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Ⅱ ネルトネッテ伯爵領

2 ケンノケロ2

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マリア

何だか訳が判らない内に、お兄ちゃんはケリーさんが二階へ、私はエリーさんに診察室へと連れて行かれました。
熱見の眼鏡や、音聞きの杖などの診察魔道具、弱回復薬や毒消し、傷薬などの初級薬品類も一通り揃っているようです。
部屋の中央に置かれた布張りの椅子に腰を下ろすと、まだ心の準備が出来ていないのに、エリーさんが最初の患者さんを部屋に招き入れました。

目の前に顔色の悪い、具合の良く無さそうな患者さんが座っています、なんかドキドキします。

「先生、お願いします」

エリーさんが助手として脇に控えていてくれる様なので、少し安心しました。
患者さんは若い女性です。

お城に居た頃にも、聖女として神殿で訓練を受けていたので、診療の段取りは多少判っています。

「コホン、それでは大きく息を吸って下さい」
「はい、ゲホ、ゲホ、ゲホ」

患者さんは、少し息を吸っただけで、直ぐに咳込んでしまいました。
肺の病気かもしれません。

察知のスキルで探って診たら、体内に毒が溜まっており、肺だけじゃなくて内蔵もかなり疲弊しています。
察知のスキルは、本来外敵の接近を知るための冒険者用のスキルなのですが、レベルを上げて行ったら、近距離であれば相手の体調も判る様になっていたんです。

「キュア」
「えっ!」

”キュア”を使って、まず身体から毒素をお追い出します。
荒地では、毒を持った生き物が多かったので覚えました。
何故かエリーさんが慌てています。

「それではおトイレで用を足して下さいね。終わったらまたここへ戻って来て下さい」
「はい先生」

患者さんは慌てておトイレに駆け込みました。
体内から追い出されて毒素は、うんちと一緒に排泄されるので、キュアの後直ぐにうんちがしたくなるんです。

「エリーさん、ここのおトイレの便器は幾つあるんですか」
「?男性用が三個、男女共用が十個ですが」
「それなら大丈夫ですね、次の人を通して下さい」

次の人は中年の男性でした。
顔色が青黒く、手足が浮腫んでいます。
体調の悪さを、お酒で紛らわせようとしたのでしょう。
察知で探ると、先程の患者さんと同様に毒素が身体に溜まっている上に、肝臓がほとんど石のように硬くなっています。
生きている部分を活性化させて、死んでる部分は全部うんちになって貰いましょう。
肝臓の上に手を翳して精神を集中させます。

「ヒールハイ」
「ゲー!先生まだ患者さんは大勢いるんですよ」
「大丈夫よ。”キュア”、それではおトイレへ行ってからまた来て下さい」
「はい、先生」

この患者さんも慌ててトイレに駆け込みました。

エリーさんの心配していることは十分わかります。
ノルン様の加護を得る前の私なら、今の呪文だけで魔力が枯渇していたと思います。
キュアはヒールの十倍、ヒールハイは二十倍も魔力を使う施術なんです。

魔力が物凄く増えたことも理由の一つなんですが、魔力の回復自体が物凄く速いんです。
今使った魔力程度なら、瞬時に回復してしまうんです。
ほとんど反則だと思います。

最初の患者さんが戻って来たので、ヒールを使って体調を回復してあげたら、見違えるくらい元気になって帰って行きました。

「それじゃ次の患者さんを呼んで下さい」

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商人ギルド、治癒師担当職員ケリー

一旦ギルドに戻って、商人ギルド職員としての通常業務をこなしてから、今日手配した若い治癒師の様子を見に行きました。
夕刻前なのに待合室に患者さんがいなくなっています。
要領が悪くて魔力が枯渇してしまったのか、はたまた魔力自体が少なかったのか。
最悪、患者さんが呆れて逃げてしまった可能性もあります。
ガラさんが買っていた治癒師だったので期待したのですが、少々がっかりです。

受付を覗いたら、アリサとエリーが腕組みをして何かを考え込んでいます。
机の上に銀貨が大量に置かれています。
素直な子に見えたのですが、詐欺師まがいの子だったのでしょうか。
案の定、施術表を覗き込んでみたら、キュアとヒールハイの記述が大量に並んでいます。

ヒールの正規施術料金は銀貨五枚、ただこの料金を労働者に負担させると町から逃げ出してしまうので、九割を町が負担するルールを町が作りました。
すると突然、治癒師達がキュアとヒールハイを乱発し始めたのです。
キュアの施術料金はヒールの料金の五倍、ヒールハイの施術料金はヒールの十倍に設定することが認められています。

当然の事ながら魔力が枯渇するので、キュアとヒールハイを実際に乱発できる治癒師は存在しません。
ヒールをキュアとヒールハイと称して町から補助金を騙し取ろうとする単純な詐欺なのです。
町が治療師の許可制を強引に導入しようとしたのは、こんな背景が有ったからなんです。

「残念ね、期待していたのに。お金に目が眩んだお馬鹿さんだったのかしら。直ぐにでも護衛を呼んで退去してもらいましょうか」
「いや、ケリー。あの子は本物だよ。実際にキュアとヒールハイを施術してるんだ」
「えっ!そんな馬鹿な。こんなに施術できる訳がないでしょ」
「だから不思議なんだ。二人で計算したら今日使った魔力は二千を越えてる筈なんだ。それなのにピンピンしている」
「一応ギルド長に報告はしておくわ。二人は暫く様子を見て」
「了解」
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