88 / 126
88、アドニスの決断
しおりを挟む
「どういうことだ、クリスティーナ・エトリーズ。何故シャルロッテを東方へ連れて行けと言うのだ?」
アドニスは不機嫌そのものと言った表情で、クリストファーさん扮するエトリーズ婦人を見ている。
あの後、クリストファーさんからの願いでメルファはアドニスと伯爵様、そしてお父様を呼びに行った。
そして、自分が描いた絵の前で私を東方に連れていくようにアドニスに言ったのだ。
アドニスの不機嫌な様子に、素晴らしい絵を描いてくれたことを称賛していたお父様も黙り込む。
クリストファーさんは私に協力をしてくれると言ったけれど、逆効果にしか思えない。
「はい殿下。理由は二つ御座います」
エトリーズ婦人の言葉にアドニスは天才画家を眺める。
「いいだろう、これほどの絵を描いたその才能に免じて聞いてやろう」
婦人は優雅にお辞儀をする。
「東方にはとても美しい場所が多いと聞きます。もしシャルロッテ様をお連れになるであれば、私もぜひ随行しシャルロッテ様をモデルとして女神の絵を描かせて頂きたいのです。当初よりも少し時間は頂くことになりますが、残りの仕事も納得がいくものを仕上げたいのです」
「どういうことだ? 公社のシンボルとなる絵は、もう描き終えたではないか」
エトリーズ婦人は首を横に振る。
「あの絵は特別です、同じものは私にも描けません。形だけ似たものを描くことは、あの時のシャルロッテ様のお姿に対する冒涜に思えるのです」
お父様がその言葉にふむと頷く。
「並みの絵画の前では一笑にふす話でしょうが、これほどの絵の前では納得せざるを得ませんな。かといってエトリーズ婦人の絵を見てしまった後では今更、他の画家に残りを描いてくれなどとは言えませんからな」
お父様も、アドニスに同行したいという私の気持ちを察して応援してくれてるのが分かる。
アドニスはエトリーズ婦人に言った。
「一つ目の理由は分かった。だが絵ならば都で描けばいい、そんなことよりも俺はシャルロッテの安全を優先したい」
婦人はアドニスにお辞儀をすると続ける。
「二つ目はその安全のことでございます殿下。この絵をご覧くださいませ」
エトリーズ婦人の言葉にアドニスは絵を眺める。
「確かに素晴らしい絵だとは認めるが、この絵がシャルロッテの安全と何の関係がある?」
「この光景を実際に見た者が大勢いるという事実です殿下。人の噂を止めることは出来ません、女神ファリアンネの巫女、まるで地上に降り立った女神のようなお姿を民にお見せになられたお方が、殿下の婚約者になることをよく思わない殿方がいるとしたら……。殿下のお留守の間に、シャルロッテ様に何をなさるか分かりませんわ」
その場の空気が凍り付くのを私は感じた。
アドニスの氷のような視線が婦人を射抜いている。
「そなたは誰のことを言っている?」
「恐れ多くも尊き王家の一翼を担うお方、私の口からはとても。ですが殿下が一番ご存知のはずですわ」
伯爵様が婦人に歩み寄る。
まるで一流の絵画のように絵になる二人。
「レオナール王子のことを仰っているのですね婦人は。鋭いお方だ、私もそのことをずっと考えていました。これから民の間にはシャルロッテ様が起こした奇跡の話を広がっていくでしょう、レオナール王子としてはそんなお方が殿下の婚約者になられては困る。何か手を打ってくるでしょう。それを踏まえてシャルロッテ様の警護の計画を立てるつもりではいましたが」
「俺は聞いてないぞエルヴィン! 俺が留守の間にレオナールがこいつに危害を加えるとでもいうのか!?」
そう叫ぶアドニスを見て私は動揺した。
「ごめんなさい、アドニス! 私がいけないの、我儘を言ったから……。でも一緒に居たいの、傍を離れたくないの」
俯く私の頬にアドニスの手が触れる。
「この馬鹿者め。俺だってお前の傍にいてやりたいのだ、好きで離れるわけではない。……エルヴィン、警護計画を練り直せ。俺はこいつを連れてアシュロード城に向かう。どちらも危険があるのであれば、俺はこいつと離れるつもりはない」
アドニスは不機嫌そのものと言った表情で、クリストファーさん扮するエトリーズ婦人を見ている。
あの後、クリストファーさんからの願いでメルファはアドニスと伯爵様、そしてお父様を呼びに行った。
そして、自分が描いた絵の前で私を東方に連れていくようにアドニスに言ったのだ。
アドニスの不機嫌な様子に、素晴らしい絵を描いてくれたことを称賛していたお父様も黙り込む。
クリストファーさんは私に協力をしてくれると言ったけれど、逆効果にしか思えない。
「はい殿下。理由は二つ御座います」
エトリーズ婦人の言葉にアドニスは天才画家を眺める。
「いいだろう、これほどの絵を描いたその才能に免じて聞いてやろう」
婦人は優雅にお辞儀をする。
「東方にはとても美しい場所が多いと聞きます。もしシャルロッテ様をお連れになるであれば、私もぜひ随行しシャルロッテ様をモデルとして女神の絵を描かせて頂きたいのです。当初よりも少し時間は頂くことになりますが、残りの仕事も納得がいくものを仕上げたいのです」
「どういうことだ? 公社のシンボルとなる絵は、もう描き終えたではないか」
エトリーズ婦人は首を横に振る。
「あの絵は特別です、同じものは私にも描けません。形だけ似たものを描くことは、あの時のシャルロッテ様のお姿に対する冒涜に思えるのです」
お父様がその言葉にふむと頷く。
「並みの絵画の前では一笑にふす話でしょうが、これほどの絵の前では納得せざるを得ませんな。かといってエトリーズ婦人の絵を見てしまった後では今更、他の画家に残りを描いてくれなどとは言えませんからな」
お父様も、アドニスに同行したいという私の気持ちを察して応援してくれてるのが分かる。
アドニスはエトリーズ婦人に言った。
「一つ目の理由は分かった。だが絵ならば都で描けばいい、そんなことよりも俺はシャルロッテの安全を優先したい」
婦人はアドニスにお辞儀をすると続ける。
「二つ目はその安全のことでございます殿下。この絵をご覧くださいませ」
エトリーズ婦人の言葉にアドニスは絵を眺める。
「確かに素晴らしい絵だとは認めるが、この絵がシャルロッテの安全と何の関係がある?」
「この光景を実際に見た者が大勢いるという事実です殿下。人の噂を止めることは出来ません、女神ファリアンネの巫女、まるで地上に降り立った女神のようなお姿を民にお見せになられたお方が、殿下の婚約者になることをよく思わない殿方がいるとしたら……。殿下のお留守の間に、シャルロッテ様に何をなさるか分かりませんわ」
その場の空気が凍り付くのを私は感じた。
アドニスの氷のような視線が婦人を射抜いている。
「そなたは誰のことを言っている?」
「恐れ多くも尊き王家の一翼を担うお方、私の口からはとても。ですが殿下が一番ご存知のはずですわ」
伯爵様が婦人に歩み寄る。
まるで一流の絵画のように絵になる二人。
「レオナール王子のことを仰っているのですね婦人は。鋭いお方だ、私もそのことをずっと考えていました。これから民の間にはシャルロッテ様が起こした奇跡の話を広がっていくでしょう、レオナール王子としてはそんなお方が殿下の婚約者になられては困る。何か手を打ってくるでしょう。それを踏まえてシャルロッテ様の警護の計画を立てるつもりではいましたが」
「俺は聞いてないぞエルヴィン! 俺が留守の間にレオナールがこいつに危害を加えるとでもいうのか!?」
そう叫ぶアドニスを見て私は動揺した。
「ごめんなさい、アドニス! 私がいけないの、我儘を言ったから……。でも一緒に居たいの、傍を離れたくないの」
俯く私の頬にアドニスの手が触れる。
「この馬鹿者め。俺だってお前の傍にいてやりたいのだ、好きで離れるわけではない。……エルヴィン、警護計画を練り直せ。俺はこいつを連れてアシュロード城に向かう。どちらも危険があるのであれば、俺はこいつと離れるつもりはない」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,928
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる