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62 大迷宮11
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二百階層に到達するまでに一月を要した。
結構厳しくなって来る事は想定していたので、まあそれなり順調で、徐々に全員の力量は上がっており、地道な底上げは進んでいた。
むしろこの間大きく変わったのは、僕達を囲む状況、拠点としている丘陵の方だった。
迷宮から戻ると、毎日見慣れない建物が増えており、朝通れた場所が夕には通れなくなっている事も多かった。
原因は僕達が迷宮から運び出すお宝だった。
僕達は、運び出したお宝を、週に一回程度、ミトの町の競りに合せて持ち込んで売り払うようにした。
でも、他の冒険者と違い、僕等には最初からお宝の場所が解っているという反則的な利点が有ので、運び出す量が多く、競りでも良く目立った。
しかも階層を潜って行く速度が他の冒険者達より早いので、目に見えて個々のお宝の価値がどんどん高くなって行く。
当然僕達の噂は商品不足に悩む他の町の商会に物凄い勢いで広がった。
目の色を変えて、他の町の商会ほぼ全部が買取競争に続々と加わった。
供給量がほぼ固定されているのに対し、需要が爆発的に増えている状況だ。
当然過当競争となり、商人達は僕達の活動状況をいち早く知って、めぼしいお宝情報を先に得ようとする。
丘陵に出張所を設ける商会が増えて行き、迷宮の入口で待ち構えている商人の数が凄いことになった。
ポジション取りも含め、情報を巡る商会間のトラブルが勃発した。
僕達は知らなかったが、金額ベースで比較すれば、僕達が運び出すお宝の額は、大迷宮全体の結構な割合を占めている状況になっていたのだ。
しかも、商品価値が物凄い勢いで上昇しているので、この割合はぐんぐんと増えている。
要するに、商人達にとって急成長中の大きな市場なのだ。
だから血眼になるのも無理は無かった。
会員間の亀裂や町間の争いが生じることを危惧した商会連合会は、公平性と適正な競争を促すため四町合同会議を開催し、特例中の特例として、この丘陵に競り会場を設けることを決定した。
勿論ミトの町の商人達は、猛烈に反対したそうだ。
僕達は迷宮から戻ると、お宝を直ぐに商会連合会に預ける。
商会連合会の職員は、そのままお宝を抱えて競り会場へ直行し、そこで競りを直ぐに開催する。
競りは通常週一回の頻度で行われるのが慣例になっていたので、争いを防ぐ為とは言いながら特殊な開催形式となった。
当初、品数が少ないの盛り上がりが心配されたが、商会側も短期で資金を回せるメリットが大きい事が判り、積極的に応札し、盛り上がった。
利益が上がれば、商会も投資を行う。
競り会場を中心に、競争するように商会の支店が設営され、その数と規模はどんどん増えている。
さらに人が増えれば物流も増える。
船着き場が拡大され、各町間との航路や沿縁の都市との航路も就航された。
倉庫を乗せた艀が砂の上に立ち並んで行く光景は壮観だった。
丘陵の上には余地がないので、丘陵の周囲に酒場や宿を乗せた艀が増えて行く。
早めに宿所を建てておいたのは正解だった。
冒険者は益々増えている。
朝夕は迷宮の入り口で渋滞が生じる程だ。
でも僕達が行くと、遠慮して先へ通してくれる。
僕達への商人達の評価が、冒険者にとってステータスになっていたのだ。
それなりに実力の有る冒険者集団も加わって来た。
迷宮地図は。笑いが止まらない程売れている。
一階層から五十階層、五十一階層から百階層、百一階層から百五十階層までの三シリーズを売っているのだが、それぞれ店に並べると、あっという間に完売する。
例の画像集は、幻の品的な扱いになっている。
店先に並ぶ前に、密かに流通して完売する。
明美の目を誤魔化す為に、光魔法研究報告書とだけ書いてある無味乾燥な白いカバーで覆ったのだが、なんかこれがより秘密の品物的な雰囲気を醸し出したようで、店主達の評判が良かった。
密かに第二弾を予定している。
色々楽しい店の有る艀も増えて来たので、エルフさんシリーズのモデルさんを捜しに行きたいのだが、明美の監視が厳しくて果たせずにいる。
それと、光魔法の勉強会と称してキムノさんと二人で密かに迷宮地図や画集の制作に勤しんでいるのだが、これにも明美が段々疑いの目を持ち始めている。
ビジネスライクな仲なのに困ったもんだ。
ーーーーー
「二百階層から下は一隊で行動する。団長は俺、補佐がタケ、副長がユリエとトラだ、良いな」
「団長、補佐と副長はどっちが偉いんですか」
「上下関係は無い。タケには、俺に万が一何かあった時に団長を努めてもらう。明日は休みにするが、明後日から全員の連携の確認に入る。タケ、ユリエ、トラ、ケンタ、キムノは残ってくれ。解散だ」
二百階層から下は、迷路型からフィールド型に変わり、砦を作って、群れで待ち構えている敵も多くなる。
単なる正面からのぶつかり合いから、頭脳戦へと変って来る。
「ここまでは、単体の大型敵を協力して倒す戦法だったが、この階層から下は、群との戦いが多くなる。敵も魔法を使う奴が多くなるから作戦と連携が重要になる。タケ、お前の傀儡糸は、小型のオーガだったら、何体くらい行ける」
「うーん、数えた事は無いんですが、百や二百なら対応できると思います」
「兄ちゃんすごーい」
「ありがとな、明美。だから膝から降りてくれ。会議中なんだから」
「あたいは構わないよ」
「あたいもだよ」
「俺もっす」
「アキちゃん、ほらお菓子だよ。お菓子あげるからこっちにおいで。お兄ちゃん迷惑してるから」
「嫌、キムちゃんこそお兄ちゃんの腕離して」
「おっほん、それじゃタケは当面傀儡術は無しな、これからの事を考えるとまだお前の能力に頼るには早過ぎる。危ない時にだけ使ってくれ」
「はい」
「風魔法をそれなりに使える奴は何人いる」
「光魔法の魔法陣でなら、うちは跳躍と攻撃に使ってるから全員使えますよ。他の魔法の魔法陣ならその半分ですかね」
「あたいらの団は筋肉馬鹿が多いからな、身体強化で跳躍してる。だから風魔法は防御中心で使って、半分ってところかな。闇の中で戦える様に魔法陣は複数の魔法で描ける様にしてるよ」
「明るい場所で風魔法を中心に使えば、攻撃専用に百、魔法支援・魔法攻撃に百、防護専用に百か。三人一組の基本陣形で意外にバランスが良いな。電撃を使える奴はどれくらい居る」
「うちは三十いないですよ」
「うちの団も少ないね五十くらいかね」
「火と水は周囲巻き込むから除外して土は」
「少ないです。五人くらいですかね」
「うちも少ないよ。五人くらいかね」
「土魔法での防御はちょっと難しいか」
「俺も土魔法できますよ」
「ほう、タケは意外に器用だな。一度土魔法の連中を集めて使い物になるか確認してくれ」
「はい」
更に細かい確認があって、初日の戦い方の概略が決まった。
「後は様子を見て、臨機応変に考えよう。それじゃ解散」
結構厳しくなって来る事は想定していたので、まあそれなり順調で、徐々に全員の力量は上がっており、地道な底上げは進んでいた。
むしろこの間大きく変わったのは、僕達を囲む状況、拠点としている丘陵の方だった。
迷宮から戻ると、毎日見慣れない建物が増えており、朝通れた場所が夕には通れなくなっている事も多かった。
原因は僕達が迷宮から運び出すお宝だった。
僕達は、運び出したお宝を、週に一回程度、ミトの町の競りに合せて持ち込んで売り払うようにした。
でも、他の冒険者と違い、僕等には最初からお宝の場所が解っているという反則的な利点が有ので、運び出す量が多く、競りでも良く目立った。
しかも階層を潜って行く速度が他の冒険者達より早いので、目に見えて個々のお宝の価値がどんどん高くなって行く。
当然僕達の噂は商品不足に悩む他の町の商会に物凄い勢いで広がった。
目の色を変えて、他の町の商会ほぼ全部が買取競争に続々と加わった。
供給量がほぼ固定されているのに対し、需要が爆発的に増えている状況だ。
当然過当競争となり、商人達は僕達の活動状況をいち早く知って、めぼしいお宝情報を先に得ようとする。
丘陵に出張所を設ける商会が増えて行き、迷宮の入口で待ち構えている商人の数が凄いことになった。
ポジション取りも含め、情報を巡る商会間のトラブルが勃発した。
僕達は知らなかったが、金額ベースで比較すれば、僕達が運び出すお宝の額は、大迷宮全体の結構な割合を占めている状況になっていたのだ。
しかも、商品価値が物凄い勢いで上昇しているので、この割合はぐんぐんと増えている。
要するに、商人達にとって急成長中の大きな市場なのだ。
だから血眼になるのも無理は無かった。
会員間の亀裂や町間の争いが生じることを危惧した商会連合会は、公平性と適正な競争を促すため四町合同会議を開催し、特例中の特例として、この丘陵に競り会場を設けることを決定した。
勿論ミトの町の商人達は、猛烈に反対したそうだ。
僕達は迷宮から戻ると、お宝を直ぐに商会連合会に預ける。
商会連合会の職員は、そのままお宝を抱えて競り会場へ直行し、そこで競りを直ぐに開催する。
競りは通常週一回の頻度で行われるのが慣例になっていたので、争いを防ぐ為とは言いながら特殊な開催形式となった。
当初、品数が少ないの盛り上がりが心配されたが、商会側も短期で資金を回せるメリットが大きい事が判り、積極的に応札し、盛り上がった。
利益が上がれば、商会も投資を行う。
競り会場を中心に、競争するように商会の支店が設営され、その数と規模はどんどん増えている。
さらに人が増えれば物流も増える。
船着き場が拡大され、各町間との航路や沿縁の都市との航路も就航された。
倉庫を乗せた艀が砂の上に立ち並んで行く光景は壮観だった。
丘陵の上には余地がないので、丘陵の周囲に酒場や宿を乗せた艀が増えて行く。
早めに宿所を建てておいたのは正解だった。
冒険者は益々増えている。
朝夕は迷宮の入り口で渋滞が生じる程だ。
でも僕達が行くと、遠慮して先へ通してくれる。
僕達への商人達の評価が、冒険者にとってステータスになっていたのだ。
それなりに実力の有る冒険者集団も加わって来た。
迷宮地図は。笑いが止まらない程売れている。
一階層から五十階層、五十一階層から百階層、百一階層から百五十階層までの三シリーズを売っているのだが、それぞれ店に並べると、あっという間に完売する。
例の画像集は、幻の品的な扱いになっている。
店先に並ぶ前に、密かに流通して完売する。
明美の目を誤魔化す為に、光魔法研究報告書とだけ書いてある無味乾燥な白いカバーで覆ったのだが、なんかこれがより秘密の品物的な雰囲気を醸し出したようで、店主達の評判が良かった。
密かに第二弾を予定している。
色々楽しい店の有る艀も増えて来たので、エルフさんシリーズのモデルさんを捜しに行きたいのだが、明美の監視が厳しくて果たせずにいる。
それと、光魔法の勉強会と称してキムノさんと二人で密かに迷宮地図や画集の制作に勤しんでいるのだが、これにも明美が段々疑いの目を持ち始めている。
ビジネスライクな仲なのに困ったもんだ。
ーーーーー
「二百階層から下は一隊で行動する。団長は俺、補佐がタケ、副長がユリエとトラだ、良いな」
「団長、補佐と副長はどっちが偉いんですか」
「上下関係は無い。タケには、俺に万が一何かあった時に団長を努めてもらう。明日は休みにするが、明後日から全員の連携の確認に入る。タケ、ユリエ、トラ、ケンタ、キムノは残ってくれ。解散だ」
二百階層から下は、迷路型からフィールド型に変わり、砦を作って、群れで待ち構えている敵も多くなる。
単なる正面からのぶつかり合いから、頭脳戦へと変って来る。
「ここまでは、単体の大型敵を協力して倒す戦法だったが、この階層から下は、群との戦いが多くなる。敵も魔法を使う奴が多くなるから作戦と連携が重要になる。タケ、お前の傀儡糸は、小型のオーガだったら、何体くらい行ける」
「うーん、数えた事は無いんですが、百や二百なら対応できると思います」
「兄ちゃんすごーい」
「ありがとな、明美。だから膝から降りてくれ。会議中なんだから」
「あたいは構わないよ」
「あたいもだよ」
「俺もっす」
「アキちゃん、ほらお菓子だよ。お菓子あげるからこっちにおいで。お兄ちゃん迷惑してるから」
「嫌、キムちゃんこそお兄ちゃんの腕離して」
「おっほん、それじゃタケは当面傀儡術は無しな、これからの事を考えるとまだお前の能力に頼るには早過ぎる。危ない時にだけ使ってくれ」
「はい」
「風魔法をそれなりに使える奴は何人いる」
「光魔法の魔法陣でなら、うちは跳躍と攻撃に使ってるから全員使えますよ。他の魔法の魔法陣ならその半分ですかね」
「あたいらの団は筋肉馬鹿が多いからな、身体強化で跳躍してる。だから風魔法は防御中心で使って、半分ってところかな。闇の中で戦える様に魔法陣は複数の魔法で描ける様にしてるよ」
「明るい場所で風魔法を中心に使えば、攻撃専用に百、魔法支援・魔法攻撃に百、防護専用に百か。三人一組の基本陣形で意外にバランスが良いな。電撃を使える奴はどれくらい居る」
「うちは三十いないですよ」
「うちの団も少ないね五十くらいかね」
「火と水は周囲巻き込むから除外して土は」
「少ないです。五人くらいですかね」
「うちも少ないよ。五人くらいかね」
「土魔法での防御はちょっと難しいか」
「俺も土魔法できますよ」
「ほう、タケは意外に器用だな。一度土魔法の連中を集めて使い物になるか確認してくれ」
「はい」
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