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Ⅰ アカクルカ荒地

4 伯爵領へ

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レベル4に上がったので伯爵領に戻ることにした。
龍と戦うには少々心許こころもと無いので、東部山岳地帯の魔獣を倒しながら南に上り、そこから伯爵の城がある領都を目差すことにした。
毛皮と魔石は十分に集めたので資金の心配は無い、伯爵の兵士と遭遇しても、相手を傷付ける事なく勝てる程度の実力は付けた。
食糧も肉屋が開けるくらい野犬の肉を貯め込んだ。

今俺達はゆったりと馬に乗って伯爵領との境界である岩山を目差している。
馬と言っても、マリアが作り出した土の馬だ。
マリアは最初に作り出した十匹の犬の人形をまだ使い続けており、そのうちの二匹に土を寄せ集めて馬を作り出した。
残りの八匹は、わらわらと俺達の後に付いて来ている。
子犬程度の大きさなのだが、野犬の群れ程度なら、走って行って簡単に蹴散らしてくれる。
マリアが手繰っている訳ではなく、何か自分の意思を持っている様な様子で、俺の乗っている馬も、油断をすると俺を振り落とそうとする。

「お兄ちゃん、岩山を越えたら何処へ行くの」
「ケンノケロへ行って情報収集する積りなんだ。親父が諦めてくれていたら街道沿いに移動するし、まだ探しているようなら、山岳地帯の森林沿いを野宿しながら進まなけりゃならないからな。とにかく、服も疲れて来たから、新しい奴を捜そう。人も多いし、鉱毒に犯されて人も多いらしいから、治癒師を装えば歓迎されるんじゃないかな」

ケンノケロは岩山を越えた先にある大きな鉱山町で、銅と銀の取れる伯爵領の金袋の様な豊かな町である。
だが精練に伴う煙りや排水で町の住民の大半は体調が優れないらしい。
人の出入りも激しくて、多少ほとぼりが冷めた今なら、紛れ込むには丁度良い町だ。
治癒師が不足しており、多少未熟な腕前の者でも、ケンノケロへ行けば商売になると言われている。

当然ジョージも逃避行の最中にこの町へ紛れ込もうとしたのだが、街道の途中で検問が張られており、そこから伯爵の兵士達に追われている。
今回はまったく逆方向から町へ向かうので多分大丈夫だと思う。
勝てるとは解っているが、なるべく騒動は起こしたくない。

岩山に差し掛かった、マリアとジョージは半分死にそうになりながらこの岩山地帯を越えてアカクルカ荒地に入ったのだが、今回はマリアが土術で整地してくれるので、のんびりした旅だ。
深い谷に魔術で橋が作られて行く様は壮観だ。
勿体無かったが、荒地の生き物が橋を使って伯爵領に渡って来ても迷惑な話なので、渡り終わったら元に戻しておいた。

黒煙が籠っている谷が見えて来た。
ケンノケロの町だ。
岩山地帯の稜線から急な坂を下った場所が鉱山で、鉱石や鉱夫を乗せた荷車が谷底の道を忙しく行き交っていた。
その荷車の群れに紛れ込み、俺達も谷を下る。
犬の人形達は、マリアの馬の鞍の上に乗せた木箱の中に入り、身を乗り出して外を眺めている。

道は精練所の建物群の中に入り、鉱石を積んだ荷車が建物へと次々に吸い込まれて行く。
谷を流れる水が急に赤茶色に変わり、道も鉱滓が敷き詰められた赤茶色の道に変わる。

護衛に護られた荷車が多くなり、道はケンノケロの町へと入って行った。
屋根も壁も道も、町を歩く人々の服もみな赤茶色だ。

町の中央広場の案内図前で馬を下り、宿屋街を捜す。
マリアが足元に落ちていた鉱滓を拾い上げ、真剣に見つめている。

「お兄ちゃん、この石の中に毒が混じってるよ」
「ああ、だから父さんはこの町の住人の健康を心配して、鉱山の上流から水を汲んでこの町へ引いたんだ」

正確にはこの町の住民の健康ではなく、鉱山の人夫が減って生産量が落ちるのを心配したのだが、まあ、間違った説明でもないだろう。
ジョージの知識によると、親父は住民が完全に健康を取り戻すことを期待したらしいのだが、確かに改善はしたらしいのだが、思っていたほどの効果は無かったらしい。

「へー、お父様って偉いのね」
「まあな、でも穴を掘られて怒った土地神様の呪いが原因だって言う人も多くてな。解呪の呪符が結構売れてるらしいぞ」
「利くの、それって」
「マリアの聖術で具合が良くなれば呪いだろうから、後で確認してみるか。とりあえず、ここに治癒師ギルドの事務所があるから行ってみるか」

木箱を背負ってギルドへ向かう。
犬どもがマジックボックスに入りたがらないのだ。
此奴等石で出来てるから、とっても重い。

地図の表記から商人ギルドの横と思っていたのだが、商人ギルドの窓口のうちの一つが治癒師ギルドの窓口で、入り口の商人ギルドの看板の脇に紙に書いて小さく貼り出していた。

窓口には行列が出来ており、窓口で怒号が行き交っている。
治癒師という落ち着いた雰囲気は無く、冒険者ギルドの様な荒々しい雰囲気だ。

「ちょいと治癒力を計らせて貰うよ」
「なんじゃと、儂は四十年間治癒師をやっとる熟練者じゃぞ。無礼者」
「能書きは良いからさっさと計らせな爺さん」
「嫌じゃ」
「なら失格、はい次の人」
「この野郎!」

窓口の脇に立っていた護衛が爺さんの襟首を摘み上げると、脇の窓から外に放り出した。

「はい、次の人。自信の無い奴はさっさと帰んなよ」

窓口に座っているのは、護衛より強そうなおばさんだ。

「お兄ちゃん、何だか怖い」
「大丈夫だマリア、ワンコ共も応援してるぞ」

”ワン!”
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