負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第08話01 猛者たち

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〈皆様お待たせしました!
 シャングリラ闇闘技場本日の部、まもなく開始です!〉

 うおおおおおおおおお!!!!!!!!!

 期待に満ち満ちた観客の歓声。
 すり鉢状の闘技場、
 正面に掲げられた大きな大きな魔法の鏡。

 その中には昨日と同じ、
 薄氷の青い瞳と雪のような白髪を揺らした
 美しいエルフが映っている。

 その彼女が紡ぐ、拡声器マイクを通した
 爆音のアナウンスが響き渡る。

〈実況は今夜もわたくし、エルフのカトリーヌがお送りしています!
 今日はこの闇闘技場が始まって以来、
 初の偉業が繰り広げられます!
 皆様盛り上がって参りましょう!
 さぁ、まもなく出場者入場です!!〉

 途端、轟音のような声が観客席から上がり、
 会場を揺らした。
 選手が入ってきた。
 予想通り、ビッグケットは先頭だ。

 わくわくとした面持ちでオーナー席に座るサイモン。
 今日は何もかもが楽しい気分だ。

〈さてまずは!なんと!
 この闇闘技場開始以降、史上初の!
 女性の勝ち抜け選手の入場です!!

 昨日は怒涛の強さを見せました!
 ケットシー混血ビッグケット選手!!!
 今夜も血の雨を降らせてくれるのか!?
 はたまたそれを超える選手が現れるのか!?

 今日は余裕のドレスアップ姿!
 外見でも魅せてくれます!!
 引き続き戦いも乞うご期待!!!〉

 わあああああああああ!!!!!!

 昨日から連夜の観戦か、噂を聞いてやってきたのか。
 今日は純粋に好意的な歓声が多いように感じる。
 一部懐疑的な声も混じっているようだが…
 初見は黙ってろ。
 すぐにその不満ねじ伏せてやるぜ。

 一方ビッグケットは昨日とは打って変わり、
 余裕綽々、楽しそうな笑顔で手を振っている。
 口紅はなんとか機能を果たした。
 艶やかなメイクアップ姿。
 露わな谷間も揺れる太ももも、
 この会場の全ての男を虜にしている。

 …お、投げキッスしたぞ。随分愛想いいじゃんか。

〈そして今日は!なんと!!W女性の出場です!
 こちらはコボルトの女性!
 当初は生贄枠だったはずですが、
 女性二人で昨夜のチャンピオンも女性!
 これは一体どうなる!?

 頑張れ男性陣、ひん剥け男性陣!
 殺られる前に殺るんだ期待してるぞー!!!!!
 お名前はカーネちゃんです!!〉

 また大音量の歓声。
 コボルト女性のカーネ(ここでは仮にそう呼ぼう)は
 この熱気と異様さに気圧されて、
 ただただ怯えている。

 本来だったら無惨に殺されていたんだろうが、
 今日は運良く馬鹿みたいに強いビッグケットがいる。
 絶対死なせない…必ず助け出してみせる!

〈そして!今日の目玉はまだ終わりません!
 なんと次の選手はトロルとオーガの混血!
 最強種族の登場だー!!!!!

 トロル混血のイフリート!
 なんて凶悪な面!なんてムキムキな身体!
 見た目からして強そうだ!

 ビッグケット選手を倒せるか!?
 むしろ圧勝なのか!!?
 これは楽しみだーーー!!!〉

 うおおおおおおおおお!!!!!

 先程までとは一転、
 会場からはめちゃくちゃ男臭い声援が送られる。
 ちゃらついた選手にゃ興味ねぇぜ、
 俺たちはマジで強い奴を応援したいんだ。
 そんなノリの。

 ていうか…

「オッサン、あいつのことトロルとオーガの混血って登録したのか」
「ふふん、詳しい経歴の証明書なんて求められないからな。
 実際そんなんある奴いないし。盛ったもん勝ちだ」

 ステージと地続きのオーナー席にて。
 せっかくなので、貴族のオッサンとは隣同士で座った。
 うちの猫が勝ったらまた馬鹿笑いしてやる。
 それがめちゃくちゃ楽しみなわけだけど…

「小僧、正直あの猫女はなんなんだ?
 運営にチクらないから教えてくれたまえ」

 ふいに貴族男が髭を捻りながら話しかけてくる。
 あいつの詳しい過去…血…?
 ぶっちゃけサイモンも知らない。
 そうとしか言えない。

「さぁ…実のところ俺も知らないんだよ。
 シャングリラより北に住んでたってことしか聞いてなくて」
「シャングリラより北ぁ??それ、もうオーガの生息地じゃないか」
「そう、俺もそれ聞いたんだけど。
 オーガは別にそこまで危険でもないと思う…とか濁されたな」

 初めて会って話したあの日。
 途切れ途切れにしか解読出来なかったあの言葉は、
 本当はどういう意味だったんだろう。

「ううーむ更に謎が深まった。
 どうしたらあんなに強くなれるんだ」
「さてなぁ…」

 ケットシーだというばあちゃんの話。
 育ててもらえなかった様子の親の話。
 どこまで聞いていいんだろう。

 対するサイモンは、
 過去の話を聞かれても大したエピソードは出てこない。
 兵士の父と、家庭的な母と、
 勉強が好きだったけど就職で挫折した一人息子。
 これで終わりだ。

(…いつかあいつの家族の話、聞いてもいいのかなぁ)

 今よりずっと心を許しあったら…
 そういう機会を設けてもいいかもしれないな。
 もちろん本人が嫌がらなければだけど。

(…あれ?選手紹介、どこまで聞いてたっけ)

 鳴り止まない歓声。突然意識が現実に引き戻される。

 どうもサイモンがぼんやりしている間に、
 選手紹介はあらかた終わってしまったようだ。
 正面の鏡を見れば、
 各選手の情報が文章と映像でまとめられている。
 最初に聞いた三人以外の情報は以下の通り。


 武道大会荒らしで生計を立てている
 リザードマンの「ホワイトブレス」。

 現役軍人、力試しのためにやってきた
 人間ノーマンの「クリストファー」。

 元鉱夫、仲間割れで同業者を殺してしまったので
 逃走費用が欲しい
 ドワーフの「ディアマンテ」。

 盗賊業だけじゃひもじくなってしまったので、
 もっとドカンと金が欲しい
 コボルトの「バウワウ」。

 貴族の飼い奴隷だったが、口減らしのために放り込まれた
 ゴブリンの「シャドウ」。


 そして、さっきは確認出来なかったメンバーがあと二人。

 とにかく殺しがやりたくてやってきた
 オークの「ブラッディムーン」。

 お腹が空いたので人間が食べたいです。
 上半身人、下半身鳥で当然翼も生えてる
 ハーピー(男)の「ハングリー」。


(…っておいおい、今回わりとガチだぞ。
 血の気多い奴らばっかりじゃないか)

 昨日の戦いは、自殺志願者だの
 金目的で放り込まれただけの弱者だの、
 本人に戦闘能力が備わってない出場者が何人かいた。

 しかし今日は、ほぼ全員が殺し経験者か
 殺しに興味がある奴らだ。

 先程控室でビッグケットとカーネの処遇について、
 そこまで話が盛り上がらなかったのも納得だ。
 それは興味がないからでも、
 ビッグケットにひたすらビビってたからでもない。

 あいつら純粋に殺しがしたいんだ。
 女がどうのは二の次。
 とにかく血が。血が見たい。

(となると、ビッグケットとカーネに群がる奴らばかりではないのか?
 少しは周りで削り合って欲しいんだけど…)

 いや、それより何よりエンチャントトロルのイフリートだ。
 こいつを倒せないと話にならない。
 ビッグケット…カーネを守りながら勝てるだろうか…
 囲まれたら大変だぞ…。

 サイモンがそんなことをつらつら考えていると、

〈そろそろ締め切りますよ!カウントダウン!
 5!4!3!2!1!!!
 しゅーーーりょーーーーーー!!!!〉

 カンカンカン!!!!!!
 けたたましいベルの音が響いた。
 一般観覧客のベットタイムが終わったようだ。

〈本日参加者4万2千731人!
 皆さんの手元に渡るベット総額は12億エルスとなりました!!!〉
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