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63 大迷宮12
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二百階層から二百一階層へ向かう狭い下り坂を降りて行ったら、降りた先が虹色に輝く転送壁になっていた。
通常に視覚では認知できるのだが、僕の魔素を見る目には何も見えず、上の階層から見た時も気が付かなかった。
「タケ、何処へ飛ばされると思う。こんな場所が有るなんて聞いてないぞ」
「さあ、全然解りませんね。でも、飛ばされた先で地図を作れば問題ないと思いますよ。問題は飛ばされた先の近くに魔法陣の隠し部屋があるかどうかですね。それと情報が無い理由は、戻れた人間が居ないかも知れませんよ」
「面白くなって来たじゃねーか」
「タケ、近くに隠し部屋が無かったらどうなるのさ」
「魔獣がうようよしてる中で野宿ですね。下の方へ行けば、遅かれ早かれそんな状況になるから、丁度良い訓練になるかもしれませんよ」
「準備が必要だな」
「ええ、今日は二百階層で少しお宝を集めてから帰りましょう。商会連合会にも説明しとかないと、大騒ぎになりますからね」
五日分の食糧と魔法布のテント、結界の魔道具と調理器具と寝袋、必要数を買い集め、全員に背負子とセットで配った。
これだけで結構な重量になる。
「兄ちゃん、重い」
「持ってやるから、半分よこせ」
「ありがとう兄ちゃん、愛してる」
「タケちゃん、私のも」
「キムノさんは全然平気でしょ」
「わー、タケちゃん冷たい」
ハンゾーさんとユリエさん、僕と明美、トラさんとキムノさん、まずこのメンバーが先行することになった。
転送壁を潜ると、背の高い草が生い茂った草原に放り出された。
草の中に隠れた千を超える武装したオークに囲まれており、着地する前に雑多な攻撃魔法が降り注いで来た。
蔓で魔法を打ち払いながら、キムノさんに向かって叫ぶ。
「防御壁!」
「あいよ」
キムノさんが光魔法で多数の魔法陣を描き、風の防御壁を広域に展開する。
蔓が草の中に隠れているオークの魔法師に襲い掛かり、足を掴んで振り回す。
見えない敵の反撃は予想していなかったようで、オーク達の間に動揺が走り、隊形が乱れている。
「敵だ、オークの群だ!」
時間差を置いて到着したメンバーに、ハンゾーさんが状況を伝える。
様子を見ながら整えようと思っていた体制が、しょっ鼻から待った無しの真剣勝負に為ってしまった。
しかも、魔素の目で見える範囲に限っても、色々な魔獣の群が、僕等に向かって動き出している。
このままでは、全方向から分厚い敵に取り囲まれることになってしまう。
魔素の目で見える範囲には、下の階層への降口や魔法陣のある隠し部屋も見当たらない。
どちらの方向へ向かって走れば良いのか解らなかったが、取敢えず走る方向を決めて走りだした。
雲霞の如く魔獣が湧いて出て来るので、足を止める訳には行かなかった。
半日程走って、ようやくこの空間の壁が見えて来た。
壁まで辿り着くと、急いで壁を利用しながら土魔法を使って小振りな要塞を構築し、風魔法の防御壁で周囲を覆った。
「辛いと思うが頑張ってくれ。今から全体を五班に分ける。一班が上面、二班が右面、三班が左面、四班が正面を担当してくれ。五班は急いで飯を食って、寝て体力と魔力を回復してくれ。五鐘寝たら一班と交代だ」
「壁に外の様子を映し出します。攻撃魔法担当は、横に並んで正面の敵を攻撃して下さい。敵が怯んだら、土魔法担当は出口を二ヶ所作って下さい。攻撃担当はそこから外へ出て、敵を攻撃してから素早く戻って下さい。全員が戻ったら出口を塞いで、治療担当は怪我人の治療に当たって下さい。治療が終わったら、再び魔法で攻撃して、同じ流れを繰り返して下さい。長丁場になります、人数が減ると個々の負担が増えます。人数の減少が最大の損失になります。絶対に無理はしないで下さい。それでは準備が整った班から開始して下さい」
魔素の目で見える外の光景を壁に映し出す。
画集作りでレベルアップした光魔法が、こんなところで役に立った。
一班六十人、三人組が二十組、予め決めて置いた三人の組み合わせが、ここで物凄く役に立った。
壁に外の光景を映し出す。
「うっ!」
押し殺した驚きの声が漏れる。
見渡す限り、魔獣の群で埋まっていたのだ。
僕の魔素の目で見える範囲も、びっしり魔獣で埋まっている。
僕達の様に、転送壁の前で一旦出直すパーティーは居なかったのだろう。
この状況なら、転送壁の情報が無かった事も納得できる。
「攻撃担当は、必ず人数を確認して下さいね」
理由は解らないのだが、僕達もここで死ねば死体は残らず、霧状になって迷宮の地面や壁へと吸い込まれる。
ようやく周囲から敵が居なくなったのは、四日後の夜だった。
外へ出たら、無数の魔石が転がっていた。
僕も四日振りに寝かせて貰った。
気が付いたら、明美は兎も角、キムノさんとアヤメさんとモミジさんが脇に寝ていた。
モミジさんの脇にはサスケさんが遠慮した様子で寝ていた。
二日後、空きっ腹を抱えながら、ようやく魔法陣のある隠し部屋を発見した。
通常に視覚では認知できるのだが、僕の魔素を見る目には何も見えず、上の階層から見た時も気が付かなかった。
「タケ、何処へ飛ばされると思う。こんな場所が有るなんて聞いてないぞ」
「さあ、全然解りませんね。でも、飛ばされた先で地図を作れば問題ないと思いますよ。問題は飛ばされた先の近くに魔法陣の隠し部屋があるかどうかですね。それと情報が無い理由は、戻れた人間が居ないかも知れませんよ」
「面白くなって来たじゃねーか」
「タケ、近くに隠し部屋が無かったらどうなるのさ」
「魔獣がうようよしてる中で野宿ですね。下の方へ行けば、遅かれ早かれそんな状況になるから、丁度良い訓練になるかもしれませんよ」
「準備が必要だな」
「ええ、今日は二百階層で少しお宝を集めてから帰りましょう。商会連合会にも説明しとかないと、大騒ぎになりますからね」
五日分の食糧と魔法布のテント、結界の魔道具と調理器具と寝袋、必要数を買い集め、全員に背負子とセットで配った。
これだけで結構な重量になる。
「兄ちゃん、重い」
「持ってやるから、半分よこせ」
「ありがとう兄ちゃん、愛してる」
「タケちゃん、私のも」
「キムノさんは全然平気でしょ」
「わー、タケちゃん冷たい」
ハンゾーさんとユリエさん、僕と明美、トラさんとキムノさん、まずこのメンバーが先行することになった。
転送壁を潜ると、背の高い草が生い茂った草原に放り出された。
草の中に隠れた千を超える武装したオークに囲まれており、着地する前に雑多な攻撃魔法が降り注いで来た。
蔓で魔法を打ち払いながら、キムノさんに向かって叫ぶ。
「防御壁!」
「あいよ」
キムノさんが光魔法で多数の魔法陣を描き、風の防御壁を広域に展開する。
蔓が草の中に隠れているオークの魔法師に襲い掛かり、足を掴んで振り回す。
見えない敵の反撃は予想していなかったようで、オーク達の間に動揺が走り、隊形が乱れている。
「敵だ、オークの群だ!」
時間差を置いて到着したメンバーに、ハンゾーさんが状況を伝える。
様子を見ながら整えようと思っていた体制が、しょっ鼻から待った無しの真剣勝負に為ってしまった。
しかも、魔素の目で見える範囲に限っても、色々な魔獣の群が、僕等に向かって動き出している。
このままでは、全方向から分厚い敵に取り囲まれることになってしまう。
魔素の目で見える範囲には、下の階層への降口や魔法陣のある隠し部屋も見当たらない。
どちらの方向へ向かって走れば良いのか解らなかったが、取敢えず走る方向を決めて走りだした。
雲霞の如く魔獣が湧いて出て来るので、足を止める訳には行かなかった。
半日程走って、ようやくこの空間の壁が見えて来た。
壁まで辿り着くと、急いで壁を利用しながら土魔法を使って小振りな要塞を構築し、風魔法の防御壁で周囲を覆った。
「辛いと思うが頑張ってくれ。今から全体を五班に分ける。一班が上面、二班が右面、三班が左面、四班が正面を担当してくれ。五班は急いで飯を食って、寝て体力と魔力を回復してくれ。五鐘寝たら一班と交代だ」
「壁に外の様子を映し出します。攻撃魔法担当は、横に並んで正面の敵を攻撃して下さい。敵が怯んだら、土魔法担当は出口を二ヶ所作って下さい。攻撃担当はそこから外へ出て、敵を攻撃してから素早く戻って下さい。全員が戻ったら出口を塞いで、治療担当は怪我人の治療に当たって下さい。治療が終わったら、再び魔法で攻撃して、同じ流れを繰り返して下さい。長丁場になります、人数が減ると個々の負担が増えます。人数の減少が最大の損失になります。絶対に無理はしないで下さい。それでは準備が整った班から開始して下さい」
魔素の目で見える外の光景を壁に映し出す。
画集作りでレベルアップした光魔法が、こんなところで役に立った。
一班六十人、三人組が二十組、予め決めて置いた三人の組み合わせが、ここで物凄く役に立った。
壁に外の光景を映し出す。
「うっ!」
押し殺した驚きの声が漏れる。
見渡す限り、魔獣の群で埋まっていたのだ。
僕の魔素の目で見える範囲も、びっしり魔獣で埋まっている。
僕達の様に、転送壁の前で一旦出直すパーティーは居なかったのだろう。
この状況なら、転送壁の情報が無かった事も納得できる。
「攻撃担当は、必ず人数を確認して下さいね」
理由は解らないのだが、僕達もここで死ねば死体は残らず、霧状になって迷宮の地面や壁へと吸い込まれる。
ようやく周囲から敵が居なくなったのは、四日後の夜だった。
外へ出たら、無数の魔石が転がっていた。
僕も四日振りに寝かせて貰った。
気が付いたら、明美は兎も角、キムノさんとアヤメさんとモミジさんが脇に寝ていた。
モミジさんの脇にはサスケさんが遠慮した様子で寝ていた。
二日後、空きっ腹を抱えながら、ようやく魔法陣のある隠し部屋を発見した。
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