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74 脱出
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ユウも未練たっぷりに同意した。
キムノさんと僕が協力し、皆の部屋の適当な物に本人達の虚像を被せる。
本人達には別人の映像を被せて部屋を抜け出させ、帰宅する下働きの人達と一緒に館から退出してもらう。
民区へは、護衛兵に護られた送迎用の通勤馬車が運行しているので、僕等も含めて全員がそれに乗り込んだ。
僕達は、庭園の手入れをしていた庭師さん達に紛れ込んだ。
ハルさん達は互いに化けて居る姿を知らないので、皆バラバラの馬車に乗り込み座っている。
僕が魔素の目で確認しているし、ツルの蔓を使って声は送っているので、全員が揃っていることは知らせてある。
第一群域から馬車が出る時はチェックは無い。
門の前の検査待ちの行列は相変わらず伸びていたので、まだ何も気付かれていない様だ。
民区の停車場で降り、クリスタの町へ向かう駅馬車へ乗り換える。
僕達四人以外は、互いが判らずバラバラに座っている。
僕から見れば、皆不安そうに周囲をキョロキョロと見回しているのだが、不審に思う者はいない。
聖都へ入る馬車も、トンネルを抜ける馬車も厳しく検査されるのだが、逆方向へ向かう馬車の検査は一切無い。
クリスタの町の検問は解除されていたのだが、念のため、急いでトトロス方面へ向かう駅馬車へ乗り込んだ。
光魔法の力が届く距離は越えている、ハルさん達が居なくなった事がばれるのは、時間の問題だと思っている。
夜行便の馬車の中で寝て、適当に停車場の露店で食べる物を買う。
馬車を乗り換える度に外見を変えているので、互いに相手が判らない状態は維持している。
迷惑だとは思ったが、ツルがトトロス方面へ向かう鷹や隼や鷲を全部捕まえて、足の筒に入っていた手紙を全て奪い取った。
聖都を出た翌日に、切迫した内容の検問設置の軍の通信文が送られてきて、直ぐに北大陸全土の港閉鎖の命令書が送られて来たが、四日後、僕達は無事トトロスの港町に検問無しで到着した。
中央大陸の戻ると美味しい物は食べられなくなる。
中央大陸へ戻る扉の直ぐ近くに宿を取り、初めて全員の光魔法を解除した。
「タケさん、本物のタケさんなのね。お化けじゃ無いよね」
『お兄ちゃんー』
ハルさんとリコとメイとリンが泣きながら飛び付いて来た。
映像では再開しているが、実体が無いので半信半疑だったらしい。
顔をゴシゴシと擦り付けて来た。
リコとメイとリンの頭の位置がだいぶ高くなおり、身体付きも女性らしく変っていた。
明美とも抱き合って泣いている。
ハルさんと明美の背が同じくらいになっていた。
孝太と隆文も抱き寄せてやったら泣いていた。
ユウはもう中三から高一くらいの男なので、抱き寄せようとしたら拒否られた。
明美は、抱き付こうとしたユウは蹴り倒していたが、孝太と隆文はハグしてあげていた。
「アキちゃん綺麗になったね」
「うん、びっくりした」
「ありがとう、コウ、タカ」
そうなのか、全然気が付かなかった。
キムノさんとツルを改めて紹介した。
「キムノです。タケちゃんの奥さんです」
「ツルです。父ちゃんの娘です」
『えー』
ダークエルフのキムノさんとエルフのツル、百パーセントの誤解が成立して、ハルさん達に怖い顔で睨まれてしまった。
「違うよ、兄ちゃんの奥さんは僕だよ」
「えー、ツルちゃんはアキちゃんの娘なの」
変な勘違いが暴走しそうなので、取り敢えず誤解は解いておいた。
「タケミチ、中央大陸ってダークエルフやエルフの美人が一杯居るのか」
うん、ユウはぶれない。
「キムノさんは南大陸出身だけどな。居るよ」
「おっしゃー」
「エルフの写真集作ってるんだけど、後で見るか」
「ヌードか」
「当たり前のこと聞くなよ」
「姉ちゃん、若い男女が一つの部屋で寝るって、良くないと思うんだ。部屋分けようよ」
「ユウ、あんた何を企んでいるの」
「ダメ―、お兄ちゃんと一緒に寝たい」
「却下、却下」
「コウ、タカ、あんた達も何か言いなさい」
「うん、僕は一緒でいいよ」
「僕も皆と一緒の方が楽しい」
相変わらずユウの意見は尊重されていない。
久々に床の上に布団を敷いて雑魚寝した。
自分の定位置をツルに取られた明美は、少々不満そうだった。
ーーーーー
翌朝、港が大騒ぎになっていた。
聖都から派遣された兵士が到着したようなのだが、港封鎖の命令書が届いていないので、船を止めようとする兵士と出航しようとする船乗りが殴り合いを始めているそうなのだ。
港の入国管理事務所の職員達は、半狂乱状態で走り回っていた。
荷主達も倉庫を求めて走り回り、荷車が右往左往している。
価値の低く嵩張る荷が買い上げられ、倉庫から放り出されて港の広場に積み上げられていく。
圧倒的に多いのは穀物の入った袋や塩漬肉の樽、ここでは価値が低いのだが、大迷宮では高級品だ。
ただ同然の叩き売りになったので、アイテムボックスに入るだけ買い求めた。
兵士達は船の出航を阻止するのに必死で、町中を見回る余裕は無い。
朝飯と昼飯をゆっくりと楽しんだ後、扉を潜って大迷宮へと移動した。
ハルさん達の実力では、まだここの魔獣には敵わない。
一番近い魔法陣から地上へ急いで戻った。
ハルさん達には、急いで中央大陸語を覚えて貰った。
言葉をある程度覚えたら、冒険者ギルドの魔法の講習会を受けてもらった。
ユウが一番頑張って、直ぐに中央大陸方式の魔法が上達した。
特に光魔法の上達が著しい。
そして僕を先生と呼ぶようになった。
月曜から日曜日までは迷宮に入って訓練し、風曜日から聖曜日までは中央大陸の光魔法文化の情報収集研究へと向かう。
「姉ちゃん、先生と一緒に中央大陸の光魔法文化の調査へ行って来る」
「熱心ねユウ、しっかり勉強してくるのよ」
「うん、もちろんだよ」
キムノさんと僕が協力し、皆の部屋の適当な物に本人達の虚像を被せる。
本人達には別人の映像を被せて部屋を抜け出させ、帰宅する下働きの人達と一緒に館から退出してもらう。
民区へは、護衛兵に護られた送迎用の通勤馬車が運行しているので、僕等も含めて全員がそれに乗り込んだ。
僕達は、庭園の手入れをしていた庭師さん達に紛れ込んだ。
ハルさん達は互いに化けて居る姿を知らないので、皆バラバラの馬車に乗り込み座っている。
僕が魔素の目で確認しているし、ツルの蔓を使って声は送っているので、全員が揃っていることは知らせてある。
第一群域から馬車が出る時はチェックは無い。
門の前の検査待ちの行列は相変わらず伸びていたので、まだ何も気付かれていない様だ。
民区の停車場で降り、クリスタの町へ向かう駅馬車へ乗り換える。
僕達四人以外は、互いが判らずバラバラに座っている。
僕から見れば、皆不安そうに周囲をキョロキョロと見回しているのだが、不審に思う者はいない。
聖都へ入る馬車も、トンネルを抜ける馬車も厳しく検査されるのだが、逆方向へ向かう馬車の検査は一切無い。
クリスタの町の検問は解除されていたのだが、念のため、急いでトトロス方面へ向かう駅馬車へ乗り込んだ。
光魔法の力が届く距離は越えている、ハルさん達が居なくなった事がばれるのは、時間の問題だと思っている。
夜行便の馬車の中で寝て、適当に停車場の露店で食べる物を買う。
馬車を乗り換える度に外見を変えているので、互いに相手が判らない状態は維持している。
迷惑だとは思ったが、ツルがトトロス方面へ向かう鷹や隼や鷲を全部捕まえて、足の筒に入っていた手紙を全て奪い取った。
聖都を出た翌日に、切迫した内容の検問設置の軍の通信文が送られてきて、直ぐに北大陸全土の港閉鎖の命令書が送られて来たが、四日後、僕達は無事トトロスの港町に検問無しで到着した。
中央大陸の戻ると美味しい物は食べられなくなる。
中央大陸へ戻る扉の直ぐ近くに宿を取り、初めて全員の光魔法を解除した。
「タケさん、本物のタケさんなのね。お化けじゃ無いよね」
『お兄ちゃんー』
ハルさんとリコとメイとリンが泣きながら飛び付いて来た。
映像では再開しているが、実体が無いので半信半疑だったらしい。
顔をゴシゴシと擦り付けて来た。
リコとメイとリンの頭の位置がだいぶ高くなおり、身体付きも女性らしく変っていた。
明美とも抱き合って泣いている。
ハルさんと明美の背が同じくらいになっていた。
孝太と隆文も抱き寄せてやったら泣いていた。
ユウはもう中三から高一くらいの男なので、抱き寄せようとしたら拒否られた。
明美は、抱き付こうとしたユウは蹴り倒していたが、孝太と隆文はハグしてあげていた。
「アキちゃん綺麗になったね」
「うん、びっくりした」
「ありがとう、コウ、タカ」
そうなのか、全然気が付かなかった。
キムノさんとツルを改めて紹介した。
「キムノです。タケちゃんの奥さんです」
「ツルです。父ちゃんの娘です」
『えー』
ダークエルフのキムノさんとエルフのツル、百パーセントの誤解が成立して、ハルさん達に怖い顔で睨まれてしまった。
「違うよ、兄ちゃんの奥さんは僕だよ」
「えー、ツルちゃんはアキちゃんの娘なの」
変な勘違いが暴走しそうなので、取り敢えず誤解は解いておいた。
「タケミチ、中央大陸ってダークエルフやエルフの美人が一杯居るのか」
うん、ユウはぶれない。
「キムノさんは南大陸出身だけどな。居るよ」
「おっしゃー」
「エルフの写真集作ってるんだけど、後で見るか」
「ヌードか」
「当たり前のこと聞くなよ」
「姉ちゃん、若い男女が一つの部屋で寝るって、良くないと思うんだ。部屋分けようよ」
「ユウ、あんた何を企んでいるの」
「ダメ―、お兄ちゃんと一緒に寝たい」
「却下、却下」
「コウ、タカ、あんた達も何か言いなさい」
「うん、僕は一緒でいいよ」
「僕も皆と一緒の方が楽しい」
相変わらずユウの意見は尊重されていない。
久々に床の上に布団を敷いて雑魚寝した。
自分の定位置をツルに取られた明美は、少々不満そうだった。
ーーーーー
翌朝、港が大騒ぎになっていた。
聖都から派遣された兵士が到着したようなのだが、港封鎖の命令書が届いていないので、船を止めようとする兵士と出航しようとする船乗りが殴り合いを始めているそうなのだ。
港の入国管理事務所の職員達は、半狂乱状態で走り回っていた。
荷主達も倉庫を求めて走り回り、荷車が右往左往している。
価値の低く嵩張る荷が買い上げられ、倉庫から放り出されて港の広場に積み上げられていく。
圧倒的に多いのは穀物の入った袋や塩漬肉の樽、ここでは価値が低いのだが、大迷宮では高級品だ。
ただ同然の叩き売りになったので、アイテムボックスに入るだけ買い求めた。
兵士達は船の出航を阻止するのに必死で、町中を見回る余裕は無い。
朝飯と昼飯をゆっくりと楽しんだ後、扉を潜って大迷宮へと移動した。
ハルさん達の実力では、まだここの魔獣には敵わない。
一番近い魔法陣から地上へ急いで戻った。
ハルさん達には、急いで中央大陸語を覚えて貰った。
言葉をある程度覚えたら、冒険者ギルドの魔法の講習会を受けてもらった。
ユウが一番頑張って、直ぐに中央大陸方式の魔法が上達した。
特に光魔法の上達が著しい。
そして僕を先生と呼ぶようになった。
月曜から日曜日までは迷宮に入って訓練し、風曜日から聖曜日までは中央大陸の光魔法文化の情報収集研究へと向かう。
「姉ちゃん、先生と一緒に中央大陸の光魔法文化の調査へ行って来る」
「熱心ねユウ、しっかり勉強してくるのよ」
「うん、もちろんだよ」
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