上 下
69 / 75

69 検問

しおりを挟む
「マリオス様、竜殺と勇女がトトロスの港に現れたとの情報が入りました」
「湧いて出たのか」
「ええ、全くです。港は虱潰しに調べましたし、船着き場の監視からも街道の門の監視からも一切報告が入っておりません」
「うむ、じゃがあの手紙は本物だったということか、困ったものだ。元の世界へ戻ろうなんてとんでもない話じゃ」
「ええ、勇者の種付け予定も、勇女達の斡旋先も調整が終わっております。特にハル殿は半年後の婚姻に向けて、既に会場建設工事が五分方終わっております」
「勇女は身柄を確保し、竜殺は早急に処分しろ。忌々しいが、商人ギルドの手引きで奴の子種は十分に行き渡っておる。急げよ、王妃連中に知られたら大事だ」
「それと」
「なんじゃ」
「ダークエルフとエルフが同行しているそうです」
「・・・南大陸と中央大陸が結託してうらで手を引いているということか。捕らえて背景を白状させるか。女か」
「はい、若い女性、特にエルフは少女だそうです」
「少女か、ひひひ、それは楽しめそうじゃな。最近は入手が難しくてな、手を付けずに連れてくるように厳命しておけ。良いか」
「はっ、了解です」

ーーーーー

 気のせいかと思っていたが、駅馬車に監視が乗っている。
 馬車を降りた途端監視が入れ替わるので気が付くのが遅れた。
 馬車を降りた途端、別の人物が一定距離を保って後を付けて来ている。
 途中何度も入れ替わり、服に中に刃物を隠し持っていなければ、たぶん気が付かなかっただろう。
 組織的な監視が行われているようだ。

 三人に合図し、雑貨屋へ入り光魔法で外見を変える。
 店から出ると、監視は気が付いていない様で、向かいの店の軒下に立って、雑貨屋の入口を監視している。
 魔素の目で見たら、裏口にもご丁寧に人が配置されている。

 ツルに頼んで、蔓を一本その男へ伸ばして貰う。
 宿に入り、迷宮で鍛えた光魔法を駆使して、部屋の中央に町全体の立体地図を作り出す。
 蔓を巻き付けてある男を赤い光点で示し、様子を見る。

 周囲が暗くなり始めた時分、やっと異変に気付いたのか、蔓を伝って鮮明な声が聞こえて来た。

「可笑しい、店を調べるぞ」
「了解」

 声送りの魔法なのだろう、少しハウリングが掛っている。

”タタタタタ、キー、バタン。ガシャン、ビリッ、ガラガラ”

「きゃー、貴方達なにするの。兵を呼ぶわよ」
「しまった、俺は報告へ向かう。おまえは下水を調べろ」
「えっ」
「不服か」
「いえ、了解です」

 光点が僕達の宿の方向へ移動し始めた。
 一瞬ひやりとしたが、光点は宿の向の建物の二階へと入って行った。
 キムノさんが光魔法で、その部屋の窓の隙間からその部屋の光景を引っ張り出し、十分の一のスケールで部屋の中央に写し出す。

 応接セットと机が三つ、壁際の棚には何も入っていない、空きオフィスの様だ。

ーーーーー

「馬鹿者、何処に目が付いているんだ!」
「店に入ったのは見届けたんです。ですが出てきませんでした」
「店の中で変装でもしたんじゃないのか」
「俺達は素人じゃありません。そんな物見分けが付きます」
「この町の門を厳重に監視するぞ。今すぐ手分けして監視へ向かえ。緊急事態だ、俺はこの町の駐屯所に応援を依頼してくる。確認だ、争いになったら竜殺は殺せ。ダークエルフも場合によっては殺して構わん。エルフと勇女には怪我をさせるな」
「了解です」

ーーーーー

「ねえタケちゃん、これって差別じゃないの」
「うーん、何で俺を殺したがってるだろうか」
「兄ちゃん、前も一回指名手配されてたよね。今度は何やったの」
「何もしてないぞ」
「父ちゃん、あいつ等やっつける」
「軍隊との戦争になっちゃうから駄目だぞ」

 翌朝、僕は別人の姿を纏って表門へとやって来た。
 警備兵達により検問が張られ、厳重に町から出て行く人達がチェックされている。
 表門前には順番待ちの長蛇の列が出来ており、御者と警備兵の間で罵声が行き交っている。
 客の確認が終わり、御者の捨て台詞を残して駅馬車が一台町から出て行く。
 その駅馬車の最後列に座っている四人に、光魔法で僕達の幻影を重ねた。

「うわー、いたぞ。追い駆けろ」

 当然驚いた御者は逃げようとするので、検問の警備兵達が追い駆けて行き、大混乱となった。
 その隙に何台もの馬車が検問を無視して門から出て行こうとする。
 残った警備兵達が制止しようとするが、対応しきれていない。
 制止を振り切った駅馬車の客に僕達の幻影を乗せる。

「うわー、逃がすな」

 警備兵が門を閉めようとする、慌てた旅人や荷車が門に殺到する。

「隊長、裏門から応援要請です。竜殺が裏門を突破して林の中へ逃れたそうです」
「くそっ、こちらは陽動か。裏門に向かうぞ」

「へー、こっちも良い具合に混乱してるわね」
「そっちはどう、キムノさん」
「幻影を乗せた鹿を一生懸命追い駆けてるわよ」

 僕達はゆっくりと昼飯を食って、ほとんどフリーパス状態の検問を抜けて次の町へと向かった。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:16,515pt お気に入り:3,310

時の宝珠

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:59

処理中です...