想告 ー オモツゲ ー

keyokun

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【第四話】花火

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 時刻は12時を過ぎる頃、蒼井達は夏祭りの会場へ向かう。辺りを見渡すと、浴衣を着た人や家族連れの人達が足を運ばせている。

斗貴「まだ着かないんですかね~…、もうヘトヘトです 
        よぉ…。」

蒼井「あともう少しなんだから、頑張れよ…!」

優美「あ!、屋台のいい匂いがしてきました!」

 蒼井は、皆が夏祭りに胸を踊らせているのを半ば呆れ顔で見ていた。しかし、一方で楓の表情はどこか暗いままだった。あの時の蒼井のように。
 皆が束になって、歩いているのに対し、楓は蒼井の背中に身を潜めるようにしている。

蒼井(前の俺なら、この時どうして欲しかっただろう
      か。)

 背中から伝わる楓の不透明な感情を以前の自分に問わせながら、ゆっくりと彼女を見る。
 目が合った。偶然だったのか、それとも。
蒼井の心拍数がみるみる上がっていく。その拍子なのか、楓も咄嗟にうつむく。
 やがて、辺りは人集りが増えていき、太鼓や笛の音色が徐々に大きくなっていく。
 すれ違う人々の手には、食べかけのチョコバナナや、色とりどりの大きな綿アメを持っている。
そんな中、蒼井の目にはあの時の家族連れを目の辺りにした。
 蒼井の横で以前の時同様に、幼い子供が破れた透明のビニール袋を持ちながら泣き叫んでいた。
濡れた地面には、足掻こうとする金魚が散乱している。

子「えーん!、金魚さんがかわいそう…!」

親「ほら!、もう行くわよ~。また今度にしようね。」

 子供は、涙を拭いながら、母親のもとへ駆け寄っていった。再度、地面に目を向けると、金魚は既に動かなくなっていた。
 それを見つめる蒼井。そっと目を背けると、楓が同じようにそれを見つめていた。
    長かった道なりを歩き終わる蒼井達。目の前には賑やかな景色が広がっていた。やぐらの上には勢い良く太鼓や笛の音色でより一層場を盛り上げている人々が見える。

斗貴「うわぁ!、ちょっと買ってきまーす!」

蘭「あっ!、ちょっとぉー!斗貴ー!」

    空腹を限界まで我慢させた斗貴は一目散に屋台の方へ駆け出した。蘭と凛も後を追うように斗貴の背中について行く。

優美「あっ、行っちゃいましたね…。」

蒼井「そぉ…だねぇ。あの3人は昔からあんな感じだか
        ら…!。」

優美「まぁ、ここの3人で屋台を見て周りましょう!」

蒼井「そうだねぇ~。」

    3人が突拍子もない行動をとった事で2組に別れた為、ゆっくりと屋台を見て周ることにした蒼井達の3名。

蒼井「なんか…ごめんね…。 …?」

優美「…楓ちゃん…?」

    優美と蒼井が楓の方を見ると、そんなことには目もくれない様子で、祭りの景色を呆然と見渡していた。
まるで、今まで祭りを体験したことの無いかのように。

蒼井「楓ちゃん…?、大丈夫?」

 楓はゆっくりと蒼井の方を向く。

楓「はい…。私、こういうの今まで見たことがなく
    て…、見入っちゃってて。」

蒼井「あっ、あぁそうだったんだ…!」

 蒼井は楓の返答に少し疑問を抱くも、すぐにかき消し、祭りを楽しむ事にした。
    屋台を見て周り、じっくりと楽しむ3人。優美の親しみやすい性格のおかげで、楓も徐々に打ち解け合えていく。
 屋台を楽しんでいる中、楓はあるものを見て立ち止まる。

楓「あ…、さっき子供が持ってた金魚だ。」

蒼井「そうだね、これは金魚すくいって言って、あそこ
        に置いてある丸いやつを使って、金魚を掬うん
        だ。」

優美「楓ちゃんも、一緒にやってみよぉ!。」

楓「…うん。」

蒼井「じゃ、僕もやろうかなぁ。」
 
    屋台のおじさんにお金を手渡し、蒼井が先陣を切って金魚を掬おうとするも、呆気なく紙を破いてしまった。

蒼井「えぇ…、もう1回だ…!」

 蒼井は徐々にムキになり、何回も挑戦するも、1匹も掬えずに財布の中身だけが減っていった。
そんな中、隣では優美が楓に金魚すくいのやり方を教えていた。

優美「まずは、この道具を使って破かないようにゆっく
        り入れていって、取りたい金魚をこうやって…!、」

楓「わぁ、1匹掬えた…、すごいね…!」

優美「はい!、楓ちゃんもやってみよ!」

楓「うん…!」

 隣で2人が楽しそうにしている様子を、羨望の眼差しで見つめる蒼井。気づけば、辺りは提灯の明かりが灯される頃になっていた。

蒼井(今、どのくらい時間が経ったんだろう。あの3人は
      どこにいるんだろう。)

優美「凄いね楓ちゃん!、とても上手だよ!」

楓「えへへ、そうかな…?。」

優美「こんなに沢山取れてるじゃん!」

屋台の人「お嬢ちゃんなかなか良い腕してるなぁ。」

楓「あっ、ありがとうございます…!」

 2人の楽しむ様子を見ながら、蒼井は不本意にも悲観的な未来を想像してしまった。

蒼井(こんな楽しい日々も、いつか終わってしまうのか
      な。もしも明日、全てが無くなるって分かった
           ら、僕はきっと…。
          それならいっその事、このまま時間が止まればい
      いのにな…。)

 蒼井は目頭が熱くなるのを感じ、慌てて金魚の方へ視線を逸らし、感情を落ち着かせていると、楓が気遣わしげな様子で声をかけてきた。

楓「先輩…?」

優美「なんだかぼーっとしてましたよ?」

斗貴「大丈夫ですかぁー、せんぱーい?」

 唐突に真後ろから聞こえた斗貴の声に驚き、後ろを振り返ると、こちらをじっと見つめる斗貴の顔が、目の前にあった。
 蒼井は情けない声で驚いた。蒼井の恥ずかしさに拍車をかけるように、2人がそれを見て込み上げる笑いを抑えていた。

蒼井「ちょおま…!、いたならいるって…!。」

斗貴「まさかそんなにびっくりすると思ってなかったで
        すよ…!アハハ!」

蒼井「斗貴もびっくりしてたじゃねぇーか…。俺が驚い
        たのを見てよぉ…。」

斗貴「まさかァ…!。」

蒼井「危うく心臓止まって死ぬかと思ったわ…!。」

    蒼井が羞恥心で顔を赤らめていると、人混みの中から蘭と凛がこちら側に向かってきていた。

蘭「あっ、やっと見つかったぁ…、全くあんだけ連絡し
    たのに全然見てなかったでしょー!」

蒼井「あっ、ごめん…!、気づかなかったわ…!」

凛「斗貴もいたんだなぁ。」

 蒼井達に歩み寄る蘭と凛。すると、2人の背後から夜空へ上がっていく眩い光が見える。同時に周りの人集りがざわつき始め、夜空に向かう光を目で追っていた。
 そして、天高く舞い上がった光は、黒い空を一瞬にして満開な花を咲かせた。その瞬間を楓だけが目撃する。

楓「あっあれ、なにかが上がってる…。」

 その花とても大きく、金魚の入ったプールの水面にも色鮮やな空を映し出していた。
数秒遅れにやってくる破裂音に驚き、皆が一斉に振り返り花火を見つめる。
 その時の空間を収めようと、皆がスマホを取り出し、カメラに収めようとしていた。

蘭「ちょっと!凛の頭が被って見えないよ!」

凛「えぇ、ずれれば良いじゃんか…。」

優美「わぁ!、すごく綺麗ですね!」

斗貴「すんげぇ~!」

 皆が花火に夢中になっているのを1歩後ろで見ていた蒼井も、思い出に残そうと、ポケットからスマホを取り出す際、さり気なく楓の方に視線を向ける。

 彼女は静かに涙を流していた。透き通る涙に鮮やかな花火が浮かび上がる。
しかし、楓は泣いている事に気づいていないかのように、ただその光景を呆然と眺めていた。
 蒼井はその時の楓が何故泣いていたのかを理解する事が出来なかった。
美しい花火には目もくれずに、蒼井はただ涙を流す楓を見つめていた。
 
 第四話【花火】―終了―
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