞ」
「今日一日で金貨百枚稼ぎましたよね」
「ああ」
「全部僕達四人へくれましたよね」
「ああ」
「お二人は、金に対する興味は無いですよね」
「それで」
「お二人の服装は地味で普通ですよね」
「ん?」
「だから名誉にも興味は無いと思います。大迷宮へ挑戦する理由を教えて下さい」
「ふーむ、俺とユリエは若い頃に親友を亡くしている。迷宮で突然足元が崩れてな、手を伸ばしたんだが、指先が触れただけで掴む事ができなかった。ユリエの妹でマリエと言うんだが、今でも俺を見詰めて落ちて行くマリエの夢見る。大迷宮にはな、過去に戻れる扉があるそうだ。俺達はあの時に戻ってマリエの手を掴みたい。そのために、今まで二人で頑張って来た」
「ご協力します」
日本に帰れる方法が見付かった。
サスケさんが三十代前半の男性と女性を連れて来た。
ボリュームのあるユリエさんに蔓は何となく喜んでいるが、僕は冒険者を目指している訳じゃないんで、特にありがたいともなんとも思わない。
でも空気を読んで、大人の対応をしておくことにした。
「ハンゾーさん、ユリエさん。俺達みたいな半人前にお付き合い頂き、ありがとうございます。自分はタケミチで、こいつは明美です。宜しくお願いします」
二人に手を差し出して、頭を下げる。
二人共にこやかに、握手に応じてくれた。
「僕アキです。おじさん、おばさん、宜しく」
僕に習って、明美も握手を交わす。
でも、ユリエさんが明美の手を握ったまま離さない。
「・・・・・あのねアキちゃん、お姉さん、お姉さんだからね。おばさんじゃないのよ。これとっても大事よ」
ユリエさんは、一応にこやかに微笑みを浮かべているのだが、目が怒っている。
サスケさんとモミジさんが顔を引き吊らせて、ザザッと後退っている。
ユリエさんの年齢じゃ、たぶん僕等より父さんや母さんに近いと思う。
お姉さんと呼ぶには相当無理があると思う。
お姉さんとしての賞味期限は、十年以上前に終わっていると思う。
ユリエさんが僕の方をくるりと振り向いた。
「あんた何か失礼な事考えてるでしょ」
迷宮に入っても、ユリエさんはまだ怒っているようだった。
何故か怒りの矛先は僕に向いているようで、遭遇した魔獣を僕に嗾けてくる。
明美と僕の丁度良い魔法の練習台だったので、抑え付けてから競争で倒して行った。
最初は僕の方が全然早かったのだが、明美がスタンプを押すように一瞬で魔法陣を作れる様になり、良い勝負になってしまった。
「ふーん、ハンゾー、身体暖まったから、二十階層へ下りようか」
「えー、ユリエ姐さん、二十階層じゃ俺達でもきついっすよ」
「タケちゃん、私も護ってね」
モミジさんが抱き付いて来た。
「あはははは、こら、明美痛い」
「兄ちゃんの馬鹿」
ハンゾーさんが近くの隠し部屋の魔法陣を操作して下へ降りた。
魔素の目で上を見上げてみたら、どう見ても二十階層より深い。
こちらに気が付いたミノタウロスが四匹程、こちらに向かって走って来る。
僕達を置き去りにして、ハンゾーさんとユリエさんがミノタウロスへ向かって走って行った。
それぞれ両端の一匹ずつと戦闘を始めたので、中の二匹はそのままこちらへ走って来る。
身の丈十メートル、刃渡り二メートルは有りそうな戦斧を担いで、レザーアーマーを纏っている。
「きゃー、武装してる魔獣なんて、ここ二十階層じゃないわよ」
「うわー、モミジ逃げるぞ。えっ、魔法陣が消えてるぞ」
「えーん、もうダメよ」
本当にモミジさん達を護ることになった。
三人を蔓で抱えながら、ミノタウロスの戦斧を避ける。
「明美、あいつの鼻先に電撃」
「うん」
明美の電撃で目を瞑った瞬間に、蔓が僕を首の後ろへ運んでくれる。
頚椎を急いで断ち切って飛び退くと、もう一匹の戦斧が物凄い風切り音を立てながら僕の身体の脇を通り過ぎる。
無力化したミノタウロスの首に深く食い込み、そこで戦斧が止まる。
戦斧を引き抜こう踏ん張っているミノタウロスの首の後ろに僕を蔓が運び、僕が槍で頚椎を断ち切る。
やれやれと思っていたら、今度は棍棒を持ったオーガが五匹こちらに向かって走って来た。
ーーーーー
「ハンゾーさん酷いっすよ」
「そうよ、あそこ二十階層じゃないでしょ」
「二人には済まなかったな。でも俺は二十階層へ行くなんて一言も言ってないぞ。あそこは三十五階層だ」
『えー!』
「タケミチくんの本物の力量が知りたくてな、敢て三人のハンデ付きで戦って貰った」
「でも何でですか」
「俺達は今、大迷宮への挑戦を計画している。やっとメンバーが百人集まったところだ。どうだ、参加しないか、一生使い切れない金と名誉が得られるぞ」
「今日一日で金貨百枚稼ぎましたよね」
「ああ」
「全部僕達四人へくれましたよね」
「ああ」
「お二人は、金に対する興味は無いですよね」
「それで」
「お二人の服装は地味で普通ですよね」
「ん?」
「だから名誉にも興味は無いと思います。大迷宮へ挑戦する理由を教えて下さい」
「ふーむ、俺とユリエは若い頃に親友を亡くしている。迷宮で突然足元が崩れてな、手を伸ばしたんだが、指先が触れただけで掴む事ができなかった。ユリエの妹でマリエと言うんだが、今でも俺を見詰めて落ちて行くマリエの夢見る。大迷宮にはな、過去に戻れる扉があるそうだ。俺達はあの時に戻ってマリエの手を掴みたい。そのために、今まで二人で頑張って来た」
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