神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

33 事務所開設

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翌日は、全員で少々早い海水浴に繰り出した。
情報の海で泳ぎ回るイメージが身体に浸み付いている所為か、素潜りがスムーズに出来る様になっており、カラフルな磯の魚達と一緒に泳ぎ回ると、時を忘れそうだった。

勿論ビキニ姿の女生徒達に囲まれて定番のビーチバレーや西瓜割、鬼ごっこなども楽しんだ。
入学前は海水浴に向けて身体を鍛えようと思っていたものだが、気が付いたら日々の稽古と寮での鬼討伐で、腕も首も太くなり、腹筋も割れて胸板も厚くなっていた。
女性に囲まれ浜辺を歩く、考えていた理想どおりなのだが、何かが一味違う気がする。

そして夜の宴会、酒のピッチが物凄く速く、直ぐに酒の口移し攻勢が始まった。
火地さんと風音さんが呼吸が出来なくて白目を剥いて倒れるし、風吹雪先生から兵児帯で縛った風織先生を渡されたり、巫女さん連中に女風呂へ連れ込まれそうになるわ、水着で夜の海に泳ぎに行こうとする女生徒を引き摺って連れ戻すわで結構大変だった。
明け方まで走り回って、気が付いたら生徒会長を背負ってホテルの階段で寝ていた。

ーーーーー

「雷人、仕事が溜まってるぞ」
「へっ?」

奥伊豆饅頭を持っておじさんの研究室に顔を出したらいきなり言われた。

「一昨日邪類討伐業の事業所許可が降りてな、ほれ、これが許可証だ。事務所は正門を出た右奥の喫茶店の二階を借りておいたから心配いらないぞ。初日に六件、昨日八件、今日はもう十件の以来が入っている。このアドレスで登録しといたから後でメールを確認してくれ。これが登記簿だ。それと事務員は俺が手配しといたから、詳しい話は彼女から聞いてくれ」
「おじさん何の話」
「お前の事務所の話に決まってるだろ」

文部科学大臣の公印がデンと押された許可証には、事業者欄に陰陽師法人雷夢邪類討伐事務所、代表者氏名欄に代表取締役雷夢雷人と書いてある。
しっかり法人登記まで済ませてある。

「助かったよ雷人、完全な違法じゃないんだが、初級資格で個人的に依頼を受けて人集めするのは結構大変だったんだ。これでやっと正式な形での受け皿が出来て、俺は研究に専念できるよ」
「おじさん、僕まだ学生なんだけど」
「大丈夫だよ、俺の講義と祓い術の講義の実習扱いにするから、土日も併せればなんとかこなせるだろ。事務員の子達が事務所で待ってるから早く行ってくれ」

取り敢えず女の子達を待たせるのも可哀想なので、おじさんへの抗議を後回しにして言われた事務所へ向かう。
裏路地に面したログハウスの喫茶店の入口脇の階段を昇ると二階は広いワンフロアになっていた。
階段正面にミニキッチンとトイレ、右に書棚で囲まれた大きな机と布張りの応接セット、左に木のロッカーに囲まれた幅二メートル、長さ六メートルの大きな木の一枚板のテーブル、周りに事務用の椅子が疎らに置かれている。
そのテーブルの前で、三人の学院の制服を着た子が待っていた。

「ほーい、雷人社長よろしくね」
「雷人、よろしくな」

明美と香だった、だがもう一人は僕の知らない子だった。

「A組の大神宮弥生です、雷人さん宜しくお願いします。弥生と呼んで下さい」

背中まで伸ばした黒い髪、背筋がピンと伸びた、知的な顔のスリムな美人さんだった。
大神宮?はて、どこかで聞いたような、あっ。

「風吹雪先生の身内なの」
「一番上の姉なんです、がさつな姉で申し訳ありません、合宿ではお世話になりました」

風吹雪先生に面影が良く似ている、雰囲気はこの子の方が落ち着いている。

「それでは早速に受託した依頼の説明をします。香ちゃんファイル持ってきて、明美ちゃん雷人さんにコーヒー入れて」
『はーい』

何だか大神宮さんが違和感なく仕切っている。
香がロッカーの中から、段ボール箱に入った厚いファイルを運んできた。
明美はミニキッチンでコーヒーをドリップしている。

大神宮さんが段ボール箱からファイルを一冊取り出してテーブルの上に置く。
依頼毎にファイル分けしてあるようで、背表紙に会社の名前と番号が書かれ、ファイルにインデックスが一杯付いている。

「これが会社概要と依頼内容、こちらが契約書と依頼の仕様書です。契約書に付属するチェック表で依頼の難易度を相互に確認して点数化し、点数に十万円を掛けた額を契約額としています。契約時に契約額の三割を入金頂き、残りは業務完了後に必要経費を別途加算して請求します。相手方の一方的な解約については全額請求、こちらからの解約は違約金が発生しな契約になってます」

何かやけにこちらの立場が強い契約の様な気がする。

「疑義が生じた場合は甲乙協議、業務で知り得た事に関しては互いに守秘義務が発生します。なお、遵法義務については臨機応変に判断することを口頭で確認してます。何か疑問点はありますか」
「こちらの不注意で相手方に損害を生じた場合の取り扱いは」
「甲乙での協議になると思いますが、相手に立証責任が生じますから、御咎め無しになると思います」

情報世界で起きた事は、相手方には解らないので言い包めると言う事か、うーん。

「君達の給料は」
「利益の五パーセントを事務所の運営費に組み入れて、必要経費を引いた後の年間予想余剰額の半額を人件費として組み入れさせて頂きます」

「はーい、雷人、コーヒー入ったよ。コップより口移しの方がいいか」

最初の会社の点数が百四十七点、二番目の会社の点数が二百三点、うん、いい商売だ。
平日が都内企業の本社システム、土日で地方に置かれたシステム基地を飛び回るそんなスケジュールだった。

土曜日の早朝、羽田空港へ出向いたら大神宮さんがゲート前で手を振っていた、見送りに来たのだろうか。

「私が秘書役で同行することになってるの。さっ、行きましょ」

十ヶ所程飛行機と電車を一緒に乗り継いで移動し、夜、ハイクラスホテルに宿泊する。
眺めの良いレストランで食事とワインを楽しむ。
生徒会長と一緒で、大神宮さんは酒に弱かった、よく考えれば高校一年生なので当たり前かも知れない。
ホテルの部屋はちゃんと二部屋予約してあったので、背負って部屋へ連れて行った。
理性と欲望の激しい争いがあったが、辛うじて理性が勝利を収めた。

翌朝、朝食のテーブルで会った大神宮さんは、何か不満そうな顔をしていた。
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