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1巻

1-3

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 一体何を考えてるの、あの馬鹿王子は!

『ぐぬ、密猟者ごときにこのワシが不覚を取るとは。あの獣さえ連中に味方をしておらねば……』

 悔しそうにそう言って、牙を打ち鳴らすバルロン。

『あの獣って?』

 不思議に思った私が、バルロンに問いかけたその時――
 シルヴァンの耳がピンと立つ。私も思わず身構えた。

『ルナも感じたか?』
『ええ、今はレンジャーモードだから。【索敵】に確かに反応したわ』

 強い悪意を持った人間が三人、そして、大きな獣が一頭、こちらに近づいている。
 森の主であるバルロンも感じたのだろう、再び立ち上がろうとしたけれど、うめき声を上げてうずくまってしまった。

『ぐぬ! 連中め、追い返したと思ったがまた来おったか。おのれ、体の自由も利かぬとは情けないことよ』

 敵のいる方向を鋭くにらみながら、シルヴァンは私に言った。

『どうするルナ? 連中、どんどんこっちに近づいてくるぞ』
『ええ……』

 不安げなメルとリン、そしてスーたち。

『バルロン様!』
『ママ、怖いよぉ』
『スー、わたしたちどうなるの?』
『そんなの、分かんないよルー……うぇ、うえええん!』

 泣き出す羊うさぎたちを前に、私はシルヴァンに言った。

『シルヴァン、行きましょう。このままにはしておけないわ!』

 私の言葉にバルロンが声を上げる。

『待て小娘! 本当にお前の言うとおりにすれば、この怪我が治るのだな?』
『ええ、でも時間が無いわ』
『分かった、この傷を治してくれ! ワシはこの森の主だ、みなを守らねばならぬ』

 泣いているスーたちを見て奮い立ったのか、力強くそう告げるバルロン。そんな彼に私はしっかりとうなずく。

『もうそこまで迫ってきてる! すぐに治療にかかるわよ』
『分かっておる!』

 バルロンの言葉に私は再びうなずくと『E・G・K』の力を使う。

「E・G・K、シスターモード発動!」

 いつもの半透明のモニターに、私のステータスが浮かび上がる。
 そこにはこう記されている。


 名前:ルナ・ロファリエル
 種族:人間
 職業:獣の聖女
 E・G・K:シスターモード(レベル85)
 力:112
 体力:215
 魔力:550
 知恵:580
 器用さ:337
 素早さ:452
 運:237
 物理攻撃スキル:なし
 魔法:回復系魔法、聖属性魔法
 特技:【祝福】【ホーリーアロー】【自己犠牲ぎせい
 ユニークスキル:【E・G・K】【獣言語理解】
 加護:【神獣に愛された者】
 称号:【獣の治癒者】


 ヒーラー職のシスターで、私は回復魔法を選択しバルロンにかける。
 すると、見る見るうちにバルロンの足の傷がふさがっていく。
【獣の治癒者】の称号を持つ私が使うと、獣に対して回復魔法の効果が高まるのだ。
 驚いたように声を上げるバルロン。

『ぐぬ! あの傷があっという間に! なんということだ‼』

 信頼してくれたのか、バルロンは私が手にしていた丸薬を勢いよく口にする。そして、彼は顔をしかめた。

『うぬ! これは苦い、もう少しましな味にはできんのか⁉』
贅沢ぜいたく言わないで! 今はそれどころじゃないでしょ。まったく、大きな体をして情けないわね』
『何を? 生意気な小娘だ!』

 私に怒られて、バルロンは目を白黒させる。だって、本当に今はそれどころじゃないし。
 この際、化膿かのう止めの丸薬は後でもよかったのに、勝手に食べちゃったから……
 小さくため息を吐く私を尻目に、雄々おおしい姿ですっくと立ち上がるこの森の主。

『バルロン様!』

 メルが驚いた様子で声を上げた。スーやルーも泣き顔から笑顔に変わる。

『治ったの? バルロン様!』
『ルナ! 凄い‼』

 自分たちを守ってくれる頼もしい存在の復活に、二羽の羊うさぎたちがぴょんぴょん辺りを飛びまわる。
 リンは私の肩の上に駆け上がって胸を張った。

『でしょ! ルナはとっても凄いんだから!』

 バルロンは私の傍に立つと前方を見つめた。

『小娘、一つ借りができたな』
『いいのよ。さあ、さっさと敵を倒しちゃいましょう』
『うむ、分かっておるわ!』

 私がさっき【索敵】で感じた気配は、もうすぐ傍まで来ているはず。

『――そうだわ! シスターの特技を使えばいいのよ』
『なんだそれは?』
「すぐに分かるわ。特技【祝福】を選択!」
〈【祝福】を選択しました。一時的に仲間のステータスが飛躍的に高まります〉

 バルロンとシルヴァンの体を光が包み込む。

『ぬお! なんだこれは! 力がみなぎるぞ』

 目を見張るバルロンの横で、シルヴァンが叫んだ。

『ルナ! バルロン! 来るぞ!』
『ええ、二人とも気をつけて!』
『分かっておるわ!』

 私の言葉にうなずくバルロン。次の瞬間――
 すさまじい咆哮ほうこうを上げて、目の前のしげみから何かが飛び出してきた。
 見ると、双頭の巨大な黒い犬だった。
 密猟者たちが使っている猟犬に違いない。ダブルヘッドハウンドと呼ばれる強力な魔獣だ。
 魔獣はうなり声を上げて、迷うことなくバルロンに向かって走ってくる。悲鳴を上げるリンたち。

『ぬうぉおおおおおお‼』

 バルロンは咆哮ほうこうを上げながら、正面から黒い魔獣と激突する。
 物凄い衝撃音と共に、ダブルヘッドハウンドは木に吹き飛ばされた。
 シスターの【祝福】の効果がてきめんだわ。猟犬の目は驚愕きょうがくに見開かれている。

『馬鹿な……まだ傷はえてないはずだ!』
『あり得ねえ、弱ってる頃合いだと思ったのに、前よりも強くなってやがる!』

 猟犬の二つの首が、自分たちの体を押さえつけているバルロンを忌々いまいましげににらんでいる。

『生憎だったな小僧! こっちには心強い女神がついておってな』
「うぁああ! なんだこいつは‼」

 叫び声のした方向に目を向けると、シルヴァンが密猟者の一人の体を押さえつけていた。
 残りの二人が、手にした弓をシルヴァンに向ける。でも、次の瞬間、その弓は密猟者の手から弾かれていた。
 私の右手には、白く輝く魔法の弓がにぎられている。そこから放たれた聖なる矢、ホーリーアローが彼らの弓を弾き飛ばしたのだ。
 シスターの特技で、数少ない攻撃手段である。エフェクトが格好よくて、前世ではいつも使ってたのよね。
 私が助けなくても、シルヴァンのことだから残りの密猟者もやっつけただろうけど、シルヴァンに弓を向けている姿を見たら咄嗟とっさに体が動いてしまった。
 私の弟に弓を向けるなんて許せないもの。

「くっ! どうして人間がこんなところに!」

 弓を弾かれた腕を押さえながら、そう叫ぶ密猟者たち。

「残念だったわね! この国では密猟は重罪よ、役人に引き渡すからそのつもりでいて!」

 もしも本当にジェラルドが彼らに密猟を命じたのなら問題になりそうだが、このまま見過ごすなんてできない。
 放っておけば、同じことを繰り返すに違いないんだから。
 バルロンたちと連携し、密猟者とその猟犬を倒して、私はほっと一息吐く。
 その時、シルヴァンが切羽せっぱ詰まった調子で叫んだ。

『しまった! ルナ、敵はこいつらだけじゃない、いつの間にか囲まれてるぞ!』
『え? そんな!』

 私は慌ててシスターからレンジャーにモード変更する。
 すると【索敵】に一斉いっせいに反応が浮かび上がった。シルヴァンが言ったとおり、周囲をすっかり囲まれている。
 まるでさっきまで、気配を隠していたかのように。

『来るぞ! ルナ』

 うなり声を上げるシルヴァンに、私も身構える。
 でも……
 しげみを抜けてやって来たのは、密猟者とは思えない整った身なりの、端整な獣人族の騎士だった。
 あんまり素敵なので、少し見惚みとれてしまったほどだ。
 燃え上がるような真紅の髪をなびかせて、颯爽さっそうとこちらに向かって歩いてくる。髪の色にピッタリの赤い軍服がとてもよく似合っていた。
 長身の彼の耳の形から察するに、獣人族の中でも珍しい獅子しし族かしら?
 本での知識がほとんどだから確信は無いけど、堂々として凛々りりしいその雰囲気から、間違いない気がする。
 彼が現れると、周りからも沢山の騎士たちが姿を現した。
 最初に現れた紅髪の騎士が辺りを見回して言う。

「これはどういうことだ? 我らが来る前に密猟者どもが倒されているとは」
「はい、殿下。おかしな話もあるものです」

 殿下? 今あの人、殿下って呼ばれていたわよね。
 聞き間違いかな。こんなところに一国の王子がいるはずないものね。とにかく、この人たちは密猟者じゃないみたい。
 きっと密猟者を追いかけて来た人たちだろう。私はホッとして彼に声をかけた。

「あ、あの、貴方たちは?」

 私の言葉を聞いて、その紅髪の騎士は、何故か物凄く冷たい目でこちらを見た。

「お前たちを捕らえに来たに決まっているだろう? まさか密猟者の中に女がいるとはな」

 え? どういうこと? もしかしてこの人、私を密猟者と勘違いしているの?
 彼は困惑する私の腕をしっかりとつかむ。

「ちょっと、何するの⁉」

 前言撤回! ちょっと素敵だと思ったけど、なんなのこの人。人の話も聞かずに決めつけて、失礼だわ!
 私は腹が立って彼に抗議した。

「ちょ、ちょっと待って。私は密猟者なんかじゃないわ!」
「いいから一緒に来い。言い訳は後でゆっくりと聞いてやる」
「ちょっと、ふざけないで! 放してよ!」

 私の腕をぐいぐいと引っ張る男に、私はカチンときて言い返した。
 白い猿のジンが木の上でみんなに向かって叫ぶ。

『大変だ! ルナが密猟者と間違えられて連れてかれちまうぜ!』

 それを聞いてリンが、私の腕をつかむ男の体に駆け上ると、小さな手でその頬を何度も叩く。

『バカバカバカぁ! ルナは悪くないんだから‼』

 すぐにメルもそれに加わる。

『そうよ、ルナさんを放して!』

 羊うさぎたちも、丸まった角で彼の足に頭突きをした。

『このぉ!』
『ルナをいじめないでぇ!』

 バルロンも大きな体で私を守るように傍に立つ。

『ルナは我らの恩人、密猟者などではない!』

 シルヴァンは私の前に立って牙をく。

『なんだよ、こいつ! 遅れて来たくせに偉そうにさ!』

 そんなリンたちの様子を見て、傍で控えていた騎士の一人が進み出る。
 そして、私の手をつかむ紅髪の男に声をかけた。

「アレク様、この女性は密猟者ではないのでは? まるで動物たちが彼女を守っているように思えます。それにそんなことをするレディには見えませんが」
「れ、レディ?」

 そう呼ばれて私は思わず顔が赤くなる。
 私を『レディ』と呼んだ男性は、私の腕をつかむ失礼な男とはタイプが違う美男子だった。知的で優しそうな笑顔と、私のことをレディって呼ぶその紳士的な態度が素敵な人だ。水を思わせるほど青い髪が美しい。
 髪の色と獣耳の形から多分、青狼せいろう族じゃないかと思う。確か獅子しし族と同じで獣人族の中でも珍しい種族だったはず。ちなみに、獣人族には動物の血が入っているが、彼らは動物の言葉を理解することはできない。
 とはいえ、こんな美しい二人が街を歩いていたら、振り返らない女性はいないだろう。
 まあ、一人はかなり強引な男だけどね!
 よりにもよって、私を密猟者扱いするなんて酷いわ。みんなで頑張って退治したんだから!
 ジロリと失礼男をにらみつけると、彼はリンをまみ上げてジッとその顔を見る。

「動物が守っているだと? 本気で言っているのか、ルーク」

 アレクと呼ばれた騎士にままれたリンが叫ぶ。

『何するの、放してよ! バカバカ! 大っ嫌い!』

 必死に暴れるリン。私は慌ててアレクに詰め寄る。

「やめて、リンを返して!」
「リンだと? この白耳リスのことか」
「そうよ! 私の大事な友達なんだから」

 赤毛の騎士は、呆れたような顏で私にリンを手渡す。

「何が友達だ。まったく、おかしなことを言う女だ」

 リンはべそをかきながら私にしがみつく。

『ふぇええん! ルナ、怖かったよぉ』
『ごめんねリン。私のためにありがとう』
『えぐっ……だって、ルナが連れて行かれちゃうって思ったんだもん』

 泣きじゃくるリンを見て、メルとスーたちがアレクを見上げて叫ぶ。

『酷いわ!』
『リンをいじめたなぁ!』
『大っ嫌い!』

 そんな中、アレクは私を一瞥いちべつするとしばらく考え込んで言った。

「確かに、こんなおかしな女が密猟者だとも思えんな」

 言うに事欠いて、おかしな女なんて言い方がある? 私は顔をしかめて彼に詰め寄る。

「何よ、ほんとに失礼な人ね! おかしな女ってどういう意味? そんな風だから動物たちに嫌われるのよ。みんな貴方のこと大嫌いだって言ってるんだから‼」
「な、なんだとお前、俺を誰だと思ってる!」
「そんなの知らないわよ! 私だって貴方のことなんか大っ嫌い!」

 一瞬たじろぐ失礼男。それを見て、ルークさんが声を抑えながら笑っている。

「ルーク! お前、何を笑っている」
「ふふ、ふふふ。すみませんアレク様、でもおかしくて。女性の憧れの的であるアレクファート殿下に、面と向かって大嫌いなどと仰る女性がいるとは。今の殿下の驚いた顔を見ましたらつい」

 え? アレクファート殿下……今そう言ったよね。
 嘘でしょ、もしかしてこの失礼男って。
 さっき、別の騎士も殿下って呼んでた気がする。聞き間違いだと思ってたけど……
 私はサッと顔が青ざめるのを感じた。
 どうして? あり得ないわ。もしそうなら、なんでこんなところにいるのよ。
 だって、密猟者を追いかける立場の人間じゃないはず。
 間違いであって欲しいという一縷いちるの望みを打ち砕くかのように、ルークさんは微笑みながら私に言った。

「申し遅れました、勇ましいレディ。私はルーク。こちらにおられるお方は、我が主アレクファート王子殿下にございます。貴方が密猟者でないことは信じますが、わけあって我らも重要な事件を追っているのです。少しばかり事情をお伺いしたいので、ご同行願えませんでしょうか?」
「え? 同行って一体どこに? それに重要な事件ってなんですか?」

 私の疑問にアレクが代わりに答える。

「お前は馬鹿か? どこの誰とも分からんお前にペラペラと話せることなら、重要な事件とは言えまい」
「ば、馬鹿って! 失礼じゃない! ほんと貴方なんか大っ嫌い‼」

 ――はっ! しまった……この人って王子様なのよね。
 獣人の国エディファンのアレクファート王子って、確か第二王子のはず。
 病弱な第一王子に代わって、将来国王になるかもしれないって噂を聞いたことがある。
 ルークさんは嘘を言うようなタイプには見えない。
 ってことは、この人が本当にエディファンの王子様ってこと?
 アレクは私の言葉に目を見開く。

「こ、この女! ルークの話を聞いてなかったのか⁉ 俺はこの国の王子だぞ!」
「ふふふ、もう駄目です、おかしくてたまりません。どうやらこのお方には、殿下のご威光も通じないようですね。普段、女性にぞんざいな殿下にはいい薬です」
「ふん、俺の妃になることが目的で迫ってくる女どもには興味が無いだけだ」

 私の肩の上でリンがアレクをにらんでいる。

『このぉ! ルナには手を出させないんだから』

 スーとルーも再び頭の角でアレクの足に頭突きする。

『帰れぇ!』
『悪者は森から出ていって!』

 可愛い仲間たちが私を守ろうと、懸命にアレクを攻め立てる。言葉は分からなくても、アレクの態度が悪いのは一目瞭然いちもくりょうぜんだもの。
 私は苦笑しながら、愛らしくも頼もしい仲間たちに伝える。

『大丈夫よみんな。この人、とっても意地悪だけど、もう私を密猟者だとは思ってないみたい。私に少し話が聞きたいんですって』

 私を守るようにして傍に立っているバルロンが首を傾げる。

『ルナ、お前に話を聞きたいとな?』

 それを聞いてお猿のジンが声を上げた。

だまされるなよ、ルナ。そんなこと言って、きっとルナをここから連れていくつもりなんだ! 密猟者と一緒に、牢屋ろうやに閉じ込められるに決まってる』

 リンも不安そうな顔をする。

『ルナ、あんな奴について行っちゃ駄目!』
『スーも心配だよぉ』
『ルーもぉ』

 そう言ってこちらにぴょこぴょこねてきて、私の足に頬をすり寄せる羊うさぎたち。
 その姿が可愛くて微笑んでいた時、密猟者に縄をかけ終わった騎士が王子に報告に来た。

「アレク様、このご婦人の仰っていることは間違ってはいないようです。連中の一人を締め上げましたところ、どうやらこのご婦人が密猟者どもを倒したようでございます」
「馬鹿馬鹿しい、この女がか?」
「ですが殿下、密猟者どもにそのような嘘を吐く理由があるとも思えません」

 それを聞いてルークさんが少し驚いたように私を見る。

「驚きましたね。こんなに美しいレディが……」
「え? そ、そんな美しいだなんて」

 そんな綺麗な顔に見つめられると恥ずかしくなる。アレクは最低だけど、ルークさんはとても紳士的だ。
 少し照れていると、アレクがこちらを一瞥いちべつして言った。

「ルーク。お前、目が悪くなったのか?」

 ……この馬鹿王子。貴方は少し黙っててくれない?
 せっかくルークさんにめてもらったのに。
 青い髪の貴公子、ルークさんは、再度私を見つめると一礼する。

「大変失礼致しました。どうやら貴方には借りができたようですね。あらためてお願い致します。客人として我らと共にエディファルリアへおいでいただけないでしょうか? お伺いしたいこともございます故」
「エディファルリアってエディファンの都じゃないですか?」
「はい、森の外に馬車が控えておりますので」

 この森を出ればそう遠くはないはずだけれど、突然のことで戸惑ってしまう。
 ルークさんの言葉は丁寧だが、断れない雰囲気を感じる。
 さっき話していた、重要な事件に関係があるのかしら。
 そもそも、普通の密猟者をこんな騎士たちが追いかけてくることがおかしい。
 どう見ても王国の立派な騎士団って雰囲気だもの。密猟者たちは、次々に騎士たちに連れられて行く。
 ふと横を見ると、アレクがジッと私を見ている。
 もしかして、まだ疑っているの? 本当に失礼ね!
 そう思ったらまた腹が立ってきた。こちらに、やましいことは何も無い。
 私は少しアレクをにらんだ後、ルークさんに返事をした。

「分かりました、ルークさん。エディファルリアに一緒に参りますわ。でも一つだけこちらも条件があります、聞いて頂けますか?」

 私の言葉にアレクが口を挟んだ。

「条件だと? まったく図々しいな。言ってみろ、どんな条件があると言うんだ」
「貴方には言ってません。私は今、ルークさんに話してるんです!」

 私はそう言って、べぇと小さく舌を出した。

「くっ! こ、この女……」

 顔を真っ赤にしながら私をにらむ王子を見て、ルークさんは笑いをこらえている。

「どうぞ仰ってくださいレディ。先程も申し上げましたとおり、貴方はあくまでも客人。非礼な真似は致しませんから、どうかご安心を」


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