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71 失踪
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クリスタ第一守備隊 小隊長 グルコス
夜警を終え、任務交代引継ぎのために駐屯所へ戻ったら、大騒ぎになっていた。
引継ぎ相手の小隊も駆り出されており、宿所へ戻ることも出来ない。
仕方が無いので、詰所でお茶を飲んで時間を潰していた。
あーあ、早く帰って酒が飲みたい。
駐屯所の警備隊が詰所に戻って来たので、騒ぎの原因を聞いてみた。
「大隊長殿が攫われた」
「・・・・・・えー!!!」
本局のお偉いさんが視察に来ていることは知っていた。
確か警吏大隊の大隊長で、某大国の有力公爵のお上品なお嬢様だった筈だ。
俺みたいな叩き上げの下積みとは縁の無い、雲の上のエリート中のエリート様だ。
昨日ちらっと見た時は、気の強そうな物凄い美人で、突っ込まれたらどんな顔するだろうかと思っただけだった。
あの美人が攫われた!攫った奴は今頃あんな事やこんな事をして良い思いをしてるだろう、くそっ、羨ましい。
「所長は錯乱状態だぜ」
そりゃそうだ、大勢の兵士が詰めてる場所のど真ん中で、エリートのお嬢様を攫われたたんだ。
前代未聞だし、良い笑い話だ、十年位は酒の肴になる。
確実に僻地へ左遷だろ。
「ケレスの小隊は何処にいるんだ」
「ありゃ十日位戻れねーんじゃないかな。所長が尻叩いて一緒に走り回らせているぜ」
「げー帰れねーじゃないか。こらププス酒飲むんじゃねーぞ、俺だって我慢してるんだ」
詰所の机の上に足を投げ出し、隊員と馬鹿話をしていたら、隊長殿が詰所に飛び込んで来た。
俺は慌てて立ち上がり、敬礼した。
「ちょうど良かった。グルコス、夜露亭という宿は知っているか」
「はい、知っております。隊長殿」
「そこへ大隊長の護衛兵を案内してくれ。それとこれは全員に言っておく。箝口令が出された、これから見聞きすることは、一切漏らすな。違反者は打ち首と覚悟してくれ」
「はっ、了解であります」
護衛兵十六人を引き連れて夜露亭に走る。
護衛兵達の目が血走っており、歩いて行く雰囲気ではなかった。
夜露亭に到着した、宿の回りが何だか騒がしい。
護衛兵達は帳場を抜け、宿の裏庭に走り込んだ。
裏庭には大勢野次馬が群がっており、何かを取り囲んでいる。
「貴様ら見世物じゃないぞ、立ち去れ!」
護衛兵達が血相を変えて抜刀する。
野次馬達が大慌てで我先にと逃げ出した。
逃げ去った後には、全裸で縛られた若い女性、大隊長が地面の上に転がっていた。
若い女性兵達は涙を流している。
俺も取敢えず有り難く拝んでおいた。
白目を剥いて、口から泡を吹いている。
尋問室の様に、小便の臭いが漂っている。
隊長らしき男が手足の縄を切ってから、脈を探る。
「大丈夫だ、生きていらっしゃる」
隊長らしき男が、安堵したように、ハラハラと涙を流している。
護衛兵数人が宿に駆け込み、毛布を持って戻って来た。
大隊長を丁寧に毛布で包み、若い男が大隊長を背負う。
大隊長を中心に囲む様に、全員が抜刀して、内側に六人、外側に九人の二重の陣を張って、護衛兵達が駆け出した。
駐屯地前に待機していた馬車へ大隊長を乗せ、そのまま駐屯地には入らず、護衛兵達は騎乗して二重の陣をそのまま維持して聖都へと走り去った。
所長は崩れる様に地面に膝を突いて、その光景を見送っていた。
一日後、隊長に呼ばれたので応接室へと向かった。
するとそこには、隊長だけではなく、先日の護衛兵の隊長も同席していた。
「グルコス、すまんな。先日の夜露亭への往復で何か変わった事は無かったか」
「隊長、あの、箝口令は」
「大丈夫だ、安心して喋れ。これは物凄く重要な事だ」
「うーん、特に変わったことは・・・うーん」
「それじゃ、行きと帰りの人数はどうでした」
護衛兵の隊長が聞いて来た、うん、悔しいが女にもてそうな奴だ。
「行きも帰りも同じメンバー、同じ人数でしたよ」
「確かか」
「ええ、町中で逸れるといけねーんで、全員の顔をちゃんと確認しましたから。生き帰り同じですよ」
「馬車が出発した時は」
「それも同じでさ、隊長殿は馬車に乗っていたんで若い男の位置が入れ代ってましたけど」
「うーん、それじゃ町を出てからか」
「何かあったんで」
「いいか」
「ああ、構わんよ」
「その若い男も含めて、四人護衛兵が聖都に戻っておらん。何時消えたのか今調べている」
「あっ、気になる事が一つありやした。でも違うか」
「何でも良い。言ってみろ」
「毛布を宿へ取りに行きやしたよね」
「ええ」
「客用の毛布持って来たんで、気が利くなって思ったんでさ」
「何故です」
「あの宿の一階は従業員の部屋なんでさ。二階へ行かないと客用の毛布はないんで」
「毛布を取りに行った兵の顔は覚えてますか」
「ええ、あの若い男と、赤毛と緑毛と銀毛の女でさ」
「・・・・・、くそっ、宿か。大隊長を囮に使ったのか、だから裸で・・・・」
「グルコス、急いであの宿を調べに行け」
「はっ、了解です」
宿の一階の階段下の物置の中に、制服を剥ぎ取られ、猿轡で口を塞がれた四人の護衛兵が放り込まれていた。
クリスタ第一守備隊 小隊長 グルコス
夜警を終え、任務交代引継ぎのために駐屯所へ戻ったら、大騒ぎになっていた。
引継ぎ相手の小隊も駆り出されており、宿所へ戻ることも出来ない。
仕方が無いので、詰所でお茶を飲んで時間を潰していた。
あーあ、早く帰って酒が飲みたい。
駐屯所の警備隊が詰所に戻って来たので、騒ぎの原因を聞いてみた。
「大隊長殿が攫われた」
「・・・・・・えー!!!」
本局のお偉いさんが視察に来ていることは知っていた。
確か警吏大隊の大隊長で、某大国の有力公爵のお上品なお嬢様だった筈だ。
俺みたいな叩き上げの下積みとは縁の無い、雲の上のエリート中のエリート様だ。
昨日ちらっと見た時は、気の強そうな物凄い美人で、突っ込まれたらどんな顔するだろうかと思っただけだった。
あの美人が攫われた!攫った奴は今頃あんな事やこんな事をして良い思いをしてるだろう、くそっ、羨ましい。
「所長は錯乱状態だぜ」
そりゃそうだ、大勢の兵士が詰めてる場所のど真ん中で、エリートのお嬢様を攫われたたんだ。
前代未聞だし、良い笑い話だ、十年位は酒の肴になる。
確実に僻地へ左遷だろ。
「ケレスの小隊は何処にいるんだ」
「ありゃ十日位戻れねーんじゃないかな。所長が尻叩いて一緒に走り回らせているぜ」
「げー帰れねーじゃないか。こらププス酒飲むんじゃねーぞ、俺だって我慢してるんだ」
詰所の机の上に足を投げ出し、隊員と馬鹿話をしていたら、隊長殿が詰所に飛び込んで来た。
俺は慌てて立ち上がり、敬礼した。
「ちょうど良かった。グルコス、夜露亭という宿は知っているか」
「はい、知っております。隊長殿」
「そこへ大隊長の護衛兵を案内してくれ。それとこれは全員に言っておく。箝口令が出された、これから見聞きすることは、一切漏らすな。違反者は打ち首と覚悟してくれ」
「はっ、了解であります」
護衛兵十六人を引き連れて夜露亭に走る。
護衛兵達の目が血走っており、歩いて行く雰囲気ではなかった。
夜露亭に到着した、宿の回りが何だか騒がしい。
護衛兵達は帳場を抜け、宿の裏庭に走り込んだ。
裏庭には大勢野次馬が群がっており、何かを取り囲んでいる。
「貴様ら見世物じゃないぞ、立ち去れ!」
護衛兵達が血相を変えて抜刀する。
野次馬達が大慌てで我先にと逃げ出した。
逃げ去った後には、全裸で縛られた若い女性、大隊長が地面の上に転がっていた。
若い女性兵達は涙を流している。
俺も取敢えず有り難く拝んでおいた。
白目を剥いて、口から泡を吹いている。
尋問室の様に、小便の臭いが漂っている。
隊長らしき男が手足の縄を切ってから、脈を探る。
「大丈夫だ、生きていらっしゃる」
隊長らしき男が、安堵したように、ハラハラと涙を流している。
護衛兵数人が宿に駆け込み、毛布を持って戻って来た。
大隊長を丁寧に毛布で包み、若い男が大隊長を背負う。
大隊長を中心に囲む様に、全員が抜刀して、内側に六人、外側に九人の二重の陣を張って、護衛兵達が駆け出した。
駐屯地前に待機していた馬車へ大隊長を乗せ、そのまま駐屯地には入らず、護衛兵達は騎乗して二重の陣をそのまま維持して聖都へと走り去った。
所長は崩れる様に地面に膝を突いて、その光景を見送っていた。
一日後、隊長に呼ばれたので応接室へと向かった。
するとそこには、隊長だけではなく、先日の護衛兵の隊長も同席していた。
「グルコス、すまんな。先日の夜露亭への往復で何か変わった事は無かったか」
「隊長、あの、箝口令は」
「大丈夫だ、安心して喋れ。これは物凄く重要な事だ」
「うーん、特に変わったことは・・・うーん」
「それじゃ、行きと帰りの人数はどうでした」
護衛兵の隊長が聞いて来た、うん、悔しいが女にもてそうな奴だ。
「行きも帰りも同じメンバー、同じ人数でしたよ」
「確かか」
「ええ、町中で逸れるといけねーんで、全員の顔をちゃんと確認しましたから。生き帰り同じですよ」
「馬車が出発した時は」
「それも同じでさ、隊長殿は馬車に乗っていたんで若い男の位置が入れ代ってましたけど」
「うーん、それじゃ町を出てからか」
「何かあったんで」
「いいか」
「ああ、構わんよ」
「その若い男も含めて、四人護衛兵が聖都に戻っておらん。何時消えたのか今調べている」
「あっ、気になる事が一つありやした。でも違うか」
「何でも良い。言ってみろ」
「毛布を宿へ取りに行きやしたよね」
「ええ」
「客用の毛布持って来たんで、気が利くなって思ったんでさ」
「何故です」
「あの宿の一階は従業員の部屋なんでさ。二階へ行かないと客用の毛布はないんで」
「毛布を取りに行った兵の顔は覚えてますか」
「ええ、あの若い男と、赤毛と緑毛と銀毛の女でさ」
「・・・・・、くそっ、宿か。大隊長を囮に使ったのか、だから裸で・・・・」
「グルコス、急いであの宿を調べに行け」
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