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7 女宿舎
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宿舎の二人部屋は広く、小さいながら従者用の小部屋も用意されていた。
小さな厨房と会議室兼食堂まで用意されており、書棚には座学で学ぶ講義に必要な本は全て並べられていた。
厨房の食品庫には簡単な調理に必要な食材が全て揃えられており、夜食や間食などの贅沢が許される様になっていた。
厚遇と言っても良い待遇に、二人は国の機甲士育成に対する並々ならぬ意欲を感じ取って緊張した。
その夜は宿舎の食堂へは寄らず、カイに簡単な料理を作らせて、二人は並んでいる本に目を通した。
「甲機って、何層にも重なった刻印を制御しなきゃいけないのね。指一本動かすのに肩、肘、手首、指の三つの刻印を同時に制御しなきゃいけないのよ」
「右手だけで十七個の刻印制御なんて魔力をどれ位消費するのかしら。私達の魔力で大丈夫なんだろうか」
「甘く見ていたな。此奴に構っている暇なんか無いわよ」
「予備刻印も含めると二百個以上の刻印を瞬時に動かすなんて人間業じゃないわね」
「此奴を連れ込んだ事をばらして、ここを追い出して貰った方が楽な気がしてきた」
「先生の折檻が怖いわよ」
「・・・、そうよね」
次の朝、アリサとシオンは二時間程早起きをして、部屋の窓、ドアに結界の封印を施した。
勿論カイを部屋の中に監禁するためである。
「この部屋から絶対に出ちゃ駄目だからね」
「音も発てちゃ駄目よ。もし見つかったら逆吊りで鞭打ち百回だからね」
「まあ、封印を施したら大丈夫と思うけど」
「あんたの所為で睡眠時間削られて大迷惑なんだからね私達、こら」
”ゴツン”
「はい、ごめんなさい御姉様」
「それじゃ行って来るからね」
「大人しくしてるのよ」
「はい御姉様行ってらっしゃいませ」
とっ、カイは二人を見送ったが、実は状況を良く理解していなかった。
まだ言葉が半分程度しか理解出来ていなかったのだ。
”コンコン”
「はい」
「封印を掛けて様だけど開けて頂戴」
掃除はメイドの仕事と考え、アリサとシオンは失念していたのだが、厨房の食材の交換に係員が回ってくるのだ。
「はい、開けます」
初歩的な刻印なので、カイは触れると直ぐ理解して解錠した。
「ありがとう」
中年の女性が部屋に入って来て厨房の食材を確認してから交換する。
「穀粉と根菜を多目に使った様だけど、多目に準備しておこうか?」
「???」
「あっ、ごめんね。山の民の娘さんだからまだ言葉が良く解らないんだね。これとこれ、一杯欲しいか」
「はい、欲しいです」
「ふーん、簡単な会話は解るんだね。それじゃ、偉い人、部屋、行ったか」
「いえ、行ってません」
「メイド、当番有る。話、聞いて来い」
「はい」
「それじゃ地図を描いてあげるからね。ついでに賄を食べさせて貰いな、美味しいよ」
そしてカイはアリサとシオンの意に反して、地図を片手に廊下へノコノコと歩み出た。
”コンコン”
「はい、入室前に、まず名前を名乗りなさい」
?????
”コンコン”
老年に差し掛かった細身のメイド服を纏った女性がドアを開ける。
「まあ、山の民の娘なのね。言葉、判る」
「はい、少し」
「あなた、誰のメイド」
「アリサ姉様とシオン姉様のメイドです」
「昨日入舎した所長のお弟子さん達ね。それじゃ言葉は少しづつ覚えて貰うから、今日は食堂の後片付けを手伝ってね」
「はい」
そして一月後、やっと甲機の指が動かせる様になったアリサとシオンは、疲れ果てて辿り着いた食堂で絶句した。
カイが食堂の中でチョコマカと注文を聞いて走り回っていたのだ。
「あら、今日は、アリサとシオンのメイドが当番なのね。可愛い娘じゃない、良く働くってうちのメイドが褒めてたよ」
「・・・。知ってたのか」
「うん、山の民の娘だから良く目立つからね。アリサとシオンのメイドって皆知ってるんじゃないかな」
この一月、訓練から戻ると二人は疲れ果てて泥の様に眠っていたので、カイに注意が向いていなかった。
部屋に戻ると封印が掛かっており、カイは部屋に籠っているものと思い込み安心し切っていた。
「カイ、私はAランチ」
「カイ、私はCランチ、今晩た~~~っぷり話を聞かせて貰うからね」
「ひー」
その晩、二人はカイを床に正座させて聞き取りをじっくり行った。
そして二人はもはやカイを隠す事は無理と悟り、一刻も早く訓練を終えてこの訓練所を抜け出す事が最善策だとの結論に辿り着いた。
そして更に一月後、頑張った二人は甲機で立ち上がる事に成功した。
今日は王族の訓練所視察が有るというので、カイ達メイドはいつも以上念入りに清掃を行っていた。
ちょうど清掃が終わった時分に先ぶれがあり、王族の馬車が玄関に横付けされた。
玄関での出迎えは教師達、カイ達メイドは廊下に並んで頭を下げて歓迎することになっている。
王族なのであろう、大勢の騎士たちを従えて、甲冑姿の女性が颯爽とカイ達が並ぶ廊下に向かって歩いて来た。
カイ達メイドは頭を下げて見送った。
カイは頭を下げて目の前を歩む貴人の足下を見詰めていた。
するとその足は、カイの前を数歩通り過ぎてから突然止まり、振り向いた。
”シャッ”
何か剣を引き抜いた様な音が聞こえたのでカイは視線を上げた、そしてそこには剣を手にしたあの危ない御姐さんが立っていた。
「ひっひっひっ、貴様、やっと見つけたぞ」
咄嗟に身の危険を感じて、カイは全速力で逃げ出した。
小さな厨房と会議室兼食堂まで用意されており、書棚には座学で学ぶ講義に必要な本は全て並べられていた。
厨房の食品庫には簡単な調理に必要な食材が全て揃えられており、夜食や間食などの贅沢が許される様になっていた。
厚遇と言っても良い待遇に、二人は国の機甲士育成に対する並々ならぬ意欲を感じ取って緊張した。
その夜は宿舎の食堂へは寄らず、カイに簡単な料理を作らせて、二人は並んでいる本に目を通した。
「甲機って、何層にも重なった刻印を制御しなきゃいけないのね。指一本動かすのに肩、肘、手首、指の三つの刻印を同時に制御しなきゃいけないのよ」
「右手だけで十七個の刻印制御なんて魔力をどれ位消費するのかしら。私達の魔力で大丈夫なんだろうか」
「甘く見ていたな。此奴に構っている暇なんか無いわよ」
「予備刻印も含めると二百個以上の刻印を瞬時に動かすなんて人間業じゃないわね」
「此奴を連れ込んだ事をばらして、ここを追い出して貰った方が楽な気がしてきた」
「先生の折檻が怖いわよ」
「・・・、そうよね」
次の朝、アリサとシオンは二時間程早起きをして、部屋の窓、ドアに結界の封印を施した。
勿論カイを部屋の中に監禁するためである。
「この部屋から絶対に出ちゃ駄目だからね」
「音も発てちゃ駄目よ。もし見つかったら逆吊りで鞭打ち百回だからね」
「まあ、封印を施したら大丈夫と思うけど」
「あんたの所為で睡眠時間削られて大迷惑なんだからね私達、こら」
”ゴツン”
「はい、ごめんなさい御姉様」
「それじゃ行って来るからね」
「大人しくしてるのよ」
「はい御姉様行ってらっしゃいませ」
とっ、カイは二人を見送ったが、実は状況を良く理解していなかった。
まだ言葉が半分程度しか理解出来ていなかったのだ。
”コンコン”
「はい」
「封印を掛けて様だけど開けて頂戴」
掃除はメイドの仕事と考え、アリサとシオンは失念していたのだが、厨房の食材の交換に係員が回ってくるのだ。
「はい、開けます」
初歩的な刻印なので、カイは触れると直ぐ理解して解錠した。
「ありがとう」
中年の女性が部屋に入って来て厨房の食材を確認してから交換する。
「穀粉と根菜を多目に使った様だけど、多目に準備しておこうか?」
「???」
「あっ、ごめんね。山の民の娘さんだからまだ言葉が良く解らないんだね。これとこれ、一杯欲しいか」
「はい、欲しいです」
「ふーん、簡単な会話は解るんだね。それじゃ、偉い人、部屋、行ったか」
「いえ、行ってません」
「メイド、当番有る。話、聞いて来い」
「はい」
「それじゃ地図を描いてあげるからね。ついでに賄を食べさせて貰いな、美味しいよ」
そしてカイはアリサとシオンの意に反して、地図を片手に廊下へノコノコと歩み出た。
”コンコン”
「はい、入室前に、まず名前を名乗りなさい」
?????
”コンコン”
老年に差し掛かった細身のメイド服を纏った女性がドアを開ける。
「まあ、山の民の娘なのね。言葉、判る」
「はい、少し」
「あなた、誰のメイド」
「アリサ姉様とシオン姉様のメイドです」
「昨日入舎した所長のお弟子さん達ね。それじゃ言葉は少しづつ覚えて貰うから、今日は食堂の後片付けを手伝ってね」
「はい」
そして一月後、やっと甲機の指が動かせる様になったアリサとシオンは、疲れ果てて辿り着いた食堂で絶句した。
カイが食堂の中でチョコマカと注文を聞いて走り回っていたのだ。
「あら、今日は、アリサとシオンのメイドが当番なのね。可愛い娘じゃない、良く働くってうちのメイドが褒めてたよ」
「・・・。知ってたのか」
「うん、山の民の娘だから良く目立つからね。アリサとシオンのメイドって皆知ってるんじゃないかな」
この一月、訓練から戻ると二人は疲れ果てて泥の様に眠っていたので、カイに注意が向いていなかった。
部屋に戻ると封印が掛かっており、カイは部屋に籠っているものと思い込み安心し切っていた。
「カイ、私はAランチ」
「カイ、私はCランチ、今晩た~~~っぷり話を聞かせて貰うからね」
「ひー」
その晩、二人はカイを床に正座させて聞き取りをじっくり行った。
そして二人はもはやカイを隠す事は無理と悟り、一刻も早く訓練を終えてこの訓練所を抜け出す事が最善策だとの結論に辿り着いた。
そして更に一月後、頑張った二人は甲機で立ち上がる事に成功した。
今日は王族の訓練所視察が有るというので、カイ達メイドはいつも以上念入りに清掃を行っていた。
ちょうど清掃が終わった時分に先ぶれがあり、王族の馬車が玄関に横付けされた。
玄関での出迎えは教師達、カイ達メイドは廊下に並んで頭を下げて歓迎することになっている。
王族なのであろう、大勢の騎士たちを従えて、甲冑姿の女性が颯爽とカイ達が並ぶ廊下に向かって歩いて来た。
カイ達メイドは頭を下げて見送った。
カイは頭を下げて目の前を歩む貴人の足下を見詰めていた。
するとその足は、カイの前を数歩通り過ぎてから突然止まり、振り向いた。
”シャッ”
何か剣を引き抜いた様な音が聞こえたのでカイは視線を上げた、そしてそこには剣を手にしたあの危ない御姐さんが立っていた。
「ひっひっひっ、貴様、やっと見つけたぞ」
咄嗟に身の危険を感じて、カイは全速力で逃げ出した。
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