お兄ちゃん、馬鹿な事言わないでよ -妹付き異世界漫遊記ー

切粉立方体

文字の大きさ
27 / 27

27 妾はまだ竜に食われたく無い

しおりを挟む
若い赤竜の雄が渋々俺達の前で腹這いになった、自分達が苦戦していた百足を簡単に倒し、しかもその肝を美味そうに食ってしまう人間が気持ち悪いようだった。
たぶん竜や鳩程度なら勝てると思う、此奴等の肝の味には興味が有るのだが我慢している。
此奴等も薄々それは感じている様だった。

ミーナを抱えて竜に飛び乗り、左右の翼の間にミーナを抱えたまま座った。
風を巻き起こして赤竜が飛び立った、木々が眼下を飛ぶように過ぎて行く。
見る見る世界樹が遠ざかり、結界を越え、町の近くの街道脇に降り立った。
流石に竜だ、本当に一っ飛びだった。
俺達が降りると悠然と飛び去って帰って行った。
手を振って見送る、野次馬が集まって周りは黒山の人集りになっていた。

教会に戻ると礼拝堂の椅子が取り払われ、治療院の開設に向けて準備が着々と進んでいた。
何の連絡もなしの約一月間の不在であったが、俺達が居なくても世の中は勝手に回っているのだ。
ちまたでは領主に消されたとの噂が出回っていたそうだ、領主にしてみれば不本意だったろう。

俺達が戻った事を聞いて、婆さんが駆け付けて来た。
婆さんに起こった出来事を説明する。

「クーと世界樹は共生していると言われている。世界樹はクーの生命の欠片かけらを貰い、替わりに住処を与えるのだそうだ。そのクーが瀕死じゃったのか、なるほどの。樹を降りた魔獣が樹に戻ればこれで森も落ち着くじゃろう。森端の国も立ち直れるだろうよ」

俺達の国はまだ財力が有ったので結界が張れた、だがその余力の無かった国の被害は大きかったらしい。
魔獣に襲われて滅んだ町の噂は聞いている。
しかし住まいを提供しているのであれば、大家として害虫駆除はきちんとすべきじゃないかと思う。

「ところでお前、赤竜に乗って帰って来たって話は本当か。もし本当なら王都が大騒ぎになるぞ」
「ああ、精霊の命令で渋々な、彼奴ら俺を乗せるのを嫌がって、結局、くじ引きで若い奴が外れを引いて乗せてくれた。でもなんで王都が大騒ぎになるんだ」
「お前知らんのか、王家の正当性は赤竜との盟約で助力を得られるからなんだぞ。戦争が起こった時の武器にもなるし抑止力にもなる。じゃから貴族は王家の権益を認めて居るんじゃ」

それと俺との関係が今一つ解らない。

「じゃから王家以外の竜を使える者が現れてみろ、王家の存在意義が無くなってしまうわ。しかも気軽に足替わりに使うなんて無茶苦茶じゃ。王家が竜に物を頼むときは、姫一人と牛三千頭の肉を捧げるんじゃぞ」

カラスが牛三千頭を引き連れて歩いてる姿が目に浮かんだ、王族も難儀な商売だ。
やっと王族と縁が切れたと思ったのに、面倒くさいことだ、まあ、成り行きで考えよう。

婆さんとミーナ達が図面を見ながら治療院のレイアウトを検討している。
婆さんの所で修行を終えた五人で共同経営する予定なので全員真剣だ。

歯の治療が得意な者、傷の治療が得意な者、骨の治療が得意な者、目の治療が得意な者、病気の治療が得意な者、それぞれが得意な治療を受け持って独立したスペースで治療する予定らしい。
当初は普通のスタイル、患者に症状を聞いてそれに応じて各人が治療する予定だったらしい。
だが、これだと各人が同じ道具を揃えなければならなくなり、出費が嵩む。
それでは勿体ないとの話になりこのスタイルにしたらしいのだ。
彼女達は知らないが、俺は病院のようだと思った。
治療院は開設に向けて順調に作業が進んでいる。

その間、俺は俺で護衛業務に精を出していた。
盗賊の間でも俺は有名になっており、魔除け札代わりに雇われることが多くなった。
特に貴重品の運搬では俺を指名して来る商人も多くなり順調に稼げる様になった。

そしていよいよ治療院の開設が明日と言う日になって、突然カラスがお忍びで俺の所へやってきた。

「竜を呼出して欲しい、たのむ。ガラスナ帝国の軍船二百隻がメルノーサ沖に現れた。貴族共が竜を呼び出せと父上を突き上げておる。呼び出したら妾が竜のところへ行かねばならんが、妾はまだ竜に食われたく無い」

婆さんが予想したとおりの噂が王都に流れているらしい。
確かに拳固で脅かして竜を百匹くらい連れて来るのも可能だが、それも面倒臭い、それだったら俺が軍船を脅しに行った方が早い。

「その軍船とやらを先に見せてくれないか」
「時間が無いぞ」
「ああ、必要ならばその場で竜を呼び出す」
「判った、では馬を手配しよう」
「いや、その必要は無い、俺の背に掴まれ」

俺が座ってカラスに背を向けると、カラスは?を四つくらい頭上に浮かべながら俺の背に掴まった。
俺はカラスを背負って大空に向かって走りだした。

大型船が二百隻、流石に壮観だ。
一際大きな旗船と思われる船の前で、カラスをお姫様抱っこして宙に浮く。
船上はパニックになっている。

カラスが船を指差す、そして指を徐々に持ち上げる。
その指動きに沿って、旗船がゆっくり海上から持ち上がる。
船の下に氷の塊を一杯作り、プチプチと爆発させる地道な作業なのだが、見た目はカラスが念力で船を持ち上げている様に見える。

カラスが指をくるりと回転させて船を逆さまにする、甲板に居た人が海中に落下して行く。
これは、背中に冷や汗が出るくらい爆発の制御が難しい。

そしてカラスがもう一度指を回して、船を元に戻して海中に浮かべる。
今度がカラスが沖合を指差す、指差した先の海上が爆発して大きな波が船団を襲う。
船の上はパニックだ。

これは、単に海水表面の温度を急激に上昇させて水蒸気爆発を起こしただけで、船を持ち上げるよりもとっても簡単。

カラスが相手に宣告する。

「妾は赤竜騎士団団長にして王女カラスなり、ガラスナ帝国船団に告ぐ、即刻立ち去れ」

カラスを抱えたまま近くの森に立ち去る。
そして梢から観察する、船団はパニックになって飛ぶように消え去った。
カラスが何か渋い顔をしている。

「何か詐欺師になったような気分じゃ」
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...