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前編

「こ、これって……」

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 そろそろデザートを、というタイミングで、俺はクローゼットの引き出しから、赤い包装紙でくるまれたものを二つ取り出してテーブルに戻った。

「はい、花宮。これ、クリスマスプレゼント。それと……こっちはりんにな」

「えー! 本当に?」
『えーっ、アタシにも?』

「ああ。気に入ってもらえるといいんだけど」

「ありがとう、嬉しい! 開けてもいいかな?」
『もーナオ、いいのに……でも、ありがとう。りんちゃん、こっちも開けてくれる?』
「うん! えっと……どっちから先に開けようか?」

 結局花宮のプレゼントの方を先に開けることになったようだ。花宮は自分のプレゼントの包装紙を丁寧に剥がすと、中からトートバッグがでてきた。

「あ、タレにゃんこのバッグだ! 可愛い!」

 花宮はそのバッグを色んな角度から見ては、可愛い可愛いと連呼していた。よっぽど気に入ってもらえたようだ。両手で大事そうにバッグを胸元で抱える花宮の仕草は、可憐でちょっと子供っぽくて……俺はそんな花宮から目が離せずにいた。

『今回は絶対にクリスマスプレゼントをあげないとダメだよ!』

 俺はりんから散々念押しされていた。花宮の誕生日には、事前にプレゼントを用意しなかった。りんに言わせると、それは『ありえない』ことらしい。なので今回はりんのアドバイス通りに用意した。プレゼントのチョイスも、りんのアイデアだった。

 そして次に花宮は、りんへのプレゼントを開け始めた。

『ナオ、全然アタシのプレゼントのことなんか言ってなかったじゃない?』

「そりゃ言わないだろ」

『もうナオ……そういうとこ、ズルいなぁ……』

 俺は花宮へのプレゼントを買いに行くとき、「ちょっと俺も下着とか買いたいから」と言ってりんには留守番してもらった。その時りんの分のプレゼントも一緒に買ってきたのだった。

 花宮が開けた袋の中から出てきたのは……

『あー、こっちもタレにゃんこだ! 可愛いー!』
「可愛いよね!」

 それはタレにゃんこのぬいぐるみだった。ゲーセンでりんが俺に憑依して取ったぬいぐるみの半分ぐらいの大きさだが、どうやらりんは気に入ってくれたようだ。花宮がそれを抱えてりんの方へ差し出すと、りんは愛おしそうにぬいぐるみを上から撫でようとしていた。そのりんの表情がいまにも泣き出しそうで……俺は少し心配になった。

『ナオ、本当にありがとう。気を使わせちゃったね……』

「ありがとう、城之内君。バッグ、大切に使うね」

「ああ、二人とも気に入ってもらえたようで、よかったよ」 

 とりあえず俺は二人の表情を見て安堵する。微妙な反応だったらどうしようかと心配していたが杞憂に終わった。



「じゃあ今度は私からのプレゼントだね。ちょっと待ってて」

 そういって花宮はカバンの中から大きめの袋を取り出した。袋には大きなリボンがかけられている。

「城之内君、お誕生日おめでとう。それと、メリークリスマス」

 花宮は俺にその袋を手渡してくれた。

「ありがとう。開けていいか?」

「うん!」

 俺はリボンを丁寧に外して中を開けると、中身はスウェットシャツだった。黒とチャコールグレーの生地に、胸元にNBAの有名チームの緑色のロゴが入っている。とてもカッコいいスウェットシャツだった。さすが、花宮はセンスがいい。

「ありがとう。めちゃめちゃカッコいいな」

 俺はその場で着ていたパーカーを脱いで、そのスウェットシャツを着てみた。サイズはピッタリだ。

「どうかな?」

「うん、凄く似合ってる! このデザインでよかったよ」
『なかなかいいじゃない! パスケが上手そうに見えるよ。さすが琴ちゃん、センスいいね』

 花宮からもりんからも好評のようだ。今度はこれを着て、花宮と一緒に出かけるようにしよう。その時は……りんも一緒に来られるだろうか。

「城之内君、それからね……これは、りんちゃんから」

「え? りんから?」

『うん、そうそう』

 花宮はそういうと、小さな小袋に入った物を俺に差し出した。袋の上の方には金色のリボンのシールが張られている。

「りんちゃんに頼まれて、私が代わりに買ってきたの」

『琴ちゃん、ゴメンね。お金払えないけど』

「いいよいいよ。だってお料理をたくさん教えてくれたじゃない? その講習代だと思えば、全然足りないくらいだよ」

 りんのやつ……多分花宮に憑依したときに、念話でお願いしたんだろうな。俺はそのことに気づけなかった。俺は花宮から、その小袋を受け取った。

「ありがとう、りん。開けていいか?」

『うん、どうぞどうぞ』

 俺はその小袋を開けて、中身を外に出した。中から出てきたものを見て、俺は……



「こ、これって……」



 そう口にしたあと、次の言葉が出てこなかった。同時に俺は、自分の記憶を高速でたどる。

 中から出てきたものは、キーホルダーだった。それも「緑色のカバ」のキーホルダー。俺が美久からお守りだと言って渡され、通学カバンにつけていたものだ。

 そのキーホルダーを俺は美久になくしたとは言えず、今でも必死に通販サイトやフリマサイトで探しているやつだ。りんか花宮が、どこかで見つけてくれたのだろうか?

 いや、そんなはずはない。それに……問題はそこじゃない。

 俺はこの「緑色のカバ」のキーホルダーのことを、りんや花宮に話したことはない。シスコンだと思われるのが恥ずかしかったから、誰にもこのキーホルダーのことを話したことはない。それだけは確かだ。

 じゃあなんで……この「緑色のカバ」がここにあるんだ?

『ナオ、ひょっとしてそのキーホルダー、大事なものだったんじゃない?』

「そうだ。このキーホルダーは美久からお守りにしてってもらった物で、俺は通学カバンにつけていたんだ。でもいつのまにか千切れて、キーリングだけがカバンに残っていたんだよ」

『あーそうだったんだ。そんなに大切なものだったんだね』

 りんは柔らかく笑った。

『そのキーホルダーはね、東京の有名なデザインショップの期間限定商品だったんだよ。それでそのショップと同じ系列のアクセサリーショップが、駅ビルの中にあったんだ。アタシも行ったことがあってさ、緑色のカバなんてデザインが特殊じゃない? だから覚えてたの。それで琴ちゃんにお願いして買ってきてもらったんだけどね。あっ、あのゲーセンのある駅ビルじゃなくってさ。ほら、最初の頃一緒にホームセンターに』

「りん、教えてくれ」

 俺の声が低くなった。

「りんはどうして、このキーホルダーのことを知ってたんだ?」

 りんは下を向いたまま、何も言わない。

「俺はこの緑色のカバのことを誰にも話したことはない。シスコンだと思われて笑われるのが嫌だったからだ。だからりんにも花宮にも話したことはないはずだ」

 俺の隣の花宮も不穏な空気を察したのか、真剣な面持ちで成り行きを見守っている。

「なありん、教えてくれないか?」

『……やっぱり言わないとダメかな?』

「ああ、是非頼む」

『……そっかぁ……本当は言いたくなかったんだけどね……』

 りんはようやく頭を上げ、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

『ナオ。ナオは覚えてないかもしれないけど……アタシは生きてた時に一度だけナオに会ってたんだよ』

「えっ……」

 俺は一瞬、りんが言っている意味がわからなかった。

「じゃあ全部話すね。多分……これが最後になると思うから……」

 そう言うと、りんは「あの日」のことをゆっくりと話し出した。
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