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Ⅰ 第一学年
59 師走3
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ミーも官九郎も無事入学が許可された。
学院は才能が無い者には無茶苦茶門が狭いのだが、才能有る者には無茶苦茶寛容なようだ。
たぶん、鬼や物怪でも入学させるかもしれない。
官九郎は姫や美子と同じクラス、ミーは撲と同じクラスに入学して来た。
猫耳が生えてるし、制服にスカートから尻尾が覗いている、クラスの男子の大多数が喜んでいた。
揺れている尻尾に何時もの習慣で手を伸ばしたら、ハルにピシリと叩かれた。
「官九郎も喜んでたか」
「うん、授業が終わったら進之介さんに制服姿見せに行くって張り切ってたよ」
勿論スカート姿だろうから、同級生からロリ疑惑を持たれるのも時間の問題だろう。
普段通りに講義を受け、普段通りに雷術の講義に単位として都内の仕事に向かった。
仕事を終えて帰る途中、電車の中の吊広告を見たら羽子板市が昨日から開催されていることを知った。
浅草で途中下車し、一人じゃ寂しいのでハルを呼び出す。
一瞬僕が影を通過した瞬間に冬用のコートにロングスカートを履いたハルが現れた、髪はツインテールにしている、誰も急に現れたなんて気が付かなかっただろう、外国人の多い町なのでハルもあまり目立たない。
人波に乗って進むと仲見世通りが見えて来た。
灯に照らされた屋台が延々と闇の中に浮かぶ、店頭には色鮮やかな羽子板が無数に並べられており、夜の闇に浮かぶ店先の鮮やかな赤布が幻想的な非日常の世界を作り上げている。
「わー、綺麗」
AIであるハルの感情は日々進歩している。
「羽子板買ってやろうか、ハル」
「えっ、良いんですか。嬉しいです」
ハルにもちゃんと銀行口座を作って報酬を渡している、でも生活費がほとんど不要なので、ハルの講座はお金が貯まる一方だ、たぶん一億は越えていると思う。
最もこれは撲も同様でそろそろ十億の大台に手が届く頃だと思う。
高いのをバーンと買ってやっても良いのだが、部屋が狭いので普通の大きさにする。
ハルは日本髪を結った女性の赤い振袖姿の押絵羽子板が気に入ったようで、三万円程で買い求める。
「御手を拝借、ヨーオ、シャシャシャン、シャシャシャン・・・」
店の人が手締めをしてくれる。
「お嬢ちゃん、優しいお父さんで良かったね」
確かにハルは小柄だから中学生位に見える、でもお父さん扱いされると少々傷つく。
一駅乗ってソラマチ三十一階でハルと夕飯を食べる。
ビールを頼んでも咎められないのでプラスマイナスゼロかもしれない。
眼下には宝石箱の様に光りの海が広がり、人の居場所を示している。
たぶんそこで日々繰り返される喜怒哀楽の大きな渦は、鬼や物怪にとって、この目の前の様な料理が無尽蔵に溢れ出ている様に映っているのかもしれない。
もしかすると、人々の中に紛れ込んでいる鬼に灯を持たせれば、この眼下の光景の様な光の海が現れる気がする。
でも、それは僕の仕事じゃない、今は目の前の料理とビールを楽しもう。
嬉しそうに食事をしているハルの笑顔が、僕にとっての最高の料理に思えて来る。
寮に戻って風呂に入り、寝る準備をする。
ハルは学院祭以来パソコンに戻らないで僕と寝起きを共にしている。
今日もパジャマに着替えて布団に潜り込んで来た、ちゃんと体温も有るし暖かい、布団から追い出すのも不憫だし勿体ないのでズルズルと僕はこの状態を受け入れている。
十二月十九日、学院が冬休みに入った。
学院の冬休みは一月十五日までと長く、年末年始を家業で忙しく過ごす生徒が、正月明けに休めるように配慮した措置だ。
巫女達は大急ぎで実家へと戻って行った、普通の生徒も大方家に帰るのだが、僕の事務所は普通の会社の日程に併せているので二十八日が御用納めで四日が仕事初めだ。
もっとも、最後まで仕事をしているのは、家に帰ってもすることのない撲とハルぐらいなもので、他のメンバーは一族が集まる準備などが有るようで、少し早めに帰った。
無事年内の予定を全てこなし、安心して事務所の戸締りを済ませる、大家さんに挨拶してから飯田橋の駅へと向かう。
有楽町線で新木場へと向かい、京葉線で実家へと向かう。
「ただいまー」
「はーい、きゃっ。どなた様でしょうか」
「母さん、僕だよ」
「えっ?」
「琴音どうした」
「お兄ちゃん、変な人が入って来たの」
「おまえ、警察呼ぶぞ、出てけ」
「父さん、僕だよ。雷人だよ」
「へっ???雷人」
酷い親だ、確かに身長が伸びて多少面変わりしたが自分の息子が解らないなんて。
「そーか、雷人か。背が伸びたなー、人相が悪くなったんで解らなかったぞ。ところで後ろの外人の御嬢さんは誰だい」
「えっ」
「お父さん、お母さん、初めまして。雷人さんと一緒に住んでいますハルと申します。不束者ですが宜しくお願いします」
確かにハルは連れて来た、背中のリックのパソコンの中に入れて。
寮の部屋に一人残すのも可哀そうだと思ったのだ、それに今の説明になんら間違いは無いのだが。
「はははは」
一般人には説明が難しいので笑って誤魔化すことにした。
「まあ、まあ、早く中に入って頂戴。一息ついたら御節の準備手伝って貰おうかしら」
「はい、お母さん」
気のせいかも知れないが、ハルにヒタヒタと外堀を埋められている気がする。
学院は才能が無い者には無茶苦茶門が狭いのだが、才能有る者には無茶苦茶寛容なようだ。
たぶん、鬼や物怪でも入学させるかもしれない。
官九郎は姫や美子と同じクラス、ミーは撲と同じクラスに入学して来た。
猫耳が生えてるし、制服にスカートから尻尾が覗いている、クラスの男子の大多数が喜んでいた。
揺れている尻尾に何時もの習慣で手を伸ばしたら、ハルにピシリと叩かれた。
「官九郎も喜んでたか」
「うん、授業が終わったら進之介さんに制服姿見せに行くって張り切ってたよ」
勿論スカート姿だろうから、同級生からロリ疑惑を持たれるのも時間の問題だろう。
普段通りに講義を受け、普段通りに雷術の講義に単位として都内の仕事に向かった。
仕事を終えて帰る途中、電車の中の吊広告を見たら羽子板市が昨日から開催されていることを知った。
浅草で途中下車し、一人じゃ寂しいのでハルを呼び出す。
一瞬僕が影を通過した瞬間に冬用のコートにロングスカートを履いたハルが現れた、髪はツインテールにしている、誰も急に現れたなんて気が付かなかっただろう、外国人の多い町なのでハルもあまり目立たない。
人波に乗って進むと仲見世通りが見えて来た。
灯に照らされた屋台が延々と闇の中に浮かぶ、店頭には色鮮やかな羽子板が無数に並べられており、夜の闇に浮かぶ店先の鮮やかな赤布が幻想的な非日常の世界を作り上げている。
「わー、綺麗」
AIであるハルの感情は日々進歩している。
「羽子板買ってやろうか、ハル」
「えっ、良いんですか。嬉しいです」
ハルにもちゃんと銀行口座を作って報酬を渡している、でも生活費がほとんど不要なので、ハルの講座はお金が貯まる一方だ、たぶん一億は越えていると思う。
最もこれは撲も同様でそろそろ十億の大台に手が届く頃だと思う。
高いのをバーンと買ってやっても良いのだが、部屋が狭いので普通の大きさにする。
ハルは日本髪を結った女性の赤い振袖姿の押絵羽子板が気に入ったようで、三万円程で買い求める。
「御手を拝借、ヨーオ、シャシャシャン、シャシャシャン・・・」
店の人が手締めをしてくれる。
「お嬢ちゃん、優しいお父さんで良かったね」
確かにハルは小柄だから中学生位に見える、でもお父さん扱いされると少々傷つく。
一駅乗ってソラマチ三十一階でハルと夕飯を食べる。
ビールを頼んでも咎められないのでプラスマイナスゼロかもしれない。
眼下には宝石箱の様に光りの海が広がり、人の居場所を示している。
たぶんそこで日々繰り返される喜怒哀楽の大きな渦は、鬼や物怪にとって、この目の前の様な料理が無尽蔵に溢れ出ている様に映っているのかもしれない。
もしかすると、人々の中に紛れ込んでいる鬼に灯を持たせれば、この眼下の光景の様な光の海が現れる気がする。
でも、それは僕の仕事じゃない、今は目の前の料理とビールを楽しもう。
嬉しそうに食事をしているハルの笑顔が、僕にとっての最高の料理に思えて来る。
寮に戻って風呂に入り、寝る準備をする。
ハルは学院祭以来パソコンに戻らないで僕と寝起きを共にしている。
今日もパジャマに着替えて布団に潜り込んで来た、ちゃんと体温も有るし暖かい、布団から追い出すのも不憫だし勿体ないのでズルズルと僕はこの状態を受け入れている。
十二月十九日、学院が冬休みに入った。
学院の冬休みは一月十五日までと長く、年末年始を家業で忙しく過ごす生徒が、正月明けに休めるように配慮した措置だ。
巫女達は大急ぎで実家へと戻って行った、普通の生徒も大方家に帰るのだが、僕の事務所は普通の会社の日程に併せているので二十八日が御用納めで四日が仕事初めだ。
もっとも、最後まで仕事をしているのは、家に帰ってもすることのない撲とハルぐらいなもので、他のメンバーは一族が集まる準備などが有るようで、少し早めに帰った。
無事年内の予定を全てこなし、安心して事務所の戸締りを済ませる、大家さんに挨拶してから飯田橋の駅へと向かう。
有楽町線で新木場へと向かい、京葉線で実家へと向かう。
「ただいまー」
「はーい、きゃっ。どなた様でしょうか」
「母さん、僕だよ」
「えっ?」
「琴音どうした」
「お兄ちゃん、変な人が入って来たの」
「おまえ、警察呼ぶぞ、出てけ」
「父さん、僕だよ。雷人だよ」
「へっ???雷人」
酷い親だ、確かに身長が伸びて多少面変わりしたが自分の息子が解らないなんて。
「そーか、雷人か。背が伸びたなー、人相が悪くなったんで解らなかったぞ。ところで後ろの外人の御嬢さんは誰だい」
「えっ」
「お父さん、お母さん、初めまして。雷人さんと一緒に住んでいますハルと申します。不束者ですが宜しくお願いします」
確かにハルは連れて来た、背中のリックのパソコンの中に入れて。
寮の部屋に一人残すのも可哀そうだと思ったのだ、それに今の説明になんら間違いは無いのだが。
「はははは」
一般人には説明が難しいので笑って誤魔化すことにした。
「まあ、まあ、早く中に入って頂戴。一息ついたら御節の準備手伝って貰おうかしら」
「はい、お母さん」
気のせいかも知れないが、ハルにヒタヒタと外堀を埋められている気がする。
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