元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちに大人気です!

園宮りおん

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106、二人の貴公子

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「イザベルめ、勝手な真似を。ふふ、だがまあいい。聖女よ、俺との勝負の最中に隙を晒すとはな、お前程の女でも愛する男の命は惜しいらしい」

「ううっ!」

 巨大な黒い蛇に体を締め上げられて、私は呻いた。
 ルファリシオが私の傍に立ち剣を地面に突き立てると、そこを中心に巨大な魔方陣が描かれていく。

「ああ!!」

 まるで自分の体からエネルギーを吸い出されるような感覚に、私は思わず声を上げる。
 こちらを見て叫ぶエルザさんとエルトくん。

「ルナさん!!」

「ルナ様!!」

 私は掠れる声で叫んだ。

「来ては……だめ」

 エルトくんがいくら強くても、ルファリシオには敵わない。
 戦ってみて分かったわ。
 私の中にいる、もう一人の自分。
 聖王妃リディアとさえ正面からやり合う程の力。

 黒く巨大な魔方陣が光を放っていく。
 まるで私を邪神の供物に捧げて、その力を吸い取っているかのように。

「ふふ、感じるぞ聖女よ。お前の力を吸い、俺の力が更に増していくのを」

 ルファリシオの笑い声が、朦朧とする意識の中で聞こえてきた。
 先程、矢を放った時に広がった光の翼が消えていく。
 そして、銀色の狐耳と月光色の尻尾が、私の白猫のそれに変わっていくのが分かった。

(リディアの力が……)

 あの時、夢の中で振り向いたもう一人の私。
 先程まで確かに自分の中に感じた聖王妃リディアの力が消えていく。

 足元の巨大な魔法陣が私の力を吸い尽くすと、一気に収縮してルファリシオの剣に凝縮される。
 体がふらついて、私はその場に崩れ落ちそうになった。
 ルファリシオはそんな私の体を抱き留めると、グリフォンを呼ぶ。

「来い! 聖女とその力は手に入れた。もうこんなところに用はない、行くぞ!!」

 その命令に従ってエルトくんと戦っているグリフォンが、こちらに飛んでくるのが見えた。
 ルファリシオは軽々と私の体を抱えたまま、巨大な魔獣の背に乗り込む。

「ルナ様! ルファリシオ、行かせるものか!!」

 魔獣の背に乗る私たちに向かって、一直線に向かってくる少年騎士の姿。
 ルファリシオはそれを嘲笑いながら右手の剣を一閃した。

「愚か者めが。今のこの俺に、貴様ごときが何が出来る!」

 剣の先から放たれた黒い衝撃波が、エルトくんの方に向かっていく。
 それが、彼の剣と防具を切り裂き粉々に破壊する。

「くっ! う、うぁああ!!」

 吹き飛ばされて石畳を転がるその姿。
 大空に舞い上がるブラックグリフォン。
 武器も防具も破壊され、膝を付くエルトくんにルファリシオは言う。

「俺に逆らったお前たちは簡単には殺さん。エルザと共にそこで見ておくのだな、アレクファートと獣人どもが皆殺しにあうさまを!」

「やっ、やめて!」

「ルナ様ぁああ!!」

 あっという間に小さくなっていく地上の光景。
 エルザさんとエルトくんの悲痛な声が微かに聞こえてくる。
 ルファリシオに抱きかかえられたまま、黒いグリフォンの背の上で私はぼんやりと前を見つめた。
 大きく羽ばたくその翼、大空を切り裂くように進んでいく。
 次第に、先に船団の方に向かったイザベルの姿が前方に見えてくる。
 そして、その先にはロジュレンスの白い旗艦の大きなマスト。

(駄目……)

 今のルファリシオには誰も敵わない。
 このままだとみんな殺されてしまう。

「アレクぅ! みんな、逃げてぇえええ!!」

 そう叫ぶ私の頬に手を当てて、ルファリシオは無理やり私の顔を自分の方に向けさせる。

「まだ叫ぶ元気があるとはな、余程あの男が大事らしい。いいだろう、まずはお前の目の前であの男を殺してやろう。ふふ、お前は特別な女だ、あの男には勿体ない」

 そう言って、私の唇をなぞる男の手に背筋が震える。
 気が付くとすぐ横にはイザベルが乗るグリフォンが並走している。
 ルファリシオの腕に中にいる私を見て嘲笑うイザベル。

「ふふ、いいざまねルナ。見ていなさい、貴方から全てを奪ってあげるわ! あはは、ルナ! 貴方が泣き喚く姿が目に浮かぶようよ!!」

 まさに、激突を開始しようとしているジェーレントとロジュレンスの海軍。
 両軍とも、上空を舞う二頭のグリフォンを見て声を上げている。

「おお! あれはルファリシオ様のブラックグリフォン!」

「まさか、本当に聖女を捕らえたのか!」

「忌々しい魔女よ! よくも前王陛下を!!」

 魔女……
 ルークさんが言っていた通りだわ。
 きっとルファリシオが父王を殺した後、その罪を私たちになすりつけたのだろう。
 一方で、ロジュレンス軍の先頭をきって海上を走る一際大きな白い旗艦。
 そこからも声が上がる。

「ルファリシオだと!」

「アレクファート様! あれはもしやルナ様では!!」

 まるで戦利品を示すかのように、私を腕に抱くルファリシオ。
 一気に下降する二頭の魔獣は、大きな軍艦の甲板に降り立った。
 振動が私の体を揺らす。
 そこに居るのはジェーレントの兵士じゃない。
 私が良く知っているみんなの姿。
 ルファリシオの腕に抱かれている私を見て、驚愕に目を見開いている。

「ルナさん!!」

「ルナ様! 一体どうして……」

 剣を構える、ルークさんとリカルドさん。
 そして、赤獅子騎士団のみんな。
 そんな中、ゆっくりとグリフォンの背を下りて私をイザベルに預けるルファリシオ。
 黒いいばらが私の体を締め上げる。

「ふふ、逃がさないわよルナ。貴方はここで観ているの、愛しい男が切り刻まれていくのをね」

 ルファリシオは、ゆっくりと前に歩きながらアレクを眺めている。

「アレクファート、お前の女は俺が貰う。それが嫌なら、俺と戦って勝つことだ。ふふ、今のこの俺を倒すことなど決して敵わぬ事だがな」

 そう言って剣を抜くルファリシオ。
 その剣は、闇色に染まっている。
 物凄い闘気と魔力が、周囲に満ちていくのが分かる。
 それはもう人ではなく、魔人と呼んだ方が相応しい。
 アレクは黙ってこちらを見つめている。
 そして、ゆっくりと腰から提げた剣を抜いた。

「やめて、アレク! 私はどうなってもいいわ、お願い逃げて!!」

「ルナ……」

 思わず涙が零れる。
 いくらアレクでも勝てるはずがない。
 もうルファリシオは人間の域を超えているもの。
 わざわざこんなところに舞い降りたのも、自分の力を誇示する為だろう。
 甲板の上で対峙する、赤と黒の髪の貴公子。
 その髪が風に靡いている。
 ルファリシオの剣は黒い雷のような魔力を纏っていく。

「ふふ、どうやら死ぬ覚悟が出来たようだな」

「ルファリシオ。お前が何者であろうと、ルナを悲しませる奴を俺は決して許さん」
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