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【第八話】過去
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僕は高校1年生の時、イジメにあった。
クラスには幼馴染の咲もいた。でも、居ただけだった。
皆は僕がイジメられているのを見て見ぬふりをしていた。それも僕は知っていた。
でも、不思議と周囲の行為に対して憎しみや、怒りなどは湧かなかった。きっと、自分の精神は遠に限界を越してしまったのだろう。
誰も助けてなどくれやしない、誰も自分の事なんか必要としてない。誰も僕を理解してくれやしない。
家に帰る度に、やり場の無い感情を親に無情にも吐き散らかしては迷惑をかける始末。
当然、罪悪感はあった。そのせいで余計に心が痛んだ。
思い出したくもない、掘り返したくもない内容を、親は親身になって心を開かせようとしてくる。
作ってくれるご飯も要らないと、材料も親の真心も無駄にしてきた。
部屋に篭ってはゲームをしてる毎日。薄暗い部屋の中、太陽の光はカーテンで遮断していた。
僕の生活はまるで、地面にこびりついたガムに過ぎない。いや、それ以外なのかも知れない。
変わらないといけない、変えていかなければいけないと分かっていても、行動に移そうとしない毎日。
変わろうとしない自分の行動を、イジメをされている事実を言い訳している自分がいた。
でも、その考え方はきっと真逆で、変わろうと努力していないから、イジメを受ける羽目になっていたんだと。
こんなに単純で明確な答えに、自分の行いから改めて気付かされた。
そして、今でもその古傷は僕の思い出に深く刻まれている。今までの自分の行いから目を逸らし続け、地面に埋めては棚の上に隠す毎日。
そのツケが今、この結果を生んだ。通信校で出会った友達も失った。
立場が違えば僕も加害者だった。見えない環境で苦しんでいる人々がいると分かっていながら、その事に触れなかったり、本当は、手を差し伸べるべきなのに、僕は見て見ぬふりをした。
僕は、今でも何一つ変わってなどいなかったんだと。
-1時間前-
蒼井と咲は、フードコートへ座り、過去の話を振り返る。
咲「やぁ…!、久しぶり…だね…!」
蒼井「うん…。そうだね。」
咲「……。」
蒼井「……。」
2人の間に、気まずい空気が流れる。
咲「あの時は…ごめんね。」
蒼井「ううん、もう良いんだ…。」
咲「怒ってるよね…。ずっと私…、蒼井くんに謝ろ…、」
蒼井「別に、怒ってなんかいないんだ。」
咲「そっ…そっか、なら…良かった。」
蒼井「咲ちゃんは…最近元気にしてる…?」
蒼井は重たくなった場を和らげようと、咲に問いかける。しかし、蒼井が思っていない返答を口にする。
咲「まぁ…でも、友達と縁切っちゃって…。」
蒼井「えっ…、そうなんだ。」
咲「まぁ、元はと言えば私が悪いんだけどね…。」
蒼井「あんなに、仲良くしてたのに…?」
咲「私さ、本当は一人の方が好きで、その…友達の遊び
とかを断ってたら、付き合い悪いとかで…。」
蒼井は、咲が今の自分のように見えた。
蒼井「あのさ…!、」
咲「…どうしたの…?」
蒼井「…今からでも…、謝ってみたら…?」
蒼井の突拍子もないアドバイスにたじろぐ咲。
しかし、その助言に熱量がこもっているのが、蒼井の瞳から感じ取れる。
だが、蒼井は分かっていた。自分自身の説得力のなさに。咲に向けたはずの声かけがそのまま自分に跳ね返ってくる。その衝撃に蒼井は反射的に謝る。
蒼井「あっ…なんかごめん…。」
咲「平気だよ…!、ありがとね。」
蒼井「あの時…、拾ってくれてありがと…。」
咲「あの時…?」
蒼井「あ、いやなんでもないよ…!」
蒼井「あぁ…いや!、きっと大丈夫だよ!」
咲「蒼井くんって…、昔から優しいよね。私、ダメ元で
謝ってみる…!」
蒼井「うん…、そうだね…!。」
咲「蒼井くんに相談して良かったよ!。ありがとう
ね。」
蒼井は、咲の後押しをした後、駅のホームまで見送った。彼女の前向きな後ろ姿を、ただ眺めていた。
蒼井(また言われた…、優しくなんかないのに…。)
その後、蒼井は楓のお見舞いへ向かった。
蒼井はいつもの様に、楓の病室へ入ると、そこには楓の母親が付き添いをしていた。
蒼井「あっ…、どうも…!。」
楓「あっ、蒼井先輩…!、お母さん、この人が蒼井先輩
だよ。」
母「どうも…!、楓の母です。娘から話は聞いててね、
お見舞いしてくれてありがとうね。」
蒼井「あっ!、いえいえ…!」
それから、たわいもない話をすると、楓の母親は、自宅へ戻る為、退出していった。2人っきりになると、楓が口を開く。
楓「蒼井先輩…なんだか、元気なさそうですね…。」
蒼井「なんで…分かるの…?」
楓「なんか、そんな気がして…。」
蒼井「ちょっとね…まぁ、なんでもないよ…!」
楓「来年のクリスマスは…皆と遊べたらな…。」
楓から出た言葉に冷や汗をかく蒼井は、静かに唾を飲み込みながら平然を装う。
蒼井「そっそうだねぇ~…!」
楓「でも、先輩が皆と楽しんでいるのも見たいで
す…!」
蒼井「まっ…、なら今年のクリスマス…、皆の写真とか
動画、こっそり送るよ…!」
楓を喜ばせようと、突拍子もない宣言をしてしまった事に、後悔する蒼井。窓の外を見ると、木の葉が宙を舞っている。もうすぐ、秋が終わりを迎えようとしていた。
次の日になり、蒼井は神妙な面持ちで学校へ向かっていた。その足取りは重く、どこかおぼつかない様子だったが、真っ直ぐ着実に通信校へ歩み寄っていた。
玄関の扉を開け、折り返し階段を登っていく。1段登る度に、心臓の鼓動が早くなる。不安と緊張で10月だと言うのに、真夏のように汗が流れる。
登りきると、そこには友人達がいつもの様に昼休憩のトランプを楽しそうに遊ぶ姿が目に映った。
同時に、皆と視線が合う。その瞬間、蒼井は咄嗟に背を向け、階段をかけ降りようと1段目に足をかけた時、友人達が蒼井に勢いよく駆け寄る。
斗貴「先輩ー!、待ってましたよー!」
優美「先輩いなくて、寂しかったですよ…!」
蘭「もぉ…、来ないからどうしたのかと思ったよ…!」
凛「お久だなぁ~。トランプ混ざるかぁ…?」
蒼井は、想像とかけ離れた対応をされた事に、驚きを隠せず、闇雲にあの時の出来事を話し出す。
蒼井「えっ…、どうして…?」
蘭「あ~…!、まだ引きずってたの…?そんなの全然気
にしてないよ~!」
優美「皆さん、蒼井先輩が戻ってくるのを待ち遠しくし
てましたよ!」
斗貴「クリスマス、どーなっちゃうかと思ったァ…!」
凛「考え込み過ぎだぞ~。蒼井は。」
蘭「はいはい!、来たんだから、トランプ混ざって貰う
からね~!」
今まで、人前で泣く事を拒んでいた蒼井の瞳から、初めて素直な涙が溢れ出していた。
人前で泣いてもカッコ悪くないということを仲直りと共に実感できた日だった。
―2021年12月25日(土曜日)―
季節は冬となり、クリスマスの日である。
冬休みに入って間もない頃、蒼井は一人、楓の病院先へ向かっていた。約2ヶ月の間、楓からの返答が返って来ないままだった。蒼井は、クリスマスプレゼントが入った手提げの紙袋を持ち、楓の元へ足を運んでいた。
そして、病院に着くと、受付の人にいつものように、お見舞いに来たことを伝えると、受付の人から、榊原 楓さんは先週お亡くなりになったという報告を受ける。
第八話【過去】-終了-
クラスには幼馴染の咲もいた。でも、居ただけだった。
皆は僕がイジメられているのを見て見ぬふりをしていた。それも僕は知っていた。
でも、不思議と周囲の行為に対して憎しみや、怒りなどは湧かなかった。きっと、自分の精神は遠に限界を越してしまったのだろう。
誰も助けてなどくれやしない、誰も自分の事なんか必要としてない。誰も僕を理解してくれやしない。
家に帰る度に、やり場の無い感情を親に無情にも吐き散らかしては迷惑をかける始末。
当然、罪悪感はあった。そのせいで余計に心が痛んだ。
思い出したくもない、掘り返したくもない内容を、親は親身になって心を開かせようとしてくる。
作ってくれるご飯も要らないと、材料も親の真心も無駄にしてきた。
部屋に篭ってはゲームをしてる毎日。薄暗い部屋の中、太陽の光はカーテンで遮断していた。
僕の生活はまるで、地面にこびりついたガムに過ぎない。いや、それ以外なのかも知れない。
変わらないといけない、変えていかなければいけないと分かっていても、行動に移そうとしない毎日。
変わろうとしない自分の行動を、イジメをされている事実を言い訳している自分がいた。
でも、その考え方はきっと真逆で、変わろうと努力していないから、イジメを受ける羽目になっていたんだと。
こんなに単純で明確な答えに、自分の行いから改めて気付かされた。
そして、今でもその古傷は僕の思い出に深く刻まれている。今までの自分の行いから目を逸らし続け、地面に埋めては棚の上に隠す毎日。
そのツケが今、この結果を生んだ。通信校で出会った友達も失った。
立場が違えば僕も加害者だった。見えない環境で苦しんでいる人々がいると分かっていながら、その事に触れなかったり、本当は、手を差し伸べるべきなのに、僕は見て見ぬふりをした。
僕は、今でも何一つ変わってなどいなかったんだと。
-1時間前-
蒼井と咲は、フードコートへ座り、過去の話を振り返る。
咲「やぁ…!、久しぶり…だね…!」
蒼井「うん…。そうだね。」
咲「……。」
蒼井「……。」
2人の間に、気まずい空気が流れる。
咲「あの時は…ごめんね。」
蒼井「ううん、もう良いんだ…。」
咲「怒ってるよね…。ずっと私…、蒼井くんに謝ろ…、」
蒼井「別に、怒ってなんかいないんだ。」
咲「そっ…そっか、なら…良かった。」
蒼井「咲ちゃんは…最近元気にしてる…?」
蒼井は重たくなった場を和らげようと、咲に問いかける。しかし、蒼井が思っていない返答を口にする。
咲「まぁ…でも、友達と縁切っちゃって…。」
蒼井「えっ…、そうなんだ。」
咲「まぁ、元はと言えば私が悪いんだけどね…。」
蒼井「あんなに、仲良くしてたのに…?」
咲「私さ、本当は一人の方が好きで、その…友達の遊び
とかを断ってたら、付き合い悪いとかで…。」
蒼井は、咲が今の自分のように見えた。
蒼井「あのさ…!、」
咲「…どうしたの…?」
蒼井「…今からでも…、謝ってみたら…?」
蒼井の突拍子もないアドバイスにたじろぐ咲。
しかし、その助言に熱量がこもっているのが、蒼井の瞳から感じ取れる。
だが、蒼井は分かっていた。自分自身の説得力のなさに。咲に向けたはずの声かけがそのまま自分に跳ね返ってくる。その衝撃に蒼井は反射的に謝る。
蒼井「あっ…なんかごめん…。」
咲「平気だよ…!、ありがとね。」
蒼井「あの時…、拾ってくれてありがと…。」
咲「あの時…?」
蒼井「あ、いやなんでもないよ…!」
蒼井「あぁ…いや!、きっと大丈夫だよ!」
咲「蒼井くんって…、昔から優しいよね。私、ダメ元で
謝ってみる…!」
蒼井「うん…、そうだね…!。」
咲「蒼井くんに相談して良かったよ!。ありがとう
ね。」
蒼井は、咲の後押しをした後、駅のホームまで見送った。彼女の前向きな後ろ姿を、ただ眺めていた。
蒼井(また言われた…、優しくなんかないのに…。)
その後、蒼井は楓のお見舞いへ向かった。
蒼井はいつもの様に、楓の病室へ入ると、そこには楓の母親が付き添いをしていた。
蒼井「あっ…、どうも…!。」
楓「あっ、蒼井先輩…!、お母さん、この人が蒼井先輩
だよ。」
母「どうも…!、楓の母です。娘から話は聞いててね、
お見舞いしてくれてありがとうね。」
蒼井「あっ!、いえいえ…!」
それから、たわいもない話をすると、楓の母親は、自宅へ戻る為、退出していった。2人っきりになると、楓が口を開く。
楓「蒼井先輩…なんだか、元気なさそうですね…。」
蒼井「なんで…分かるの…?」
楓「なんか、そんな気がして…。」
蒼井「ちょっとね…まぁ、なんでもないよ…!」
楓「来年のクリスマスは…皆と遊べたらな…。」
楓から出た言葉に冷や汗をかく蒼井は、静かに唾を飲み込みながら平然を装う。
蒼井「そっそうだねぇ~…!」
楓「でも、先輩が皆と楽しんでいるのも見たいで
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蒼井「まっ…、なら今年のクリスマス…、皆の写真とか
動画、こっそり送るよ…!」
楓を喜ばせようと、突拍子もない宣言をしてしまった事に、後悔する蒼井。窓の外を見ると、木の葉が宙を舞っている。もうすぐ、秋が終わりを迎えようとしていた。
次の日になり、蒼井は神妙な面持ちで学校へ向かっていた。その足取りは重く、どこかおぼつかない様子だったが、真っ直ぐ着実に通信校へ歩み寄っていた。
玄関の扉を開け、折り返し階段を登っていく。1段登る度に、心臓の鼓動が早くなる。不安と緊張で10月だと言うのに、真夏のように汗が流れる。
登りきると、そこには友人達がいつもの様に昼休憩のトランプを楽しそうに遊ぶ姿が目に映った。
同時に、皆と視線が合う。その瞬間、蒼井は咄嗟に背を向け、階段をかけ降りようと1段目に足をかけた時、友人達が蒼井に勢いよく駆け寄る。
斗貴「先輩ー!、待ってましたよー!」
優美「先輩いなくて、寂しかったですよ…!」
蘭「もぉ…、来ないからどうしたのかと思ったよ…!」
凛「お久だなぁ~。トランプ混ざるかぁ…?」
蒼井は、想像とかけ離れた対応をされた事に、驚きを隠せず、闇雲にあの時の出来事を話し出す。
蒼井「えっ…、どうして…?」
蘭「あ~…!、まだ引きずってたの…?そんなの全然気
にしてないよ~!」
優美「皆さん、蒼井先輩が戻ってくるのを待ち遠しくし
てましたよ!」
斗貴「クリスマス、どーなっちゃうかと思ったァ…!」
凛「考え込み過ぎだぞ~。蒼井は。」
蘭「はいはい!、来たんだから、トランプ混ざって貰う
からね~!」
今まで、人前で泣く事を拒んでいた蒼井の瞳から、初めて素直な涙が溢れ出していた。
人前で泣いてもカッコ悪くないということを仲直りと共に実感できた日だった。
―2021年12月25日(土曜日)―
季節は冬となり、クリスマスの日である。
冬休みに入って間もない頃、蒼井は一人、楓の病院先へ向かっていた。約2ヶ月の間、楓からの返答が返って来ないままだった。蒼井は、クリスマスプレゼントが入った手提げの紙袋を持ち、楓の元へ足を運んでいた。
そして、病院に着くと、受付の人にいつものように、お見舞いに来たことを伝えると、受付の人から、榊原 楓さんは先週お亡くなりになったという報告を受ける。
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