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Ⅱ 第二学年
22 精神の繊毛
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帰りの新幹線の中、僕は座席に正座して四人の説教を聞きながら帰ることになった。
まあ、通路に正座じゃ無かっただけ良しとしよう、うん、他の人達の邪魔になるし。
事務所に戻ってから、稲さんと今後予定を打ち合わせるために再度ハルを連れて定義空間の皮相へ潜った。
稲さんには何だか退かれていたが、ハルを通訳替りに前面へ押し立てて話し合い、暫定的に月曜日の夜だけ僕が担当してしばらく様子を見ることになった。
言葉を交わして少し落ち着いたのか、稲さんが現在の皮相の監視状況を僕に説明してくれた。
現在、皮相の監視を行っている要員は、稲さんの他に、麦さん、粟さん、稗さんという名前の方が三人居り、この四人で十二時間交代のローテーションを組んで監視しているとのことだった。
他の三人には稲さんから申し伝えるので、暇な時に全員と面通ししておいて欲しいと要望された。
万が一、異空間から鬼が現れたり邪悪な存在が侵入したりした場合の緊急時には、直ぐに九尾さんを呼び出して対処して貰うことになっているらしい。
僕も同様に対処すれば良いのか、九尾さんに聞きに行くと言ったら、稲さんに青い顔をして止めて欲しいと懇願された。
なんか、大袈裟だ、尻尾を触ってだけなんだから、もう九尾さんも笑って許してくれると思う。
表層への出入りが許された事は、僕にとってもメリットが大きかった、表層に触れているだけで別空間の存在が良く感知できるのだ。
鬼門寮での鬼の監視も人一倍早く空間の異常を感知でき、解れ始めた空間の前で結界の檻を張って待ち構えていれば良くなった。
ただ炬燵鬼は空間をこじ開けて渡って来るのではなく、カーテンの様にヒョイと空間を持ち上げて入って来るので感知出来なかった。
なので気が付くと、相変わらず我が部屋の炬燵は炬燵鬼の住処になっている。
あまりにも身近なので注意を払わなかったが、もしかすると炬燵鬼は別種なのかも知れない。
月曜の夜の当番は何事もなく過ぎ、水曜と金曜の夜も頼まれる様になった。
人間の僕が担当することに最初は不安だったらしいのだが、合格点を貰えたらしい。
監視と言っても僕の精神体の末端を表層に触れさせているだけの作業なので負担にはなっていない、寝ながらでも十分にこなせる仕事だった。
もう一つの九尾さんからのお願い、迷子の訓練検討するために、皮相から迷子の状態を眺めて見ることにした。
驚いた事に迷子の実体から精神体がはみ出していた。
身体の周りから常時繊毛の様な細かい精神体の糸が伸びているのだ。
水の清めの時にはこの繊毛が一本の強い糸となって伸びて行く。
そしてこの糸が定義空間に触れた途端、再び繊毛となってものすごい勢いで広がって行き、空間の境目を押し広げるのだ。
試しに、迷子に護符を外させてみたら、精神体の繊毛が力を増して物凄い勢いで広がって行く。
その繊毛が何本か纏まって、迷子の意志と関係なく、いろいろな異空間をツンツンと突っついている。
精神状態が不安定になるとこの糸が空間を突き破って、別の空間への入口を出現させるのだろう。
繊毛は数が多いのでちょっと大変だったが、水の清めの時と同様に目視できるダミーを作って迷子に練習させた。
一月程で迷子は繊毛をコントロールすることが出来る様になったが、余計な芸まで身に付け、怒るとその繊毛を操って僕を締め上げてくるのだ。
今までは無言で僕を睨んでいるだけだったが、背中から触手が伸びて来て僕の首に巻き付くのだ、うん、これは結構怖い。
迷子にこの訓練の方法を聞いて、迷子のお爺さんが訓練の様子を見にやって来た。
最初、”楽して覚えたんじゃ身にならん”と能書きをこいていたのだが、直ぐに迷子と一緒に自分も一生懸命練習を始めた。
迷子の上達を見て、”儂はこれを覚えるのに五十年掛かった”と零していた。
会長が会社に行かないで僕の事務所に入り浸るものだから、可哀想に傘下の社長さん達がわざわざ僕の事務所に出向いて決裁を仰いでいる。
一緒に付いて来る秘書や部長さんは泣きそうだった。
しかもそんな可哀そうな社長さん達に、明美と香がしっかりと手土産のお酒を要求していた。
厨房の棚に全国の銘酒や高級ワインが次々と揃って行く。
僕の鬼討伐ポイントが上級試験受験資格をだいぶ越えているので、協会の重鎮連中が上級試験を受けろと煩い。
仕方がないので受験を軽く承諾したところ、これが大事になった。
試験と言っても、人族と友好関係にある他族の中堅クラスに模擬戦闘の相手を依頼し力量を計るだけなのだが、模範試合みたいな物なので見学希望者が結構多い。
史上最年少と言う良く有る判り易い話題性ではなく、”魔王が試合をする”という何だか良く判らない理由で見学希望者殺到したらしい。
結局時期は十一月下旬に決定し、試験会場はなんと東京ドームになってしまった。
陰陽師協会は金持ちなのかと思ったのだが、なんだか僕の付き合いの有る会社さんからご祝儀が集まったと言う事だった。
相手は、僕と面識の有る狐族さんが引き受けてくれた。
相手は中堅クラスと聞いていたので、稲さん達の少し下のランクの人達が相手をしてくれる物と思っていたのだが、グランドで待っていたのは狐族の親方の九尾さんだった。
「ふっ、ふっ、ふっ、この間は良くもセクハラをかましてくれたな、今日は骨の髄まで後悔させてやるからな」
うん、まだ怒っていた、背後から黒いオーラが立ち昇っている、回れ右して帰りたくなった。
まあ、通路に正座じゃ無かっただけ良しとしよう、うん、他の人達の邪魔になるし。
事務所に戻ってから、稲さんと今後予定を打ち合わせるために再度ハルを連れて定義空間の皮相へ潜った。
稲さんには何だか退かれていたが、ハルを通訳替りに前面へ押し立てて話し合い、暫定的に月曜日の夜だけ僕が担当してしばらく様子を見ることになった。
言葉を交わして少し落ち着いたのか、稲さんが現在の皮相の監視状況を僕に説明してくれた。
現在、皮相の監視を行っている要員は、稲さんの他に、麦さん、粟さん、稗さんという名前の方が三人居り、この四人で十二時間交代のローテーションを組んで監視しているとのことだった。
他の三人には稲さんから申し伝えるので、暇な時に全員と面通ししておいて欲しいと要望された。
万が一、異空間から鬼が現れたり邪悪な存在が侵入したりした場合の緊急時には、直ぐに九尾さんを呼び出して対処して貰うことになっているらしい。
僕も同様に対処すれば良いのか、九尾さんに聞きに行くと言ったら、稲さんに青い顔をして止めて欲しいと懇願された。
なんか、大袈裟だ、尻尾を触ってだけなんだから、もう九尾さんも笑って許してくれると思う。
表層への出入りが許された事は、僕にとってもメリットが大きかった、表層に触れているだけで別空間の存在が良く感知できるのだ。
鬼門寮での鬼の監視も人一倍早く空間の異常を感知でき、解れ始めた空間の前で結界の檻を張って待ち構えていれば良くなった。
ただ炬燵鬼は空間をこじ開けて渡って来るのではなく、カーテンの様にヒョイと空間を持ち上げて入って来るので感知出来なかった。
なので気が付くと、相変わらず我が部屋の炬燵は炬燵鬼の住処になっている。
あまりにも身近なので注意を払わなかったが、もしかすると炬燵鬼は別種なのかも知れない。
月曜の夜の当番は何事もなく過ぎ、水曜と金曜の夜も頼まれる様になった。
人間の僕が担当することに最初は不安だったらしいのだが、合格点を貰えたらしい。
監視と言っても僕の精神体の末端を表層に触れさせているだけの作業なので負担にはなっていない、寝ながらでも十分にこなせる仕事だった。
もう一つの九尾さんからのお願い、迷子の訓練検討するために、皮相から迷子の状態を眺めて見ることにした。
驚いた事に迷子の実体から精神体がはみ出していた。
身体の周りから常時繊毛の様な細かい精神体の糸が伸びているのだ。
水の清めの時にはこの繊毛が一本の強い糸となって伸びて行く。
そしてこの糸が定義空間に触れた途端、再び繊毛となってものすごい勢いで広がって行き、空間の境目を押し広げるのだ。
試しに、迷子に護符を外させてみたら、精神体の繊毛が力を増して物凄い勢いで広がって行く。
その繊毛が何本か纏まって、迷子の意志と関係なく、いろいろな異空間をツンツンと突っついている。
精神状態が不安定になるとこの糸が空間を突き破って、別の空間への入口を出現させるのだろう。
繊毛は数が多いのでちょっと大変だったが、水の清めの時と同様に目視できるダミーを作って迷子に練習させた。
一月程で迷子は繊毛をコントロールすることが出来る様になったが、余計な芸まで身に付け、怒るとその繊毛を操って僕を締め上げてくるのだ。
今までは無言で僕を睨んでいるだけだったが、背中から触手が伸びて来て僕の首に巻き付くのだ、うん、これは結構怖い。
迷子にこの訓練の方法を聞いて、迷子のお爺さんが訓練の様子を見にやって来た。
最初、”楽して覚えたんじゃ身にならん”と能書きをこいていたのだが、直ぐに迷子と一緒に自分も一生懸命練習を始めた。
迷子の上達を見て、”儂はこれを覚えるのに五十年掛かった”と零していた。
会長が会社に行かないで僕の事務所に入り浸るものだから、可哀想に傘下の社長さん達がわざわざ僕の事務所に出向いて決裁を仰いでいる。
一緒に付いて来る秘書や部長さんは泣きそうだった。
しかもそんな可哀そうな社長さん達に、明美と香がしっかりと手土産のお酒を要求していた。
厨房の棚に全国の銘酒や高級ワインが次々と揃って行く。
僕の鬼討伐ポイントが上級試験受験資格をだいぶ越えているので、協会の重鎮連中が上級試験を受けろと煩い。
仕方がないので受験を軽く承諾したところ、これが大事になった。
試験と言っても、人族と友好関係にある他族の中堅クラスに模擬戦闘の相手を依頼し力量を計るだけなのだが、模範試合みたいな物なので見学希望者が結構多い。
史上最年少と言う良く有る判り易い話題性ではなく、”魔王が試合をする”という何だか良く判らない理由で見学希望者殺到したらしい。
結局時期は十一月下旬に決定し、試験会場はなんと東京ドームになってしまった。
陰陽師協会は金持ちなのかと思ったのだが、なんだか僕の付き合いの有る会社さんからご祝儀が集まったと言う事だった。
相手は、僕と面識の有る狐族さんが引き受けてくれた。
相手は中堅クラスと聞いていたので、稲さん達の少し下のランクの人達が相手をしてくれる物と思っていたのだが、グランドで待っていたのは狐族の親方の九尾さんだった。
「ふっ、ふっ、ふっ、この間は良くもセクハラをかましてくれたな、今日は骨の髄まで後悔させてやるからな」
うん、まだ怒っていた、背後から黒いオーラが立ち昇っている、回れ右して帰りたくなった。
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