49 / 55
前編
誕生日兼クリスマスパーティー
しおりを挟む
学校が冬休みに入る頃には、街はもうすっかり冬の装いになっていた。クリスマスソングが流れる街中は、いつもよりカップルの数が多い気がした。
『でも12月25日とか……なんでお寺の息子がキリスト生誕の日に生まれるのよ?』
「それは俺の両親に訊いてくれ」
世間ではクリスマスと言われている12月25日。実はその日は俺の誕生日でもあるのだ。俺はそれこそ子供の頃から、そのことをまわりからイジられ続けている。
りんと花宮からは「お誕生日兼クリスマスパーティー」なるものが企画されている。25日当日は、りんと花宮が俺の部屋で手料理を振る舞ってお祝いしてくれるらしい。
俺は雄介にも声をかけようとしたのだが……りんから『今回はエロメガネくんは誘わないでほしい』とお願いされた。俺は少しだけ嫌な予感がしたのだが……とりあえずりんの意見に従うことにした。
りんの霊力は日を追って弱くなってきているのがわかる。ただ地縛霊がいつ成仏するのか、それを正確に予想するのは困難だ。霊力が残っていても突然成仏することもあるし、逆にほとんど霊力が無いのにもかかわらず、なかなか成仏できない霊体もいる。
りんが成仏していなくなってしまう……俺だってそんなことは辛すぎて、考えたくないというのが本音だ。
12月25日当日。俺とりんは花宮と待ち合わせをして、スーパーへ買い出しに向かう。花宮とりんから何が食べたいかと聞かれたので、俺はハヤシライスと答えた。
俺の押すカートに、花宮がりんと相談しながら食材を次々と入れていく。こんなところをうちの学校の生徒に見られたら……以前の俺はそんなことを考えていただろう。でも最近はあまり気にしないようにしている。そんなことよりも、花宮とりんの楽しそうな笑顔を見ることのほうが、俺にとってはもっと重要なことだと気がついたからだ。
ハヤシライスの材料の他に、せっかくなのでローストチキンも買うことにした。レジで支払いを済ませてスーパーを出たあと、俺たちはいつもは立ち寄らない近所のちょっとおしゃれなケーキ屋さんへ向かった。俺は食後のデザートにイチゴのショートケーキ、マンゴープリン、モンブランの3つを購入。
『マンゴプリンを食べる時、アタシはどっちに憑依すればいいの?』
「えっと……それはやっぱりお誕生日の城之内君かな?」
「いや、花宮が食べたら? 俺はあまりマンゴーは得意じゃないし」
「そうなの? でも、あんまり食べ過ぎるのもよくないし」
『全然大丈夫だよ! 琴ちゃんまだまだ細いし』
「でも最近城之内君の部屋でアイスとかスナック菓子とかいろいろ食べることが多いでしょ? だから私、最近やっぱり体重増えてきちゃって……」
『そうなの? アタシは太らないから大丈夫だよ』
「もー、りんちゃんズルい!」
りんはよく『あのアイス食べたい。あのお菓子も』と俺や花宮にせがんでくる。そして俺や花宮に憑依して、一緒に食べるのだ。そりゃあ俺も花宮も、体重が増えたって不思議じゃない。
3人でアパートに戻ると花宮はりんの指導の元、ハヤシライスを作り始める。最近は包丁の使い方もうまくなってきているらしい。「りんちゃんのお陰」と花宮は喜んでいた。
キッチンからいい匂いが漂ってきたところで、俺はローストチキンを用意した。温め直してテーブルへ運ぶと、同じタイミングでハヤシライスも出来上がった。小さなサラダと乾杯用に買ったノンアルコールのシャンパンも一緒に運ぶ。
テーブルの上に出来立てのハヤシライスが運ばれてきた。さっきから美味しそうな芳香を放っている。エプロンを外した花宮がテーブルに座ったところで、俺はノンアルのシャンパンを開ける。今日は一応形だけでもと思い、俺は3つのグラスにシャンパンを注いだ。
「それじゃあ乾杯しようか」
「うん。城之内君、お誕生日おめでとう」
『ナオ、おめでとう。それからメリークリスマス』
「ああ、そうだった。メリークリスマス」
俺たちはグラスを持って乾杯した。りんはテーブルの上の自分のグラスに両手をそえて『カンパーイ』と大声をあげている。
「さてと……ハヤシライス、美味しそうだな。りん、今日はどっちに憑依するんだ?」
『うーん、じゃあハヤシライスはナオと一緒に食べようかな』
「デザートも城之内君と一緒に食べていいからね」
太りたくない花宮が先回りして、りんにそう言った。
「……わかった……よし、いいぞ」
防御レベルを下げた俺に、りんは入ってきた。ちょっと前までりんは花宮に憑依して一緒に食べ物を味わうのが大好きだったのだが、最近は俺に憑依してくるケースが多い。その理由も俺は分かっていた。
りんの霊力が日に日に低下しているからだ。最近では花宮はりんの姿も薄く見えて、念話もはっきりと聞き取れないことが多いと言っていたし、もちろん俺もそのことに気づいている。
当然りんにとっては、霊体に対する防御レベルを下げることができる俺の方が、花宮より憑依がしやすい。つまり……自分の霊力がかなり下がっていることを、りんだって自覚しているはずなのだ。
本当に覚悟しないといけないのか……俺は霊能者として、そんな現実を受け入れないといけなかった。
花宮が作ってくれたハヤシライスはお世辞抜きで美味しかった。以前りんが作ってくれたものに引けを取らないぐらいだ。強いて言えば少しコクが足りないかなというくらいで、おそらく一晩寝かせたらもっと美味しくなるだろう。
俺たちは沢山食べて、そしていろんな話をした。俺がりんに出会ったときからの話、花宮がりんと出会ってからの話、3人で遊びに行ったりここで食事をした時の話。どれもこれも思い出深くて、楽しくて……俺たちは大声で笑いあった。
『でも12月25日とか……なんでお寺の息子がキリスト生誕の日に生まれるのよ?』
「それは俺の両親に訊いてくれ」
世間ではクリスマスと言われている12月25日。実はその日は俺の誕生日でもあるのだ。俺はそれこそ子供の頃から、そのことをまわりからイジられ続けている。
りんと花宮からは「お誕生日兼クリスマスパーティー」なるものが企画されている。25日当日は、りんと花宮が俺の部屋で手料理を振る舞ってお祝いしてくれるらしい。
俺は雄介にも声をかけようとしたのだが……りんから『今回はエロメガネくんは誘わないでほしい』とお願いされた。俺は少しだけ嫌な予感がしたのだが……とりあえずりんの意見に従うことにした。
りんの霊力は日を追って弱くなってきているのがわかる。ただ地縛霊がいつ成仏するのか、それを正確に予想するのは困難だ。霊力が残っていても突然成仏することもあるし、逆にほとんど霊力が無いのにもかかわらず、なかなか成仏できない霊体もいる。
りんが成仏していなくなってしまう……俺だってそんなことは辛すぎて、考えたくないというのが本音だ。
12月25日当日。俺とりんは花宮と待ち合わせをして、スーパーへ買い出しに向かう。花宮とりんから何が食べたいかと聞かれたので、俺はハヤシライスと答えた。
俺の押すカートに、花宮がりんと相談しながら食材を次々と入れていく。こんなところをうちの学校の生徒に見られたら……以前の俺はそんなことを考えていただろう。でも最近はあまり気にしないようにしている。そんなことよりも、花宮とりんの楽しそうな笑顔を見ることのほうが、俺にとってはもっと重要なことだと気がついたからだ。
ハヤシライスの材料の他に、せっかくなのでローストチキンも買うことにした。レジで支払いを済ませてスーパーを出たあと、俺たちはいつもは立ち寄らない近所のちょっとおしゃれなケーキ屋さんへ向かった。俺は食後のデザートにイチゴのショートケーキ、マンゴープリン、モンブランの3つを購入。
『マンゴプリンを食べる時、アタシはどっちに憑依すればいいの?』
「えっと……それはやっぱりお誕生日の城之内君かな?」
「いや、花宮が食べたら? 俺はあまりマンゴーは得意じゃないし」
「そうなの? でも、あんまり食べ過ぎるのもよくないし」
『全然大丈夫だよ! 琴ちゃんまだまだ細いし』
「でも最近城之内君の部屋でアイスとかスナック菓子とかいろいろ食べることが多いでしょ? だから私、最近やっぱり体重増えてきちゃって……」
『そうなの? アタシは太らないから大丈夫だよ』
「もー、りんちゃんズルい!」
りんはよく『あのアイス食べたい。あのお菓子も』と俺や花宮にせがんでくる。そして俺や花宮に憑依して、一緒に食べるのだ。そりゃあ俺も花宮も、体重が増えたって不思議じゃない。
3人でアパートに戻ると花宮はりんの指導の元、ハヤシライスを作り始める。最近は包丁の使い方もうまくなってきているらしい。「りんちゃんのお陰」と花宮は喜んでいた。
キッチンからいい匂いが漂ってきたところで、俺はローストチキンを用意した。温め直してテーブルへ運ぶと、同じタイミングでハヤシライスも出来上がった。小さなサラダと乾杯用に買ったノンアルコールのシャンパンも一緒に運ぶ。
テーブルの上に出来立てのハヤシライスが運ばれてきた。さっきから美味しそうな芳香を放っている。エプロンを外した花宮がテーブルに座ったところで、俺はノンアルのシャンパンを開ける。今日は一応形だけでもと思い、俺は3つのグラスにシャンパンを注いだ。
「それじゃあ乾杯しようか」
「うん。城之内君、お誕生日おめでとう」
『ナオ、おめでとう。それからメリークリスマス』
「ああ、そうだった。メリークリスマス」
俺たちはグラスを持って乾杯した。りんはテーブルの上の自分のグラスに両手をそえて『カンパーイ』と大声をあげている。
「さてと……ハヤシライス、美味しそうだな。りん、今日はどっちに憑依するんだ?」
『うーん、じゃあハヤシライスはナオと一緒に食べようかな』
「デザートも城之内君と一緒に食べていいからね」
太りたくない花宮が先回りして、りんにそう言った。
「……わかった……よし、いいぞ」
防御レベルを下げた俺に、りんは入ってきた。ちょっと前までりんは花宮に憑依して一緒に食べ物を味わうのが大好きだったのだが、最近は俺に憑依してくるケースが多い。その理由も俺は分かっていた。
りんの霊力が日に日に低下しているからだ。最近では花宮はりんの姿も薄く見えて、念話もはっきりと聞き取れないことが多いと言っていたし、もちろん俺もそのことに気づいている。
当然りんにとっては、霊体に対する防御レベルを下げることができる俺の方が、花宮より憑依がしやすい。つまり……自分の霊力がかなり下がっていることを、りんだって自覚しているはずなのだ。
本当に覚悟しないといけないのか……俺は霊能者として、そんな現実を受け入れないといけなかった。
花宮が作ってくれたハヤシライスはお世辞抜きで美味しかった。以前りんが作ってくれたものに引けを取らないぐらいだ。強いて言えば少しコクが足りないかなというくらいで、おそらく一晩寝かせたらもっと美味しくなるだろう。
俺たちは沢山食べて、そしていろんな話をした。俺がりんに出会ったときからの話、花宮がりんと出会ってからの話、3人で遊びに行ったりここで食事をした時の話。どれもこれも思い出深くて、楽しくて……俺たちは大声で笑いあった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる