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1巻
1-2
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私が指先でリンの頭を撫でると、リンは気持ちよさそうな顔をする。
『ミルファンナの薬草とカリンナの実、これがあればなんとかなりそうだわ。シルヴァン、リン、「彼女」のところに戻りましょう』
『ああ。ルナ、早く僕の背中に乗って!』
『うん!』
シルヴァンに促され、私は彼の背中に飛び乗った。
しなやかなその体は、鞍も無いのに、馬よりもずっと乗り心地がいい。
流石、神獣の子供だ。
『ねえ、シルヴァン。私、重くない?』
『へへ、軽い軽い! ルナ一人なんて、へっちゃらさ!』
よかった。聞いてはみたものの、シルヴァンに真顔で『重いよルナ』とか言われたら少し落ち込みそうだったから。
シルヴァンの言葉に、リンは私の肩の上で少し頬を膨らます。
『一人じゃないもん、リンだっているんだから!』
『ふふ、そうよねリン』
『そうだったな。二人とも、しっかり掴まってろよ』
森の中を飛ぶように駆けていくシルヴァンに乗っていると、思わず声が出てしまう。
『うわぁ、凄い凄い!』
凄まじいスピードで流れていく景色は、ジェットコースターなんかよりもずっと迫力がある。
ちなみに、ここはもう故郷のファリーン王国じゃない。シルヴァンのおかげで昨日から、ファリーンの東にあるエディファンという国に入っていた。
エディファンは獣人の王国で、前から一度来てみたかったのよね。
ファリーンには、殆ど獣人はいないから、ぜひ会ってみたくて。
エディファンに入って街道沿いに行くと、人目もあってシルヴァンの背中に乗れないから、森の中を通っていた。そこで出会ったのが白耳リスのリン。
森にある泉のほとりで、シルヴァンと休憩をしていた時にリンと出会った。
木の枝の上でしょんぼりとして元気が無かったから声をかけたんだけど、最初リンはとても驚いていた。
それはそうよね、人間に声をかけられたんだから。
でも私たちはすぐに仲良くなって、リンからあることを頼まれたのだ。
それを果たすため、私たちはリンと会った泉のほとりに戻ってきていた。
『着いたぜ、ルナ』
『ええ。ありがとう、シルヴァン』
シルヴァンに礼を言うと、ふとリンの尻尾が私の頬に触れた。
驚いて見れば、リンの耳が不安げに垂れ下がっている。その手には、大事そうにしっかりとカリンナの実が握られていた。
『ねえ、ルナぁ……ママ治るかなぁ』
『リン、そんな顔しないで。私たちもできる限りのことをするから』
『うん! ありがとう、ルナ』
リンはそう言って大きな尻尾を振りながら、私たちの前に生えている一本の木を駆け上がっていく。
そして、その幹に空いた小さな穴の中に姿を消した。
あそこがリンの家なのだ。暫くすると、ぐったりとしたリスがリンと一緒にそこから姿を見せる。
リンの母親のメルだ。
『シルヴァン、お願い。さっきよりも元気が無いみたい、急がないと』
『ああ、分かった! ルナ』
シルヴァンは頷くと、軽やかに地面を蹴ってリンたちの傍の枝に立ち、二人を頭の上に乗せる。
そして、ふわりと私の横に着地した。
シルヴァンは、リンと母親のメルを柔らかい草の上にそっと下ろす。
『ママ、ママ! しっかりして』
『リン、泣かないの……私が死んだら、貴方は一人で生きていかなくてはいけないのよ』
『やだもん! そんなのやだぁ!』
まるで駄々っ子のようにそう言って、メルに体をすり寄せるリン。
メルの全身には赤い斑点ができている。これは白耳リスに特有の病気だ。
メルは苦しげに顔を歪ませながら、ルナに言う。
『カリンナの実でよくなると思って昨日も食べてみたのですけど……。ルナさんありがとう。自分の体のことは自分が一番分かるわ、もう長くないって』
『諦めないでメル、私が必ず治すわ!』
この病気の治療にはカリンナの実が効く。メルたちも本能的にそれを知っているのだろう。
だが、場合によっては進行が早くて、とてもカリンナの実だけでは治らないことがある。
『ルナ』
シルヴァンが崖で採ったミルファンナの薬草を咥えて私に渡す。
『ありがとう、シルヴァン』
この薬草はカリンナの実の効能を強めてくれる。
シルヴァンは真剣な表情で私に言った。
『普通に薬を作っている暇は無いな、ルナ』
『そうね、シルヴァン。それじゃあ間に合わない。【E・G・K】の力を使うわよ!』
私は、シルヴァンが差し出したミルファンナの薬草とカリンナの実を手に、静かに口を開いた。
「E・G・K、レンジャーモード発動」
私がそう言うと、目の前に様々な文字が並んだ半透明のパネルが現れた。よくゲームで見る、ステータス画面のようなものだ。
そこにはこう記されている。
名前:ルナ・ロファリエル
種族:人間
職業:獣の聖女
E・G・K:レンジャーモード(レベル75)
力:315
体力:327
魔力:270
知恵:570
器用さ:472
素早さ:527
運:217
物理攻撃スキル:弓技、ナイフ技
魔法:なし
特技:【探索】【索敵】【罠解除】【生薬調合】
ユニークスキル:【E・G・K】【獣言語理解】
加護:【神獣に愛された者】
称号:【獣の治癒者】
――私には、動物と話せること以外にも不思議な力がある。
それは、私が元の世界でハマっていた『E・G・K』の、さまざまなキャラクターの力を使うことができる能力だ。
私は今、そのレンジャーの力を選択している。
『職業』の下に書かれている『E・G・K:レンジャーモード』というのがその証。
あのMMOゲームの中では、弓やナイフを扱うのが得意な職業だ。でも、私が今この職業を選んだのはそれが理由じゃない。
レンジャーの特技の一つ、薬草などを素材にして薬を作る力――【生薬調合】を使うためだ。
ちなみに、私が持っているそれ以外の力もステータス画面に反映されている。
【獣言語理解】は文字どおり動物たちの言葉を理解できる力、【神獣に愛された者】はセイラン様に加護を受けている証である。
【獣の治癒者】は動物たちを治癒する力を高めてくれる、元獣医の私にはもってこいの称号だ。
私は特技の中の一つ、【生薬調合】を使うため叫ぶ。
「特技、【生薬調合】を選択!」
私の言葉に反応するように、先程現れた半透明のモニターに文字が映し出される。
〈【生薬調合】を選択しました。称号【獣の治癒者】の力でスキルが変化します。構いませんか?〉
「ええ、構わないわ。やって頂戴!」
〈分かりました。特技【生薬調合】が変化、【獣薬調合】が発動。生薬を調合し、獣に対しての特効効果を付与します〉
私は、ミルファンナの薬草とカリンナの実の上に右手をかざした。すると、地面の上に黄金の魔法陣が描かれていく。
「いくわよ! 【獣薬調合】‼」
黄金の光が薬草とカリンナの実を包み込む。リンはそれを見て驚いたように目を見開いた。
『きゃ! ルナ、なんなのこれ⁉』
光が消えると、薬草と木の実は無くなり、私の右手には淡い光を放つ小さな丸薬だけが載っている。
私はそれをリンに渡した。
『リン、これをメルに飲ませてあげて』
『う、うん。ルナ』
リンはまだ目を白黒させていたけど、母親のメルに薬を飲ませる。
薬を口に含むと、弱りきったメルの喉が弱々しく動いた。丸薬から放たれる黄金の光が、ゆっくりとメルを癒していく。
『ママ! ママ!』
心配そうなリンの頭をシルヴァンがそっと舐めている。
私はシルヴァンの体をギュッと抱き締めて、メルの回復を祈った。
みんなでメルの様子を固唾を呑んで見守っていると、淡い光が消えていくのと同時に、メルの体の赤い斑点が消える。それを見てリンが叫んだ。
『ルナ!』
私はメルのふさふさの体毛を触りながら、地肌からその斑点が無くなったのを確認した。
『ええ、もう大丈夫よ!』
メルは自分の体を驚いたように眺めた後、涙を流して私を見つめた。
『ああ、まさかこんな……ありがとうございます! ありがとうございます‼』
体をすり寄せ合うメルとリン。
そして、リンは嬉しくて仕方ないといった様子で私の周りを走りまわる。
『ルナありがとう! 大好き‼』
そう言って私の体を駆け上がると、私に頬ずりをする。
リンの最大の感謝の気持ちだろう。私も嬉しくて、リンの頭を優しく撫でた。
メルは私たちに何度も頭を下げて言った。
『ルナさん、貴方は私たちにとって女神様です! 本当にありがとうございます。このお礼はきっと致しますわ』
『女神様だなんてオーバーよ、メル』
私の言葉にシルヴァンが頷く。
『そうそう、女神にしてはルナはお転婆だもんな』
『もう! シルヴァン、それどういう意味?』
『へへ、だってそうだろ?』
私が頬を膨らますと、メルとリンは顔を見合わせて笑う。
それを見て、私とシルヴァンも思わずつられて声を上げて笑った。
とにかくよかったわ、手遅れにならなくて。薬草が見つかるのがもう少し遅かったら、どうなってたか分からない。
傷を塞いだりするだけなら『E・G・K』のヒーラー系の職業にモードチェンジしたらなんとかなるけれど、病気はそうはいかないのだ。
ミルファンナの薬草とカリンナの実が無ければ、【獣薬調合】だって使えなかった。
『薬草とカリンナの実を探してくれた、シルヴァンとリンのお手柄ね!』
メルはそれを聞いて、二人にお礼を言った。
『シルヴァンさん、ありがとうございます。リン、ありがとう』
『えへへ、だってママに元気になって欲しかったんだもん!』
『気にするなって。僕も昔、ルナに助けてもらったことがあるんだからさ』
シルヴァンの言葉に思わず昔を思い出す。あの時は大変だった。
『E・G・K』のヒーラーの力で取りあえず傷は塞いだものの、感染症を引き起こし、酷く化膿していたのだ。
両親に頼んで必要な薬草を集めて薬を作り、弱ったシルヴァンに少しずつ飲ませたのよね。
メルよりも酷い状態だったから、元気になるまで数日つきっきりだった。
私が見つけるのがもう少し遅かったら、助からなかったかもしれない。
リンが私を見つめて首を傾げた。
『ルナ、どうしたの? 目が赤いよ』
『ふふ、ごめんねリン。なんでもないわ、シルヴァンと出会った時のことを少し思い出してたの』
やだ、シルヴァンが死んじゃってたらって思ったら涙が出てきた。
シルヴァンは私の家族だもの。いないなんて想像もできない。
そんな私の顔を見つめて、シルヴァンは照れたように言った。
『目が覚めてさ、ちっちゃなルナが涙を一杯浮かべて僕を見てたんだ。そしてそっと抱き締めてくれて……なんだかその時、ルナが小さな女神様に思えたんだ』
私はシルヴァンをギュッと抱き締める。
『あら、こんなお転婆な女神はいないんでしょ?』
私がシルヴァンの顔に頬を寄せると、彼は照れているのかツンとソッポを向く。
このツンデレさが、いつも私の心を鷲掴みにするのだ。
私はシルヴァンのもふもふした毛並みを心ゆくまで堪能する。
すると、リンが何かを思い出したように私に言った。
『そうだルナ! ルナに見せたいものがあるの』
『私に見せたいもの? なあにリン』
『待ってて! 取ってくるから』
そう言って、リンは彼女たちの家がある木に登っていく。そして巣穴から小さな光る玉を持ってこちらに下りてきた。
それから愛らしい顔で私を見上げると、それを小さな両手で私に差し出した。
『ルナ! これあげる、リンの宝物なの』
それは、まるで宝石みたいに綺麗な石だった。光を浴びて虹色に輝いている。
『あら、綺麗ね。でもいいの? リンの宝物なんでしょ』
『えへへ、いいの。ルナに持っていて欲しいんだもん!』
もしかすると、誰かが昔アクセサリーに使っていたものかもしれない。
でも、宝石にしては見たこともない不思議な色だ。石は綺麗に磨かれ、そのふちには紐を通す小さな穴が開いている。
『不思議な石ね。リン、どこで見つけたの?』
『えっとね、リンがこの泉のほとりで見つけたの。最初は泥だらけだったのよ。でも、ちょっとだけ綺麗なところが見えてリンが一生懸命磨いたの』
誰かがここに捨てたのかな? こんなに綺麗なのに勿体ない。
『へえ、そうなのね。リンが磨いたのね』
『うん、どんどん綺麗になるのが楽しくて!』
こちらをキラキラとした目で見上げるリン。自分の宝物に、私が興味を持ったことが嬉しいみたい。
リンの宝物を貰うのは少し気が引けるけど、断ったらかえってがっかりするよね。せっかくの贈り物だもの。
私はリンにお礼を言った。
『ありがとうリン。大事にするわ!』
『うん! ルナ!』
私の周りを嬉しそうに駆けまわるリン。
近くの町に行ったら、紐を買ってこれに通してみよう。ネックレスにしたら素敵かも。
胸を躍らせつつ石を眺めていると、メルは私に乞うように言った。
『ルナさん、私にもお礼をさせてください。私に何かできることはありませんか?』
『いいのよメル。気にしないで』
私がそう言うと、メルはしょんぼりする。
『命を救って頂いたんです。何もお礼ができないのでは申し訳なくて』
そんなメルを見つめながら私は答えた。
『分かったわメル。じゃあ、一つお願いしたいことがあるの』
『なんですか、ルナさん! なんでも言ってください』
私はメルに願い事を言うと、メルは頷きながらそれを聞く。
『どうかしら、お願いできる?』
『はい! それでしたら、うってつけの相手を知っていますわ。私に任せてください』
◇ ◇ ◇
あの後、私はメルに案内されてとある場所を訪ねていた。
私が切り株の上に腰を下ろしていると、膝の上にリンが駆け上ってくる。
『ねえ、ルナ。持ってきたよ!』
『ふふ、ありがとうリン』
私の膝に小さな白い花を置くリンに、私は笑みを向けた。
『わたしも、わたしも!』
『これでいいのぉ?』
そう言ってリンと同じ花を置いたのは、羊のような角を生やした白いうさぎだ。
羊うさぎのスーとルー。二人は姉妹で、リンとも仲良しみたい。
本で絵を見たことがあるけど、実際に見るのは初めてだわ。
ぴょんぴょん跳ねる白うさぎの頭にある丸まった角が、なんとも愛らしい。
リンがスーの頭の上に乗っているのが可愛くて、思わず抱き締めたくなる。
『ありがとう、スー、ルー!』
『えへへ、褒められちゃった』
『ルーたち、いっぱい咲いてるところ知ってるんだから!』
私とはさっき知り合ったばかりなのに、優しい二羽はリンと一緒に私が頼んだ花を摘んできてくれた。
彼女たちについて行ってくれたシルヴァンも戻ってくる。シルヴァンの口にも、白い花が咥えられていた。ハルミルラの花だ。
本当は私も一緒に花を摘みに行くつもりだったんだけど、ある事情でここを離れることができなかった。
私はその花の上に手をかざして【獣薬調合】を使う。そして、出来上がった丸薬を大きな葉っぱの上に置く。
リンたちが沢山摘んできてくれたから、おにぎりぐらいの大きな丸薬ができたわ。
だって、相手が相手だから。これぐらいのサイズじゃないと効きそうもない。
――そして、その『相手』は今、私のことを睨んでいる。
『少し時間をくれというから何かと思えば、人間よ、これは一体なんのつもりだ? 気が済んだなら出ていけ。ワシは人間など信用しておらんと言ったはずだぞ!』
それを聞いてメルが彼に言った。
『バルロン様、ルナさんは特別です! 私の病気だって治してくれたんですから』
私たちの前に、どっしりとうずくまっているのは大きな大きなイノシシだ。
ジャイアントボアという魔獣で、本で読んだよりも遥かに大きい。私が元いた世界でいえば、小さなトラックぐらいはある。
魔獣というのは普通の獣とは少し違う、珍しい生き物なのだ。
魔獣の中でも長く生き特別な力を持った個体は、聖獣や神獣と呼ばれるようになることもある。
セイラン様みたいな神獣になれるのはよっぽどのことだけどね。
メルが紹介してくれたのが彼、ジャイアントボアのバルロン。この森の主だって聞いている。
せっかくメルやリンと知り合ったのだから、この森の動物たちにもっと会えないかしらってメルに相談したのよね。
するとメルに、それならまずは森を治める主のバルロン様に会って欲しいって言われて、ここに来たのだった。
その大きな体と牙で、外敵からこの森を守っているそうだ。口元にある、まるで象牙のような牙はとても立派。
メルは彼に私を紹介してくれたものの、バルロンは人間は嫌いみたいで、すぐに出ていけと言われてしまった。
仕方ないと思って立ち去ろうとしたんだけど、気になることがあって……
私はバルロンに尋ねる。
『怪我をされてますよね? それも酷い怪我を……さっきから立とうともしないもの。痛みを耐えているのでしょう?』
『黙れ! 余計なお世話だ! 人間の小娘め‼』
バルロンは巨大な体を揺らしながら立ち上がると、私を睨みつけた。
その迫力に、メルやリン、そしてスーたちも縮こまる。
しかし、すぐにバルロンの巨体は横倒しになった。
無理に立ったからだろう。立ち上がった時に見えた足は、やはり酷い傷を負っていた。
『ぐぬぅうう!』
『やっぱり……。私なら貴方を治せます。傷を塞いだ後、この薬を飲めば化膿止めになるの。出ていく前に治療だけはさせてください』
『……断る。これは人間どもに付けられた傷だ。それを人間のお前に治してもらうなどと』
バルロンの言葉に、私は首を傾げた。
『どういうこと? 魔獣は珍しい生き物だもの。獣人の王国エディファンでは保護されてるって聞いたわ』
すると、いつの間にか、傍の木の上に座っていた小さな白い猿――ジンが私に言った。
『なんだよ知らないのかい? 密猟者さ、ジャイアントボアの牙は高く売れるからな。バルロン様は強いから、今までは密猟者も手を出せなかったんだけど……』
『密猟者?』
私の問いに頷いて、ジンは続ける。
『俺は人間に飼われてたことがあるから、連中の言葉が分かるんだ。隣の国の王子様が新しい婚約者を迎えるんだってさ。そのために、一番立派なジャイアントボアの牙を取ってこいって命令したんだって。凄い大金が貰えるそうだぜ。俺が人間の言葉が分かるなんて知らずに、ベラベラと喋ってたよ』
シルヴァンが心底嫌そうな顔をして私に言った。
『おい……ルナ、その隣の国の王子ってもしかして』
『ええ、多分ジェラルドだわ。そんな馬鹿な命令をする隣国の王子なんて、あいつぐらいだし』
イザベルを婚約者にするかどうかは、もう私の知ったことじゃないけれど、一国の王子が密猟を指示するなんて!
ファリーンでも、ジャイアントボアの牙の取引は禁じられている。
それを使って作られた調度品は、裏では貴重品として取り扱われているって噂を聞いたことがある。でも、王太子が自ら法を破るなんて考えられない。
エディファンとファリーンは同盟国なのに、こんなことが分かったら両国の関係だって悪くなるに決まってる。
他国の王子が、エディファンでこんなことをさせていたなんて知ったら、獣人の王だって激怒するはず。
『ミルファンナの薬草とカリンナの実、これがあればなんとかなりそうだわ。シルヴァン、リン、「彼女」のところに戻りましょう』
『ああ。ルナ、早く僕の背中に乗って!』
『うん!』
シルヴァンに促され、私は彼の背中に飛び乗った。
しなやかなその体は、鞍も無いのに、馬よりもずっと乗り心地がいい。
流石、神獣の子供だ。
『ねえ、シルヴァン。私、重くない?』
『へへ、軽い軽い! ルナ一人なんて、へっちゃらさ!』
よかった。聞いてはみたものの、シルヴァンに真顔で『重いよルナ』とか言われたら少し落ち込みそうだったから。
シルヴァンの言葉に、リンは私の肩の上で少し頬を膨らます。
『一人じゃないもん、リンだっているんだから!』
『ふふ、そうよねリン』
『そうだったな。二人とも、しっかり掴まってろよ』
森の中を飛ぶように駆けていくシルヴァンに乗っていると、思わず声が出てしまう。
『うわぁ、凄い凄い!』
凄まじいスピードで流れていく景色は、ジェットコースターなんかよりもずっと迫力がある。
ちなみに、ここはもう故郷のファリーン王国じゃない。シルヴァンのおかげで昨日から、ファリーンの東にあるエディファンという国に入っていた。
エディファンは獣人の王国で、前から一度来てみたかったのよね。
ファリーンには、殆ど獣人はいないから、ぜひ会ってみたくて。
エディファンに入って街道沿いに行くと、人目もあってシルヴァンの背中に乗れないから、森の中を通っていた。そこで出会ったのが白耳リスのリン。
森にある泉のほとりで、シルヴァンと休憩をしていた時にリンと出会った。
木の枝の上でしょんぼりとして元気が無かったから声をかけたんだけど、最初リンはとても驚いていた。
それはそうよね、人間に声をかけられたんだから。
でも私たちはすぐに仲良くなって、リンからあることを頼まれたのだ。
それを果たすため、私たちはリンと会った泉のほとりに戻ってきていた。
『着いたぜ、ルナ』
『ええ。ありがとう、シルヴァン』
シルヴァンに礼を言うと、ふとリンの尻尾が私の頬に触れた。
驚いて見れば、リンの耳が不安げに垂れ下がっている。その手には、大事そうにしっかりとカリンナの実が握られていた。
『ねえ、ルナぁ……ママ治るかなぁ』
『リン、そんな顔しないで。私たちもできる限りのことをするから』
『うん! ありがとう、ルナ』
リンはそう言って大きな尻尾を振りながら、私たちの前に生えている一本の木を駆け上がっていく。
そして、その幹に空いた小さな穴の中に姿を消した。
あそこがリンの家なのだ。暫くすると、ぐったりとしたリスがリンと一緒にそこから姿を見せる。
リンの母親のメルだ。
『シルヴァン、お願い。さっきよりも元気が無いみたい、急がないと』
『ああ、分かった! ルナ』
シルヴァンは頷くと、軽やかに地面を蹴ってリンたちの傍の枝に立ち、二人を頭の上に乗せる。
そして、ふわりと私の横に着地した。
シルヴァンは、リンと母親のメルを柔らかい草の上にそっと下ろす。
『ママ、ママ! しっかりして』
『リン、泣かないの……私が死んだら、貴方は一人で生きていかなくてはいけないのよ』
『やだもん! そんなのやだぁ!』
まるで駄々っ子のようにそう言って、メルに体をすり寄せるリン。
メルの全身には赤い斑点ができている。これは白耳リスに特有の病気だ。
メルは苦しげに顔を歪ませながら、ルナに言う。
『カリンナの実でよくなると思って昨日も食べてみたのですけど……。ルナさんありがとう。自分の体のことは自分が一番分かるわ、もう長くないって』
『諦めないでメル、私が必ず治すわ!』
この病気の治療にはカリンナの実が効く。メルたちも本能的にそれを知っているのだろう。
だが、場合によっては進行が早くて、とてもカリンナの実だけでは治らないことがある。
『ルナ』
シルヴァンが崖で採ったミルファンナの薬草を咥えて私に渡す。
『ありがとう、シルヴァン』
この薬草はカリンナの実の効能を強めてくれる。
シルヴァンは真剣な表情で私に言った。
『普通に薬を作っている暇は無いな、ルナ』
『そうね、シルヴァン。それじゃあ間に合わない。【E・G・K】の力を使うわよ!』
私は、シルヴァンが差し出したミルファンナの薬草とカリンナの実を手に、静かに口を開いた。
「E・G・K、レンジャーモード発動」
私がそう言うと、目の前に様々な文字が並んだ半透明のパネルが現れた。よくゲームで見る、ステータス画面のようなものだ。
そこにはこう記されている。
名前:ルナ・ロファリエル
種族:人間
職業:獣の聖女
E・G・K:レンジャーモード(レベル75)
力:315
体力:327
魔力:270
知恵:570
器用さ:472
素早さ:527
運:217
物理攻撃スキル:弓技、ナイフ技
魔法:なし
特技:【探索】【索敵】【罠解除】【生薬調合】
ユニークスキル:【E・G・K】【獣言語理解】
加護:【神獣に愛された者】
称号:【獣の治癒者】
――私には、動物と話せること以外にも不思議な力がある。
それは、私が元の世界でハマっていた『E・G・K』の、さまざまなキャラクターの力を使うことができる能力だ。
私は今、そのレンジャーの力を選択している。
『職業』の下に書かれている『E・G・K:レンジャーモード』というのがその証。
あのMMOゲームの中では、弓やナイフを扱うのが得意な職業だ。でも、私が今この職業を選んだのはそれが理由じゃない。
レンジャーの特技の一つ、薬草などを素材にして薬を作る力――【生薬調合】を使うためだ。
ちなみに、私が持っているそれ以外の力もステータス画面に反映されている。
【獣言語理解】は文字どおり動物たちの言葉を理解できる力、【神獣に愛された者】はセイラン様に加護を受けている証である。
【獣の治癒者】は動物たちを治癒する力を高めてくれる、元獣医の私にはもってこいの称号だ。
私は特技の中の一つ、【生薬調合】を使うため叫ぶ。
「特技、【生薬調合】を選択!」
私の言葉に反応するように、先程現れた半透明のモニターに文字が映し出される。
〈【生薬調合】を選択しました。称号【獣の治癒者】の力でスキルが変化します。構いませんか?〉
「ええ、構わないわ。やって頂戴!」
〈分かりました。特技【生薬調合】が変化、【獣薬調合】が発動。生薬を調合し、獣に対しての特効効果を付与します〉
私は、ミルファンナの薬草とカリンナの実の上に右手をかざした。すると、地面の上に黄金の魔法陣が描かれていく。
「いくわよ! 【獣薬調合】‼」
黄金の光が薬草とカリンナの実を包み込む。リンはそれを見て驚いたように目を見開いた。
『きゃ! ルナ、なんなのこれ⁉』
光が消えると、薬草と木の実は無くなり、私の右手には淡い光を放つ小さな丸薬だけが載っている。
私はそれをリンに渡した。
『リン、これをメルに飲ませてあげて』
『う、うん。ルナ』
リンはまだ目を白黒させていたけど、母親のメルに薬を飲ませる。
薬を口に含むと、弱りきったメルの喉が弱々しく動いた。丸薬から放たれる黄金の光が、ゆっくりとメルを癒していく。
『ママ! ママ!』
心配そうなリンの頭をシルヴァンがそっと舐めている。
私はシルヴァンの体をギュッと抱き締めて、メルの回復を祈った。
みんなでメルの様子を固唾を呑んで見守っていると、淡い光が消えていくのと同時に、メルの体の赤い斑点が消える。それを見てリンが叫んだ。
『ルナ!』
私はメルのふさふさの体毛を触りながら、地肌からその斑点が無くなったのを確認した。
『ええ、もう大丈夫よ!』
メルは自分の体を驚いたように眺めた後、涙を流して私を見つめた。
『ああ、まさかこんな……ありがとうございます! ありがとうございます‼』
体をすり寄せ合うメルとリン。
そして、リンは嬉しくて仕方ないといった様子で私の周りを走りまわる。
『ルナありがとう! 大好き‼』
そう言って私の体を駆け上がると、私に頬ずりをする。
リンの最大の感謝の気持ちだろう。私も嬉しくて、リンの頭を優しく撫でた。
メルは私たちに何度も頭を下げて言った。
『ルナさん、貴方は私たちにとって女神様です! 本当にありがとうございます。このお礼はきっと致しますわ』
『女神様だなんてオーバーよ、メル』
私の言葉にシルヴァンが頷く。
『そうそう、女神にしてはルナはお転婆だもんな』
『もう! シルヴァン、それどういう意味?』
『へへ、だってそうだろ?』
私が頬を膨らますと、メルとリンは顔を見合わせて笑う。
それを見て、私とシルヴァンも思わずつられて声を上げて笑った。
とにかくよかったわ、手遅れにならなくて。薬草が見つかるのがもう少し遅かったら、どうなってたか分からない。
傷を塞いだりするだけなら『E・G・K』のヒーラー系の職業にモードチェンジしたらなんとかなるけれど、病気はそうはいかないのだ。
ミルファンナの薬草とカリンナの実が無ければ、【獣薬調合】だって使えなかった。
『薬草とカリンナの実を探してくれた、シルヴァンとリンのお手柄ね!』
メルはそれを聞いて、二人にお礼を言った。
『シルヴァンさん、ありがとうございます。リン、ありがとう』
『えへへ、だってママに元気になって欲しかったんだもん!』
『気にするなって。僕も昔、ルナに助けてもらったことがあるんだからさ』
シルヴァンの言葉に思わず昔を思い出す。あの時は大変だった。
『E・G・K』のヒーラーの力で取りあえず傷は塞いだものの、感染症を引き起こし、酷く化膿していたのだ。
両親に頼んで必要な薬草を集めて薬を作り、弱ったシルヴァンに少しずつ飲ませたのよね。
メルよりも酷い状態だったから、元気になるまで数日つきっきりだった。
私が見つけるのがもう少し遅かったら、助からなかったかもしれない。
リンが私を見つめて首を傾げた。
『ルナ、どうしたの? 目が赤いよ』
『ふふ、ごめんねリン。なんでもないわ、シルヴァンと出会った時のことを少し思い出してたの』
やだ、シルヴァンが死んじゃってたらって思ったら涙が出てきた。
シルヴァンは私の家族だもの。いないなんて想像もできない。
そんな私の顔を見つめて、シルヴァンは照れたように言った。
『目が覚めてさ、ちっちゃなルナが涙を一杯浮かべて僕を見てたんだ。そしてそっと抱き締めてくれて……なんだかその時、ルナが小さな女神様に思えたんだ』
私はシルヴァンをギュッと抱き締める。
『あら、こんなお転婆な女神はいないんでしょ?』
私がシルヴァンの顔に頬を寄せると、彼は照れているのかツンとソッポを向く。
このツンデレさが、いつも私の心を鷲掴みにするのだ。
私はシルヴァンのもふもふした毛並みを心ゆくまで堪能する。
すると、リンが何かを思い出したように私に言った。
『そうだルナ! ルナに見せたいものがあるの』
『私に見せたいもの? なあにリン』
『待ってて! 取ってくるから』
そう言って、リンは彼女たちの家がある木に登っていく。そして巣穴から小さな光る玉を持ってこちらに下りてきた。
それから愛らしい顔で私を見上げると、それを小さな両手で私に差し出した。
『ルナ! これあげる、リンの宝物なの』
それは、まるで宝石みたいに綺麗な石だった。光を浴びて虹色に輝いている。
『あら、綺麗ね。でもいいの? リンの宝物なんでしょ』
『えへへ、いいの。ルナに持っていて欲しいんだもん!』
もしかすると、誰かが昔アクセサリーに使っていたものかもしれない。
でも、宝石にしては見たこともない不思議な色だ。石は綺麗に磨かれ、そのふちには紐を通す小さな穴が開いている。
『不思議な石ね。リン、どこで見つけたの?』
『えっとね、リンがこの泉のほとりで見つけたの。最初は泥だらけだったのよ。でも、ちょっとだけ綺麗なところが見えてリンが一生懸命磨いたの』
誰かがここに捨てたのかな? こんなに綺麗なのに勿体ない。
『へえ、そうなのね。リンが磨いたのね』
『うん、どんどん綺麗になるのが楽しくて!』
こちらをキラキラとした目で見上げるリン。自分の宝物に、私が興味を持ったことが嬉しいみたい。
リンの宝物を貰うのは少し気が引けるけど、断ったらかえってがっかりするよね。せっかくの贈り物だもの。
私はリンにお礼を言った。
『ありがとうリン。大事にするわ!』
『うん! ルナ!』
私の周りを嬉しそうに駆けまわるリン。
近くの町に行ったら、紐を買ってこれに通してみよう。ネックレスにしたら素敵かも。
胸を躍らせつつ石を眺めていると、メルは私に乞うように言った。
『ルナさん、私にもお礼をさせてください。私に何かできることはありませんか?』
『いいのよメル。気にしないで』
私がそう言うと、メルはしょんぼりする。
『命を救って頂いたんです。何もお礼ができないのでは申し訳なくて』
そんなメルを見つめながら私は答えた。
『分かったわメル。じゃあ、一つお願いしたいことがあるの』
『なんですか、ルナさん! なんでも言ってください』
私はメルに願い事を言うと、メルは頷きながらそれを聞く。
『どうかしら、お願いできる?』
『はい! それでしたら、うってつけの相手を知っていますわ。私に任せてください』
◇ ◇ ◇
あの後、私はメルに案内されてとある場所を訪ねていた。
私が切り株の上に腰を下ろしていると、膝の上にリンが駆け上ってくる。
『ねえ、ルナ。持ってきたよ!』
『ふふ、ありがとうリン』
私の膝に小さな白い花を置くリンに、私は笑みを向けた。
『わたしも、わたしも!』
『これでいいのぉ?』
そう言ってリンと同じ花を置いたのは、羊のような角を生やした白いうさぎだ。
羊うさぎのスーとルー。二人は姉妹で、リンとも仲良しみたい。
本で絵を見たことがあるけど、実際に見るのは初めてだわ。
ぴょんぴょん跳ねる白うさぎの頭にある丸まった角が、なんとも愛らしい。
リンがスーの頭の上に乗っているのが可愛くて、思わず抱き締めたくなる。
『ありがとう、スー、ルー!』
『えへへ、褒められちゃった』
『ルーたち、いっぱい咲いてるところ知ってるんだから!』
私とはさっき知り合ったばかりなのに、優しい二羽はリンと一緒に私が頼んだ花を摘んできてくれた。
彼女たちについて行ってくれたシルヴァンも戻ってくる。シルヴァンの口にも、白い花が咥えられていた。ハルミルラの花だ。
本当は私も一緒に花を摘みに行くつもりだったんだけど、ある事情でここを離れることができなかった。
私はその花の上に手をかざして【獣薬調合】を使う。そして、出来上がった丸薬を大きな葉っぱの上に置く。
リンたちが沢山摘んできてくれたから、おにぎりぐらいの大きな丸薬ができたわ。
だって、相手が相手だから。これぐらいのサイズじゃないと効きそうもない。
――そして、その『相手』は今、私のことを睨んでいる。
『少し時間をくれというから何かと思えば、人間よ、これは一体なんのつもりだ? 気が済んだなら出ていけ。ワシは人間など信用しておらんと言ったはずだぞ!』
それを聞いてメルが彼に言った。
『バルロン様、ルナさんは特別です! 私の病気だって治してくれたんですから』
私たちの前に、どっしりとうずくまっているのは大きな大きなイノシシだ。
ジャイアントボアという魔獣で、本で読んだよりも遥かに大きい。私が元いた世界でいえば、小さなトラックぐらいはある。
魔獣というのは普通の獣とは少し違う、珍しい生き物なのだ。
魔獣の中でも長く生き特別な力を持った個体は、聖獣や神獣と呼ばれるようになることもある。
セイラン様みたいな神獣になれるのはよっぽどのことだけどね。
メルが紹介してくれたのが彼、ジャイアントボアのバルロン。この森の主だって聞いている。
せっかくメルやリンと知り合ったのだから、この森の動物たちにもっと会えないかしらってメルに相談したのよね。
するとメルに、それならまずは森を治める主のバルロン様に会って欲しいって言われて、ここに来たのだった。
その大きな体と牙で、外敵からこの森を守っているそうだ。口元にある、まるで象牙のような牙はとても立派。
メルは彼に私を紹介してくれたものの、バルロンは人間は嫌いみたいで、すぐに出ていけと言われてしまった。
仕方ないと思って立ち去ろうとしたんだけど、気になることがあって……
私はバルロンに尋ねる。
『怪我をされてますよね? それも酷い怪我を……さっきから立とうともしないもの。痛みを耐えているのでしょう?』
『黙れ! 余計なお世話だ! 人間の小娘め‼』
バルロンは巨大な体を揺らしながら立ち上がると、私を睨みつけた。
その迫力に、メルやリン、そしてスーたちも縮こまる。
しかし、すぐにバルロンの巨体は横倒しになった。
無理に立ったからだろう。立ち上がった時に見えた足は、やはり酷い傷を負っていた。
『ぐぬぅうう!』
『やっぱり……。私なら貴方を治せます。傷を塞いだ後、この薬を飲めば化膿止めになるの。出ていく前に治療だけはさせてください』
『……断る。これは人間どもに付けられた傷だ。それを人間のお前に治してもらうなどと』
バルロンの言葉に、私は首を傾げた。
『どういうこと? 魔獣は珍しい生き物だもの。獣人の王国エディファンでは保護されてるって聞いたわ』
すると、いつの間にか、傍の木の上に座っていた小さな白い猿――ジンが私に言った。
『なんだよ知らないのかい? 密猟者さ、ジャイアントボアの牙は高く売れるからな。バルロン様は強いから、今までは密猟者も手を出せなかったんだけど……』
『密猟者?』
私の問いに頷いて、ジンは続ける。
『俺は人間に飼われてたことがあるから、連中の言葉が分かるんだ。隣の国の王子様が新しい婚約者を迎えるんだってさ。そのために、一番立派なジャイアントボアの牙を取ってこいって命令したんだって。凄い大金が貰えるそうだぜ。俺が人間の言葉が分かるなんて知らずに、ベラベラと喋ってたよ』
シルヴァンが心底嫌そうな顔をして私に言った。
『おい……ルナ、その隣の国の王子ってもしかして』
『ええ、多分ジェラルドだわ。そんな馬鹿な命令をする隣国の王子なんて、あいつぐらいだし』
イザベルを婚約者にするかどうかは、もう私の知ったことじゃないけれど、一国の王子が密猟を指示するなんて!
ファリーンでも、ジャイアントボアの牙の取引は禁じられている。
それを使って作られた調度品は、裏では貴重品として取り扱われているって噂を聞いたことがある。でも、王太子が自ら法を破るなんて考えられない。
エディファンとファリーンは同盟国なのに、こんなことが分かったら両国の関係だって悪くなるに決まってる。
他国の王子が、エディファンでこんなことをさせていたなんて知ったら、獣人の王だって激怒するはず。
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