神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

28 討伐合宿2

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部屋の中に何かが居る、しかも複数。

運転手さんを手伝って、バスの車体下の荷物入れから際限なく出て来る大きなスーツケースを配り終えると、ガラガラとやかましく女生徒に引かれるそのスーツケースの群れを掻き分け、自分の部屋に向かった。
そして鍵がぶら提げてあるドアノブを回そうとした瞬間、部屋の中に異変を感じたのだ。

「虚ろき影を美空に照らし、無しを有りとし、虚を実として現わさん」

空間の異相を一枚纏って透明化している邪から異相を剥ぎ取って実体化する場の清めの呪文だ、印を切ってドアを勢い良く開ける。

”キー”

部屋の中に小鬼が六匹、牙を剥いて僕を威嚇していた、なんだ、少し脱力する、緊張して損した。
小鬼は腰高程度の大きさの鬼で、最も弱い種類の鬼に過ぎない。

「律、滅」

殴り倒してから積み上げて、一気に祓った、可笑しい、合宿所には結界が張ってあると聞いていたのだが。

「痛い、何、キャー、いやー、キャー、誰かー」

しばらくすると、周囲の部屋から悲鳴が上がり始めた、テリトリーへの侵入者と認識して小鬼が攻撃を始めたのだろう。
初歩的な滅鬼術は習っていると聞いていたのだが。

まずは隣室の会長の部屋を覗く、実体化させるまでは出来ているのだが、結界を張ろうと部屋中に呪符をばら撒いて奮闘している。
着替えの途中だったらしく、女学生が二人、スカートを脱いだ状態、下半身パンツ姿で飛び回っている。

結界を張って小鬼を拘束しようとしているのだが、呪文を唱える間に逆襲されて逃げ回っている。
当たり前だ、結界が張り終わるのを待ってくれるのは、炬燵鬼くらいしかいない。

「こうやるんだ」

一匹殴り倒してから祓ってみせる。

「最初に動きを封じるんだ、習っただろ。得物は」

こくりと頷いてから、会長は木刀、もう一人は六尺棒を荷物から取り出した、気が動転してて気が付かなかったのだろう、滅鬼術では、非力な女生徒に対して武器の使い方も併せて教えている筈なのだ。

「終わったら向かいの部屋の連中にもやり方教えてやってくれ」

隣の部屋を覗く、鬼を実体化せずに、パニックになってパンツとブラジャー姿で怯えて逃げ回っている、部屋に入ると僕の背中にしがみ付いて来た。

「落ち着いて、まず場を清めて相手を実体化する。習っただろ、そしたら得物で殴り倒す。やってみて」

二人とも鉄扇だった、小鬼は可哀そうになるほど袋叩きにされてから祓われた。
各部屋一、二匹程度なので落ち着いて対処すれば楽勝の筈なのだ。

「向かいの部屋にもやり方教えてやって」

その隣の部屋は賑やかだった、笛と鈴で祓おうとしている、一人はスカートを脱いだ状態、一人はブラウスを脱いだ状態で攻撃されたらしい。
実体化を済ませているし、得物も取り出せている、ここまでは合格なのだが手順が悪い。

「動いてる相手を祓うのは無理だからね。最初はどうするんだっけ」
「あっ、動きを封じるのが先でした」
「”縛、律、滅”、音術の基本だろ」
「てへっ」
「終わったら向かいの部屋にも教えてあげて」

隣の部屋は健闘していた、ここの二人も得意技は音術らしいのだが得物の使い方が少し違う。

「鉦や太鼓の撥で殴るのも方法だけど、折角だから音術使おうよ。その方が楽だと思うよ」

結局、北側の部屋二十九室中、小鬼を実体化させていたのが十四部屋で討伐まで至っていたのが二部屋、その二部屋にしても頑張ったのは使役された犬君と猿君だ、うん、なんか前途多難な気がする。

二階は北側の生徒が南側の部屋の生徒に教え初めているので、もう直ぐ片付くだろう。
一階に降りてみる、まだ騒いでいる部屋は有るものの一回も落ち着き始めた様だ。

「雷夢君、ちょうど良かったわ。呼びに行こうと思ってたの。二階の様子はどう」

C組の副担任の風織先生だ、今春大学を卒業したばかりのフレッシュな先生だ。

「直ぐに討伐し終わると思いますよ、ほとんどの生徒が不慣れでパニくってたので、落ち着いて手順を思い出すように指導しました、ちょうど良い実習になったと思います」
「えっ?、生徒に討伐させたの」
「当たり前でしょ、そのための合宿なんだから」
「うっ・・・・・、そう、主任が雷夢君に合宿所の結界視て貰う様に伝えてくれって言ってたの。火地さんと風音さんも一緒に確認してくれるって」
「それは助かります、僕はまだ祓い系が不得手ですから、それと風織先生」
「なに」
「スカート履いて来た方がいいと思います」
「えっ!キャー」

「爪跡ですかね」
「ああ、大きいな此奴こいつは」

火地さんと風音さんは、既に年金生活に入って趣味的に陰陽師を続けている御爺さん達だ、風織先生の話をしたら、勿体ないと言われてしまった。
今三人で北東、鬼門の方向に開いていた結界の穴の前で相談している。
この穴から小鬼達が侵入したらしい。

「一人じゃしんどいから泥谷も入れて必ず二人で対処できる様に明日からの予定表を組み直すか」

泥谷さんとは学年主任のことだ、明日からの結界外での討伐訓練が始まる、仮補修された爪痕は相当大きい。
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