59 / 75
59 大迷宮8
しおりを挟む
夜叉は本来美人さんなのだと聞いたことがある。
それを実際に体験できるとは思ってもいなかった。
僕は今、ファンテの町の砂船組合の事務所にいる。
皆と合流してほっとする間もなく、他の町の砂船組合事務所からも目印ブイの設置を手伝って欲しいとの依頼があった。
ミトの町の砂船組合は義理堅く、食料や酒を格安で余分に送り届けてくれていた。
余った分を宿に渡してあげたら、喜ばれてVIP待遇にしてくれている。
大部屋での雑魚寝料金で、二人~四人部屋を割り振って貰っていのだ。
皆大喜びで、特にカップルで参加している連中は、抱き合って喜んでいた。
「兄ちゃん、良かったね」
だから今の状態は維持するため、砂船組合と良好な関係持続させようと依頼を了承したのだ。
ファトの町とルンテの町の依頼はそれぞれ三日でこなし、最後の町、大迷宮で一番北側に位置する町ファンテに来ている。
所長さんは典型的なエルフの姿をした超美人さんで、ファンタジー世界を体現している人間離れした妖精の女神様のような人だった。
だが、にこやかに微笑んでいた顔が、僕の不用意な一言で魔神の様な顔に変わったのだ。
「この町には、北大陸の方もいらっしゃるんですか」
この町の仕入れ航路は北方、一番北大陸に近い場所の沿縁の都市へ伸びている。
だから当然人も、北大陸の人達が流れて来ていると思ったのだ。
「北大陸の人間!あんな害虫がこの町にいてたまるか、町が腐る。もし居たら、一寸刻みにしてなぶってから、クソ漬けにして砂虫の餌にしてやる。はー、はー、はー」
エルフ所長の剣幕に、慌てて逃げようとする明美を押え付け、こんな状況下で何故か、エルフ所長の尻を撫でようとする蔓を意思の力で抑え込む。
「あははははは、北大陸人が嫌いなんですね」
「そもそもご先祖様達が、善意であんなクソ虫共に魔法を教えたのが間違いだったのだ。北大陸なんて、全部焼き払えば良かったのだ。みろ、あいつらが魔法世界の魔力を垂れ流すから、我が帝国は砂に沈んでしまったではないか。特に異世界人がガンだ、この世界に災いの木を持ち込みおって。国を再興したら、北大陸に攻め込んで、あいつ等嬲り殺しにしてやる。いひひひひ」
船頭さん達に聞いてみたら、所長さんは、この大陸にあった帝国の末裔で、世が世であったなら、この大陸を支配していた血筋の人らしい。
国は二百年前に砂に埋もれて滅亡し、細々と使い続けた財産は、遂に彼女のお爺さんの代で使い果たし、貧乏な幼少期を過ごしたらしいのだ。
生活力の無かったお爺さんから、貧乏なのは北大陸民の所為だと刷り込まれ、国を再興して、北大陸を滅ぼすことが使命だと教わってきたらしい。
幸、彼女には強い魔法の才があったので、貧乏から脱して砂船組合の事務所長まで上り詰めたのだそうだ。
「所長は本気なんだろうけどね、北大陸からの穀物が途絶えたら、先にこっちが飢え死にだろうさ。北大陸民?結構町に住んでるよ」
所長の剣幕は完全に本物だったので、目印ブイの設置作業の合間に、自分の命に係わる問題なので、船頭さん達に町の状況を聞いてみた。
そしたら、意外な答えが返って来た。
「・・・・大丈夫なんですか」
「ああ、所長は北大陸人が悪魔みたいな連中って思い込んでるからな。目が四つで、腕が四本有って、牛の角を生やしてるって言っても信じるんじゃないか」
「えっ」
「あんた、北大陸人が普通の人間なんて言ったら、所長に怒られるぜ」
なんか心配して損した気分だ。
「あんた、この仕事の礼品は何が欲しいんだ」
「うーん、特に考えてませんね」
「あんたら大迷宮へ潜りに来たんだろ」
「ええ」
「だったら、所長の家は大迷宮の秘密を代々言い伝えてるらしいから、大迷宮の情報を聞いてみると良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
三日後、完了の報告をしたら希望する礼品を聞かれた。
「物はいりません。過去に戻れる扉の話を聞かせてください」
「・・・・・まあ良かろう。岩礁地帯の砂下地図まで作って貰ったからのう。何が聞きたい」
「まず場所です。扉の有る場所が知りたいです」
「扉は人が潜ると直ぐに消滅する。そして一年後に違う場所へ現れる。だから、確実に言えることは、前回発見された場所には無いと言う事じゃ」
「うーん、参考になったような、ならなかったような」
「ふふふふ、それじゃもう一つ教えてやろう。過去に戻ると言うことは、今の自分が過去に戻れるのではない。その時間軸に存在する自分に戻るだけじゃ。過去を変えようと思っても、同じ過ちを再び繰り返すだけじゃ。多くの者が同じ過去と未来を繰り返し、その無限の時間回廊の中で彷徨っているとも言われておる」
「それじゃ、扉を潜る事は、その亡者の行列に加わるだけなんですか」
「ふふふふ、今回の仕事の礼じゃ。潜る瞬間に唱えた魔法は、時空を越えて術者に付いてくるそうじゃ。時の流れは固定された物ではなく、もっと曖昧でいい加減な物なのじゃろうな」
宿に戻ってから、ハンゾーさんとユリエさんにこの話を聞かせた。
「ありがとう、タケ、物凄く貴重な情報だ。亡者にならずに済んだ。あの瞬間を変える魔法をユリエと二人で考えてみる」
それを実際に体験できるとは思ってもいなかった。
僕は今、ファンテの町の砂船組合の事務所にいる。
皆と合流してほっとする間もなく、他の町の砂船組合事務所からも目印ブイの設置を手伝って欲しいとの依頼があった。
ミトの町の砂船組合は義理堅く、食料や酒を格安で余分に送り届けてくれていた。
余った分を宿に渡してあげたら、喜ばれてVIP待遇にしてくれている。
大部屋での雑魚寝料金で、二人~四人部屋を割り振って貰っていのだ。
皆大喜びで、特にカップルで参加している連中は、抱き合って喜んでいた。
「兄ちゃん、良かったね」
だから今の状態は維持するため、砂船組合と良好な関係持続させようと依頼を了承したのだ。
ファトの町とルンテの町の依頼はそれぞれ三日でこなし、最後の町、大迷宮で一番北側に位置する町ファンテに来ている。
所長さんは典型的なエルフの姿をした超美人さんで、ファンタジー世界を体現している人間離れした妖精の女神様のような人だった。
だが、にこやかに微笑んでいた顔が、僕の不用意な一言で魔神の様な顔に変わったのだ。
「この町には、北大陸の方もいらっしゃるんですか」
この町の仕入れ航路は北方、一番北大陸に近い場所の沿縁の都市へ伸びている。
だから当然人も、北大陸の人達が流れて来ていると思ったのだ。
「北大陸の人間!あんな害虫がこの町にいてたまるか、町が腐る。もし居たら、一寸刻みにしてなぶってから、クソ漬けにして砂虫の餌にしてやる。はー、はー、はー」
エルフ所長の剣幕に、慌てて逃げようとする明美を押え付け、こんな状況下で何故か、エルフ所長の尻を撫でようとする蔓を意思の力で抑え込む。
「あははははは、北大陸人が嫌いなんですね」
「そもそもご先祖様達が、善意であんなクソ虫共に魔法を教えたのが間違いだったのだ。北大陸なんて、全部焼き払えば良かったのだ。みろ、あいつらが魔法世界の魔力を垂れ流すから、我が帝国は砂に沈んでしまったではないか。特に異世界人がガンだ、この世界に災いの木を持ち込みおって。国を再興したら、北大陸に攻め込んで、あいつ等嬲り殺しにしてやる。いひひひひ」
船頭さん達に聞いてみたら、所長さんは、この大陸にあった帝国の末裔で、世が世であったなら、この大陸を支配していた血筋の人らしい。
国は二百年前に砂に埋もれて滅亡し、細々と使い続けた財産は、遂に彼女のお爺さんの代で使い果たし、貧乏な幼少期を過ごしたらしいのだ。
生活力の無かったお爺さんから、貧乏なのは北大陸民の所為だと刷り込まれ、国を再興して、北大陸を滅ぼすことが使命だと教わってきたらしい。
幸、彼女には強い魔法の才があったので、貧乏から脱して砂船組合の事務所長まで上り詰めたのだそうだ。
「所長は本気なんだろうけどね、北大陸からの穀物が途絶えたら、先にこっちが飢え死にだろうさ。北大陸民?結構町に住んでるよ」
所長の剣幕は完全に本物だったので、目印ブイの設置作業の合間に、自分の命に係わる問題なので、船頭さん達に町の状況を聞いてみた。
そしたら、意外な答えが返って来た。
「・・・・大丈夫なんですか」
「ああ、所長は北大陸人が悪魔みたいな連中って思い込んでるからな。目が四つで、腕が四本有って、牛の角を生やしてるって言っても信じるんじゃないか」
「えっ」
「あんた、北大陸人が普通の人間なんて言ったら、所長に怒られるぜ」
なんか心配して損した気分だ。
「あんた、この仕事の礼品は何が欲しいんだ」
「うーん、特に考えてませんね」
「あんたら大迷宮へ潜りに来たんだろ」
「ええ」
「だったら、所長の家は大迷宮の秘密を代々言い伝えてるらしいから、大迷宮の情報を聞いてみると良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
三日後、完了の報告をしたら希望する礼品を聞かれた。
「物はいりません。過去に戻れる扉の話を聞かせてください」
「・・・・・まあ良かろう。岩礁地帯の砂下地図まで作って貰ったからのう。何が聞きたい」
「まず場所です。扉の有る場所が知りたいです」
「扉は人が潜ると直ぐに消滅する。そして一年後に違う場所へ現れる。だから、確実に言えることは、前回発見された場所には無いと言う事じゃ」
「うーん、参考になったような、ならなかったような」
「ふふふふ、それじゃもう一つ教えてやろう。過去に戻ると言うことは、今の自分が過去に戻れるのではない。その時間軸に存在する自分に戻るだけじゃ。過去を変えようと思っても、同じ過ちを再び繰り返すだけじゃ。多くの者が同じ過去と未来を繰り返し、その無限の時間回廊の中で彷徨っているとも言われておる」
「それじゃ、扉を潜る事は、その亡者の行列に加わるだけなんですか」
「ふふふふ、今回の仕事の礼じゃ。潜る瞬間に唱えた魔法は、時空を越えて術者に付いてくるそうじゃ。時の流れは固定された物ではなく、もっと曖昧でいい加減な物なのじゃろうな」
宿に戻ってから、ハンゾーさんとユリエさんにこの話を聞かせた。
「ありがとう、タケ、物凄く貴重な情報だ。亡者にならずに済んだ。あの瞬間を変える魔法をユリエと二人で考えてみる」
8
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる