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11 お兄ちゃん、何か悪いことしたの

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「はいこれ、今回の稼ぎだ」

ミーナにずっしり重たい麻袋を渡す。
怪訝な顔をして袋の中をのぞき込んだミーナは目を大きく見開いた、袋を持つ手が震えている。

「お兄ちゃん、何か悪いことしたの」

貧乏神とお友達のミーナは驚いたのだろう。
実は俺も驚いた、毎日こつこつと倒していたガーゴイルの魔石の分け前が凄いことになっていたのだ。

俺の役回りは足下で痙攣けいれんしてる奴に止め刺すだけの楽ちんな作業だけだった。
なので分け前と言われても余り当てにしていなかった。
ところが渡された袋には金貨が百八十枚も入っていたのだ。
日本円に換算すると、なんと、一千八百万円だ、そりゃもーびっくりした。

怖くなって理由を聞いてみたら、逆に少なくて申し訳ないと謝られてしまった。
俺が金槌で止めを刺したガーゴイルは、電撃を食らいながら腹立ち紛れに叩いていたので自覚は無かったが、一日平均で二十匹もいたらしいのだ。
ガーゴイルの魔石は一個で金貨一枚、なので三ヶ月で金貨千八百枚、日本円で一億八千万円も青竜騎士団のお財布に貢献していたらしいのだ。

稼ぎの一割、その話を聞いたら罰は当たらないと思えてきた。
これ以外にも日当銀貨十枚を別に貰っている。
これはミーナには内緒だ。
因みにガーゴイルもお肉になった。
うん、鶏肉みたいで美味しかった。

なのでミーナには最初に金貨千八百枚分を稼いだ話をした。
人間不思議な物で、千八百枚の一割しか貰えなかったと、悔しそうな顔で説明したら百八十枚が小さな額に感じられた様で、凄く納得した顔をしていた。
だから今日の我が家は外食だ、たぶんこんな贅沢始めてじゃないだろうか。

風呂に行ってから食事にすることにした。

なんかミーナは地に足が着かない感じでふわふわ歩いている。
一緒に湯船に入ってから洗い場に移動、ミーナに背中を洗って貰った。

「お兄ちゃん!、凄い筋肉」

ん、成る程、言われてみれば胸板が厚くなって腕も太くなっている。
三ヶ月間、毎日大木槌を振り回して走ってたのだから良く考えれば当たり前なのだ。
ミーナが不思議そうに俺の胸を撫で回す、ちょっとくすぐったい、試しにハグしたら殴られた。

一端家に帰って着替えてから料理屋へ向かう。
最初風呂の帰りのついでの寄ろうとしたのだが、タオルと桶を抱えた姿が余りにも場違いだったので慌てて引き返した。

料理屋に入る、川沿いに立つ眺めの良さそうな三階立ての大きなログハウスだ。
各階の周りに回廊が作ってあり、大きな神社の様に見える。

「いらっしゃませ」

玄関の広い板間で女中さんや女将さんが並んでおり、丁寧なお辞儀で迎えられた。

”お兄ちゃん、やっぱり止めようよ”

ミーナが俺の背に隠れて怖じ気付いている。

「二人です、眺めの良い場所が空いてたらお願いします」
「はい、ご案内します」

心配そうな顔をしていた女将さんは、俺の態度に安心したように微笑んだ。
三階の眺めの良いテーブルに案内された。
ミーナは俺の服の裾をがっしり掴んで付いてくる。
きょろきょろと周囲を見回して、何か挙動が不審になっている。

「猪の味噌焼きと鴨の茶碗蒸し、川魚の三点盛りと川海老の唐揚げ、山芋の擂り身焼きと茸と山大葉の天ぷら、それとワインをお願いします」
「今日はガーゴイルの鉄板焼きがお勧めですが」
「いえ、ガーゴイルは昨日食べたんで結構です」

何か、微妙な感じで俺を見ている、値段を確認したらガーゴイルは高級食材だった。

「昨日まで森の中に居たもんですから」

慌てて言い訳する、納得してくれた様だ。

「ミーナはどうする」
「お兄ちゃんと一緒で良い」
「じゃ、さっきのを二人毎で、それと食後に氷菓子もお願いします」

ワインを飲んでゆったりした時を過ごす、ミーナもワインを少し飲んで落ち着いた様だ。
川面に町灯りが写って幻想的だ。

「ねえ、お兄ちゃん。何で慣れてるの、始めてなんでしょ」
「森の基地の中に似た様な店があったんだ」
「ふーん、そうなんだ」

これは嘘だ、真之介として知ってただけだ。
毎日食堂で肉と山菜と芋の偏った食生活を送っていた。
だから今日は物凄く久々にまともな物を食った気がした。

勘定を済ませて店を出ると、ミーナの足取りが覚束ない。
ワインが少々回った様だ。
恥ずかしがっていたが背負って帰る。

「お兄ちゃん、格好良かったよ」

そう呟いて寝息を立て始めた。
冷たい風が酒で火照った顔に心地良い。

着替えさせて寝床に入れる。
俺の胸に顔を寄せて、幸せそうな寝息を立てている。

翌朝、ミーナと並んで朝飯の準備をしていたら、ノックも無しにいきなり家の戸を開けた奴がいる。
院長だ、ニャンニャンしてたらどうする積もりだったのだろうか。

「ミノス手伝え」

それだけじゃ何も解らん。

「お兄ちゃん、私も行く」
「おお、構わん」

いや、俺は構うぞ。

そして俺は馬車に揺られている。
向かっている先はオメトーノ森林地帯、シー坊団長の奥さん、サクラ白竜騎士団長さんが結界を作っている場所だ。

作業が遅れているので優秀な結界杭の職人を所望しているとのことだった、俺は職人じゃ無い、単なる冒険初心者だ。

俺の脇にはミーナが座っている、そしてミーナの正面には院長、院長の脇には何故かカスミさんが座っている。

「ミノス、お前の傷の手当てをしないと忘れ物をした気分でな」

ひー、此奴はストーカーか。

「冗談じゃよ、此奴はサクラの妹じゃ。見合いの話でサクラに呼ばれておる」

ミーナはカスミさんをキラキラした目で見ている、なんでもカスミさんは若い治療士見習いの憧れらしい。

「ミーナにも手伝わせてやるぞ。此奴の時は特に丁寧に教えてやる」
「はい、お願いします」

いや、俺は絶対に怪我はしないぞ。
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