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72 幽霊
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ーーーーー
聖都国家連合文化部 クリスタル公園管理事務所職員 ミゲル
夜空は厚い雲に覆われ、今夜は月も星も見えない。
閉園を知らせる鐘を鳴らしてから、園内を照らす光石を一個ずつ消して行く。
闇が園に広がって行き、アベック客が慌ててベンチから立ち上がり、門へ向かって歩いて行く。
今日は楽だ、月の明るい晩には、客を園内から追い出すのに結構苦労する。
黒竜に削られた園内も、この二年でだいぶ修復が進んだ。
クリスタルの柱群も復元され、元の姿を取り戻しつつある。
黒龍の犠牲となった人々の為に造られた慰霊碑も、詣でる人がだいぶ減った。
設置当初は、閉園後の献花の処分が一苦労だったが、今は片手で数えられる程しか置かれていないので、ゴミ拾いのついでに処分できる。
勇者と勇女の小さな鎮魂塔に至っては、そこに存在する事自体、気付く人すら少なくなっている。
時は全てを忘れさせてくれる。
死んだ恋人、死んだ友達。
ましてや、勇者や勇女は真っ先に記憶の底へと埋もれてしまう。
どんな勇者と勇女がここで死んだのか、何が起こったのか、覚えている奴もほとんど居なくなるだろう。
”ビーン”
リュトルの弦の音が闇に響いた。
人々が立ち去った後、リュトルを奏でて悦に入る馬鹿な吟遊詩人が時々いる。
迷惑なので、捜し出してさっさと園から追い出そう。
音が聞こえた方向へ行くと、微かな灯りが見えてきた。
思ったとおり、迷惑な吟遊詩人なのだろう。
「おい、おまえ・・・・・」
声を掛けたものの、錯覚かと思い何度も目を擦った。
微かな灯りは人の形をしていたのだ。
リュトルを抱えた若い男女の形をしており、向こう側が透けて見える。
女が俺の方を振り向いてニヤリと笑った、頭が半分千切れている。
「うわーー」
俺は必死に逃げ出した。
ーーーーー
聖都国家連合 能力者保護観察局 警吏大隊 本部護衛隊隊長 ケリオス
大隊長に非道を働いた竜殺は、まだ見つかっていない。
勿論我が隊も、昼夜を問わず、必死に探している。
大隊長殿を裸に剥かれ、狼狽している隙を衝かれて、結果的に竜殺を聖都へ引き入れてしまった。
道化の極みで、無能でございと看板を背負って歩いている様なものだ。
真っ先に我々が竜殺を捜し出して汚名を濯がなければ、我々の軍での居場所がない。
聖都では竜殺の手配は行っていない。
箝口令を布いたうえ、全軍が密かに聖都中を探っている。
似顔絵に意味が無い事に加え、竜殺が生きていること、竜殺が勇者や勇女を連れ出そうと潜入している事を彼らに知られる方がリスクとして大きいのだ。
そんな我々の思惑を嘲笑うように、クリスタル公園に竜殺とアキ勇女の亡霊が現れたとの噂が流れている。
ーーーーー
聖都国家連合 能力者保護観察局 警吏大隊 第三方面隊隊員 キリーシア
クリスタル公園の捜査を命じられたました。
亡霊騒ぎは竜殺の仕業なので、カラクリを調べろとの命令でした。
「ミーミア、大丈夫かな、本物の幽霊じゃないよね」
「キリーシア、これだけ全軍で竜殺を捜しても全然見付からないのは変だと思わないか」
「うん」
「竜殺は最初からこの世に存在してないから・・・」
「きゃー、止めてー」
「あははは、キリーシア、冗談だよ。幽霊なんて存在しないさ」
「もう、ミーミアったら、からかわないでよね」
「あはははは、悪かったよ、怒るなよ。チョコパフェ奢る・・・・。ひー、キッ、キッ、キリーシア。後ろ」
「またー、もう騙されないわよ」
でもミーミアは口をパクパクさせ、迫真の演技です。
恐々と振り返ってみたら、男の人が地面から半分生えていました。
右側半分が、何かに齧られた様に無くなっています。
「ギャー」
剣を抜いて必死に切り付けましたましたが、すり抜けてしまって手応えがありません。
”痛い、苦しい、助けてくれ”
男はそうしわがれた声で言って、私の方へ手を伸ばして来ました。
逃げようとしても、何かが足を掴んでいて動けません。
「いやっ、いやっ、いやっ」
何かベトッとしたものが膝に触れ、太腿を這い上がって来ました。
恐怖で意識が飛んでしまいました。
「ミーミア、キリーシア、何が有った」
気が付いたら隊長に抱き起されていました。
「びえー、ひー」
隊長に抱き付いて泣いてしまいました。
ミーミアも副長に抱き付いて泣いています。
幽霊の現れた場所には何も有りませんでした。
あれは絶対に本物です。
太腿にはべっとりと血が付いていました。
これ以降、クリスタル公園は閉鎖されました。
聖都国家連合文化部 クリスタル公園管理事務所職員 ミゲル
夜空は厚い雲に覆われ、今夜は月も星も見えない。
閉園を知らせる鐘を鳴らしてから、園内を照らす光石を一個ずつ消して行く。
闇が園に広がって行き、アベック客が慌ててベンチから立ち上がり、門へ向かって歩いて行く。
今日は楽だ、月の明るい晩には、客を園内から追い出すのに結構苦労する。
黒竜に削られた園内も、この二年でだいぶ修復が進んだ。
クリスタルの柱群も復元され、元の姿を取り戻しつつある。
黒龍の犠牲となった人々の為に造られた慰霊碑も、詣でる人がだいぶ減った。
設置当初は、閉園後の献花の処分が一苦労だったが、今は片手で数えられる程しか置かれていないので、ゴミ拾いのついでに処分できる。
勇者と勇女の小さな鎮魂塔に至っては、そこに存在する事自体、気付く人すら少なくなっている。
時は全てを忘れさせてくれる。
死んだ恋人、死んだ友達。
ましてや、勇者や勇女は真っ先に記憶の底へと埋もれてしまう。
どんな勇者と勇女がここで死んだのか、何が起こったのか、覚えている奴もほとんど居なくなるだろう。
”ビーン”
リュトルの弦の音が闇に響いた。
人々が立ち去った後、リュトルを奏でて悦に入る馬鹿な吟遊詩人が時々いる。
迷惑なので、捜し出してさっさと園から追い出そう。
音が聞こえた方向へ行くと、微かな灯りが見えてきた。
思ったとおり、迷惑な吟遊詩人なのだろう。
「おい、おまえ・・・・・」
声を掛けたものの、錯覚かと思い何度も目を擦った。
微かな灯りは人の形をしていたのだ。
リュトルを抱えた若い男女の形をしており、向こう側が透けて見える。
女が俺の方を振り向いてニヤリと笑った、頭が半分千切れている。
「うわーー」
俺は必死に逃げ出した。
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聖都国家連合 能力者保護観察局 警吏大隊 本部護衛隊隊長 ケリオス
大隊長に非道を働いた竜殺は、まだ見つかっていない。
勿論我が隊も、昼夜を問わず、必死に探している。
大隊長殿を裸に剥かれ、狼狽している隙を衝かれて、結果的に竜殺を聖都へ引き入れてしまった。
道化の極みで、無能でございと看板を背負って歩いている様なものだ。
真っ先に我々が竜殺を捜し出して汚名を濯がなければ、我々の軍での居場所がない。
聖都では竜殺の手配は行っていない。
箝口令を布いたうえ、全軍が密かに聖都中を探っている。
似顔絵に意味が無い事に加え、竜殺が生きていること、竜殺が勇者や勇女を連れ出そうと潜入している事を彼らに知られる方がリスクとして大きいのだ。
そんな我々の思惑を嘲笑うように、クリスタル公園に竜殺とアキ勇女の亡霊が現れたとの噂が流れている。
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聖都国家連合 能力者保護観察局 警吏大隊 第三方面隊隊員 キリーシア
クリスタル公園の捜査を命じられたました。
亡霊騒ぎは竜殺の仕業なので、カラクリを調べろとの命令でした。
「ミーミア、大丈夫かな、本物の幽霊じゃないよね」
「キリーシア、これだけ全軍で竜殺を捜しても全然見付からないのは変だと思わないか」
「うん」
「竜殺は最初からこの世に存在してないから・・・」
「きゃー、止めてー」
「あははは、キリーシア、冗談だよ。幽霊なんて存在しないさ」
「もう、ミーミアったら、からかわないでよね」
「あはははは、悪かったよ、怒るなよ。チョコパフェ奢る・・・・。ひー、キッ、キッ、キリーシア。後ろ」
「またー、もう騙されないわよ」
でもミーミアは口をパクパクさせ、迫真の演技です。
恐々と振り返ってみたら、男の人が地面から半分生えていました。
右側半分が、何かに齧られた様に無くなっています。
「ギャー」
剣を抜いて必死に切り付けましたましたが、すり抜けてしまって手応えがありません。
”痛い、苦しい、助けてくれ”
男はそうしわがれた声で言って、私の方へ手を伸ばして来ました。
逃げようとしても、何かが足を掴んでいて動けません。
「いやっ、いやっ、いやっ」
何かベトッとしたものが膝に触れ、太腿を這い上がって来ました。
恐怖で意識が飛んでしまいました。
「ミーミア、キリーシア、何が有った」
気が付いたら隊長に抱き起されていました。
「びえー、ひー」
隊長に抱き付いて泣いてしまいました。
ミーミアも副長に抱き付いて泣いています。
幽霊の現れた場所には何も有りませんでした。
あれは絶対に本物です。
太腿にはべっとりと血が付いていました。
これ以降、クリスタル公園は閉鎖されました。
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