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前編
『アタシもそうだったから』
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俺と花宮はしばらく一緒に自習をしていたが、いい時間になってきたところで帰り支度をする。そして学校を出て駅までふたりで並んで歩いていった。
「俺はこんな風に女子とふたりで学校から帰るのは、初めてだよ」
「わ、私も。なんか変な感じだよね」
「そうなのか? 花宮、彼氏とかいてもおかしくないのに」
「い、居るわけないじゃない! 今までだって、居たことないよ」
すこし焦ったような表情で花宮はそう言った。横で長い黒髪を風にたなびかせ、ちょっとはにかむ花宮はめちゃくちゃ可愛かった。
「城之内君も彼女いないって雄君が言ってたけど……」
「もちろん。俺の方こそ居るわけないだろ? 1年間ずっと寮生活だったし」
「そっか」
『うわー、なに二人して勝手にいい感じになってんのよ? アタシだっているんだからね?』
「そういえば、いたんだな」
「え?」
「いや、なんでもない」
りんの言う通り、確かにいい感じなのか? それに花宮には彼氏がいないこともわかった。
「でも……やっぱり私、城之内君を利用するみたいで嫌だな」
花宮の表情が、また少し暗くなる。
「だからそんなことないって。考えすぎだぞ」
「ううん、それだけじゃなくってね……実は私一人娘だから、おとうさんは昔から私に『大人になったらお婿さんを迎えてほしい』って暗にプレッシャーをかけてくるの。私それが嫌で嫌で仕方なくって」
「……そうだったのか?」
まあ……寺の後継者問題あるあるではあるけど。でもそんなプレッシャーをかけてくる花宮のお父さんも問題だと思うが。
「でもね、その……もし城之内君がお友達になってくれたら、その間はお父さんもひょっとしたらいろいろ言わなくなるのかな、とか考えちゃって。あ、もちろんそんなに深刻なことじゃなくてね……でも例えば雄君と城之内君と3人で行動してたりしたら、その間はお父さんもいろいろ言わなくなるのかなって……」
「うーん、俺にはよくわからんけど……」
俺はしばし考える。
つまり……花宮は俺に興味があるというよりは、「実家が水巌寺である俺」に興味を持ったということなのか? それはそれで複雑だな……
俺はようやく雄介が言っていた意味が理解できた。
「だから、あんまり期待するな」
雄介はなんとなく花宮の事情がわかったんだろう。さすが頭が切れるやつは違う。
俺は花宮の本音を聞いても「全然そんなこと、気にしなくてもいいぞ」と口では言っていたが……内心はかなり凹んでいた。席も近くなって花宮と話す機会が増えた。これはいい感じじゃね? と思っていたら、そんな裏があったわけだ。
駅に向かって歩いて行く二人は、次第に口数が少なくなった。気まずい雰囲気が流れたまま、駅にたどり着く。
「じゃあまた明日ね」「おう。また明日な」
改札を抜け二人はお互いのホームへ歩いて行く。最後まで何とも言えない気まずさが残ったままだった。
夕方の5時を過ぎて、ホームにも電車にも人が多かった。俺はりんに話しかけないようにした。電車に乗り、車内で俺は一人思いにふける。
(なんか話がうま過ぎる気がしたんだよな。そりゃあ俺なんか、巫女様に相手にされるわけなんてないか……)
周りを見渡すと、制服高校生のカップルが2組ほどいた。手を繋いで楽しそうに会話をしたりして……俺は一人やさぐれていた。
電車を降りて改札を抜け、アパートに向かって歩き出す。
『なになに? ひょっとしてナオ、凹んでたりするの?』
電車の中で黙っていたりんが、話しかけてきた。
「ちょっとな。そりゃ凹みもするだろ」
『なんでよ? 全然凹む必要なんかないじゃない。琴ちゃんはちゃんと正直に話してくれた。ただそれだけだよ』
「まあそうなんだけどな。でも……最後の部分はなんか聞きたくなかったわ。なんか俺を利用したかっただけなのかなって」
『だから琴ちゃんだって、利用するみたいで嫌だって言ってたでしょ? 琴ちゃん、いい子じゃん。アタシが思ってた通りだった。誰よ、高額商品を売りつけてくるかもとか言ってたのは?』
「おめーマジでぶっ飛ばすぞ!」
『まあまあ。でもいいじゃない、利用されてあげれば? それであんなに可愛い子にさ、お近づきになれるんだよ? それにね』
りんはスーッと音もなく、俺の正面にやってくる。
『ナオが琴ちゃんを助けてあげたこと、琴ちゃんは本当に嬉しかったと思うんだ。その気持ちは嘘じゃないと思うよ』
りんは続ける。
『周りに誰もいなくて誰も助けてくれなくて、今までもそうで……そんな時にナオが現れて助けてくれて、歩きながら話をしてくれて……琴ちゃん、絶対に嬉しかったんだよ』
「なんでりんがそんな事わかるんだよ?」
『アタシもそうだったから』
「えっ?」
『えっ? あっ……ほら、あの部屋に2ヶ月間誰もいなくて誰も助けてくれなかったじゃない? そこにナオが現れたわけじゃん』
「ああ、でもりんの場合はちょっと特殊だろ?」
『まあそうなんだけどさ』
どうやらりんは、俺を励ましてくれているようだった。単純かもしれない。でも俺は少しだけ気分が上向いた。
俺は今までの事をもう一度思い返してみる。花宮は俺を利用したいためだけに近づいてきたとは思えない。そんな悪いやつじゃないことぐらい、俺だって分かってたじゃないか。
だから……りんの言う通り「利用されてあげる」ことだって悪くない。それで花宮と仲良くなれるかもしれないんだ。そうなれたら俺だって嬉しい。
「りんの言うとおりかもかもしれないな。俺はちょっと、いろいろと難しいことを考えすぎてたのかもしれない」
『そうそう、そうだよ。ナオができることは協力してあげればいいじゃない』
「ああ、そうだよな。そうするよ」
俺は頭の中が整理できた。
「あーなんだか急に腹減ってきた」
『今日はカレーだったよね?』
「ああ。カレーだったらりんから教えてもらわなくても、俺一人で作れるわ」
『そう。じゃあ頑張って作ってみてよ』
俺は歩くスピードを少し早めた。
「りん」
『ん?』
「ありがとな」
『何よ急に……はいはい、どういたしまして』
りんは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。俺はどうやら地縛霊に助けてもらったらしい。霊能者が霊体に助けてもらっているようじゃ、本末転倒だな……
「俺はこんな風に女子とふたりで学校から帰るのは、初めてだよ」
「わ、私も。なんか変な感じだよね」
「そうなのか? 花宮、彼氏とかいてもおかしくないのに」
「い、居るわけないじゃない! 今までだって、居たことないよ」
すこし焦ったような表情で花宮はそう言った。横で長い黒髪を風にたなびかせ、ちょっとはにかむ花宮はめちゃくちゃ可愛かった。
「城之内君も彼女いないって雄君が言ってたけど……」
「もちろん。俺の方こそ居るわけないだろ? 1年間ずっと寮生活だったし」
「そっか」
『うわー、なに二人して勝手にいい感じになってんのよ? アタシだっているんだからね?』
「そういえば、いたんだな」
「え?」
「いや、なんでもない」
りんの言う通り、確かにいい感じなのか? それに花宮には彼氏がいないこともわかった。
「でも……やっぱり私、城之内君を利用するみたいで嫌だな」
花宮の表情が、また少し暗くなる。
「だからそんなことないって。考えすぎだぞ」
「ううん、それだけじゃなくってね……実は私一人娘だから、おとうさんは昔から私に『大人になったらお婿さんを迎えてほしい』って暗にプレッシャーをかけてくるの。私それが嫌で嫌で仕方なくって」
「……そうだったのか?」
まあ……寺の後継者問題あるあるではあるけど。でもそんなプレッシャーをかけてくる花宮のお父さんも問題だと思うが。
「でもね、その……もし城之内君がお友達になってくれたら、その間はお父さんもひょっとしたらいろいろ言わなくなるのかな、とか考えちゃって。あ、もちろんそんなに深刻なことじゃなくてね……でも例えば雄君と城之内君と3人で行動してたりしたら、その間はお父さんもいろいろ言わなくなるのかなって……」
「うーん、俺にはよくわからんけど……」
俺はしばし考える。
つまり……花宮は俺に興味があるというよりは、「実家が水巌寺である俺」に興味を持ったということなのか? それはそれで複雑だな……
俺はようやく雄介が言っていた意味が理解できた。
「だから、あんまり期待するな」
雄介はなんとなく花宮の事情がわかったんだろう。さすが頭が切れるやつは違う。
俺は花宮の本音を聞いても「全然そんなこと、気にしなくてもいいぞ」と口では言っていたが……内心はかなり凹んでいた。席も近くなって花宮と話す機会が増えた。これはいい感じじゃね? と思っていたら、そんな裏があったわけだ。
駅に向かって歩いて行く二人は、次第に口数が少なくなった。気まずい雰囲気が流れたまま、駅にたどり着く。
「じゃあまた明日ね」「おう。また明日な」
改札を抜け二人はお互いのホームへ歩いて行く。最後まで何とも言えない気まずさが残ったままだった。
夕方の5時を過ぎて、ホームにも電車にも人が多かった。俺はりんに話しかけないようにした。電車に乗り、車内で俺は一人思いにふける。
(なんか話がうま過ぎる気がしたんだよな。そりゃあ俺なんか、巫女様に相手にされるわけなんてないか……)
周りを見渡すと、制服高校生のカップルが2組ほどいた。手を繋いで楽しそうに会話をしたりして……俺は一人やさぐれていた。
電車を降りて改札を抜け、アパートに向かって歩き出す。
『なになに? ひょっとしてナオ、凹んでたりするの?』
電車の中で黙っていたりんが、話しかけてきた。
「ちょっとな。そりゃ凹みもするだろ」
『なんでよ? 全然凹む必要なんかないじゃない。琴ちゃんはちゃんと正直に話してくれた。ただそれだけだよ』
「まあそうなんだけどな。でも……最後の部分はなんか聞きたくなかったわ。なんか俺を利用したかっただけなのかなって」
『だから琴ちゃんだって、利用するみたいで嫌だって言ってたでしょ? 琴ちゃん、いい子じゃん。アタシが思ってた通りだった。誰よ、高額商品を売りつけてくるかもとか言ってたのは?』
「おめーマジでぶっ飛ばすぞ!」
『まあまあ。でもいいじゃない、利用されてあげれば? それであんなに可愛い子にさ、お近づきになれるんだよ? それにね』
りんはスーッと音もなく、俺の正面にやってくる。
『ナオが琴ちゃんを助けてあげたこと、琴ちゃんは本当に嬉しかったと思うんだ。その気持ちは嘘じゃないと思うよ』
りんは続ける。
『周りに誰もいなくて誰も助けてくれなくて、今までもそうで……そんな時にナオが現れて助けてくれて、歩きながら話をしてくれて……琴ちゃん、絶対に嬉しかったんだよ』
「なんでりんがそんな事わかるんだよ?」
『アタシもそうだったから』
「えっ?」
『えっ? あっ……ほら、あの部屋に2ヶ月間誰もいなくて誰も助けてくれなかったじゃない? そこにナオが現れたわけじゃん』
「ああ、でもりんの場合はちょっと特殊だろ?」
『まあそうなんだけどさ』
どうやらりんは、俺を励ましてくれているようだった。単純かもしれない。でも俺は少しだけ気分が上向いた。
俺は今までの事をもう一度思い返してみる。花宮は俺を利用したいためだけに近づいてきたとは思えない。そんな悪いやつじゃないことぐらい、俺だって分かってたじゃないか。
だから……りんの言う通り「利用されてあげる」ことだって悪くない。それで花宮と仲良くなれるかもしれないんだ。そうなれたら俺だって嬉しい。
「りんの言うとおりかもかもしれないな。俺はちょっと、いろいろと難しいことを考えすぎてたのかもしれない」
『そうそう、そうだよ。ナオができることは協力してあげればいいじゃない』
「ああ、そうだよな。そうするよ」
俺は頭の中が整理できた。
「あーなんだか急に腹減ってきた」
『今日はカレーだったよね?』
「ああ。カレーだったらりんから教えてもらわなくても、俺一人で作れるわ」
『そう。じゃあ頑張って作ってみてよ』
俺は歩くスピードを少し早めた。
「りん」
『ん?』
「ありがとな」
『何よ急に……はいはい、どういたしまして』
りんは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。俺はどうやら地縛霊に助けてもらったらしい。霊能者が霊体に助けてもらっているようじゃ、本末転倒だな……
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