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2 仕事をした
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踊り狂いたい気分だった。
目の前にニャンニャン出来る相手が居るのだ。
一緒に食事している時も味がまるで分からなかったし、普通の会話も声が上擦りそうになった。
風呂屋へ行って息子を特に念入りに洗っておいた、気合いを入れ過ぎて少しヒリヒリしているが我慢だ。
戻って部屋の引戸を開けるときもドキドキしてしまった。
ミーナを正面に見られない。
俯きながら布団を敷いて寝る準備をする。
何度もそのまま押し倒しそうになったが理性で何とか堪えた。
歯を磨いてからテーブルの上のランプを吹き消すと、一瞬にして部屋は漆黒の闇に包まれる。
手探りでミーナと布団を探り、布団に潜り込んで直ぐにミーナを抱き寄せる。
ついに童貞君から卒業か。
「ミーナ、エッチしよう」
”グワン”
闇の中でも正確な拳骨が脳天に降って来た。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。何度も言ってるでしょ。赤ちゃん出来たら誰が養ってくれるのよ」
脳天の痛みで記憶が身体の底から浮かび上がって来る。
俺はミーナの稼ぎで生活していた、だからミーナが働けなくなったら確かに俺達は飢え死にする。
それでも此奴が一週間に一回ミーナに襲いかかって殴られるのがお決まりのパターンになっている。
我ながら本当に情けない。
「じゃ、手とか口で」
”グワン”
先程の痛みが残っている状態での追撃だ、身体に痺れが走った気がする。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。罰が当たるよ」
再び身体の底から記憶が浮かび上がって来る。
この世界では子造りを目的としない射精は神への冒涜となるのだ。
だから当然オナニーもタブーだった。
うーこれはきつい、生殺しだ。
運命の神は、絶対俺に恨みが有るに違いない。
俺に身体を寄せて、ミーナが静かな寝息を立て始めた。
うん、良く考えれば全面的に悪いのは俺だ。
俺の甲斐性の無さが原因だ。
ごめん、謝罪を込めてミーナを軽く抱き寄せたが、ミーナの拳固がピクリと動いたので急いで離した。
翌朝、俺が目覚めた時にはミーナが起きて朝飯の準備をしていた。
俺も布団から起きて大きく伸びをする。
「あら、お早うお兄ちゃん、珍しく早いわね。今日は仕事探しに行ってね」
「ああ、でも何処で探すんだ」
ミーナがくるりと振り向く、目が怒っている。
しかも手に包丁を持っている。
うわー、危険だ。
俺の恐怖に引き攣った顔を見てミーナも気づいた様だ。
良かった、良かった。
ミーナは俺に背を向けて包丁を仕舞って手を洗う。
でも何だか背中が怒っている。
逃げよう、急いで逃げよう。
”ガツン”
少し遅かった様だ、朝一番の一撃の痛みが脳天から爪先に広がって行く。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。冒険者ギルドに決まってるでしょ。今日ちゃんと働かなかったら家に入れないよ」
再び記憶が足下からブクブクと浮かび上がって来る。
此奴はミーナに働けと言われても近所のガキを引き連れて毎日遊び惚けているのだ。
ミーナに怒られると勇者の訓練とホザいて殴られるのが何時もパターンだった。
本当に情けない、怠け者の中二病、自分の事ながら溜息が出る。
朝飯を食いながらもミーナは働け働けと呪文の様に繰り返す。
こんな状態でも平気で働かなかった此奴には寧ろ関心してしまう。
食事後俺は冒険者ギルドに向かった。
ギルドの場所は先程の一撃で思い出した。
冒険者ギルドは東門前広場に面した場所に建っている。
飾り気の無い石造りの重厚な建物だ。
間口の広い入口の階段を登って中に入る。
太い柱が何本も立っているが、構造的にはシンプルな間仕切りの無いワンフロアだ。
奥行きが四十メート位、横幅が三十メートル位。
天井の低い大きめの体育館のイメージだ。
中央部分に椅子とテーブルが並んでいる。
酒場兼カフェの様だ、防具を纏った冒険者達がお茶を飲みながら談笑しており、メイド服のウエイトレスさんが注文を取っている。
その奥には応接セットが複数並んでいる。
ソファーでは係員が客から何かを聞き取って紙に書いている。
たぶん求人の受付なのだろう、周囲に比べて客の身なりが上等だ。
右側には木製の大きな求人掲示板が数枚並んでおり、求人票なのだろうか、紙が一杯貼り付けてある。
掲示板の前には仕事を吟味する冒険者が鈴生りだ。
冒険者の格好から判断すると、奥の掲示板になる程上級者向けの求人の様だ。
左側にはテーブルが並んでいる。
テーブルの上に記号を書いた札が立ててあり、その後ろに係員が座っている。
右側の掲示板で求人票を見た冒険者が食堂を横切って左側のテーブルで係員から札を受け取っている。
求人の受付窓口なのだろう、掲示板と同様奥のテーブル程強そうな冒険者が多い。
入口の直ぐ脇には二階に上がる階段がある。
たしか二階は売店だった筈だが、登る奴も降りて来る奴も強そうな冒険者だけだ。
今の自分には縁がない場所だ。
俺も求人票を見に行く。
勿論一番手前の初心者コーナーの求人票だ。
掲示板を眺める群の中に俺も混じる。
年寄りと俺より少し若い連中や力の弱そうな者、女性が多い。
求人票を見て愕然とした、そう、俺はこの世界の字が読めなかったのだ。
そしてミノスも字が読めない様なのだ。
唖然として暫く掲示板を眺めていた。
だが、運命の神にも優しいところは有る様だ。
目を凝らせ丹念に字を追うと直ぐに気が付いた。
字と思って見ていた物は、実は小さく描かれた絵だったのだ。
うわー、この世界の人達の描写力は半端じゃ無い。
漢字は絵を簡素化して記号にした物だが、この世界は絵を描く方向で進化したらしい。
絵の間に記号が混じっている、これがたぶん表音文字、つまり平仮名の替わりなのだろう。
改めて掲示を見る、記号を適当に発音して読むと何とか文章の概要が理解出来る。
荷運び、薬草の採取、薪拾い、農作業、子守も有った。
取り敢えず簡単な薪拾いに応募することにした。
掲示に示された記号の札を立てた登録テーブルに並んで札を受け取った。
待つこと暫し、応募人数が一定数に達した時点で登録テーブルの上の札が外された。
募集終了なのだろう。
「薪拾いは俺に追いて来い」
男に追いて登録テーブルの前で立っていた連中がぞろぞろと出口に向かって歩き始める。
広場に止めてあった荷車の前に並ばされ、雇い主から改めて説明があった。
仕事は薪拾い、木材の切り出し作業で打ち落された枝を拾い集める作業だ。
だから薪拾いと呼ばれているが、実際は清掃作業だ。
枝を落ちたまま放置すると木食い蟻が増えて生木を食い荒らすから落とした枝を拾い集めて片付ける作業が必要になる。
なので立派な肉体労働なのだ。
賃金は銀貨四枚で昼飯付きだ、冒険初心者には丁度良い仕事だ。
荷車の後ろに追いて東門から森に向かって歩く。
「おいお前、棒は持って無いのか」
警備の男に聞かれた。
周囲を見回すと周囲の男達は腰に六十センチ位の警棒の様な棒を差している。
警備の男は山刀を差しているから、この世界では武器の携帯が必須なのだろう。
自身の安全は自分で守らねばならないらしい。
武器を持たない生活が当たり前と考えている平和ボケした自分が間抜けに思えて来た。
「すいません、持ってません」
「仕方ないな、今日は比較的安全な場所だが次回はちゃんと用意しろよ」
「はい、すいません」
街道を三十分程早足で進み、そこから脇に逸れて森の中へ延びているまだ新しい轍が残る細い道を伝って行く。
進むに従って森は深くなり、直径が二メートルを越えるような杉の巨木が立ち並ぶ中を進んで行く。
森の中の道を三十分程歩いたろうか、突然視界が開けまだ新しい切り株の残る大きな伐採跡地に出た。
明るく青い空が眩しかった。
地面には太い枝が放置されていたが、枝と言うよりも倒木に近かった。
思っていたよりも重労働の様だ。
伐採跡地も広く、大雑把に見ても二キロ四方は有りそうだった。
指示された範囲の枝を二人一組で担いで荷車前に集める。
集めた枝を木挽きが手際よく薪の大きさに切り揃えて荷車に積み上げてゆき、満杯になると荷車は町へと出発する。
見た目よりも量が多かった。
枝の下に枝が埋まっているのだ。
足下が悪いので何度も転びそうになる。
日が傾き始める頃合いには手と足が震えていた。
日頃遊んでいた報いか、年寄りに笑われてしまった。
夕暮れ前に急いで森を出る、夜の森は魔物と野獣の闊歩する世界に変わるのだ。
東門に帰り着いた時には完全に日が暮れてた。
雇い主から今日の賃金を受け取る。
棒を買おうと急いで武器屋へ向かったが、既に店は閉っていた。
仕方がないので、店仕舞いを始めた隣の道具屋で替わりに心張り棒を買い求めた。
引き戸に戸締まり用として使う支え棒だ。
長さが一メートル二十センチ位、太さが三センチ位の堅い手頃な棒が有った。
多少重さは違うが、慣れ親しんだ竹刀とほぼ同サイズだった。
俺は中学高校の六年間剣道を続けた、これは多少胸を張って自慢できると思う。
でもまあ、市民大会では上位でも県大会で二~三回戦負け程度の実力なので余り威張れた物でも無いが、それでも二段は貰ったので有段者だ。
しかもこの棒は安かった、銀貨一枚、日本円にして千円程度なのでお買い得だと思う。
家に戻ってミーナに今日の稼ぎとして残りの銀貨三枚を渡した。
銀貨を見詰めたままミーナは固まってしまった。
心外だが余程驚いた様だ。
うん、この程度の事に物凄く驚かれるなんて少し悲しい。
余り長い時間固まっていたので、心配になって肩を揺する。
大丈夫だった、現実世界に戻って来た。
そして我に返って俺の顔をまじまじと穴の開くほど見つめる。
そして顔を歪めたと思ったら泣き始めたのだ。
夕食時、ミーナはご機嫌だった。
食事に小さな肉片が入っていた。
我が家の久々の贅沢らしい。
何か俺はとても複雑だった。
目の前にニャンニャン出来る相手が居るのだ。
一緒に食事している時も味がまるで分からなかったし、普通の会話も声が上擦りそうになった。
風呂屋へ行って息子を特に念入りに洗っておいた、気合いを入れ過ぎて少しヒリヒリしているが我慢だ。
戻って部屋の引戸を開けるときもドキドキしてしまった。
ミーナを正面に見られない。
俯きながら布団を敷いて寝る準備をする。
何度もそのまま押し倒しそうになったが理性で何とか堪えた。
歯を磨いてからテーブルの上のランプを吹き消すと、一瞬にして部屋は漆黒の闇に包まれる。
手探りでミーナと布団を探り、布団に潜り込んで直ぐにミーナを抱き寄せる。
ついに童貞君から卒業か。
「ミーナ、エッチしよう」
”グワン”
闇の中でも正確な拳骨が脳天に降って来た。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。何度も言ってるでしょ。赤ちゃん出来たら誰が養ってくれるのよ」
脳天の痛みで記憶が身体の底から浮かび上がって来る。
俺はミーナの稼ぎで生活していた、だからミーナが働けなくなったら確かに俺達は飢え死にする。
それでも此奴が一週間に一回ミーナに襲いかかって殴られるのがお決まりのパターンになっている。
我ながら本当に情けない。
「じゃ、手とか口で」
”グワン”
先程の痛みが残っている状態での追撃だ、身体に痺れが走った気がする。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。罰が当たるよ」
再び身体の底から記憶が浮かび上がって来る。
この世界では子造りを目的としない射精は神への冒涜となるのだ。
だから当然オナニーもタブーだった。
うーこれはきつい、生殺しだ。
運命の神は、絶対俺に恨みが有るに違いない。
俺に身体を寄せて、ミーナが静かな寝息を立て始めた。
うん、良く考えれば全面的に悪いのは俺だ。
俺の甲斐性の無さが原因だ。
ごめん、謝罪を込めてミーナを軽く抱き寄せたが、ミーナの拳固がピクリと動いたので急いで離した。
翌朝、俺が目覚めた時にはミーナが起きて朝飯の準備をしていた。
俺も布団から起きて大きく伸びをする。
「あら、お早うお兄ちゃん、珍しく早いわね。今日は仕事探しに行ってね」
「ああ、でも何処で探すんだ」
ミーナがくるりと振り向く、目が怒っている。
しかも手に包丁を持っている。
うわー、危険だ。
俺の恐怖に引き攣った顔を見てミーナも気づいた様だ。
良かった、良かった。
ミーナは俺に背を向けて包丁を仕舞って手を洗う。
でも何だか背中が怒っている。
逃げよう、急いで逃げよう。
”ガツン”
少し遅かった様だ、朝一番の一撃の痛みが脳天から爪先に広がって行く。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。冒険者ギルドに決まってるでしょ。今日ちゃんと働かなかったら家に入れないよ」
再び記憶が足下からブクブクと浮かび上がって来る。
此奴はミーナに働けと言われても近所のガキを引き連れて毎日遊び惚けているのだ。
ミーナに怒られると勇者の訓練とホザいて殴られるのが何時もパターンだった。
本当に情けない、怠け者の中二病、自分の事ながら溜息が出る。
朝飯を食いながらもミーナは働け働けと呪文の様に繰り返す。
こんな状態でも平気で働かなかった此奴には寧ろ関心してしまう。
食事後俺は冒険者ギルドに向かった。
ギルドの場所は先程の一撃で思い出した。
冒険者ギルドは東門前広場に面した場所に建っている。
飾り気の無い石造りの重厚な建物だ。
間口の広い入口の階段を登って中に入る。
太い柱が何本も立っているが、構造的にはシンプルな間仕切りの無いワンフロアだ。
奥行きが四十メート位、横幅が三十メートル位。
天井の低い大きめの体育館のイメージだ。
中央部分に椅子とテーブルが並んでいる。
酒場兼カフェの様だ、防具を纏った冒険者達がお茶を飲みながら談笑しており、メイド服のウエイトレスさんが注文を取っている。
その奥には応接セットが複数並んでいる。
ソファーでは係員が客から何かを聞き取って紙に書いている。
たぶん求人の受付なのだろう、周囲に比べて客の身なりが上等だ。
右側には木製の大きな求人掲示板が数枚並んでおり、求人票なのだろうか、紙が一杯貼り付けてある。
掲示板の前には仕事を吟味する冒険者が鈴生りだ。
冒険者の格好から判断すると、奥の掲示板になる程上級者向けの求人の様だ。
左側にはテーブルが並んでいる。
テーブルの上に記号を書いた札が立ててあり、その後ろに係員が座っている。
右側の掲示板で求人票を見た冒険者が食堂を横切って左側のテーブルで係員から札を受け取っている。
求人の受付窓口なのだろう、掲示板と同様奥のテーブル程強そうな冒険者が多い。
入口の直ぐ脇には二階に上がる階段がある。
たしか二階は売店だった筈だが、登る奴も降りて来る奴も強そうな冒険者だけだ。
今の自分には縁がない場所だ。
俺も求人票を見に行く。
勿論一番手前の初心者コーナーの求人票だ。
掲示板を眺める群の中に俺も混じる。
年寄りと俺より少し若い連中や力の弱そうな者、女性が多い。
求人票を見て愕然とした、そう、俺はこの世界の字が読めなかったのだ。
そしてミノスも字が読めない様なのだ。
唖然として暫く掲示板を眺めていた。
だが、運命の神にも優しいところは有る様だ。
目を凝らせ丹念に字を追うと直ぐに気が付いた。
字と思って見ていた物は、実は小さく描かれた絵だったのだ。
うわー、この世界の人達の描写力は半端じゃ無い。
漢字は絵を簡素化して記号にした物だが、この世界は絵を描く方向で進化したらしい。
絵の間に記号が混じっている、これがたぶん表音文字、つまり平仮名の替わりなのだろう。
改めて掲示を見る、記号を適当に発音して読むと何とか文章の概要が理解出来る。
荷運び、薬草の採取、薪拾い、農作業、子守も有った。
取り敢えず簡単な薪拾いに応募することにした。
掲示に示された記号の札を立てた登録テーブルに並んで札を受け取った。
待つこと暫し、応募人数が一定数に達した時点で登録テーブルの上の札が外された。
募集終了なのだろう。
「薪拾いは俺に追いて来い」
男に追いて登録テーブルの前で立っていた連中がぞろぞろと出口に向かって歩き始める。
広場に止めてあった荷車の前に並ばされ、雇い主から改めて説明があった。
仕事は薪拾い、木材の切り出し作業で打ち落された枝を拾い集める作業だ。
だから薪拾いと呼ばれているが、実際は清掃作業だ。
枝を落ちたまま放置すると木食い蟻が増えて生木を食い荒らすから落とした枝を拾い集めて片付ける作業が必要になる。
なので立派な肉体労働なのだ。
賃金は銀貨四枚で昼飯付きだ、冒険初心者には丁度良い仕事だ。
荷車の後ろに追いて東門から森に向かって歩く。
「おいお前、棒は持って無いのか」
警備の男に聞かれた。
周囲を見回すと周囲の男達は腰に六十センチ位の警棒の様な棒を差している。
警備の男は山刀を差しているから、この世界では武器の携帯が必須なのだろう。
自身の安全は自分で守らねばならないらしい。
武器を持たない生活が当たり前と考えている平和ボケした自分が間抜けに思えて来た。
「すいません、持ってません」
「仕方ないな、今日は比較的安全な場所だが次回はちゃんと用意しろよ」
「はい、すいません」
街道を三十分程早足で進み、そこから脇に逸れて森の中へ延びているまだ新しい轍が残る細い道を伝って行く。
進むに従って森は深くなり、直径が二メートルを越えるような杉の巨木が立ち並ぶ中を進んで行く。
森の中の道を三十分程歩いたろうか、突然視界が開けまだ新しい切り株の残る大きな伐採跡地に出た。
明るく青い空が眩しかった。
地面には太い枝が放置されていたが、枝と言うよりも倒木に近かった。
思っていたよりも重労働の様だ。
伐採跡地も広く、大雑把に見ても二キロ四方は有りそうだった。
指示された範囲の枝を二人一組で担いで荷車前に集める。
集めた枝を木挽きが手際よく薪の大きさに切り揃えて荷車に積み上げてゆき、満杯になると荷車は町へと出発する。
見た目よりも量が多かった。
枝の下に枝が埋まっているのだ。
足下が悪いので何度も転びそうになる。
日が傾き始める頃合いには手と足が震えていた。
日頃遊んでいた報いか、年寄りに笑われてしまった。
夕暮れ前に急いで森を出る、夜の森は魔物と野獣の闊歩する世界に変わるのだ。
東門に帰り着いた時には完全に日が暮れてた。
雇い主から今日の賃金を受け取る。
棒を買おうと急いで武器屋へ向かったが、既に店は閉っていた。
仕方がないので、店仕舞いを始めた隣の道具屋で替わりに心張り棒を買い求めた。
引き戸に戸締まり用として使う支え棒だ。
長さが一メートル二十センチ位、太さが三センチ位の堅い手頃な棒が有った。
多少重さは違うが、慣れ親しんだ竹刀とほぼ同サイズだった。
俺は中学高校の六年間剣道を続けた、これは多少胸を張って自慢できると思う。
でもまあ、市民大会では上位でも県大会で二~三回戦負け程度の実力なので余り威張れた物でも無いが、それでも二段は貰ったので有段者だ。
しかもこの棒は安かった、銀貨一枚、日本円にして千円程度なのでお買い得だと思う。
家に戻ってミーナに今日の稼ぎとして残りの銀貨三枚を渡した。
銀貨を見詰めたままミーナは固まってしまった。
心外だが余程驚いた様だ。
うん、この程度の事に物凄く驚かれるなんて少し悲しい。
余り長い時間固まっていたので、心配になって肩を揺する。
大丈夫だった、現実世界に戻って来た。
そして我に返って俺の顔をまじまじと穴の開くほど見つめる。
そして顔を歪めたと思ったら泣き始めたのだ。
夕食時、ミーナはご機嫌だった。
食事に小さな肉片が入っていた。
我が家の久々の贅沢らしい。
何か俺はとても複雑だった。
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