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1 プロローグ
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プロローグ
俺の名前は新山真之介、今春某県立高校を卒業して大学に進学した十八歳の男子だ。
大学は何を間違えたのか、第一志望の都内有名大学に合格してしまった。
合格の可能性は数パーセント、しかも下半分の数パーセントだったのだ。
何故か試験の時に答えがすらすらと頭に湧いて出た。
友人に紛れだと言われたし、俺自身も全く同感だった。
その時だけ別人が乗り移っていた気がする。
でも人生は運の要素が物凄く大きいと思う。
努力は必要だが結果的に報われるとは限らない、寧ろ報われない事の方が多いだろう。
だが自分でも信じられない気分で合格を家に連絡した時、携帯の向こうから聞こえて来た大喜びしている両親の声はまだ耳に残っている。
結果は結果だ、どんな偶然だろうと飛去る運命の竜の背中にしがみついた方が勝ちなのだ。
両親は勿論、親戚も祝福してくれた。
学校の教師に関心され友人が俺を見る目も変わった。
薔薇色に祝福された道を空の彼方に向かって歩いている気分だった。
胸を張って上京し、大学の近くにアパートを借りた。
必要な物を買い揃え、少し早めに一人暮らしを始める積もりでいた。
夢にまで見た東京での一人暮らし、秋葉原のビルの谷間から見上げる空は明るく、春の暖かい風が気持ちが良かった。
新しく始まる学生生活、偶然の出会いと楽しい会話、互いに好意を抱いて心を許し、そして・・・・。
歩きながら妄想を滾らせて買ったばかりの炊飯器を振り回したくなる様な浮かれた気分で万世橋を渡っていた。
ふと向かいのビルの窓ガラスに写った雲を見上げた時だった。
冷たい風が吹いた様な気がした。
そして突然足下の感覚が無くなった。
たぶん落とし穴に嵌まったらこんな感覚なのだろう、橋が崩れたのだと思った。
景色が流れて真下に川面が迫る。
”ズブン”
橋の下には神田川が流れている。
足から鋭く着水して、水を切るように潜って行った。
三メートル以上は沈んだろうか。
臭い水を覚悟していたが、思ったよりも臭いも無く水が澄んでいた。
川底を蹴って必死で浮かび上がる、足裏に石の感覚が伝わって来た。
水面から顔を出して大きく息を吸う。
鼻から水を吸い込んだので苦しい。
岸に向かって懸命に泳ぎ石垣をよじ登る。
歩道の石畳に這い出て四つん這いになって喘いだ。
鼻から水が垂れて出る。
眼鏡も無いし炊飯器も無い、川の中に落としたのだろうか。
鼻腔の痛みを我慢しながら息を静かに整える。
気が付くと周囲を野次馬に囲まれていた。
「お兄ちゃん!」
その野次馬をかき分けて外国人の少女が俺に抱き付いて来た。
「お兄ちゃん、大丈夫」
赤い髪をポニーテールにした白人の少女だ。
顔に未発達の胸を押し付けられた。
涙が出るほど嬉しかったが、俺は一人っ子だし外国人にお兄ちゃんと呼ばれる理由も思いつかない。
断腸の思いで少女を引き剥がす。
うん、美形だ、胸は小さいが。
「君は誰だ」
少女は目を大きく見開らく。
”ガツン”
突然頭頂部に激痛が走った。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。私よ、私。頭打って可笑しくなったの」
少女に拳固で頭を殴られた。
痺れるような慣れ親しんだ痛みが脳天に走る。
その痛みの中から泡が立ち登る様に他人の記憶が浮かび上がって来た。
思い出した、うん、此奴は俺の妹のミーナだ。
そしてここは日本じゃない、それどころか地球ですら無い別世界だ。
俺の名前はミノス。
タラバノス国の地方都市クッスラに住む平凡で貧しい男だ。
俺は異世界の男に転生したらしい。
運命の神様は案外公平なのかも知れない。
「お兄ちゃん、家に戻って着替えましょ」
「ミーナ、可愛そうだが俺はお前の兄じゃない。実は異世界人なんだ」
”ごつん”
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。今度は異世界人なの。先週は勇者の生まれ変わりって言ってたよね。来年で十六歳なんだから、しっかりしてよ。まったくー」
また記憶が泡のように浮かび上がって来る。
確かにその前は魔王の生まれ変わりでその前は聖者の生まれ変わりと言っていた。
うん。、典型的な中二病だ此奴は、あー恥ずかしい。
説明しても無駄だろう、殴られるだけだ。
石畳の広い道をミーナの後に付いて歩いて行く、びしょ濡れで全身から滴が落ちる。
表通りなのだろう、馬に曳かれた荷車が行き交い壁に彫刻が施された石造りのヨーロッパの町並みを思わせる背の高い建物が並んでいた。
だが良く見るとやはり異世界だ、窓には障子が嵌まっており、しっかり雨戸まで有る。
裏通りに入ると雰囲気が大きく変わった。
急に丸太で作った木造家屋、ログハウスに変わったのだ。
三階立ての大きな入母屋で、なんか神社の社を見ている感じだった。
ミーナが更に裏道へと入る。
再び雰囲気が変わって、狭い路地を挟んだ小さな切妻屋根の細長い平屋のログハウスがびっしりと並んでいる。
路地を小さな子供が走り回っており、屋根に洗濯物が干してある。
うん、こりゃたぶん長屋だ。
裏路地を三回曲がったどん詰まり、古いログハウスの右端の部屋が俺の家だった。
深い庇、庇の下には薪が綺麗に積み上げてあった。
ここは雪国なのかも知れない、屋根の勾配もきつい。
入口の引戸を開けて部屋に入る。
うん、木製の引戸だった、ドアじゃなくて引戸だった。
祖父の家を思い出してなんか懐かしさを感じた。
中に入って部屋を見回す。
間口が四メートルで奥行きが八メートルくらい、手前半分が土間で奥半分が板敷きになっていた。
土間の入口脇に石の流し、竈、文様が刻まれた木箱が並んでいた。
流しと竈の前は木の格子の填まった窓になっており、内側に落とし戸が付いている。
土間の真ん中には頑丈なテーブルと椅子、おそらく家具はこれだけだろう。
奥の板の間には木箱が数箱と畳んだ布団が並べてあった。
うん、間違いない、布団だった。
八畳のダイニングキッチンと八畳の板の間、梯子が有るからロフト付きだろう。
二人で住むには十分だ、案外住宅事情は良さそうだ。
ミーナがサンダルを脱いで板の間に上がる。
うん、靴を脱いで上がる、ここは和洋折衷文化らしい。
ミーナは積んである箱から俺の着替えを取り出した。
「服濡れてるから土間で着替えてね」
「ああ、分かった」
上着を脱いで、ズボンを脱いで、パンツに手を掛けた時だ、ミーナが腰に手を当てて俺を見ているのに気が付いた。
妹であることは記憶として理解しているが、真之介としては此奴は知らない外人さんだ。
裸を見られるのは恥ずかしい。
お袋の前でもこの歳になって”ふるちん”を晒したことは無い。
「ミーナ、後ろを向いててくれ」
”パン”
頬を張り飛ばされた。
「早くしてよ、買い物が有るんだから」
くそー暴力女、それならば・・・・、パンツを脱ぐ、ほれ、象さんだ、象さん。
”ピシ”
痛い、ミーナが象さんを張り飛ばしてパンツと服を奪い、俺に背を向けて流しで服を洗い始めた。
再び買い物に出発、洗濯物は屋根の上に干してある。
迷子にならない様にミーナを追いかける。
俺より頭半分背は低いが、歩くのが早い。
表通りに出て橋を渡る、先程俺が落ちた橋だ。
欄干の無い板が並んでいるだけの橋、その狭い橋の上を荷車と人が行き交っている。
なんか怖いが、ミーナはさっさと渡って行く。
「領主の馬車だったよね、お兄ちゃん跳ね飛ばしたの。本当に乱暴で危ないよね」
俺は馬車に跳ね飛ばされて川に落ち、俺を跳ね飛ばした馬車は一顧だにせず走り去ったらしい。
領主と町民の力関係は俺の世界の常識は通用しないのだろう。
橋を渡った先が広場になっており、露店の様な店が並んでいる。
「嬢ちゃん、今日は鹿肉が安いよ」
「嬢ちゃん、今日は白菜と大根が安いよ」
「嬢ちゃん、良い芋が入ったよ」
「ミーナ、肉は買わないのか」
「馬鹿ね、そんな贅沢できるわけないでしょ」
ミーナが店主と値段を交渉して、結局白菜とじゃが芋、煮干しの様な干した小魚を大量に購入。
今日から一週間分のおかずの様だ。
うー、肉も食いたい。
その足で広場脇の商店に入る。
筆と炭が並んでおり、書道道具の店の様だった。
ミーナが丹念に筆を選んでいる。
ミーナは細筆を四本、墨を一本、半紙を一束買い求めた。
ミーナは書道家?いや漢字は流石に無いだろう。
家に戻る、家の前で近所のおばちゃんに合った。
「まあ、相変わらず仲が良いね。ミーナちゃんみたいな良いお嫁さんは滅多に居ないよ、あんたも感謝しなさいよ」
「出来の悪い兄だけど死んだ母さんから頼まれちゃいましたからね。仕方無いですよ」
「大変だね、あんたも頑張りなよ」
「はい」
部屋に入る、先程の会話で喉元まで出掛かっていた質問をミーナにする。
「俺達は本物の兄妹だよな」
「何馬鹿なこと聞くのよ、やっぱり打ち所が悪かったのかなー。本物の兄妹に決まっているでしょ」
「じゃ、何で結婚できるんだ」
”ゴギャン、ビシ、バシ”
今回は拳骨に続いて足蹴りの追加が有った。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。私が面倒みなきゃお兄ちゃん一生独身よ。私だってお母さんから頼まれなければ・・・・」
痛い、激痛の中、また記憶が泡のように身体の底から浮かび上がって来た。
これはびっくりだ、この世界じゃ兄妹の結婚は問題ないのだ。
事実俺達の親父とお袋も兄妹婚だったのだ。
とすると・・・・、俺のミーナに対する認識が百八十度変わる。
確認する、うん、間違い無い。
布団は一組しか無い。
パオーン、俺の象さんが叫ぶ。
前言撤回、運命の神はやはり俺に優しかった。
俺の名前は新山真之介、今春某県立高校を卒業して大学に進学した十八歳の男子だ。
大学は何を間違えたのか、第一志望の都内有名大学に合格してしまった。
合格の可能性は数パーセント、しかも下半分の数パーセントだったのだ。
何故か試験の時に答えがすらすらと頭に湧いて出た。
友人に紛れだと言われたし、俺自身も全く同感だった。
その時だけ別人が乗り移っていた気がする。
でも人生は運の要素が物凄く大きいと思う。
努力は必要だが結果的に報われるとは限らない、寧ろ報われない事の方が多いだろう。
だが自分でも信じられない気分で合格を家に連絡した時、携帯の向こうから聞こえて来た大喜びしている両親の声はまだ耳に残っている。
結果は結果だ、どんな偶然だろうと飛去る運命の竜の背中にしがみついた方が勝ちなのだ。
両親は勿論、親戚も祝福してくれた。
学校の教師に関心され友人が俺を見る目も変わった。
薔薇色に祝福された道を空の彼方に向かって歩いている気分だった。
胸を張って上京し、大学の近くにアパートを借りた。
必要な物を買い揃え、少し早めに一人暮らしを始める積もりでいた。
夢にまで見た東京での一人暮らし、秋葉原のビルの谷間から見上げる空は明るく、春の暖かい風が気持ちが良かった。
新しく始まる学生生活、偶然の出会いと楽しい会話、互いに好意を抱いて心を許し、そして・・・・。
歩きながら妄想を滾らせて買ったばかりの炊飯器を振り回したくなる様な浮かれた気分で万世橋を渡っていた。
ふと向かいのビルの窓ガラスに写った雲を見上げた時だった。
冷たい風が吹いた様な気がした。
そして突然足下の感覚が無くなった。
たぶん落とし穴に嵌まったらこんな感覚なのだろう、橋が崩れたのだと思った。
景色が流れて真下に川面が迫る。
”ズブン”
橋の下には神田川が流れている。
足から鋭く着水して、水を切るように潜って行った。
三メートル以上は沈んだろうか。
臭い水を覚悟していたが、思ったよりも臭いも無く水が澄んでいた。
川底を蹴って必死で浮かび上がる、足裏に石の感覚が伝わって来た。
水面から顔を出して大きく息を吸う。
鼻から水を吸い込んだので苦しい。
岸に向かって懸命に泳ぎ石垣をよじ登る。
歩道の石畳に這い出て四つん這いになって喘いだ。
鼻から水が垂れて出る。
眼鏡も無いし炊飯器も無い、川の中に落としたのだろうか。
鼻腔の痛みを我慢しながら息を静かに整える。
気が付くと周囲を野次馬に囲まれていた。
「お兄ちゃん!」
その野次馬をかき分けて外国人の少女が俺に抱き付いて来た。
「お兄ちゃん、大丈夫」
赤い髪をポニーテールにした白人の少女だ。
顔に未発達の胸を押し付けられた。
涙が出るほど嬉しかったが、俺は一人っ子だし外国人にお兄ちゃんと呼ばれる理由も思いつかない。
断腸の思いで少女を引き剥がす。
うん、美形だ、胸は小さいが。
「君は誰だ」
少女は目を大きく見開らく。
”ガツン”
突然頭頂部に激痛が走った。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。私よ、私。頭打って可笑しくなったの」
少女に拳固で頭を殴られた。
痺れるような慣れ親しんだ痛みが脳天に走る。
その痛みの中から泡が立ち登る様に他人の記憶が浮かび上がって来た。
思い出した、うん、此奴は俺の妹のミーナだ。
そしてここは日本じゃない、それどころか地球ですら無い別世界だ。
俺の名前はミノス。
タラバノス国の地方都市クッスラに住む平凡で貧しい男だ。
俺は異世界の男に転生したらしい。
運命の神様は案外公平なのかも知れない。
「お兄ちゃん、家に戻って着替えましょ」
「ミーナ、可愛そうだが俺はお前の兄じゃない。実は異世界人なんだ」
”ごつん”
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。今度は異世界人なの。先週は勇者の生まれ変わりって言ってたよね。来年で十六歳なんだから、しっかりしてよ。まったくー」
また記憶が泡のように浮かび上がって来る。
確かにその前は魔王の生まれ変わりでその前は聖者の生まれ変わりと言っていた。
うん。、典型的な中二病だ此奴は、あー恥ずかしい。
説明しても無駄だろう、殴られるだけだ。
石畳の広い道をミーナの後に付いて歩いて行く、びしょ濡れで全身から滴が落ちる。
表通りなのだろう、馬に曳かれた荷車が行き交い壁に彫刻が施された石造りのヨーロッパの町並みを思わせる背の高い建物が並んでいた。
だが良く見るとやはり異世界だ、窓には障子が嵌まっており、しっかり雨戸まで有る。
裏通りに入ると雰囲気が大きく変わった。
急に丸太で作った木造家屋、ログハウスに変わったのだ。
三階立ての大きな入母屋で、なんか神社の社を見ている感じだった。
ミーナが更に裏道へと入る。
再び雰囲気が変わって、狭い路地を挟んだ小さな切妻屋根の細長い平屋のログハウスがびっしりと並んでいる。
路地を小さな子供が走り回っており、屋根に洗濯物が干してある。
うん、こりゃたぶん長屋だ。
裏路地を三回曲がったどん詰まり、古いログハウスの右端の部屋が俺の家だった。
深い庇、庇の下には薪が綺麗に積み上げてあった。
ここは雪国なのかも知れない、屋根の勾配もきつい。
入口の引戸を開けて部屋に入る。
うん、木製の引戸だった、ドアじゃなくて引戸だった。
祖父の家を思い出してなんか懐かしさを感じた。
中に入って部屋を見回す。
間口が四メートルで奥行きが八メートルくらい、手前半分が土間で奥半分が板敷きになっていた。
土間の入口脇に石の流し、竈、文様が刻まれた木箱が並んでいた。
流しと竈の前は木の格子の填まった窓になっており、内側に落とし戸が付いている。
土間の真ん中には頑丈なテーブルと椅子、おそらく家具はこれだけだろう。
奥の板の間には木箱が数箱と畳んだ布団が並べてあった。
うん、間違いない、布団だった。
八畳のダイニングキッチンと八畳の板の間、梯子が有るからロフト付きだろう。
二人で住むには十分だ、案外住宅事情は良さそうだ。
ミーナがサンダルを脱いで板の間に上がる。
うん、靴を脱いで上がる、ここは和洋折衷文化らしい。
ミーナは積んである箱から俺の着替えを取り出した。
「服濡れてるから土間で着替えてね」
「ああ、分かった」
上着を脱いで、ズボンを脱いで、パンツに手を掛けた時だ、ミーナが腰に手を当てて俺を見ているのに気が付いた。
妹であることは記憶として理解しているが、真之介としては此奴は知らない外人さんだ。
裸を見られるのは恥ずかしい。
お袋の前でもこの歳になって”ふるちん”を晒したことは無い。
「ミーナ、後ろを向いててくれ」
”パン”
頬を張り飛ばされた。
「早くしてよ、買い物が有るんだから」
くそー暴力女、それならば・・・・、パンツを脱ぐ、ほれ、象さんだ、象さん。
”ピシ”
痛い、ミーナが象さんを張り飛ばしてパンツと服を奪い、俺に背を向けて流しで服を洗い始めた。
再び買い物に出発、洗濯物は屋根の上に干してある。
迷子にならない様にミーナを追いかける。
俺より頭半分背は低いが、歩くのが早い。
表通りに出て橋を渡る、先程俺が落ちた橋だ。
欄干の無い板が並んでいるだけの橋、その狭い橋の上を荷車と人が行き交っている。
なんか怖いが、ミーナはさっさと渡って行く。
「領主の馬車だったよね、お兄ちゃん跳ね飛ばしたの。本当に乱暴で危ないよね」
俺は馬車に跳ね飛ばされて川に落ち、俺を跳ね飛ばした馬車は一顧だにせず走り去ったらしい。
領主と町民の力関係は俺の世界の常識は通用しないのだろう。
橋を渡った先が広場になっており、露店の様な店が並んでいる。
「嬢ちゃん、今日は鹿肉が安いよ」
「嬢ちゃん、今日は白菜と大根が安いよ」
「嬢ちゃん、良い芋が入ったよ」
「ミーナ、肉は買わないのか」
「馬鹿ね、そんな贅沢できるわけないでしょ」
ミーナが店主と値段を交渉して、結局白菜とじゃが芋、煮干しの様な干した小魚を大量に購入。
今日から一週間分のおかずの様だ。
うー、肉も食いたい。
その足で広場脇の商店に入る。
筆と炭が並んでおり、書道道具の店の様だった。
ミーナが丹念に筆を選んでいる。
ミーナは細筆を四本、墨を一本、半紙を一束買い求めた。
ミーナは書道家?いや漢字は流石に無いだろう。
家に戻る、家の前で近所のおばちゃんに合った。
「まあ、相変わらず仲が良いね。ミーナちゃんみたいな良いお嫁さんは滅多に居ないよ、あんたも感謝しなさいよ」
「出来の悪い兄だけど死んだ母さんから頼まれちゃいましたからね。仕方無いですよ」
「大変だね、あんたも頑張りなよ」
「はい」
部屋に入る、先程の会話で喉元まで出掛かっていた質問をミーナにする。
「俺達は本物の兄妹だよな」
「何馬鹿なこと聞くのよ、やっぱり打ち所が悪かったのかなー。本物の兄妹に決まっているでしょ」
「じゃ、何で結婚できるんだ」
”ゴギャン、ビシ、バシ”
今回は拳骨に続いて足蹴りの追加が有った。
「お兄ちゃん、馬鹿な事言わないで。私が面倒みなきゃお兄ちゃん一生独身よ。私だってお母さんから頼まれなければ・・・・」
痛い、激痛の中、また記憶が泡のように身体の底から浮かび上がって来た。
これはびっくりだ、この世界じゃ兄妹の結婚は問題ないのだ。
事実俺達の親父とお袋も兄妹婚だったのだ。
とすると・・・・、俺のミーナに対する認識が百八十度変わる。
確認する、うん、間違い無い。
布団は一組しか無い。
パオーン、俺の象さんが叫ぶ。
前言撤回、運命の神はやはり俺に優しかった。
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