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48 地下遺跡5

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ミューア(茸ちゃん?)

今日、このパーティーがギルドから請け負った仕事は遺跡に巣食う鬼魔蜘蛛の討伐でした。
鬼魔蜘蛛とは、見えない糸を人の通り道に張って、糸に掛かった冒険者を喰らう危険な魔蟲です。
既に二百人近い冒険者が犠牲になっており、緊急案件として高額な懸賞金が設定されていました。
推奨冒険者パーティーランクはCとDで、累積獲得懸賞金額が多ければEパーティーでも可の、EランクでもそろそろDランクに上がる成績上位パーティーが受ける案件です。

「リュウちゃん、今日は同じ部屋泊まろうよ。私が色々教えてあげるからさー、いいでしょ」
「いや、それはその」
「こら!ミュー、リュウから離れろ。リュウはおまえみたいなデカ乳は興味無いんだよ」
「ならペッタンコのモミジがエッチの仕方教えてあげるの?でもねー、男みたいにゴツゴツしたモミジじゃ、リュウちゃんホモに走っちゃう心配あるしなー」
「私はゴツゴツしとらんわい、胸だってちゃんとあるわい」
「じゃっ、リュウちゃん確認よ」

ミューさんが素早くリュウさんの腕を取って、モミジさんの胸に手を押し込みました。

「ぎゃー!」
「あっ、すまんモミジ」
「どうだったリュウちゃん、胸ちゃんとあった。それじゃ今度は私の番よ、比べてみて」
「こら!この痴女、リュウから離れろ。リュウ、何に嬉しそうな顔してんだこの野郎」

ギルドの食堂に居た時と同様、痴話喧嘩を続ける緊張感の欠片も無い三人ですが、ここは一応魔獣や魔蟲が徘徊する地下遺跡の中です。
三人が大騒ぎしながら歩いている後ろを、私はトコトコ歩いています。
前のおっさんパーティーは過度に魔獣を警戒しながら歩いていましたが、このパーティーは最初から全然警戒する気がありません。
それでも魔獣が近寄れば、ちゃんと察知して不意打ちを食らうことはありません。
これはもう、冒険者としての格の差というよりも、才能の差なのでしょう。

ガッシュさんとサクラさんは、少し前を仲良く楽しそうに喋りながら歩いていましたが、突然足を止めました。

「茸ちゃん、お願い」
「はーい」

私がこの実力の有るパーティーに誘われたのには、理由がありました。
一つは、私が何度か困っていたパーティーの治療を手伝ってやったのを知って、私の治療能力を期待してのこと。
もう一つは、私の茸取りとしての品質を見分ける能力を期待したからです。

だから私は、今日も茸の入った大籠を背負っています。
十日間もこの籠を背負って遺跡の中を歩いていたので、背中に茸が入った籠が無いと何か気持ちが悪いのでちょうど良かったです。
ガッシュさんの側に走り寄り、ガッシュさんに籠から茸を取出して渡します。
その茸をガッシュさんが目の前にある別れ道に放り投げて行きます。

あっ、右に曲がる道へ投げた茸が空中で止って落ちて来ません。
そうなんです、鬼魔蜘蛛の糸は、人の魔力を感じて強く吸付く性質があり、高品質な遺跡茸に含まれる魔力にも反応するんです。
遺跡の中で捕まえた魔獣を放り投げる方法もあるのですが、嵩張るのと生きたまま保存するのが意外に手間なので、茸を使う方法が一般的なのだそうです。

「あったぞ。茸ちゃんはここから先は無理だから、ここで待っていて。行くぞ」

ガッシュさん達が印を切って足の表面に薄く青い炎を纏うと、蜘蛛の糸の網の上を走り出しました。
蜘蛛の巣全体が青く魔力を帯びて空中一杯に巣の糸が浮かび上がりました。
身体に魔力を纏い、蜘蛛の糸が魔力を身体から吸い出そうと張り付くのを防いでいるのでしょう。
うん、これなら私にも出来る、ここで待っている必要はありません、ちゃんと手と足に刻印札を貼って来ました。

「ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト。ゲリト、メルト、ノリト」

急いで五人を追掛けます。

戦闘は始まっていました、糸の振動と伝わって来る魔力を感じて無数の鬼魔蜘蛛が糸の上を走って来たのです。

「ちっ、産卵が終わった後だったかい、ちと厄介だね」
「仕方が無い、魔力を節約しながら急いで潰すぞ」

牛程の大きさがあるのに、それでも生まれたての子蜘蛛のようです。
私も乱闘に加わりました。

オークに比べれば勿論見劣りしますが、それでもこのパーティーの格闘術レベルは相当なものです。
Dランクのガッシュさんの突き技も見事ですが、リュウさん、モミジさん、サクラさんの連携した連続技も見事です。
次々に蜘蛛は頭を潰されて、蜘蛛の巣から落ちて行きます。
そして圧巻はミューさんの舞踏、踊りながら敵の攻撃を紙一重で躱し、次々に手刀で蜘蛛の頭を跳ね飛ばして行くのです。
なんか次元が違います、十五歳でDランクの冒険者なのも頷けます。

九割程倒し終わったころ、小山の様な親蜘蛛が現れました、何か凄く怒っています。
人の背丈程ある、鋭利な爪を物凄い勢いで振り下ろして来ました。
多分掠っただけで、手足程度は簡単に無くなりそうです。

「こりゃでかいな」

ミューさんの表情が変わりました、気怠気な表情が消え、目尻と口角が吊り上ってまるで別人です。
何時抜いたのか、両手に曲刀を握っています。

「あははははは」

笑いながら親蜘蛛に突っ込んで行きました。

「茸ちゃん、俺達は子蜘蛛に専念する、ミューに近寄ると巻き添えになるぞ」

あははは、はい良く判ります、ミューさんはトランス状態で両手を広げて独楽の様に回っています。
言われなくても近寄りません。
子蜘蛛の排除は直ぐに終わりました。

「何か手間取ってるな」
「えっ!再生してるわよ」
「不味いぞ、こいつ邪霊蜘蛛だ」
「どうすんのよ、逃げるにしても、もうミューには聞こえないわよ」
「もう魔力が尽きるわよ」

なるほど、蜘蛛の背中に赤く燃えた女性の霊が立っています。
でも邪霊は、ミューさんの動きを追うのに懸命で完全に防備がお留守になっています。
後ろ足をよじ登り、霊の背後から忍び寄ります。
間合いに入ったら、霊の脳天を思いっきり殴り付けます。
霊が硬直するタイミングを見計らって、青い炎を霊の全身に纏わせ尻を思いっきり蹴り上げます。
そう、私は相手が女性でも容赦しません。

霊の口から黒い魂と白い魂が吐き出されたので、黒い魂はふん捕まえて足蹴にして粉砕します。
白い魂が遺跡の天井に向かって舞い上がると、その魂を追う様に、蜘蛛の身体から次々に白い魂が天井へ舞い上がって行きます。

そして突然私の足元が崩れ去り、私の身体は落下しました。

”バフ”

私は蜘蛛が変化して出来た砂の山に頭から突っ込みました。

「ぶはっ」

顔を上げると、ミューさんも砂の山に頭を突っ込みピクリともしません、たぶん魔力が切れたのでしょう。
蜘蛛の巣が消え、ガッシュさん達が上から降り注いで来ました。

「乾杯、それじゃルール通り、今日一番活躍した茸ちゃんに今日の獲得魔石を進呈します」
「ありがとうございます」
「それじゃ、リュウとモミジとサクラと茸ちゃんのランクアップを祝して改めて乾杯」

私も2ランクアップして、パーティーもランクアップしました。
馬車に必要な魔石の量は確保しましたが、面白そうなので、もう少し冒険者を続けてみようかと思います。
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