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26 お兄ちゃん、ここ何処
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町の空には闇が迫っていた。
良かった、昼だったら大騒ぎになるところだった。
ミーナはまだ良い、確かに人が空を飛んでれば驚かれるがそれなりに様になっている。
両手を体の脇に揃えて、前方を見つめて髪を靡かせている。
問題は俺だ、飛んでる人間の後ろを走って追いかけている人間がいたら、見た人はアクションに困るだろうと思う。
必死で追いかけるが追いつけない。
町の外壁を越え、街道を越え、結界を越えて森の上空を飛んで行った。
遙か彼方に世界樹が夜に黒々と聳えている。
ミーナは世界樹に向かって真っ直ぐ飛んでいる。
森の中に突然広い草原が出現した、突然ミーナが高度を落とし始める。
そして深い草の中に降り立った。
手刀で草を刈っている、気配が別人だ、此奴は強い、下手な魔獣なぞ適わないくらい強い。
「お前は誰だ」
ミーナが驚いた様に振り向いた。
「人よ、何故そこに居る」
「それは、俺の妹だ。返せ」
「調度良い、手伝え。貴様もその草を刈れ。我は世界樹だ」
返す気はさらさら無い様だ、たぶん今ミーナを乗っ取っているのは世界樹の精霊だ。
剥がし方が判らない以上、従うしかない。
刀を抜いて草を刈る。
刈った草が小山程になった、すると精霊が両手を天に向かって広げ、掌を光らせる。
地中から茨が延びて来て、刈った草を縛って行く。
「人よ、これを我の上まで運べ」
そう言うと、さっさと世界樹に向かって飛んで行ってしまった。
仕方ない、山のような草を担いで後を追った。
世界樹は枯れていた、大量の枯れ葉が根本に積もって腐臭を放っていた。
竜などの大型の魔獣が根本で徘徊している、住処を失ったのだろうか。
婆さんの予想は当たっていた、世界樹に住んでいた魔獣が住処を奪われ周りの森に降り、周りに住んでいた魔獣達が玉突き的に周囲に追い出された、たぶんそんな図式だ。
精霊を追って世界樹を登る、空気が薄くなり、氷を作るのに苦労し始めた時に天辺に着いた。
天辺は大きな鳥の巣になっていた。
真ん中に体中から血を流している、山のような一際巨大な大鳩が踞っていた。
その周囲を大鳩や竜がうろうろしている。
俺達が巣に降り立つと、巣の縁で控えていた若い竜や大鳩が襲って来た。
「我だ、馬鹿者」
急に重力が増した、竜や大鳩が巣に押し付けられている、うん、百足の穴に居た女と同じ技だ、威力は今一だけど。
精霊が踞っている大鳩に向かって歩き始めた。
大鳩の体には大きな穴が一杯開いており、そこから血膿を流していた。
「どうだった」
精霊が巨大な大鳩の周囲にいる竜や大鳩に声を掛けた。
『殻が堅く、我等の牙も爪も通りません』
『我らの嘴も跳ね返されてしまいます』
声が直接頭の中に響いてくる。
「そーか、じゃが、今から追い出すから頑張ってくれ」
「なんの話だ」
良く話が見えないので精霊に聞いてみた。
驚いて振り向いた精霊が後退った。
「貴様、何でそこに立っておる」
後を付いて来ただけなので、何故と聞かれても困る。
俺を指さして睨んでいた精霊が、突如脱力する。
「まあ良い、詮索は後じゃ、ならば手伝え。その草をクーの周りに敷いて燃やす、それでクーに巣食っている蟲共を燻り出す」
大鳩の体に開いている穴は蟲が潜り込んだ跡らしい。
穴の大きさは俺の背丈の倍くらいだから相当でかい蟲だ。
百足の穴で空を走っていた連中くらいか。
草を小分けして大鳩の周りに並べる、一周で二キロくらいだ。
最後の草を並べ終わった時、突然大鳩の体を食い破って現れた百足が精霊に襲いかかった。
精霊が消えようが、滅びようが構わないのだが、それはミーナの体だ。
ミーナが傷ついたら俺が困る。
なので熱魔法で凍らせ、動きを止めてから殴り倒す。
胸板を剥がして肝を取り出す。
目を瞑っていても出来るくらいの慣れた作業だ。
肝を食うと苦みが体に染み渡る、うーん、美味い。
精霊と竜と鳩に引かれてしまったが、此奴等も食べて見れば判ると思う。
「火を点けりゃ良いのか」
「ああ」
熱魔法で一斉に火を点ける、大鳩が見えなくなるくらい煙が立ち上って、苦しがって百足が顔を出す。
そいつ等に襲いかかって、引き摺出してから肝を食らった。
煙を絶やさない様に精霊が竜と鳩を引き連れて草を取りに行き、俺は草を燃やしながら百足の監視を続ける。
竜も鳩も百足を食らう俺が怖いらしく、目を合わせようとしない。
半月程で大鳩に巣食っていた百足の駆除が終わった。
精霊が傷口一つ一つを薬草で癒して行く。
そして大鳩が意識を取り戻した。
『精霊よ、感謝する。黄泉の女神の食卓に供されるところであった』
「クーよ、感謝するならば、この者に感謝しろ。蟲は全てこの者が屠った。それにお主の滅びは我の滅びだ。我は我を助けたまでだ」
『そーか、ならば人よ、改めて感謝する。何か望みは有るか』
「なら精霊に、その身体早く返せと言ってくれ」
『ふぉ、ふぉ、ふぉ、欲が無いのう。じゃが我の体調が戻るまで少し待ってくれ』
「ならば俺をこの世界に招いた奴を教えてくれ」
『んっ?なるほどの。主は招かれし者だったか。ならばこの地の遙か東に空を彷徨う町が有る、そこの時の神殿で問え』
「判った、恩にきる」
そして半月、大鳩に力が戻り、世界樹に若葉が芽吹き始めた。
「人よ感謝する。我にも力が戻った。もう憑代の力も不要じゃ。この者を返そう。赤竜に主達を送らせよう。世話になった。この娘にも癒しの力を与えておこう」
そして精霊の気配が消えた。
「お兄ちゃん、ここ何処」
良かった、昼だったら大騒ぎになるところだった。
ミーナはまだ良い、確かに人が空を飛んでれば驚かれるがそれなりに様になっている。
両手を体の脇に揃えて、前方を見つめて髪を靡かせている。
問題は俺だ、飛んでる人間の後ろを走って追いかけている人間がいたら、見た人はアクションに困るだろうと思う。
必死で追いかけるが追いつけない。
町の外壁を越え、街道を越え、結界を越えて森の上空を飛んで行った。
遙か彼方に世界樹が夜に黒々と聳えている。
ミーナは世界樹に向かって真っ直ぐ飛んでいる。
森の中に突然広い草原が出現した、突然ミーナが高度を落とし始める。
そして深い草の中に降り立った。
手刀で草を刈っている、気配が別人だ、此奴は強い、下手な魔獣なぞ適わないくらい強い。
「お前は誰だ」
ミーナが驚いた様に振り向いた。
「人よ、何故そこに居る」
「それは、俺の妹だ。返せ」
「調度良い、手伝え。貴様もその草を刈れ。我は世界樹だ」
返す気はさらさら無い様だ、たぶん今ミーナを乗っ取っているのは世界樹の精霊だ。
剥がし方が判らない以上、従うしかない。
刀を抜いて草を刈る。
刈った草が小山程になった、すると精霊が両手を天に向かって広げ、掌を光らせる。
地中から茨が延びて来て、刈った草を縛って行く。
「人よ、これを我の上まで運べ」
そう言うと、さっさと世界樹に向かって飛んで行ってしまった。
仕方ない、山のような草を担いで後を追った。
世界樹は枯れていた、大量の枯れ葉が根本に積もって腐臭を放っていた。
竜などの大型の魔獣が根本で徘徊している、住処を失ったのだろうか。
婆さんの予想は当たっていた、世界樹に住んでいた魔獣が住処を奪われ周りの森に降り、周りに住んでいた魔獣達が玉突き的に周囲に追い出された、たぶんそんな図式だ。
精霊を追って世界樹を登る、空気が薄くなり、氷を作るのに苦労し始めた時に天辺に着いた。
天辺は大きな鳥の巣になっていた。
真ん中に体中から血を流している、山のような一際巨大な大鳩が踞っていた。
その周囲を大鳩や竜がうろうろしている。
俺達が巣に降り立つと、巣の縁で控えていた若い竜や大鳩が襲って来た。
「我だ、馬鹿者」
急に重力が増した、竜や大鳩が巣に押し付けられている、うん、百足の穴に居た女と同じ技だ、威力は今一だけど。
精霊が踞っている大鳩に向かって歩き始めた。
大鳩の体には大きな穴が一杯開いており、そこから血膿を流していた。
「どうだった」
精霊が巨大な大鳩の周囲にいる竜や大鳩に声を掛けた。
『殻が堅く、我等の牙も爪も通りません』
『我らの嘴も跳ね返されてしまいます』
声が直接頭の中に響いてくる。
「そーか、じゃが、今から追い出すから頑張ってくれ」
「なんの話だ」
良く話が見えないので精霊に聞いてみた。
驚いて振り向いた精霊が後退った。
「貴様、何でそこに立っておる」
後を付いて来ただけなので、何故と聞かれても困る。
俺を指さして睨んでいた精霊が、突如脱力する。
「まあ良い、詮索は後じゃ、ならば手伝え。その草をクーの周りに敷いて燃やす、それでクーに巣食っている蟲共を燻り出す」
大鳩の体に開いている穴は蟲が潜り込んだ跡らしい。
穴の大きさは俺の背丈の倍くらいだから相当でかい蟲だ。
百足の穴で空を走っていた連中くらいか。
草を小分けして大鳩の周りに並べる、一周で二キロくらいだ。
最後の草を並べ終わった時、突然大鳩の体を食い破って現れた百足が精霊に襲いかかった。
精霊が消えようが、滅びようが構わないのだが、それはミーナの体だ。
ミーナが傷ついたら俺が困る。
なので熱魔法で凍らせ、動きを止めてから殴り倒す。
胸板を剥がして肝を取り出す。
目を瞑っていても出来るくらいの慣れた作業だ。
肝を食うと苦みが体に染み渡る、うーん、美味い。
精霊と竜と鳩に引かれてしまったが、此奴等も食べて見れば判ると思う。
「火を点けりゃ良いのか」
「ああ」
熱魔法で一斉に火を点ける、大鳩が見えなくなるくらい煙が立ち上って、苦しがって百足が顔を出す。
そいつ等に襲いかかって、引き摺出してから肝を食らった。
煙を絶やさない様に精霊が竜と鳩を引き連れて草を取りに行き、俺は草を燃やしながら百足の監視を続ける。
竜も鳩も百足を食らう俺が怖いらしく、目を合わせようとしない。
半月程で大鳩に巣食っていた百足の駆除が終わった。
精霊が傷口一つ一つを薬草で癒して行く。
そして大鳩が意識を取り戻した。
『精霊よ、感謝する。黄泉の女神の食卓に供されるところであった』
「クーよ、感謝するならば、この者に感謝しろ。蟲は全てこの者が屠った。それにお主の滅びは我の滅びだ。我は我を助けたまでだ」
『そーか、ならば人よ、改めて感謝する。何か望みは有るか』
「なら精霊に、その身体早く返せと言ってくれ」
『ふぉ、ふぉ、ふぉ、欲が無いのう。じゃが我の体調が戻るまで少し待ってくれ』
「ならば俺をこの世界に招いた奴を教えてくれ」
『んっ?なるほどの。主は招かれし者だったか。ならばこの地の遙か東に空を彷徨う町が有る、そこの時の神殿で問え』
「判った、恩にきる」
そして半月、大鳩に力が戻り、世界樹に若葉が芽吹き始めた。
「人よ感謝する。我にも力が戻った。もう憑代の力も不要じゃ。この者を返そう。赤竜に主達を送らせよう。世話になった。この娘にも癒しの力を与えておこう」
そして精霊の気配が消えた。
「お兄ちゃん、ここ何処」
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