負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

文字の大きさ
126 / 137
第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第17話03 反旗

しおりを挟む
 愕然と目を見開くサイモン。
 ステージの床に倒れ伏す相棒の黒猫。

 えっちょ、死んだ?!

 信じられない、と顔面に貼り付けた
 真っ青なサイモンが
 魔導師を見やると、

「……大丈夫、まだ死んでない。
 今私が完璧に治してやる」

 隣の男は事もなげに笑う。

 また手をヒュンと振ると、
 なんということだろう。
 放り投げられていたビッグケットの腕が
 ふわりと飛び、
 本体である身体に
 ぴたりとくっついた。

 遠目ながら、
 その身体がほのかに光る。
 やがてビッグケットは
 なんでもなかったかのように
 立ち上がった。

〈『あーあー猫君、
 今君の身体を完全回復させた。
 体力ごと元気になってるはずだ、
 確認してくれ』〉

 次の瞬間、響き渡る魔導師の声。
 こいつケットシー語話してるぞ……。
 しかも、拡声の魔法を
 使いこなしている。

 一体どうなってるんだ。
 トリッキーな戦いを挑んだサイモンすら
 目を剥く魔導師の行動に、
 その場の全員が絶句する中。

 当の魔導師は悠々と。
 両手を広げて演説を始めた。
 
〈そして会場の皆さん、失礼。
 私は運営に雇われていた魔法使いだ。

 運営もといここの主催者は、
 あまりに卑怯な手立てで
 出場者の彼らを蹴落とそうとした。
 オーガしかり、人質しかり。
 私はそれが許せない。

 よって今から
 反旗を翻すことにする〉

「なっ……!?」 

 そこで、主催者がようやく
 反論の声を上げた。
 さっきから今まで、
 あまりにも驚いて
 ずっとぽかーんとしていたらしい。

 いや、気持ちはわかるけど。

〈ここに居る者全員!よく聞け!
 私は今から
 そこの黒猫に肩入れする!

 主催者は客の安全を
 守る気がないみたいだからな、
 危険なオーガ退治を
 この黒猫に頼もうというわけだ!

 これを八百長だの無粋だの思う奴は
 今すぐ運営本部まで降りてこい!
 私が直々に火炎魔法で
 こんがり焼いてやる!!〉

 うわっ、なんか無茶苦茶言い出した!
 けど……肩入れってなんだ!?
 サイモンは急展開についていけず、
 ただ隣の男を見ることしか出来ない。

 男は実に楽しそうだ。
 げらげら笑いながら
 会場を見渡している。

〈『そこの猫君、
 突然だが私は君の味方だ。
 今からあらゆる強化魔法を
 てんこ盛りにかける。

 オーガとマトモに戦えるだけの
 体力腕力防御力素早さを
 タイムアウトなしに授けるので、
 ぜひ今日の鬱憤を晴らしてくれ!
 さらばだ!』〉

 そして、男は宣言通り
 ビッグケットに何かの魔法をかけた。
 それに横槍を入れるのは
 当然主催者だ。

「ちょ、ちょっと待て!
 貴様何をしている!?
 何が反旗だ、
 契約はどうするんだ!」

「うん?反旗は反旗だ。
 たかが二桁しか生きてない人間ノーマンごときが
 私を顎で使おうなどと、
 聞いて呆れる。

 私は今からお前らの敵だ。
 文句があるならこんがり焼くぞ。
 それとも冷たい氷漬けがいいか?
 爆発四散したいか?」

「うぐっ……!」

 さすが高位の魔法使い、
 属性のレパートリーは多いようだ。
 さらさらと流れる銀髪。
 凛と睨みつける横顔を
 サイモンがあ然としたまま眺める。

 まさか、全く見ず知らずの
 エルフに助けられるとは。

「……あの、ありがとう。
 助かったよ」

 ただぼんやりもしていられない。
 深く頭を下げると、
 謎の魔導師は
 ひらひらと手を振った。

「いや何。
 今回のことは、
 こんな奴の仕事を受けた私に
 落ち度がある。

 痛い思いをさせた猫君には
 大変申し訳無いことをした。
 これはほんの詫びだ。
 何が欲しいわけでもない、
 受け取ってくれ」

「……そうか、ありがとう」

 いつぞや貴族男が
 「強い魔法使いは金じゃ動かない」
 って言ってた。

 つまり、今回のことは
 起こるべくして起こった仲間割れ……
 ってことか?
 まぁ理屈はどうでもいい、
 ありがたく乗っておこう。

 ……さぁ、オーガ退治を頼まれた相棒は
 どうなったかな。
 サイモンが見下ろす先。
 ビッグケットは、
 元気いっぱい跳ね回っていた。









『よくわかんねーけど
 腕戻ってきたし元気出た!
 ラッキー!!』

 闘技場中央、黒煙の上がるステージ。
 ビッグケットは未だ身体が
 あちこち赤く染まったままだったが、
 突然飛んできて繋がった自分の腕を
 面白そうに眺めた。

 本当に、動く。問題ない。
 そもそもさっきまで
 本気でくたばりそうなくらい
 ヘロヘロだったのに、
 妙にすっかり元気だ。

(さっきのアナウンス、
 なんだったんだろう……)

 オーガと戦える何かをやるって
 言ってたな。
 なんなんだ?
 ……まぁ理屈なんてどうでもいいか。
 これに乗らない手はない。

 ……よし、反撃だ。
 煙に飲まれるオーガを睨みつける。

「ゴホゴホ、ごほっ……」

 オーガはさっきの爆発が直撃したのと、
 煙を多量に吸ったので
 しばらく動けなかったようだ。
 ようやく復活した。
 ゆらりと立ち上がる。

「(……なんだ今のは)」

「(私の仲間からだよ。
 とりあえず、今からお前ボコッから。
 覚悟しろ)」

「(はぁ?糞ちびが何を……)」

 オーガが最後まで言い終わらないうちに。
 ビッグケットはダッシュで駆け寄った。
 さっきの言葉を信じるなら、
 もう逃げ回る必要はない。

 知らない誰か……
 これが嘘だったらキレるからな!

『喰らえ、糞デカ野郎!!!』

 まずは小手調べ、相手の脚を狙う。


 ガヅンッッ!!


 ローキック。
 いい音がした。
 そして痛くない。

 オーガの防御力はドラゴンと同等か
 それ以上と言われているのに、
 蹴っても全然痛くない。
 その上、べっこり相手の脚が凹んでいる。

 ……ダメージが入ってる!

「(てめぇ……!!)」

 痛みと憎しみで燃える赤い瞳。
 ビッグケットは一旦ジャンプで後方に引きつつ、
 手応えを感じて
 にんまり笑みを浮かべた。

「(よし、じゃあさっきまでのお返し。
 たっぷり味わえ……!!)」

「(急に調子に乗りやがって、
 ぶち殺す!!)」

 その言葉の直後。
 睨み合う両者が走り寄り、
 真正面から一対一の接近戦。

 これまでとは一変、
 ビッグケットは恐れずオーガに
 向かっていった。
 残った観客がそれに声援を送る。

『ウオオオオオオオオオオ!!!!』
「グゥオオオオオオオオオ!!!!」

 ワァア……!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...