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女王の凱旋、無知なる羊たちへの通告
期末試験の開始と同時に、学園の掲示板に貼り出された一枚の羊皮紙。それが、静まり返っていた学び舎に火をつけた。
『第一回・クラス対抗スフィア・チェイス競技大会 開催』
試験の先には、熱狂が待っている。
本大会は学年を問わぬクラス対抗トーナメントとする。
ここでは、爵位も家柄も一切関係ない。貴族も平民も等しく一人の選手であり、勝利のために手を取り合うことこそが、この大会の唯一にして絶対の理想である。
諸君、身分の差を忘れ、ただ一つの勝利を目指して泥にまみれようではないか!
【褒賞】
優勝クラス:学生食堂の一月分フリーパス(クラス全員分)
準優勝クラス:学生食堂の半月分フリーパス(クラス全員分)
参加は自由。審判は教職員。運営責任は生徒会が負う。
諸君、試験に全力を尽くせ。その先に、学園の新たな歴史を刻むのは君たちだ!
「食券」という実利、そして「クラス対抗」という連帯感。
贅沢に慣れきった高位貴族たちには端金のような褒賞かもしれない。だが、切り詰めた生活を送る平民特待生や、実家からの送金が限られた下位貴族の生徒たちにとって、一月分の食券は喉から手が出るほど魅力的な「実利」だった。
張り紙を見た生徒たちの瞳は、未知の催しへの期待でキラキラと輝いた。その熱量は凄まじく、試験に挑む意欲は例年の比ではない。結果として、今期の試験平均点は学園創立以来の高得点を記録することになる。
そして試験明け。運命の成績発表の日。
二年生の廊下に掲示板が現れると、人だかりを割ってエスメラルダたちが姿を見せた。その瞬間、周囲がザッと音を立てるかのように道を開ける。
「……見て、エスメラルダ様よ」
「嘘だろ……満点? 全教科、満点だって!?」
「何か不正でもしたんじゃない? だって、今までは底辺を這っていたのよ」
ざわつく声を背に、私は掲示板の最上段を見上げた。
【主席:エスメラルダ・ミッテラン。全教科満点】
二位のエドワード殿下との差は十五点。特に難問揃いだった数学の配点が、決定的な差を生んでいた。
(まあ、前世で教えていた範囲だもの。これで満点が取れなかったら、定年まで教壇に立ち続けた面目が丸潰れだわ。……中身は老練、外見は美少女。このアドバンテージ、恐るべしね)
私が涼しい顔で扇を広げたその時、背後から冷たい空気が流れてきた。
エドワード殿下と、その腰巾着の側近たちの登場だ。
掲示を見つめるエドワードの表情は、傍目には氷のように変わらない。だが、彼の眉頭がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。
「やあ、エスメラルダ。……全教科満点とは、恐れ入ったね。……もはや『さすが』と言う言葉すら、安っぽく聞こえるよ」
「ごきげんよう、エドワード殿下。お褒めに預かり恐縮ですわ。たまたま、わたくしの得意な範囲が出ただけですの」
淑女の微笑みを返す私だったが、側近たちは黙っていられなかった。
「おかしいだろう! 今まで底辺だった令嬢が、突然満点だなんて!」
「全くだ! 不正があったと考えるのが自然じゃないか? ミッテラン公爵閣下が裏から手を回したんだろう!」
「あまりにも出来すぎだ。こんな茶番、認められるか!」
沸点の低い野犬のように喚き散らす彼らに、私は深いため息を吐いた。
耳を塞ぎたくなるような、頭の悪い騒音。
「……あなた方の脳は、ただの『お飾り』ですの? それとも、あまりに使い道がなくて退化してしまったのかしら。少しは事実を直視するという、最低限の知性を発揮してはいかが?」
「なんだと!」
「無礼だろう!」
激昂する彼らを冷ややかに見据え、私はエドワードに向き直った。
「エドワード殿下。わたくし、純粋に疑問に思いますの。このような、視野が狭く、想像力も欠如した方々が側近で……この国の将来は大丈夫なのですか?」
「貴様っ! 詫びて訂正しろ!」
「殿下を侮辱する気か!」
側近たちが私に詰め寄ろうとした、その時。
エドワードの低く鋭い声が、廊下の喧騒を切り裂いた。
「――黙れ」
凍り付く側近たち。エドワードは彼らを一度も振り返らず、掲示板の私の名前を射抜くように見つめたまま続けた。
「エスメラルダの成績は実力だ。……嘘だと思うなら、今日帰ったら、それぞれの家の当主に質問してみるがいい。『ミッテラン公爵令嬢に、交渉の場で何を見せられたか』とな」
エドワードの拳が、微かに震えている。
「皆の親が、彼女の叡智にどれほど唸らされたかを聞けば、今の自分たちの言葉がどれほど滑稽か理解できるはずだ。……彼女は、もう我々と同じ場所にはいない。その叡智は、本物だ」
エドワードはそれだけ言い捨てると、屈辱と敗北感を滲ませた背中で踵を返した。
慌てて後を追う三人の側近たちは、もはや私の顔をまともに見ることもできないようだった。
(あら。エドワード様、少しは『見る目』が養われてきたのかしら?)
背中を丸めて逃げ出す「かつての勝ち組」たちを見送りながら、私はふふっと鼻で笑う。
さて、試験という余興は終わった。
次は――本能を剥き出しにする、熱き青春の「競技大会」の時間だ!
「さあ、ヤスミン、マイク、ビビアン。わたくしたちのクラスも、作戦会議を始めましょうか。優勝賞品の一月分の食券は、誰にも譲りませんわよ」
私は力強く扇を閉じ、新しい戦場へ向けて歩き出した。
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📢新連載🌹【婚約者は最低なのに、どうしても嫌いになれない】
『第一回・クラス対抗スフィア・チェイス競技大会 開催』
試験の先には、熱狂が待っている。
本大会は学年を問わぬクラス対抗トーナメントとする。
ここでは、爵位も家柄も一切関係ない。貴族も平民も等しく一人の選手であり、勝利のために手を取り合うことこそが、この大会の唯一にして絶対の理想である。
諸君、身分の差を忘れ、ただ一つの勝利を目指して泥にまみれようではないか!
【褒賞】
優勝クラス:学生食堂の一月分フリーパス(クラス全員分)
準優勝クラス:学生食堂の半月分フリーパス(クラス全員分)
参加は自由。審判は教職員。運営責任は生徒会が負う。
諸君、試験に全力を尽くせ。その先に、学園の新たな歴史を刻むのは君たちだ!
「食券」という実利、そして「クラス対抗」という連帯感。
贅沢に慣れきった高位貴族たちには端金のような褒賞かもしれない。だが、切り詰めた生活を送る平民特待生や、実家からの送金が限られた下位貴族の生徒たちにとって、一月分の食券は喉から手が出るほど魅力的な「実利」だった。
張り紙を見た生徒たちの瞳は、未知の催しへの期待でキラキラと輝いた。その熱量は凄まじく、試験に挑む意欲は例年の比ではない。結果として、今期の試験平均点は学園創立以来の高得点を記録することになる。
そして試験明け。運命の成績発表の日。
二年生の廊下に掲示板が現れると、人だかりを割ってエスメラルダたちが姿を見せた。その瞬間、周囲がザッと音を立てるかのように道を開ける。
「……見て、エスメラルダ様よ」
「嘘だろ……満点? 全教科、満点だって!?」
「何か不正でもしたんじゃない? だって、今までは底辺を這っていたのよ」
ざわつく声を背に、私は掲示板の最上段を見上げた。
【主席:エスメラルダ・ミッテラン。全教科満点】
二位のエドワード殿下との差は十五点。特に難問揃いだった数学の配点が、決定的な差を生んでいた。
(まあ、前世で教えていた範囲だもの。これで満点が取れなかったら、定年まで教壇に立ち続けた面目が丸潰れだわ。……中身は老練、外見は美少女。このアドバンテージ、恐るべしね)
私が涼しい顔で扇を広げたその時、背後から冷たい空気が流れてきた。
エドワード殿下と、その腰巾着の側近たちの登場だ。
掲示を見つめるエドワードの表情は、傍目には氷のように変わらない。だが、彼の眉頭がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。
「やあ、エスメラルダ。……全教科満点とは、恐れ入ったね。……もはや『さすが』と言う言葉すら、安っぽく聞こえるよ」
「ごきげんよう、エドワード殿下。お褒めに預かり恐縮ですわ。たまたま、わたくしの得意な範囲が出ただけですの」
淑女の微笑みを返す私だったが、側近たちは黙っていられなかった。
「おかしいだろう! 今まで底辺だった令嬢が、突然満点だなんて!」
「全くだ! 不正があったと考えるのが自然じゃないか? ミッテラン公爵閣下が裏から手を回したんだろう!」
「あまりにも出来すぎだ。こんな茶番、認められるか!」
沸点の低い野犬のように喚き散らす彼らに、私は深いため息を吐いた。
耳を塞ぎたくなるような、頭の悪い騒音。
「……あなた方の脳は、ただの『お飾り』ですの? それとも、あまりに使い道がなくて退化してしまったのかしら。少しは事実を直視するという、最低限の知性を発揮してはいかが?」
「なんだと!」
「無礼だろう!」
激昂する彼らを冷ややかに見据え、私はエドワードに向き直った。
「エドワード殿下。わたくし、純粋に疑問に思いますの。このような、視野が狭く、想像力も欠如した方々が側近で……この国の将来は大丈夫なのですか?」
「貴様っ! 詫びて訂正しろ!」
「殿下を侮辱する気か!」
側近たちが私に詰め寄ろうとした、その時。
エドワードの低く鋭い声が、廊下の喧騒を切り裂いた。
「――黙れ」
凍り付く側近たち。エドワードは彼らを一度も振り返らず、掲示板の私の名前を射抜くように見つめたまま続けた。
「エスメラルダの成績は実力だ。……嘘だと思うなら、今日帰ったら、それぞれの家の当主に質問してみるがいい。『ミッテラン公爵令嬢に、交渉の場で何を見せられたか』とな」
エドワードの拳が、微かに震えている。
「皆の親が、彼女の叡智にどれほど唸らされたかを聞けば、今の自分たちの言葉がどれほど滑稽か理解できるはずだ。……彼女は、もう我々と同じ場所にはいない。その叡智は、本物だ」
エドワードはそれだけ言い捨てると、屈辱と敗北感を滲ませた背中で踵を返した。
慌てて後を追う三人の側近たちは、もはや私の顔をまともに見ることもできないようだった。
(あら。エドワード様、少しは『見る目』が養われてきたのかしら?)
背中を丸めて逃げ出す「かつての勝ち組」たちを見送りながら、私はふふっと鼻で笑う。
さて、試験という余興は終わった。
次は――本能を剥き出しにする、熱き青春の「競技大会」の時間だ!
「さあ、ヤスミン、マイク、ビビアン。わたくしたちのクラスも、作戦会議を始めましょうか。優勝賞品の一月分の食券は、誰にも譲りませんわよ」
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