神楽坂学院高等部祓通科

切粉立方体

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Ⅰ 第一学年

66 誕生会1 

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木枠の掃出し窓から整えられたフランス庭園が望める廊下を通り、大きな円形ホールへと案内された。
廊下やホールの壁には小さな額入りの銅版画が控えめに飾られているが、なんか教科書で見たことが有るものが多い。
ホールの重厚な木の扉から中に入ると、左右に控えた管弦楽団の演奏で出迎えられた。
ホールの中央に空いた場所が設けてあるのは、ダンススペースなのだろうか。
良く磨かれた木の床、少し高目の天井には、彩色された花鳥風月の透かし彫りが施されている。
明治大正期に作られた洋館、迷子の家はそんな雰囲気だった。

周囲に配置された円形テーブルでは、着飾った男女が上品に談笑している。
一升瓶片手に騒いでる奴なんて勿論いないし、中央のスペースが滅鬼術の乱取にちょうど良いなんて考えてるのも、きっと撲ぐらいだろう。
黒いスーツでネクタイ姿の僕は、なんか場違いな様な気がする、回れ右して帰りたくなった。

会場を見回すと、人が密集している一画がある。
爺さんが半分、二十歳前後の若い男性が半分くらいで、良く視ると孫を伴った爺さんが我先にと孫を誰かに紹介している様な感じだ。

中心には厳つい顔の爺さんと上品な品の良い御婆さん、その脇には上品な感じの中年夫婦、そしてその脇には上品に着飾った迷子が座っていた。
迷子が挨拶を受けてにこやかに受け答えしている、お嬢様だ、なんか迷子じゃないみたいだ。
偉い偉い、迷子はやれば出来る子だったんだ、と感心して眺めていた。

だが突然迷子がスクと立ち上がった、そしてスカートの裾を少したくし上げていきなり走り始めた。

「雷君遅ーい!」

そう、僕に向かって全力疾走してきて飛付いて来たのだ。
なんか迷子なりに我慢していた様で、僕の胸に頭をグリグリと押し付けて来る。
気の毒に思ってハグしてやったが、会場中から棘が一杯生えた視線が飛んで来た。
特に迷子と一緒に座っていた厳つい爺さんからは強い殺気が飛んで来る。

迷子は主役なので席に戻そうとしたのだが、迷子は僕のベルトを必死に握って離そうとしない。
仕方が無いので、舞とハルを伴って、僕に対して殺気満々の爺さんのテーブルへ行く事にした。
迷子を抱えてこのままこの場を逃亡するのがベストの選択肢なのだが、この会の主役をさらって逃げるのも何なんで、我慢することにしたのだ。

うわー、会場中の視線が僕に集まっている、迷子は周りの視線が見えない様で僕の右腕にしがみ付いているし、ハルも周りの視線が不安な様で僕の左腕にしがみ付いている。
迷子は美少女だ、ハルも美少女だ、舞も美少女に見える、うん、爺さんの殺気が七割増しになった気がする。
後ろから付いて来る舞は花束を抱えている。

「迷子、花束を三人で買って来たんだ。はい、誕生日おめでとう」
「ありがとう、わー綺麗」

その時爺さんのテーブルの周辺に居た若い男が凄い勢いで近づいてきた。
迷子の手から花束を奪うと僕に向かって投げ付けた。

「貴様、なんて物を乱動の御嬢さんに渡すんだ、非常識だぞ」
「なんだと、普通の白百合の花だろが」
「ふん、貴様のような部外者は知らんだろうがな、乱動家の女性が十五の歳に招かれる奈落には白百合が一面に生えてるんだ。せっかくの誕生祝いを貴様は揶揄するいのか。これは乱動家に対する屈辱だぞ」
「・・・・なにを馬鹿な、あそこは黒い泥沼だ。白百合なんて生えてない」

思わず呟いてしまったのだが、一瞬の静寂に乗って僕の呟きが、水面に広がる波紋の様に会場中へ染み通って行く。
会場中が凍り付いた様に静まり返り、多くの驚愕の視線が僕に集まった、今日は陰陽師関係の人も多数招待されており、正月に起こった珍事は関係者の間で様々な憶測を生んでいる。
油断した、今の一言は十分に関係者が想像の翼を広げられる言霊になってしまった。

”パン”

突然上品な御婆ちゃんが手を叩いた、全員の視線が御婆ちゃんに集中して、皆我に返った様にざわめき始める。

「はい、それではお色直しの為、迷子は暫く退出させて頂きます。皆様方におかれましては、そのままご歓談下さい」
「雷夢君だったわね。あなたも一緒にいらっしゃい」

御婆ちゃんの後に付いて行くと、乱動家の応接間に連れて行かれた、迷子もハルもさっきから僕の腕を離そうとしない。

「私が迷子の祖母でこの人が祖父、それでこの子達は迷子の両親。迷子が年を越せたのは嬉しかったけど、なんか理由があると思っていたの。どうやらあなたがその理由の様だから説明して頂戴。本当に奈落へ行ったの」
「あそこが奈落なのかは知りませんが、迷子が連れて行かれた場所へは行きました。年越しの瞬間に迷子から助けを求められたんです」
「じゃっ、詳しく聞かせてくれる」

あそこの御婆さん達は乱動家の宿命と言っていた、だからこの人達にも知る権利が有るだろう、僕は起こったことを語ることにした。

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