神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

29 討伐合宿3

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ジャージ姿にヘルメット、六尺棒や木刀等の得物を片手に持った色気の無い集団が樹海の中を進む。
背負った熊や兎、鼠の耳や猫の耳が付いたリュックに多少女の子らしさは見て取れるのだが、それにしたって、ヘルメット姿には不釣り合いで違和感がある。
うん、高校三年生のピチピチギャル集団とは思えない。

訓練を初めて一週間が経過したのだが、とても順調とは言い難かった。
例年であれば、訓練にちょうど良い樹鬼や藪鬼が豊富に居る筈なのに、今年はほとんど見当たらないのだ。
現れる鬼は、屍鬼や幽鬼などの実体を持たない鬼が多く、追い払うのがやっとの相手で、彼女達の訓練相手としてはレベルが高過ぎた。
追い払うのにそれなりに労力が必要で疲れるのだが、訓練にはなっても、今回合宿の主目的である彼女達の鬼討伐数には加算されない。

合宿所に戻ると疲れ切って黙々と飯を食って、風呂に入ったらひたすら寝る、彼女達はそんな生活を繰り返していた。
先生達も同様で、元気なのは僕と協会から派遣されたお爺ちゃん二人くらいだ。
僕は若いから当然なのだが、この年寄り二人はとてもタフだった。
戻って来ると必ず深夜まで酒盛りを始めるのだ。

「雷夢君は高校生なのに強いのー、鬼殺しをもう一本開けるか?」
「僕、久保田の方がいいです」
「んん、贅沢じゃのー、ほれ、風織先生もどうじゃ」
「ひっく、わりゃひはかにぇのまひがいいでひゅ」
「んん?」
「風の舞が飲みたいそうですよ」

協会は無給でのボランティアを頼んでいる手前、気を使ってくれている様で全国の銘酒を送ってくれている。
清水港の桜海老やマグロや生シラス、真っ黒なおでん、生食用杏なんかも陣中見舞いと言って届けてくれる陰陽師さん達も多いので、割と豪勢な宴会が楽しめている。

風織先生は新採のペーペーなので、先生方代表として送り込まれている。

「にゃんであたひがじいひゃんのあひひゃをひにゃきゃにゃんにゃいの、にょろたよべ、にゅろた」

そろそろ限界に達したようだ、だいたい何時ものパターンだと僕の顔を舐めまわしてから沈没する。

「りゃいむ、きゅひひゃへろ」

そろそろ始まった。

「でも困ったのー、手を打って数稼ぐかのー」
「先生止めてください。火地さん何か対策があるんですか。だめですよ先生」
「巫女が多いようじゃから、連を組ませようと思っとるんじゃ」
「そーか、今回は花ちゃん来とるのか」
「そーなんじゃよ、風君」
「ほら、先生離れて。火地さん連ってなんです」
「雷夢君は連を知らなかったか、手を繋いで輪を作って、力を合わせて祓う技の事なんじゃ」
「ちょうど花ちゃんも居ることだしのー」

花ちゃんとは風織先生と同室の風吹雪花子先生のことだ、祓術の先生で旧姓大神宮、大神宮家は祓術の大家らしい。

「ちょうど風織ちゃんが潰れたから、花ちゃんを呼んで来てくれんかの」
「はい、でも先に風邪引くといけないから会長を部屋に連れて行きます」
「おう、忘れとった」

会長は毎回一緒に飲みに来るのだが、普通の高校生なので真っ先に潰れる。
スースーと幸せそうな寝息を立てている。

「毎日ご苦労様、でも毎回言ってるけど、持ち帰って剥いちゃっても良いのよ」

風織先生を背負って部屋に連れていったら、風吹雪先生に真顔で恐ろしい事を言われた、うん、撲お腹一杯です。

「火地さんと風音さんが先生にお話ししたい事が有るそうです、連とか言ってました」
「そうなのよ、私も同じ事考えてたの。でもねー、ふー、せっかく我慢したのになー。まっ良いか、仕事だし。うん、仕事よ。一週間我慢したんだから十分よね、うん、私は偉かった」

はて、何の話なのだろうと思ったのだが、直ぐに判明した。
風吹雪先生と食堂へ行き、火地さんと風音さんと一緒に連を教える話をした。
うん、この話は五分程で終わった、すると風吹雪先生が一升瓶から丼に酒を注ぎ、一気に飲み干した。

「ぷはー、うめー。ほれ、雷夢も飲め」

器がコップから丼に変わった、食堂のテーブルの上に一升瓶が並んでいく、なんか地面が揺れている。

「こらー、雷夢、若いのにだらしがないぞー、ちゃんとちんちん立ってるのかー、ほれ、飲め」

翌朝から#早速_さっそく__#、酒臭い息の風吹雪先生の連の稽古が始まった、うー、頭が痛い。
朝食後、食堂のテーブルを端に寄せ、幣を手に提げ手を繋いで輪を作る。
連の内側に浄化空間を構築する呪文を唱える。

「幣内の連引く内の真清の宮、神座して清を真浄とならしめん」

「バカヤロー、声が揃ってない、力も足りない、腹に力が入ってない、やり直し」

怒号が響き渡る、祓術を専攻する女生徒達の間では、風吹雪先生は、密かに鬼と呼ばれている。

夕刻、昼飯抜きの稽古が終わった時には、喉が枯れて腹筋がヒクヒク言っていた、今日は飲まないで早く寝よう。

「雷夢、喉が渇いたから今日も飲むぞ、付いて来い」
「はい」
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