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6 研究棟
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ーーーーー
カイ
先生達は公園の様な場所へ入って行った。
木々の間を縫うように細い遊歩道が配置されており、気持ちの良い森が広がっている。
先生達は丘の様な場所に向かって歩いて行った。
丘の様に見えたがそこは蔦に覆われた建物で、蔦に覆われたトンネルの様な場所から、先生達は中に入って行った。
壁に描かれている紋章にアリサさんが触れると、トンネルの中に明かりが灯った。
面白そうなので僕も手を伸ばしたら、アリサさんに叩かれた。
「あんたは触っちゃ駄目よ」
ーーーーー
王宮薬師見習い シオン
「先生、何故灯が消えているんでしょうか」
「うむ、何かあったのかね。室に戻る前に掲示板を確認しようかね」
「先生、こいつやたら刻印を触りたがるから縛っていいですか」
「放っておけ、魔力が無いから作動せん」
「はい、でも一応首に縄着けときます」
何かが可笑しいです、研究棟に人気が有りません。
実験に失敗した爆発音も聞こえて来ません。
掲示板を見て納得しました、研究棟に人の気配が無くて当然です、五日も前に厳戒令が出ていたのです。
厳戒令
令第十三号
1 不用不急の外出は控えるべし
2 不用不急の物品の購入を控え、節約に努めるべし
3 許可なき集会は反逆と見なす
4 混乱を招く言動は慎むべし
5 成年国民すべてを国軍に配備する
6 配備は第一配備体制とする
7 別表配備体制表に従い至急参集すべし
八月十三日
パトラン国国王 ゴト十二世
出遅れました、私とアリサの参集場所は機甲士訓練所です。
そこで予備機甲士兵としての訓練を受けなければなりません。
訓練はだいぶ進んでしまっているでしょう。
「先生、私直ぐに出発します」
「先生、私も」
「落ち着け、二人とも。今日は疲れて居るじゃろう、今晩ゆっくり寝て明日の朝行けばよろしい」
「でも先生、訓練は始まっています」
「そうです、五日間も出遅れています」
「大丈夫じゃ、最初の半月は操作座に座って唸っているだけじゃ」
『えっ!?』
「機甲は簡単に動かせる物じゃない、指一本動かすのに早くて十日、長い者で三月は掛かる。五日なんて誤差範囲じゃ、落ち着け」
「でも先生、教官様の心証が」
「そうです、怠けていたと思われたら意地悪されます」
「大丈夫じゃ、そんな度胸の有る奴はおらん。私が臨時訓練所長を拝命することになっておる」
『えーー!』
「知らんかったのか、私はこれでも有名な機甲乗りじゃったんじゃぞ。魔力は衰えたが短い時間ならまだ誰にも負けん」
「・・・・・」
「疑っておるのか。まあ良い、さて、問題はこいつじゃ」
「あっ!」
「危なくてここには置いておけん。戻ったら研究棟が全焼していたなんて笑えん話じゃからな。さりとて、厳戒令の今、言葉の解らんこいつを町に放り出したら不審者として処刑されかねん。お前達、メイドとして連れて行け」
「えーー!先生、宿舎は男子禁制ですよ」
「そうですよ先生、ばれたら処刑されます」
「大丈夫じゃ、こいつの中身は女じゃ。メイドの性別をいちいち気にする暇人なぞ誰もおらん。お前達には同室を手配してやる。私はこれから学院長のところへ挨拶に行って来る、任せたぞ」
『わー、先生』
先生は走る様に居なくなってしまいました。
アリサと二人で暫く茫然自失で立ち尽くしていました。
確か今は厳戒令下ですよね、こんな緊急時に堂々と規則を破ったら、私達どうなるんでしょうか。
ーーーーー
カイ
三人の話している内容は殆ど解らなかった。
解った範囲で整理すると、五日後先生は何かの勝負をしにメイドを連れて行くらしい。
そして二人が僕を見つめる視線から考えて、僕にも関係があることらしい。
うーん、良く解らん。
その晩僕は、久々に一人部屋で寝かせて貰えた。
壁に描かれた刻印に手を触れると、刻印が語り掛けて来る様に、その刻印が持つ意味がイメージとして浮かび上がって来た。
灯の刻印、記憶の刻印、音の刻印、水の刻印、火の刻印、風の刻印、癒しの刻印、土の刻印、木の刻印、空の刻印、星の刻印。
星の刻印に僕の身体から出る細い糸を満たすと、目の前に見えない筈の星空が広がった。
記憶の刻印に糸を満たせば、この部屋で過ごした多くの人々が刻んだ記憶が身体に満たされた。
空の刻印で魂を宙に飛ばし、音の刻印でこの世界を流れる音楽に耳を傾ける。
心が満たされて行き、その晩僕は熟睡した。
翌朝僕は、メイド服に着替えさせられ、アリサさんとシオンさんの荷物を担いで蔦に覆われた建物を出発した。
向かった先は高い石塀で囲まれた建物で、門の前の受付所で女性兵士が怖い顔で入場者を確認していた。
「魔薬研究室のアリサとシオンです、受付お願いします」
「テスラ先生のお弟子さんだな、お前は」
「お二人のメイドのカイです」
「うむ、先生から届け出が出ていたな。ほう、お前も先生の弟子か」
「はい、そうです」
「うむ、通って良し」
「はい、ありがとうございます」
ーーーーー
王宮薬師見習い アリサ
受付で咎めてくれれば未遂で終わって傷が浅いと思っていたのに、通過してしまいました。
仕方がありません、カイを部屋に軟禁して何とかやり過ごしましょう。
昨晩の内にあそこをちょん切っておいた方が正解だったでしょうか。
カイ
先生達は公園の様な場所へ入って行った。
木々の間を縫うように細い遊歩道が配置されており、気持ちの良い森が広がっている。
先生達は丘の様な場所に向かって歩いて行った。
丘の様に見えたがそこは蔦に覆われた建物で、蔦に覆われたトンネルの様な場所から、先生達は中に入って行った。
壁に描かれている紋章にアリサさんが触れると、トンネルの中に明かりが灯った。
面白そうなので僕も手を伸ばしたら、アリサさんに叩かれた。
「あんたは触っちゃ駄目よ」
ーーーーー
王宮薬師見習い シオン
「先生、何故灯が消えているんでしょうか」
「うむ、何かあったのかね。室に戻る前に掲示板を確認しようかね」
「先生、こいつやたら刻印を触りたがるから縛っていいですか」
「放っておけ、魔力が無いから作動せん」
「はい、でも一応首に縄着けときます」
何かが可笑しいです、研究棟に人気が有りません。
実験に失敗した爆発音も聞こえて来ません。
掲示板を見て納得しました、研究棟に人の気配が無くて当然です、五日も前に厳戒令が出ていたのです。
厳戒令
令第十三号
1 不用不急の外出は控えるべし
2 不用不急の物品の購入を控え、節約に努めるべし
3 許可なき集会は反逆と見なす
4 混乱を招く言動は慎むべし
5 成年国民すべてを国軍に配備する
6 配備は第一配備体制とする
7 別表配備体制表に従い至急参集すべし
八月十三日
パトラン国国王 ゴト十二世
出遅れました、私とアリサの参集場所は機甲士訓練所です。
そこで予備機甲士兵としての訓練を受けなければなりません。
訓練はだいぶ進んでしまっているでしょう。
「先生、私直ぐに出発します」
「先生、私も」
「落ち着け、二人とも。今日は疲れて居るじゃろう、今晩ゆっくり寝て明日の朝行けばよろしい」
「でも先生、訓練は始まっています」
「そうです、五日間も出遅れています」
「大丈夫じゃ、最初の半月は操作座に座って唸っているだけじゃ」
『えっ!?』
「機甲は簡単に動かせる物じゃない、指一本動かすのに早くて十日、長い者で三月は掛かる。五日なんて誤差範囲じゃ、落ち着け」
「でも先生、教官様の心証が」
「そうです、怠けていたと思われたら意地悪されます」
「大丈夫じゃ、そんな度胸の有る奴はおらん。私が臨時訓練所長を拝命することになっておる」
『えーー!』
「知らんかったのか、私はこれでも有名な機甲乗りじゃったんじゃぞ。魔力は衰えたが短い時間ならまだ誰にも負けん」
「・・・・・」
「疑っておるのか。まあ良い、さて、問題はこいつじゃ」
「あっ!」
「危なくてここには置いておけん。戻ったら研究棟が全焼していたなんて笑えん話じゃからな。さりとて、厳戒令の今、言葉の解らんこいつを町に放り出したら不審者として処刑されかねん。お前達、メイドとして連れて行け」
「えーー!先生、宿舎は男子禁制ですよ」
「そうですよ先生、ばれたら処刑されます」
「大丈夫じゃ、こいつの中身は女じゃ。メイドの性別をいちいち気にする暇人なぞ誰もおらん。お前達には同室を手配してやる。私はこれから学院長のところへ挨拶に行って来る、任せたぞ」
『わー、先生』
先生は走る様に居なくなってしまいました。
アリサと二人で暫く茫然自失で立ち尽くしていました。
確か今は厳戒令下ですよね、こんな緊急時に堂々と規則を破ったら、私達どうなるんでしょうか。
ーーーーー
カイ
三人の話している内容は殆ど解らなかった。
解った範囲で整理すると、五日後先生は何かの勝負をしにメイドを連れて行くらしい。
そして二人が僕を見つめる視線から考えて、僕にも関係があることらしい。
うーん、良く解らん。
その晩僕は、久々に一人部屋で寝かせて貰えた。
壁に描かれた刻印に手を触れると、刻印が語り掛けて来る様に、その刻印が持つ意味がイメージとして浮かび上がって来た。
灯の刻印、記憶の刻印、音の刻印、水の刻印、火の刻印、風の刻印、癒しの刻印、土の刻印、木の刻印、空の刻印、星の刻印。
星の刻印に僕の身体から出る細い糸を満たすと、目の前に見えない筈の星空が広がった。
記憶の刻印に糸を満たせば、この部屋で過ごした多くの人々が刻んだ記憶が身体に満たされた。
空の刻印で魂を宙に飛ばし、音の刻印でこの世界を流れる音楽に耳を傾ける。
心が満たされて行き、その晩僕は熟睡した。
翌朝僕は、メイド服に着替えさせられ、アリサさんとシオンさんの荷物を担いで蔦に覆われた建物を出発した。
向かった先は高い石塀で囲まれた建物で、門の前の受付所で女性兵士が怖い顔で入場者を確認していた。
「魔薬研究室のアリサとシオンです、受付お願いします」
「テスラ先生のお弟子さんだな、お前は」
「お二人のメイドのカイです」
「うむ、先生から届け出が出ていたな。ほう、お前も先生の弟子か」
「はい、そうです」
「うむ、通って良し」
「はい、ありがとうございます」
ーーーーー
王宮薬師見習い アリサ
受付で咎めてくれれば未遂で終わって傷が浅いと思っていたのに、通過してしまいました。
仕方がありません、カイを部屋に軟禁して何とかやり過ごしましょう。
昨晩の内にあそこをちょん切っておいた方が正解だったでしょうか。
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