異界機甲士兵物語

切粉立方体

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5 厳戒令

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ーーーーー
カイ

アリサさんとシオンさんが急に不機嫌になった。

「○×△□○!」 ”ポカ”
「△○□×#$、○×△!!」 ”ゴツン”
「○□△××○、○○、○○、○○!」 ”ビタン、ビタン”

何か一言指示をする度に、拳固や平手で叩くのだ。
そして宿に着くと僕に薬研で干草を夜遅くまで擦らせる。
手の皮がペロリと剥けて血が出ているのだが、許してくれない。
うーん、これって虐め?
でも毎回怖い顔をして僕の手元を睨み付けている様子を見ると、なんかそんな感じじゃない。
毎回出来上がった粉を不思議な炎で燃やすのだが、炎が段々天井を舐めるようになって少々怖かった。

今日は風呂場に連れ込まれ、押さえ付けられて全身隈なく調べられた。
物凄く恥ずかしかったのだが、二人にエッチな気配は全然無く、調べ終わった後、腕組みして胡坐を組んで、何かを考え込んでいた。

あのー、すいません、お二人ともあそこが丸見えなんですが、僕も一応男なんで・・・。(”ポカ”)はいすいません。

ーーーーー
王宮薬師見習い アリサ

とうとう明日には都へ着いてしまいます。
この三週間懸命に調べましたが、原因は判っても理由が解りませんでした。
あー腹が立つ、もう一回カイを叩いておきましょう。 

”ポカ” 「痛いです御姉様、ごめんなさい」

うん、だいぶ言葉は覚えて来たようです。

「宿に着いたら先生の服と私達の服を直ぐに洗濯しとくんだよ」 ”ポカ”

「痛いです御姉様。判りました、直ぐに洗濯いたします」
「返事が先だろ」 ”ポカ”
「いっ、はい御姉様」
「たらたらやって夕飯に遅れたら承知しないよ」 ”ポカ”
「いっ、はい御姉様。私頑張ります」

夕飯後、先生に呼ばれました。
困った、宿題が終わっていません。 

「さてと、やっと明日には研究室に帰れる予定だけど、お前達判ったのかい」

仕方が無い、正直に謝ってしまいましょう。

「すいません先生、解りませんでした」
「すいません先生、私もです」

”コツン、コツン”

痛、相変わらず先生の魔杖で叩かれると、目から火花が飛び出そうに痛いです。

「何処まで判った」

「こいつが(”ポカ” 「痛いです御姉様」)薬研を操作すると薬研車の刃に魔力が生じるのですが、その理由が解りませんでした」
「こいつから(”ポカ” 「痛いです御姉様」)魔力は生じていないのに、薬研車の刃のもの凄く狭い範囲に、高密度の魔力が生じているんです」
「こいつに何か特殊な器官でも有るのかと調べたんですが、特にありませんでした」
「先生!もしやこいつに疑似女性器官が無いのが理由では」
「あっ!そうか。そうかもしれない」

「こらこら、剥かんでも宜しい。何処から知識を得たか知らんが、そんなもの最初から存在せん。お前達、魔力を送り込む方法は習っておるな」
「はい、体表を覆っているオーラを伸ばして体内に貯め込んだ魔力を送り込んでいると言われています」
「その魔力は何処から貯め込む」
「空中に漂う魔素を体表のオーラが吸収して・・・?先生!オーラが関係してるんですか」
「うむ、我々の能力は身体に貯め込む魔力量で評価されるからの、オーラ自体は余り重要視されておらん。じゃがな、昔、無能力者が道具に魔力を纏わせておるのを見て少し調べた事がある」
「えっ!こいつ(”ポカ、ポカ” 「痛い、痛い」)みたいにですか」
「うむ、意外に多かった。名人、匠と呼ばれる連中は総じて道具に魔力を纏わせておった」
「でも理由が」
「百聞は一見に如かずじゃ、見せてやろう。カイ、薬研で薬を擦って見せよ」
「はい先生」

カイがいそいそと薬研の準備を始めました、生意気、なんだか、これからカイがお手本を示すような流なので面白くありません。

”ポカ””ポカ” 「痛いです御姉様」

「こらこら、二人とも邪魔をするでない」

カイが薬研で薬草を擦り始めました、先生が霧吹きの瓶に何か薬品を入れています。

「これはオーラを可視化する魔薬じゃ、ほれ視てみろ」

先生がカイに魔薬を吹き掛けると、薄い柑橘の臭いがしてカイの体表を覆うオーラが浮かび上がりました。
髪の毛の間から、見えないくらい微細なオーラの糸が薬研車の刃に伸びており、刃に幾重にも巻き付いています。
物凄く細い糸は、注意深く観察すれば魔力を纏っているのが解るのですが、細すぎて普通は気が付きません。

刃に巻き付いたオーラには、物凄く強い魔力が宿っています。

「ほう、また腕を上げたな。魔力の一番濃度の濃い場所は、空気中の魔素とオーラが接触する面だと言われておる、そこからオーラの中を減衰しながら移動し、体内に取り込まれると言われておる。魔素の捕捉率はオーラ密度が濃いほど高く、体内移動の際の魔力減衰率はオーラ密度が高いほど大きい。魔力を送り出す時も同様でオーラ密度が高いと直ぐ魔力が消えてしまう。シオン、腕を出してみろ」
「はい、先生」

先生がシオンの腕に魔薬を吹き掛けました、カイのオーラを体表を覆う厚い膜と表現するならば、シオンのそれは体表を覆う霧でした。

「この微妙なオーラ密度のバランスが、私らの能力を決めておる」
「先生、私初めて知りました。何故こんな重要な事を教えないのでしょうか」
「オーラ密度は修行によって変えられる、じゃがバランスを崩して能力を失うか、能力を衰えさせる者が殆どなんじゃ。能力を少しでも増やしたいと思う者が殆どじゃ、じゃから教えんのじゃ」
「なら先生なんで」
「それはな、私らが魔薬師を目差す者じゃからだ。魔薬は纏う魔力量によって劇的に変化する。魔薬が纏う魔力量は、魔薬の表面が初めて大気に触れた瞬間に周囲に存在する魔力濃度によって決まる。じゃからお前達は薬研の中の魔力濃度を上げようとして工夫する」

ここで先生は大きな溜息を吐かれました。

ーーーーー
王宮薬師見習い シオン

「じゃがこれじゃ魔力濃度に限界があっての、真の魔薬までは至らんのじゃ。じゃから限界を悟った私は魔力濃度を高める別の方法を研究した」
「先生、それが道具にオーラを纏わせる方法だと」
「偶然じゃった、王宮晩餐会に招かれて料理長の包丁を漫然と眺めていたら魔力が見えた気がしたのじゃ。料理長に魔力は無い、なのに時々包丁が魔力を纏うのじゃ。そして調べた結果オーラに辿り着いた。そして禁書扱いだったオーラの研究書を密かに漁った」
「そして成功された」
「成功かのう、まあ運が良かったのかも知れない。魔力の大半を失って魔薬師の名を手に入れたんじゃからな」

「先生、でも何故あの方法だと魔力が高くなるのですか」
「単純じゃ、オーラが表層で得た魔力をそのまま擦り込んでおるのじゃ。砕かれた薬材が大気と初めて接するのは薬研車の刃と薬材との間の極めて狭い隙間の中じゃ。その狭い空間ならオーラの表層で集めた魔力で十分なんじゃ。じゃが今のお前達のオーラ濃度では普通の方法の半分程度の効果しか得られん。時間は有る、良く考えろ」

また宿題を貰ってしまいました。
今度は人生を賭けたとても重い宿題です。
私達のステータス判断は常に魔力量で計っています。
婚姻、就職、人生のすべての局面において、私達の魔力量が物差しとして判断されるのです。
魔薬師への夢は捨てきれませんし、結婚の夢も捨てたくない。

「アリサは如何する」

アリサはベットの上で、カイに胴締めを仕掛けながら考えている様です。

「アリサさん、苦しい」

それじゃ私はカイの足を持ち上げてと、それー電気あんま。

「ひー」

なんかこの子は可愛い顔をするのよねー、うふふふ。

ーーーーー
パトラン王国王女ニナタスシア

草の根を掻き分ける徹底した山狩りだったのに、あの餓鬼が見つかりません。
麓の町で捕えた山の民の男は全員確認しましたが、あの餓鬼はいませんでした。
しかも悪い事は重なる物です、山狩り隊が別の飛んでも無い物を見付けてしまったのです。

その情報が入った時は耳を疑いました、山向こうにレグノリアの大部隊が展開しているというのです。
しかも魔導隊や甲機士兵も配置されており、レグノリア軍の主力と言っても良い部隊が集められているのです。
迷彩を施して、ほぼ無音状態で行動しているそうです。
奇襲です、しかも規模から考えてこの王都まで一気に侵攻して来る積りなのでしょう。

厳戒令を布いて、予備兵も含めて召集を掛けました、国家存亡の危機です。
万が一敵軍に捕えられ、マーキングされていることが知られれば、末代までの恥になってしまいます。
もはや緊急事態です、国中に手配書を貼り出しましょう。

ーーーーー
王都東門警備兵 テッド

テスラ先生の一行に女の子が一人加わっている。
山の民の娘らしいが、手配書は男なので拘束する必要は無いだろう。
一応確認だけしておこう。

「アリサさん、このは」
「この子は先生の新しいお弟子さんよ」
「はい、了解しました。通って下さい」
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