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53 大迷宮2

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「もー、大迷宮も知らない癖にOKしたの、呆れた。でもあれだけの実力が有れば関係ないか。彼氏になってくれたら教えてア・ゲ・ル」
「兄ちゃんダメー」
「モミジ、捨てないでくれー」

 ”彼氏”は冗談だったようで、モミジさんはちゃんと教えてくれた。

 中央大陸は、中央部が巨大な砂漠で、その砂漠を囲むように沿岸部に山々が聳えている。
 大昔は大陸全体が緑豊かな土地だったそうなのだが、魔法世界からの魔力の流入が原因で、砂漠化が進んだらしい。
 砂漠化はまだまだ進行中で、砂漠に飲み込まれそうな港町も結構有るらしく、この世界の人々にとっては、身近に迫った切実な問題らしい。
 その大砂漠のど真ん中に有るのが大迷宮で、直径百キロ程の広大な円形の迷宮が、五百階層とも千階層とも言われるくらい、物凄く地下深くまで続いている巨大な迷宮らしい。
 地上部からの迷宮入口は百ヵ所以上あり、まだ新しい入り口が、砂の下から発見され続けているらしい。
 
「ハンゾーの目指してる場所は、五百階層より下らしいのよね。沸いて出てくる化け物は昨日のミノタウロスの何十倍も強いんだって。想像できないわ」 
 
 うーん、亜竜と地竜の中間くらいか。

「多いパーティーは千人規模で攻略してるそうよ。うちの百人は少ない方かしら、少数精鋭でA級以上が十人は欲しいって言ってたけど、ちょうどタケちゃんで十人目らしいわ」
「それでやっとハンゾーさんも出発の決心が付いたらしいぜ」

 今日も迷宮へ入ろうと思っていたのだが、サスケさんとモミジさんが会合が有ると言って呼びに来た。
 場所は、昨日ハンゾーさんから説明を聞いた店だ。
 店へ行ってみたら、僕らが一番早かったようで、まだメンバーが誰も集まっていなかった。
 なので、サスケさんとモミジさんと飲みながら、メンバーが集まるのを待っている。
 
「兄ちゃん、歌っていい」

 明美は朝から酒が飲めて大喜びだ。
 メンバーは全員東大陸民らしく、今日は貸し切りなので騒いでも追い出されないらしい。
 僕も明美も勿論リュトルを背負っている。

「あっ、ハンゾーすまん。こいつらが騒いでたんで、つい一緒に飲んじまった」
「へっ、へっ、へっ。ユリエ姐、飲もうよ」
「サスケー、俺の酒が飲めないのか」
「あははははは」
~♪~好きよー、大好きよー~♪~
~♪~朝だー、朝だー、夜が明けたー~♪~
~♪~寂しい夜をー、あなたを待ってー~♪~
~♪~ヨイショ、ドッコラセ、ヨッコラセ~♪~

 少しずつ集まって来たメンバー達が、気持ち良く歌っている僕等に次々加わり、ハンゾーさんとユリエさんが店に現れた時にはぐちゃぐちゃの宴会になっていた。
 中には、テーブルの上で裸踊りを始めている連中もいる。

「おい、おまえら、今日は会合だぞ」

 ハンゾーさんが顔を引き攣らせている。

~♪~会合だっ、会合だっ、嬉しいなー~♪~
~♪~私待ってたのー、ずっと待ってたのー~♪~
「ユリエ姐、早く飲もうぜ」
「難しい話は後にして飲もうぜ」

”ガラガラガラ、ガシャーン”

 突然店中に電撃が降って来た。

”ザー”

 続いて大雨が降って来たので、僕は慌てて、明美と僕のリュトルをマントの中へ避難させた。

「オメーら、頭冷やしな!」

 ユリエさんの怒号が響いた。

ーーーーー
ようやく迷宮攻略のメンバーが揃った。明日にでもこの町を出発したい。団長は俺、副長はユリエが努める。全員が集まるのは初めてだと思う。これから互いの命預け合う仲間だ。名前と冒険者ランクを一人づつ言って、自己紹介して欲しい」
「それじゃ、ケンタからな」
「おう、俺はケンタだ。A級だ、一応な。大型のサイクロプスを倒したことがある」
『おー』
「次はゲン」
「俺はゲンだ。C級だがオーガを倒したことがある」

 ユリエさんの指名で自己紹介が始まる。
 A級が七人、B級が十八人、C級が二十七人、残りがD級という感じだが、討伐魔獣も発表する流になっている。

「次アキ」
「はーい、アキでーす」
「ひゅー、ひゅー、アキちゃん可愛いよ」

 さっきまで、大騒ぎの中心で飲み捲っていたので、何だか明美の知名度が高い。

「一昨日から冒険者始めたんで、H級でーす。昨日兄ちゃんとサイクロプス倒しました」
「えー!」
「嘘じゃないよ、私が証人だよ。H級だがアキの実力はC級だ。昨日私が同行して試させてもらったからね。次は最後、タケミチ」
「はい、タケミチです。冒険者ランクはH級です」
「おー、何で初心者が混じってるんだよ」

 なんか明美の時と反応が違う。

「荷物持ちにもなんねえぞ」
「追い出せ、追い出せ」
「邪魔だ、邪魔」
「まだ自己紹介が終わってねーぞ。タケ、倒した事のある一番強い奴を教えてくれ」
「えーと、地竜です。ハンゾーさん」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・えっ」
「何人でだ」
「一人です」
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「亜竜じゃないのか」
「亜竜も倒したことあります」
「・・・・」
「・・・」
「・・」
「タケ、この野郎、昨日手を抜いてただろ」
「誤解ですよ、ユリエさん。椅子投げないで下さいよ」
「えっへん、兄ちゃん強いんだぞ」
「タケちゃん惚れ直したわよ」
「えーっ!おいおいおいおい」
「俺もドラゴンスレイヤーとは知らなかったが、こいつの実力は俺が保証する。まあ、こいつが加わったんで俺も決心出来たんだがな。一応俺は明日出発する。中には準備に時間が掛かる奴も居ると思う。だから、準備が終わった者から順次、気の合う者同士で山を越えてセトの町に向かって欲しい。船を調達して待っているが、少なくとも、十日後には合流して欲しい。それじゃ話はここまでだ、もう飲んでも良いぞ」

ーーーーー
モミジ

 タケちゃんと一緒にゆっくりとセトへ向かいたかったけど、忍者組は砂船の手配を手伝えと、ユリエさんに怒られてしまいました。
 忍者は普通の冒険者と違い、木々を伝って高速で移動ができます。
 先に行かせて砂船の操縦を習わせて置きたいそうなのです。

 船主も船を壊されることを心配して、素人には貸したがりません。
 でも私達の団全員が砂船の操作を知りません。
 忍者組は僅か十ニ名ですが、出発前に少しでも砂船の操作を覚え、少しでも有利な条件で船主と交渉したいそうです。

「大丈夫ですよハンゾーさん、俺ってこうゆうのは器用ですから」

 サスケのこの根拠のない自信はどっから来るのか不思議です。
 こんなお馬鹿なところが好きだから仕方がないのですが、私まで恥ずかしい思いをしそうな気がします。
 あーあ、やっぱりタケちゃんと交換したい。
 
 私達は、森の中を一列になって移動しています。
 先頭はユリエさんで、飛び移る枝を示してくれています。
 私達はそれに従って同じ様に飛び移るだけなのですが、それでも付いて行くのがギリギリです。
 サスケは情けない事に脱落寸前で、殿のハンゾーさんに励まされてなんとか踏ん張っています。
 少し休ませて欲しいという言葉が喉元まで出掛った時、後ろから私達一団を物凄い勢いで追い抜いて行く影がありました。
 魔獣と思って身構えたのですが、瞬く間に見えなくなりました。
 それで終われば良かったのですが、ユリエさんが物凄い勢いで追って行ってしまいました。
 
 先導者を失った私達は、列を乱して失速しました。

「少し休憩するか」

 いつもなら軽口を真っ先に叩くサスケが、膝に手を当ててゼー、ゼー言っています。
 気の強いアヤメも、今日は強がっている余裕が無いようで、珍しくへたり込んでヒーヒー言っています。

 ハンゾーさんが遠くに向かって手を振っています。
 何をしているのかと思ったら、その方向から物凄い勢いで影が近付いて来ました。
 人でした、アキちゃんとユリエさんを両脇に抱えたタケちゃんでした。

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