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60 大迷宮9
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大迷宮の中も勿論魔素の目で見通すことはできるが、広くかつ深すぎて、遠くの場所の相対関係、どちらが奥でどちらが手前かがあやふやになってしまう。
多くの人達の放つ光が地下に広がり、星空の中に浮かんでいるようで、そのまま深く、落ちて行きたくなる。
「取り敢えずこれが、五十階層までのこの近辺の迷路図です」
砂虫の革は紙の良い素材となるため、中央大陸では比較的安価に紙が手に入る。
五キロ四方、五十階層分、五十枚の地図を半日で書き上げ、ハンゾーさんに渡す。
「すまんな、偽物が多くて困っていたんだ。それにしてもタケの能力は便利だな。この赤い線は何だ」
「ここから五十階層へ降りる最短コースです。この近辺に怪しげな場所はありません。怪しげな光は四十八カ所見えるんですが、まだまだ遥か下です」
「この青い印は」
「帰還用の魔法陣が描いてある隠し部屋です」
「このオレンジ色の印は」
「魔獣の光りが特異的に集中して見える場所です」
「この茶色の印は」
「宝物が有りそうな隠し部屋です。四十階層から下ですね」
ハンゾーさんが地図をじっと見つめている。
ユリエさんが、そんなハンゾーの横顔を、珍しく黙ってじっと見つめている。
「五十階層まで、五階層に付き一ヶ所、必ず帰還用の魔法陣を確保する。各階の経路も、必ず魔法陣の近くを通る様にして、怪我人が出たら直ぐに地上へ戻れる様にする。四十階層まで行ったら、経路近くの宝物は集めて、皆が国に持って帰れる財産をすこしずつ貯めよう。タケ、五十階層以下も見えるのか」
「位置関係があやふやですが、見えるには見えます」
「うん、それでも構わん。魔法陣の様子はどうだ」
「なんか五十階層までに比べて疎らですね。なんか下へ向かって行くほど、少なくなっている様な感じですね」
「ああ、五十階層を境に魔法陣が減って行くそうだ。五十階層に到達したら、治療師の増強が必要だな。二百階層を越えると、魔法陣が殆ど無くなるんで、間に中継基地を設置する必要があるそうだ。二百七十七階層に町が有るそうだが見えるか」
「ええ、人が一杯いる場所が見えます」
「噂は本当だったんだな。その階層から急に魔獣が強くなるそうだ。避難結界を張ってある場所があって、その階層から動けなくなった連中が逃げ込んで、町を作っているって噂だった。急がなく良い、全員の力量を少しずつ上げて行き、全員を生きて国へ返したい。たのむ、協力してくれ。ほれ、ユリエも頼め」
「ああ、頼むぞタケ。あたいらの我儘にみんなを巻き込んだ手前心苦しいんだが、あたいらが居なくなった後は頼むぜ。でも飲み会を禁止なんて酷い事するなよ、わー、心配だ。お前は度ケチだからな」
「そーだぞ、兄ちゃん」
くそー、こいつら、人の気も知らないで。
ーーーーー
ハンゾーさん達が先行して潜っていたので、五十階層へは十日で到達した。
行こうと思えば、この半分以下の日数で到達出来たのだが、大型魔獣との集団戦に慣れて貰うため、あえて日数を掛けた。
大型のサイクロプスに光魔法で目潰しをかまし、その隙に足元に駆け寄り、足の腱を執拗に攻撃する。
何度もヒットアンドアウェイを繰り返してダメージを与え、膝を突かせる。
棍棒の攻撃を避けながら、風魔法を纏ってサイクロプスに駆け上がり、手の腱や首筋を攻撃する。
攻撃魔法の得意な者達が顔に魔法を集中させ、注意を逸らせる。
最初はバラバラだった連携も、自然に攻撃の順番が整うようになり、流れる様な攻撃になる。
動きが鈍ったところを、上級者が首の後ろへ回り込み、止めを刺す。
「五十階層に到達したので、明日は休みにする。今晩は思う存分飲んでくれ」
僕とハンゾーさん、アヤメさんとモミジさん、それと僕のおまけの明美は、砂船で夜の砂漠をミトの町へ向かう。
手に入れた宝物の売却と治療師を集めるためだ。
宝物は予想以上に高値で売れた。
食料不足の影響で、迷宮に入れる冒険者が減り、出物が不足していたのだ。
毎日買取して貰っている魔石も、だいぶ値が上がっている。
逆に冒険者の労賃は激減していた。
僕達がこの町に来た時も下がっていたが、更に半減していた。
「あたい達の治療師役の連中を雇ってくれねーか、頼む。纏めて雇ってくれたら、相場の半額で構わない」
戦いの女神団のトリフェラスだ。
どこからか噂を聞いたのか解らないが、僕達の宿を訪ねて来た。
最初に会った時より、げっそりと痩せている。
多少落ち着き始めてるとは言え、食糧の高騰と砂船の手配でだいぶ苦労したらしい。
「戦力にもなるし、夜の相手をさせたってかまわん。頼む」
「何人だ、トリフェラス」
「四十人、可能なら五十人」
「良し、おまえらの団の連中なら、知らない仲でもない。五十人雇おう」
「ありがとうハンゾー、うっ、うっ、うっ」
夜明け前、五十人を引き連れて拠点の宿へ移動する。
宿で飯を食わせてやったら、涙を流しながら食べていた。
ーーーーー
戦いの女神団 ユラロッサ
普通の飯を食って、普通のベットで眠る、こんな贅沢は何日ぶりだろうか。
走り回って見たものの、砂船が手配できなかった。
仕方なく、ミトの町から迷宮に潜っては見たものの、手ぶらで帰る日が何日も続き、軍資金が瞬く間に底を突いた。
船からの荷降ろしや、砂漠での砂堀などで食繋ぎ、路上生活を続けていたが、砂虫病と呼ばれる体調不良が現れ始め、野垂死にが現実性を帯びて来た。
そんな時、ケラケレスと仕事にあぶれて町中を歩いていたら、アヤメとモミジが歩いているのを発見した。
身なりも体調も良さそうで、私達と正反対に、なんか金回りが物凄く良さそうな雰囲気を纏っている。
二人で後を付けたら、私達の立ち入れない高級料理店へ入って行った。
路地の影に隠れて、二人の会話に聞き耳を立てた。
「タケちゃんには何時も驚かされるわね」
「ええ、金貨五千枚で売れたのに平然としてるんだもんね」
「あーあ、サスケと交換して欲しい」
「団長とタケさんとアキちゃんは何処へ行ったの」
「冒険者ギルドで治療師の最新の相場を見て来るらしいよ」
「治療師何人くらい募集する積もりかしら」
「今の相場なら、四十人は楽に雇えるんじゃないかしら」
私達は、団長の所へ走って行った。
「ケラケレス、団長にも食べさせてやりたかったな」
「ああ、美味かったな。有るところには有るもんだな」
「うん、理不尽だよな」
多くの人達の放つ光が地下に広がり、星空の中に浮かんでいるようで、そのまま深く、落ちて行きたくなる。
「取り敢えずこれが、五十階層までのこの近辺の迷路図です」
砂虫の革は紙の良い素材となるため、中央大陸では比較的安価に紙が手に入る。
五キロ四方、五十階層分、五十枚の地図を半日で書き上げ、ハンゾーさんに渡す。
「すまんな、偽物が多くて困っていたんだ。それにしてもタケの能力は便利だな。この赤い線は何だ」
「ここから五十階層へ降りる最短コースです。この近辺に怪しげな場所はありません。怪しげな光は四十八カ所見えるんですが、まだまだ遥か下です」
「この青い印は」
「帰還用の魔法陣が描いてある隠し部屋です」
「このオレンジ色の印は」
「魔獣の光りが特異的に集中して見える場所です」
「この茶色の印は」
「宝物が有りそうな隠し部屋です。四十階層から下ですね」
ハンゾーさんが地図をじっと見つめている。
ユリエさんが、そんなハンゾーの横顔を、珍しく黙ってじっと見つめている。
「五十階層まで、五階層に付き一ヶ所、必ず帰還用の魔法陣を確保する。各階の経路も、必ず魔法陣の近くを通る様にして、怪我人が出たら直ぐに地上へ戻れる様にする。四十階層まで行ったら、経路近くの宝物は集めて、皆が国に持って帰れる財産をすこしずつ貯めよう。タケ、五十階層以下も見えるのか」
「位置関係があやふやですが、見えるには見えます」
「うん、それでも構わん。魔法陣の様子はどうだ」
「なんか五十階層までに比べて疎らですね。なんか下へ向かって行くほど、少なくなっている様な感じですね」
「ああ、五十階層を境に魔法陣が減って行くそうだ。五十階層に到達したら、治療師の増強が必要だな。二百階層を越えると、魔法陣が殆ど無くなるんで、間に中継基地を設置する必要があるそうだ。二百七十七階層に町が有るそうだが見えるか」
「ええ、人が一杯いる場所が見えます」
「噂は本当だったんだな。その階層から急に魔獣が強くなるそうだ。避難結界を張ってある場所があって、その階層から動けなくなった連中が逃げ込んで、町を作っているって噂だった。急がなく良い、全員の力量を少しずつ上げて行き、全員を生きて国へ返したい。たのむ、協力してくれ。ほれ、ユリエも頼め」
「ああ、頼むぞタケ。あたいらの我儘にみんなを巻き込んだ手前心苦しいんだが、あたいらが居なくなった後は頼むぜ。でも飲み会を禁止なんて酷い事するなよ、わー、心配だ。お前は度ケチだからな」
「そーだぞ、兄ちゃん」
くそー、こいつら、人の気も知らないで。
ーーーーー
ハンゾーさん達が先行して潜っていたので、五十階層へは十日で到達した。
行こうと思えば、この半分以下の日数で到達出来たのだが、大型魔獣との集団戦に慣れて貰うため、あえて日数を掛けた。
大型のサイクロプスに光魔法で目潰しをかまし、その隙に足元に駆け寄り、足の腱を執拗に攻撃する。
何度もヒットアンドアウェイを繰り返してダメージを与え、膝を突かせる。
棍棒の攻撃を避けながら、風魔法を纏ってサイクロプスに駆け上がり、手の腱や首筋を攻撃する。
攻撃魔法の得意な者達が顔に魔法を集中させ、注意を逸らせる。
最初はバラバラだった連携も、自然に攻撃の順番が整うようになり、流れる様な攻撃になる。
動きが鈍ったところを、上級者が首の後ろへ回り込み、止めを刺す。
「五十階層に到達したので、明日は休みにする。今晩は思う存分飲んでくれ」
僕とハンゾーさん、アヤメさんとモミジさん、それと僕のおまけの明美は、砂船で夜の砂漠をミトの町へ向かう。
手に入れた宝物の売却と治療師を集めるためだ。
宝物は予想以上に高値で売れた。
食料不足の影響で、迷宮に入れる冒険者が減り、出物が不足していたのだ。
毎日買取して貰っている魔石も、だいぶ値が上がっている。
逆に冒険者の労賃は激減していた。
僕達がこの町に来た時も下がっていたが、更に半減していた。
「あたい達の治療師役の連中を雇ってくれねーか、頼む。纏めて雇ってくれたら、相場の半額で構わない」
戦いの女神団のトリフェラスだ。
どこからか噂を聞いたのか解らないが、僕達の宿を訪ねて来た。
最初に会った時より、げっそりと痩せている。
多少落ち着き始めてるとは言え、食糧の高騰と砂船の手配でだいぶ苦労したらしい。
「戦力にもなるし、夜の相手をさせたってかまわん。頼む」
「何人だ、トリフェラス」
「四十人、可能なら五十人」
「良し、おまえらの団の連中なら、知らない仲でもない。五十人雇おう」
「ありがとうハンゾー、うっ、うっ、うっ」
夜明け前、五十人を引き連れて拠点の宿へ移動する。
宿で飯を食わせてやったら、涙を流しながら食べていた。
ーーーーー
戦いの女神団 ユラロッサ
普通の飯を食って、普通のベットで眠る、こんな贅沢は何日ぶりだろうか。
走り回って見たものの、砂船が手配できなかった。
仕方なく、ミトの町から迷宮に潜っては見たものの、手ぶらで帰る日が何日も続き、軍資金が瞬く間に底を突いた。
船からの荷降ろしや、砂漠での砂堀などで食繋ぎ、路上生活を続けていたが、砂虫病と呼ばれる体調不良が現れ始め、野垂死にが現実性を帯びて来た。
そんな時、ケラケレスと仕事にあぶれて町中を歩いていたら、アヤメとモミジが歩いているのを発見した。
身なりも体調も良さそうで、私達と正反対に、なんか金回りが物凄く良さそうな雰囲気を纏っている。
二人で後を付けたら、私達の立ち入れない高級料理店へ入って行った。
路地の影に隠れて、二人の会話に聞き耳を立てた。
「タケちゃんには何時も驚かされるわね」
「ええ、金貨五千枚で売れたのに平然としてるんだもんね」
「あーあ、サスケと交換して欲しい」
「団長とタケさんとアキちゃんは何処へ行ったの」
「冒険者ギルドで治療師の最新の相場を見て来るらしいよ」
「治療師何人くらい募集する積もりかしら」
「今の相場なら、四十人は楽に雇えるんじゃないかしら」
私達は、団長の所へ走って行った。
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