神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

34 そして夏休み1

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流されて事務所を開設されてしまった感はあるが、依頼はきちんとこなす。

情報分野に限らず、企業からの陰陽師に対する依頼は意外に多く、工事現場で鬼や物怪を封じた重し石を掘り返して呼び出したり、新社屋や新工場の入口を鬼門に作って業績が急激に悪化することなどは日常的に起こっている。

ただ大抵の企業は常識的な枠組みや見方に拘って鬼や物怪を信じようとせず、物事が煮詰まってこじれ、手の施しようが無くなった時点でやっと密かに陰陽師に依頼してくる。

これは情報分野でも似た様なもので、最初からコンピューターウィルスであると断定して徒に時間が経過し、改善されず、被害が拡大する状況にパニックとなって僕等に依頼して来る。
なので中に巣食っている鬼が肥大化しており、僕等もそれなりの準備をして臨むことになる。
特に一日十件近い依頼をこなさなければならない撲は、能力のみの力任せの作業では息切れを起こしてしまう。

とある通信販売会社の長崎コールセンターに向かう、憔悴しきった会社の担当者が朝の六時にホテルまで出迎えに来てくれた。
僕は黒のジーンズに黒のTシャツと黒い皮のベスト、サングラスも掛けている、大神宮さんは巫女さん姿で、ハルの入ったアタッシュケース抱えている。
僕の好みじゃない、大神宮さんに威圧感も必要と言われ、この恰好をしている。

挨拶は省略し、玄関まで出迎えた幹部達を引き連れて直接問題発生個所であるサーバー室へと向かう。
鬼が侵入して受注システム、発注システム全体が麻痺してしまったのだ。
問題発生から一週間、この会社は倒産の危機に立たされている。

外部と遮断されたサーバーのインターフェースを調べ、安全性の高い端子にハルの入ったノートパソコンを接続する。
ノートパソコンに思考のアンカーを残し、本体へと思考を侵入させる。
見慣れた情報の湖の湖畔で侵入した鬼の形跡を探す、数個の足跡が見つかった。

「ハル、検索」

ハルを連れて来ている事には理由がある、僕はまだまだ勉強不足で鬼に関する知識が不足しているので、ハルへ鬼に関するデータベースを積んで来たのだ。

「判明しました、確度九十八パーセント。山彦鬼の亜種で普賢E型、主な生息地は鬼入谷です」

山彦鬼は言霊を操る鬼で、人の方向感覚を狂わせて住処に人を誘い込む鬼である。
コールセンターへの電話やホームページ閲覧者の多くに異常行動が発生し、全国の警察からの問い合わせでシステムトラブルが判明した。

「データを見たい、送ってくれ」
「了解です」

画面を持ってハルが現れた、今日は巫女さん姿だ、大神宮さんに対抗してるのかも知れない。
鬼の弱点や性質を調べる。

「雷術六十二%、音術三十%、幻術八%のミックス札を五枚、雷術札を二枚出してくれ」

情報の世界だから現実世界の呪符は持ち込めない、だからおじさんの考案した呪力スキャニング装置でPDFファイル化した呪符を持ち込んでいる。
PDFファイル化した呪符は、勿論白紙に変わる。
ハルが懐に手を入れて、呪符ホルダーからPDFファイルを七枚を取り出す。

「ありがとう」

情報の湖の前に立って意思の鎖を紡ぎ出す、これは手馴れた作業だ。

「編」

これは仕事を効率良く終わらせる為に開発した新しい技だ、意思の鎖を使った網を組上げる、その網を情報の湖に沈める。

「雷」

湖に電撃の雨を降らせて鬼を網に追い込んで行く、”ガツン”、網に重い手応えが生じる。

「縛」

網で捕えた鬼を湖の上に持ち上げる、丸々と肥えた身の丈五メートル程の青緑色の鬼が鎖の網の中で暴れている。

「律」

ミックス札を四枚投げて三角錐の結界を構築する、札から稲妻が走り、鬼が痙攣している。

「滅」

頂点にミックス札と雷術札を添えて祓う、絶叫を上げて鬼が消えて行った。

意識を身体に戻すと、目の前に社長さんが青い顔をして震えていた、たぶん鬼の絶叫がここまで聞こえたのだろう。

「排除が完了しました、顧客名簿の一部が食われてますが、システムは立ち上げ可能だと思います」
「ありがとう、ありがとうございます」

手を取って泣きながら感謝された。
空港まで送って貰い、次の仕事へと向かう、七時四十分発の便で神戸へ移動だ。
港島で一件、六甲アイランドで三件こなしたら、大阪、京都へと回り帰る予定だ、さて昼飯は何処で食おうか。

明日から夏休み、皆嬉しそうにはしゃいでいるが、勤労少年の僕には予定がみっちりと詰まっている。
予定を確認するために、事務所へと顔を出したら険悪な雰囲気が漂っていた。

”バン”

雷子がホワイトボードに書かれた予定表を叩いて、大神宮さんを睨んでいる。

「調べさせて貰ったわ、何で弥生と雷君が同室で申し込んであるの」

明後日宿泊予定の道後という字を指差している。
明後日とその翌日は、四国の会社を回る予定になっており、明後日は道後温泉に泊まる予定となっていた。

「部外者は口出さないで頂戴、私は秘書役なんだから一緒に行動するのは当然でしょ。仕事なんだから」
「なら私が一緒に行ってお世話するわ」
「部外者の同行は認めません」
「ふっ、ふっ、ふっ、残念だったわね。私は実習生として夏休み中ずーと、雷君をサポートするの。恭平の許可は貰ってわ」
「雷羅の分家の癖に邪魔しないで頂戴」
「私は雷君の許嫁よ、それに御爺様からちゃんと雷の名前を頂いてるわ」

「わー雷君の事務所って広いのねー、こんにちわー」

突然事務所のドアが開いて、棘の生えたやり取りの中に迷子ののんびりした声が分け入って来る。
その声を聴いて、睨み合っていた二人が二人が凄い勢いで振り向いてから、仲良く壁際に後退った。

「雷羅先生が夏休みの間、僕達をここのアルバイトで雇ってくれるんだって」

うわー、おじさんが勝手に雇用契約を乱発している。

「こんにちわー」

また誰か入って来た、えっ、生徒会長だった。

「雷羅先生がね・・・」

結局この後、水見さん、木見さん、風見さんも次々訪れて来て、結局、僕を入れて十一人の大所帯となった。

「あー、雷君旅行行くんだ。僕も連れて行って」
「雷君私も行きたい」
「雷夢君私も」
「私も」
「私達も」

「なら籤引きにしましょう」
「会長、私は秘書ですから」
「私は実習生でサポートですから」
「駄目よ、弥生も雷子も籤引きよ」

「・・・」

うん、やはり最上級生は強い。
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