欠陥品なんです、あなた達は・・・ネズミ捕りから始める異世界生活。

切粉立方体

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73 再会と迷い

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聖都国家連合 能力者保護観察局 警吏大隊 本部護衛隊隊長 ケリオス

 竜殺の戦略に乗せられない為に、クリスタル公園を直ぐに閉鎖したのだが、幽霊は公園の外に現れ始めた。
 気が付くと幽霊は昼でも闇の中に立っているそうで、何かに足を掴まれて、その場から動けなくなるらしい。
 情けないことに、竜に半身を齧られた酷い姿で迫られて、屈強の兵士が何人も恐怖で気を失っている。

 血塗れの手で触れられ、服も身体も真っ赤に染まったように見えるのだが、翌朝になると何故か綺麗に血は消えている。
 それでも、血の記憶と恐怖は深く深く心の中に刻まれるようで、人々の間に、尾ひれと背びれが着いた噂が広がっていく。
 そして民区の人達が、外へ出歩かなくなった。

 竜殺の狙いはこれだったのか、物の流通が滞り、第一群域の貴族達の城にも影響が出始めた。
 第一群域への人の出入りを管理し、箝口令を布いて幽霊の情報を秘匿していた国家連合も、貴族達からの糾弾を受け、自ら説明をせざるを得なくなった。

「スノウ様とアキちゃんの幽霊ですか・・・。何故それを隠していたのですか」
「私達がクリスタル公園で大々的な慰霊の儀式を催して、二人の魂を慰めてあげるべきでしょ」
「それは出来ません」
「何故なのか理由を説明なさい」
「国家連合の一員として、説明を受ける権利が私達にはあります。物資が不足して、兵士達の食事制限を検討している状況なのですよ」

 竜殺が生きていて、勇者と勇女を攫おうとしているからとは言えない。

「先週から第一群域の警備が厳しくなったことはご存知かと思います」
「ええ知っているわ」
「その説明もまだだな」
「怠慢なんじゃないか」
「手を抜いてるの、あなた達は」
「詳しい説明は秘密事項なので出来ませんが、皆様方を害そうとする者が聖都に侵入しております。その者から貴方方を護るためです」
「なんだそれは、聖都への侵入を許しただと!お前達の怠慢じゃないか」
「責任者を処分しろ」

 ちっ、小五月蠅い餓鬼どもだ。

「それ故、今、民区へ立ち入ることは危険です。儀式は私共で行います」

「そう、でもそれまで商人達からの納品が来ないのは困るわ」
「そうよ、お茶会でお出しするお菓子に困ってるの」
「お前達が商人を護衛なさい」
「・・・・、我々は今、第一群域の警備で手一杯です。ご理解下さい」
「酷いわ、お菓子無しでお茶会やれって言うの」
「貴方じゃ話にならないわ。責任者を呼びなさい」
「大隊長殿は、体調を崩され入院中です」
「それ何よ、それじゃ国家連合の議長にお父様から申し入れして貰うわ」
「・・前向きに検討いたしますので、それは勘弁して下さい」

ーーーーー
第一群域警備兵 マニトース

 眠い、交代要員を大幅に減らされ、寝不足が続いている。

「ちゅぎのひゅと」

 護衛の兵も含め、俺達は門から中へ入る者全員の認識票を検査している。
 小隊長は、目が虚ろになって、もう呂律が回らなくなって来ている。
 自分も含め、小隊長以外は、この半日誰も喋っていない。
 心が折れそうなので、検査待ちの先の見えない列は見無いようにして、機械になった積もりで、粛々と検査をこなす。
 商人から認識票を受け取り、手の平を検査板の上に置かせてから、鑑定確認の魔道具に認識票を差し入れる。
 
"ブー”

「えっ、あっ」

 眠気覚ましとストレス解消も兼ねて、全員で飛び掛かって取り押さえる。
 女性の認識票だったので、たぶん恋人か妻の認識票を間違えて持って来たのだろう。
 俺が昨晩一生懸命働いている時に、こいつは一糸纏わぬ姿で楽しい事をしていたに違いない。
 悔しいので蹴りを三発入れておいた。
 商人は、足を引き摺りながら護衛兵達と一緒に帰って行った。
 護衛兵もうんざりした顔をしている、奴らも眠る時間を削られている筈だ。

”ブー”

「ぎゃー」

 小心者なのか、錯乱して逃げ回る奴がいた。
 マニュアルどおりに門を閉鎖してから、列に並んでいた護衛兵達と一緒に追い駆ける。
 素早しっこい奴で、結局護衛兵達が街の方へ追い駆けて行った。
 寝不足で走り回るのは辛い、膝に手を当てて呼吸を整えていたら、後ろから声が掛けられた。

「交代だ」

 有り難い、やっと交代の隊がやって来た。

「トラブルがあったので門は閉鎖してある」
「了解した」

 小隊長が交代の隊の小隊長に鍵を渡している。
 これでやっと宿所に帰って酒が飲める。

ーーーーー

「交代だ」
「規則なので認識票を確認させてもらう」

 交代の隊が検査テーブルの前に整列した。
 認識票を受け取り、鑑定確認の魔道具に差し入れる。

「確認した。それじゃ門の鍵を引き継いでくれ。後は宜しく頼む」
「了解した」

 やっと第一群域へ侵入することが出来た。

 キャリアの護衛兵に紛れ込んで聖都へ入り、ほっと胸を撫で下ろしていたのだが、第一群域を囲む長い塀沿いには五メートル間隔で警備兵が配置されているし、門の出入りには、認識票まで魔道具で確認されており、外見を光魔法で取り繕っても騙せて侵入できる状態では無かった。

 光魔法で幽霊騒ぎを起こし、ハルさん達を民区へ引っ張り出そうとしたが失敗した。
 でもこの幽霊騒ぎおかげで兵士達が商人の護衛に引っ張りだされ、警備兵達の消耗が目に見えて激しくなって来たので隙を狙っていた。
 数日監視を続けると、疲労が溜まって来ても、外に対する警戒心は薄れることは無かったが、内に対する警戒心が弛緩し始めた。
 特に引き継ぎの手順がルーズに、互いの認識票の確認を怠る隊が多くなった。
 最も確認が甘くなっている隊に狙いを絞り、念の為騒動を起こして、引き継ぎの間の隙間に潜り込んだ。
 最初は次の隊に化け、検査をしながら前の隊へと徐々に姿を変えたら、気が付く者はいなかった。
 何食わぬ顔で警備兵の詰所に入り、裏口から出てハルさん達の館へと向かった。

 男性の居住区も、女性の居住区も五メート毎に警備兵達が取り囲んでおり近付けなかった。
 でもツルの蔓は十分に届くので、蔓を介して話も出来るし、僕の魔素を見る目で作った地図で場所を特定し、キムノさんが互いの映像を映し出す。
 
 二年ぶりに見る七人は、ずいぶん成長していた。
 ハルさんは品の良い美女になっており、リコ、メイ、リンも身長が伸び、少女の面影に女性の表情が混じり始めている。
 ユウは僕と同じくらいの身長になり、もう十分に大人と言っても良いくらいだ。
 孝太と隆文は、身長は伸びていたが、まだまだ子供の顔をしている、ツルを見て大喜びしていた。

「その鏡を使えば日本へ帰れるのね。私は賛成よ、タケさん」
「私も帰りたい。お兄ちゃんに賛成よ」
「私も」
「賛成」
「僕達も帰りたい」
「うん」
「ユウは」
「うーん」
「駄目よユウ、あなたも一緒に帰りなさい」
「ユウのエッチ」
「助平」
「知ってるわよ、エッチ旅行」
「ギクッ」
「来週からまた行くんでしょ」
「ドスケべ」
「色魔」
「これは勇者の仕事なんだぞ。俺だって仕方無く」
「へー、帰って来た時食堂で鼻歌歌ってたわよね」
「コウとタカに自慢話してたわよね」
「何か腰振って実演してたわよね」
「コウ、私恥かしいわよ」
「仕方が無いだろ。仕事なんだよ」
「うん、男として迷う気持ちは解るぞ、ユウ。綺麗な女の子と毎晩やれるんだもんな。向うに戻ったら、こんな機会は絶対に来ない」
「だろ、タケミチもそう思うだろ」
「タケさん!」
「でもなユウ、ここの連中は信用するな。お前の事は、都合の良い道具としてしか考えていない。不用になったら殺されるぞ」
「えっ、そんな馬鹿な」
「俺はここの連中に命を狙われている。理由はお前達を元の世界へ連れ戻そうとしてるからだ。ユウ、お前だけじゃない、全員を自分達の所有物としか考えていない。人としての尊厳の問題だ、ユウ、後は自分で下半身と相談しろ」
「タケさん、何か恰好良くなった」
「うん、お兄ちゃん大人っぽくなった」
「うん、渋くなった」
「うん、チャラ男じゃ無くなった」
 
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